(1)インテグレーション
ブロイラー生産の特徴としてまず挙げられるのが、ブロイラー業界は垂直統合(インテグレーション)が高度に発達していることである。かつては、飼料供給、ヒナのふ化、ブロイラーの飼養、食鳥処理などの鶏肉生産に必要な工程はそれぞれ独立していたが、1940年代頃から、より効率的な生産を目指して、これらの工程を企業が一貫して行うようになった。このインテグレーションによって、大幅なコスト削減や生産効率の向上が可能となり、鶏肉の安価で安定した供給や品質維持、消費者の要望に対する迅速な品質改善、機械化などの革新的な技術の導入がしやすくなるなど、劇的な改善が図られてきた。
現在では、9割以上の生産者が垂直統合事業会社(インテグレーター)との契約農場になっており、生産者はインテグレーターからひなや飼料、薬品などの生産資材を導入して、ブロイラーの飼育・出荷までを担っている。
インテグレーターの大手10社で鶏肉生産量の約8割を占めており、景気や買収案件などの影響で順位に変動が見られるものの、上位に名を連ねる企業は、タイソン・フーズ(Tyson Foods)、ピルグリムズ・プライド(Pilgrim's Pride)、サンダーソン・ファームズ(Sanderson Farms)、パーデュー・ファームズ(Perdue Farms)、ウェイン・ファームズ(Wayne Farms)、コッホ・フーズ(Koch Foods) などが挙げられる。
(2)鶏肉生産地
米国のブロイラー主要生産地は、ジョージア州やアラバマ州の南東部である(表2、図4)。2012年時点でのブロイラー飼養農家数は約4万2200戸であり、農家数ではテキサス州が全米第1位であるものの、生産量(羽数)では第6位であり、ジョージア州やアラバマ州がテキサス州を上回っている。これは、テキサス州には中小規模農家が多く、ジョージア州やアラバマ州には大規模な企業系農場が多いためである。
(3)生産の流れ
ア 種鶏業者
鶏肉生産は種鶏業者(Primary Breeders)が肉用種鶏を生産することから始まる。種鶏市場は、グローバル企業と言われる数社の寡占状態にあり、肉用種鶏の主要企業としては、Aviagen、Cobb-Vantressがあり、それぞれ多くの子会社を抱えている。
種鶏業者は、主に候補鶏(Elite)、原々種鶏(GGP:Great Grand Parent)、原種鶏(GP:Grand Parent)の3世代を保有しており、原種鶏が生産した卵からふ化した種鶏(PS:Parent Stock)の出荷までを事業範囲としている。
イ 肉用鶏業者
種鶏業者によって生産されたPSは、肉用鶏業者の経営下にある種鶏場に送られる。PSは、生後約168〜約175日齢で受精卵を産み始め、生後約490日齢まで週5日ほどの頻度で産み続ける。その後、受精卵はふ化場に搬送され、約21日間のふ卵期間を経てふ化した初生ひなは、生後1日目にふ化場から肥育場に導入される。ブロイラーは、一般的に約50日齢、重量約2.8キログラムで鶏肉生産会社が所有する食鳥処理場に出荷される。若鶏などの鶏肉の規格によって、出荷日齢や出荷体重が調整されることとなる。
近年、オーガニック志向を強める消費者動向を踏まえ、USDAが定めるオーガニック基準
(注1)に基づく飼育方法が増えつつあるが、まだその割合は少なく、全体の生産量の数%にも満たないと考えられている。
(注1) オーガニック畜産物の要件概要(家きんの場合)
・食肉用の家きんは生後2日目から、オーガニック基準に適合した環境下で飼育されなければならない。
・飼料は100%オーガニック農作物でなければならない。ただし、ビタミンやミネラルといった栄養補助製品を与えてもよい。
・予防医療は家畜の健康維持の目的でなければならない。病気や怪我をした家畜の治療を控えてはならないが、医薬品を使用して治療を受けた家畜をオーガニックとして販売することはできない。
・全てのオーガニック家きんは、年間を通して野外にアクセスできる必要がある。環境や健康上の問題があると認められる場合などには、一時的に屋内に収容してもよい。その他、アニマルウェルフェアへの配慮として、運動できる空間、日陰、新鮮な空気と飲水、清潔で乾燥した寝床、小屋、直射日光への常時のアクセスが必要とされている。
・オーガニック家きんには、いかなる理由であっても、成長促進物質や抗菌性物質を与えてはならない。
ウ 鶏肉生産会社
鶏肉生産会社は、自社で所有する食鳥処理場や加工場で、食鳥処理や生肉のパッキング、梱包を行い、小売チェーン、フードサービス業者、レストランなどに出荷する。フードサービスや加工食品業者向けには、流通業者も利用する。大手鶏肉生産会社は、冷凍製品や加工鶏肉製品の生産施設も経営しており、そうした製品は一般的に流通業者を介して販売する。
鶏肉の流通先として、小売向け、フードサービス向け、輸出向け、その他(ペットフードや素材・成分製造向けなどに利用)に大別できる。輸出とその他を除く大まかな割合として、小売向けとフードサービス向けの比率は、1970〜1980年代には3:1の割合で小売向けが多かったが、1990年代半ばから現在では1:1の割合に変化している。なお、2000年代から、フードサービス向けのうち、ファストフード向けのシェアは50%以上を占めている。
(4)品種
米国で用いられているブロイラーの品種は、日本と同様にホワイトコーニッシュ(White Cornish)とプリマスロック(Plymouth Rock)の掛け合わせが基本であり、この品種は増体率が良く、狭い空間で動きの少ない環境にも適している。
米国では、Aviagen、Cobb-Vantress、Hubbard、Heritage Breedersという種鶏業者が有名であり、それぞれの品種をブランド化したものが販売されている。
(5)鶏肉の肉質格付
鶏肉の肉質については、USDAの農業マーケティング局(AMS)によるガイドラインに沿って格付けが行われる(図6)。品質をA、B、Cの3等級で示す任意の制度であり、AMS所管法規に基づく等級規則は、外観と表面の傷や色あせといった欠陥の許容範囲を示し、欠陥のない、あるいは極めて少ないものが等級Aとなる。一般的には直接消費向けには等級Aが使われ、等級BやCは加工品に利用される。等級BやCが直接消費向けとしてスーパーマーケットに陳列される場合、等級が記載されないことが多い。
(6)鶏肉価格
鶏肉価格は、鶏肉生産企業の経営効率や生産コスト、市場の需給バランスなどで決まる。
ブロイラーの生産コストは、飼料費が6割ほどを占めているとされ、飼料の中でもトウモロコシと大豆かすの割合が大きくなっており、飼料価格の高騰の影響を受けやすい。直近では、2011年から2012年にかけて米国を襲った干ばつの影響で、2012年から2013年にかけてトウモロコシおよび大豆の価格は急騰し、鶏肉価格もこれによって上昇した。
近年では、トウモロコシや大豆の生産は、記録的な水準に近いほど好調であることに加え、中国との貿易紛争の影響により、特に大豆の米国内の在庫量が増加していることから、米国内の鶏肉業界としては、飼料が安く手に入る状況にある。先に触れたように、今後の鶏肉生産は、国内外の堅調な需要を背景に各企業が食鳥処理場の増設を行う動きが見られることなどから、増加傾向で推移すると予測されており、突発的に状況が大きく変化しない限りは、鶏肉価格は安定的に推移するものと考えられる。