(1)部位別の特徴
輸入されている形態は、大きく分けて、冷凍、冷蔵、生体であり、金額ベースで比較すると96:2:2の割合である。
ア 冷凍牛肉
輸入冷凍牛肉の大半は加工・業務用に仕向けられるといわれる。
国別に輸入量をみると、豪州と南米が多い(表7)。アルゼンチンからの輸入量が急速に増えているが、これは、2015年12月にアルゼンチンで政権交代が起きて以降、輸出に関する各種規制の撤廃が進められたことが影響していると考えられる。
また、国別のCIF価格からおおむね四つのグループに分けることができる(図8)。
第1のグループは米国である。中国では、米国で広く用いられている肥育促進剤の使用を禁止していることに加え、トレーサビリティの確保などのさまざまな条件を課しているため、これらにかかる追加コスト分だけ割高となる。このため、割高でも売れる高級部位に限って輸入されている。米国は2017年6月に中国への輸出が解禁されたものの、輸出量は伸びていない。現地専門家によると、高価格であることが一番のネックとなっているとのことである。北京市内のある外資系スーパーマーケットを調査したところ、サーロインは豪州産よりも25%高く、リブロースは2倍の価格で売られている例もあった。
第2のグループは豪州である。豪州産は、スーパーマーケットや外食産業に高級部位が仕向けられているほか、豪州産Wagyuも輸出されていることから、他国産よりも平均単価が高くなっていると考えられる。
第3のグループはブラジル、アルゼンチン、ニュージーランドである。これらの国は低級部位を中心に輸出していると考えられる。なお、現地調査では、ニュージーランド産は一部スーパーマーケットでロイン系が販売されていたが、ブラジル産とアルゼンチン産は、生鮮肉で販売されていたのはすね肉などの低級部位に限られており、ロイン系は冷凍加工食品でしか見られなかった(写真35、36)。なお、写真中にある「原切」は成型肉ではないこと、「牛排」は厚切りの牛肉を意味している。価格は150グラム入りで24元(400円)となっていた。
第4のグループはウルグアイである。2017年11月に中国企業がウルグアイの中規模パッカーRONDATEL S.A.社やLirtix S.A.社を買収するなど、輸入拡大に向けた動きが広がっている。ウルグアイ産が他国に比べて安い理由は不明である。
イ 冷蔵牛肉
冷蔵牛肉は、2016年まで全て豪州産だったが、2017年からニュージーランド産が試験的に輸入されている(表8)。冷蔵牛肉は主に高級レストランに卸されているといわれており、輸入単価は冷凍品の2倍程度である。
ウ 生体牛
肉用の生体牛は、大きく分けて繁殖牛と輸入後と畜場に直行する牛(以下、「と場直行牛」)がある。本稿では、最近増えていると場直行牛について紹介する。
中国の生体牛輸入量を見ると、豪州とニュージーランドが大半を占めている(表9)。と場直行牛は「繁殖用以外」に含まれているが、この区分には乳用牛も含まれ、中国側の統計ではこれ以上の細分がないため、と場直行牛の輸入量を把握することができない。
このため、以下では、乳用牛と肉用牛を区別している豪州の輸出統計を基に分析する(図9)。
中国への生体肉用牛の輸出は、2014年から突然増加し、その後増加を続けている。内訳を見ると、2014年と2018年は繁殖用以外が多く、その他の年は繁殖牛が多く、年によってまちまちである。
豪州と中国は、2014年に結ばれた中豪FTAにおいて、生体牛の関税を2019年に撤廃することとし、また、当時の報道によると、生体牛の貿易頭数を年間100万頭まで拡大することを期待していたようである。
その後、「中国国家質量検疫総局と豪州農業部の豪州産と畜用牛の中国への輸入に関する衛生要求議定書」(2015年8月署名・発効)によって、輸入した肥育牛を通常の輸入隔離検疫期間(30日)を経ずにと畜できるようになった。議定書では、と場直行牛は入国後14日以内にと畜しなければならないとされている
(注18)。
この規程によって、豪州は中国のと場直行牛輸出国として独占的な地位を得ている。2018年5月にウルグアイも中国と場直行牛に関する検疫条件を結んだが、輸送に1カ月以上かかることから、採算性に乏しいと考えられる。実際、実績は2018年6月の9000頭
(注19)のみで、試験輸入にとどまっている。
豪州から中国への生体牛の輸出は、空輸または海運で行われているが、と畜場直行牛は安価なため海運が主流と考えられる。空輸では、航空機1機で420頭を運ぶことができ、1頭当たり1200米ドル程度(約13万7000円、1米ドル=114円)かかる。輸送には1日もかからないため死亡などによる損耗は海運よりも低い。他方、海運では船一隻に1500〜2000頭を乗せ、1頭当たり250〜300米ドル(2万8500円〜3万4200円)かかる。海運での所要日数は、豪州から中国への輸送に15〜20日である。なお、豪州側での輸出検疫には8日程度かかる。
(注18) と場直行牛は廃用牛や妊娠している牛を含んではならないとされている。
(注19) 繁殖用以外の牛。乳用牛、肉用牛の区別はない。
業界関係者によると、と場直行牛の輸入は、当初、政府の奨励によって始められ、現在では10社程度が行っているが、冷凍牛肉よりも割高なため、ほとんどの企業で利益が出ていないとのことである。政府は、①と畜場の稼働率の改善による農村振興効果 ②副産物も同時に輸入できることを理由に奨励したのではないかといわれている。
生体牛輸入企業「山東栄成泰祥グループ」
山東栄成泰祥グループは、山東半島の先端部にある栄成市に本社を置く食品の製造・販売を主要事業とする会社である。
同社では近年、牛肉の販売を始めた。牛肉の販売額は年間1億元(16.5億円)程度で、販売先は7〜8割が外食店で、残りはスーパーマーケットやコンビニエンスストアである。2017年から豪州産のと場直行牛を輸入しており、本社のある栄成市内にと場直行牛のための隔離施設やと畜場を持っている。
と場直行牛を輸入するメリットは、①冷凍牛肉を輸入するよりも安定的に供給できること ②冷凍・冷蔵肉のどちらでも供給できること ③内臓肉も一度に手に入ることである。その理由としては、①については、豪州に冷凍牛肉を注文すると、商品の到着までに海運で2カ月程度かかり、いつ自社の倉庫に納入できるのか正確に見通しづらいが、生体牛は一度輸入すれば自社でと畜量を加減して安定的に供給できるためである。なお、空輸であれば注文後1週間程度で牛が到着するが、コスト上現実的ではない。②については、前述の通り中国では冷蔵肉が好まれるため、③については、中国では他国よりも内臓肉が高く売れるため
(注20)である。
一方、輸入牛肉よりも1割程度コスト高になるというデメリットがある。主な理由としては、一般に豪州よりも中国国内の方がと畜コストが割高であること
(注21)に加え、と場直行牛は輸入後14日以内にと畜しなければならないことからと畜場の稼働率にムラができることがある。このため、同社では、今後と畜の期限が14日よりも延長されなければ輸入頭数の大幅拡大は難しいと考えている。
(注20) 中国では全ての副産物が食べられる。複数の現地専門家によると、皮は皮革用よりも食用の方が4〜5倍高い価格で売れるといわれる。また、骨はスープに使われる。
(注21) 中国と豪州のと畜コストについては、表6参照。
(2)輸入先国の拡大
中国の牛肉輸入が増えはじめた2011年以降、政府は輸入可能国を積極的に拡大させており、2010年の4カ国から、2018年11月時点で21カ国まで増えている(図11)。
(3)自由貿易協定
中国は、牛肉輸入先国のうち、豪州、ニュージーランド、チリ、コスタリカなどと自由貿易協定を結んでおり、2024年には、この4カ国の表中の品目の輸入関税が全て撤廃されることとなっている(表11)。