畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 農業企業としての「働き方改革」

特集:生産基盤強化と働き方改革に向けた取り組み 畜産の情報 2019年2月号

農業企業としての「働き方改革」

印刷ページ
株式会社ノベルズ 代表取締役社長 (えん)()  雄一郎

1 はじめに

 昨年3月に「農業の「働き方改革」経営者向けガイド」が農林水産省のホームページを通じて公表されました。ガイドでは、他産業との人材獲得競争において農業が選ばれるためには経営者の意識改革が必要で、働き方改革を具体的に進めるためには、段階的なアプローチとして課題の洗い出し、経営理念の共有、業務のマニュアル化などステップを踏んで進める必要があることなどが盛り込まれております。また、人材の確保・育成には農業者一人ひとりの意識を変えることも必要です。
 私は肉牛、酪農、食品事業を展開している潟mベルズの代表取締役社長を務めており、農業経営者の立場から「農業の「働き方改革」検討会」の委員として、自らの経営と地域農業が同時に発展できるような取り組みを提言させていただきました。生産拠点である北海道十勝地方の各拠点では、地域農業と一緒に発展していくことをモットーに、バイオガスプラントでの液肥を地域農家に還元し、飼料となるデントコーン栽培にも力を入れて取り組んできました。
 今回、働き方改革検討委員会の中では語り切ることができなかった、私の経営理念や働き方改革に対する考えなどについて紹介していきます。

2  私が求める人材と経営者が取り組む「働き方改革」

 当社グループは、経済産業省が取り組む「新・ダイバーシティ経営企業100選」において平成28年度の経済産業大臣表彰を受賞しました。これは農業分野の企業では全国初となるもので、労働時間の短縮や多様な働き方の推進に向けた取り組みが評価されたものと考えています。役職員数は合計361人(平成30年12月現在、有期雇用契約も含めた人数)で、8カ所の牧場で交雑種、黒毛和牛、ホルスタインを計2万4000頭強飼養しています。
 私が求める人材は、遂行能力と部下をまとめる能力の二つを有する人材です。遂行能力は「気づき」、まとめる能力は「人間性」や「コミュニケーション能力」のことです。当社では、日ごろの飼養管理に関する数値やデータをマネジメントに活用し、動物医学的な牧場運営を行っています。数値やデータは全職員が共有可能です。結果として表れた数値によって努力の成果がすぐにわかりますし、思ったようにいかなければ改善の余地があるということです。これにより、「気づき」を促します。このような人材を育てるためには、人事評価制度が適切に運用されることが重要であり、これによって職員のモチベーションを維持・向上させることができます。また、会社が掲げた目標以上のものを達成できる近道は、多様な人材を受け入れることだと考えています。多様な人材が集まることにより、イノベーションが生まれるものと確信しているのです。
 その結果、職員に求める資質として挙げられるのは、仕事に対して自分で考えることができる「自立性」です。すなわち、自らの立ち位置を俯瞰(ふかん)的に見ることで、より効率的に行動し、上司への提案を行うことができることであり、そのような資質を持っている人間を私は求めていますし、日々育てているつもりです。今までの経営者はルーチン業務をただ単にこなすことを職員に求めてきたかもしれませんが、私は起業家的な目線で畜産・酪農経営を見ているため、職員には自然と私と同じような物の見方を求めてしまうのかもしれません。
 職員が目標に向かっていく姿勢を鮮明にし、目標を達成する喜びを分かち合うのが仕事の醍醐味(だいごみ)ではないでしょうか。苦楽をともにして一致団結させることが経営を行っていく上で大切なことだと捉えています。
 私たちのような農業企業を就職先に選択し、就職後の離職率が比較的低いのは、当社の人事評価制度が正しい方向へ進んでいる証しかもしれません。職員の誰もが働きやすく、やりがいを感じながら生き生きと働くことができる職場をつくるためには、継続的な働き方改革の推進が不可欠です。当社の職員は、仕事への志がとても高く、一次産業の重要性も理解してくれています。それと同時に、企業体としての農業経営体に対して魅力を感じているのでしょう。長く働くことができる職場としてやりがいだけではなく、「持続可能な農業」としての将来性も感じてくれていて、社長として大いに期待しております。
 さらに、ただ単に目標を達成するのではなく、経営感覚かつ、あくなき探究心を持っている人材も求めています。経営感覚とは、「費用対効果といったコスト意識」と言い換えられます。また、一つのことを突き詰めて考える「研究者タイプ」のような人材も求めています。
 私が考える「働き方改革」は機械化・ロボット化だけを行い、労働時間を短くするというものではなく、経営者が職員に対し経営理念や将来のビジョンを掲げ、多様な人材を一つの目標に向かう道しるべを示すことに他なりません。つまり、経営者がやりたいことを明確にして、職員が目標に向かっていける環境をつくることです。当社には肉牛、乳牛の飼養ではなく、受精卵を培養するといった研究部門に携わっている職員もいます。「当社で何をしたいのか」「当社に入って何を目指すのか」「日々の仕事を行っていく上で、どのようなビジョンを描くのか」を明確にすることで、多様な人材に当社を選んでもらえるものと考えています。
 

写真1 乳用牛の搾乳作業


写真2 育成牧場の哺乳舎にて
 

3 これからの目標

 父のつくった牧場へ就農して、「農業の会社」として小学生のときから日本一の牧場をつくることを目標に、職員が仕事に対して誇らしく思えるよう私自身取り組んできました。これからも畜産・酪農の仕事が「やりがいに満ちあふれ、かっこいい仕事」と感じられるように引き続き取り組んでいきます。今まで「農業という仕事は特別なもの」という捉われ方が一般的になされてきたと認識していますが、これからは「農業は特別な仕事ではなく、あまたある仕事の中から選ばれる魅力ある仕事」と思ってもらえるように、他業種との人材獲得競争に勝ち抜くつもりで頑張ります。そのためには、いかに将来の担い手に「やりがい」を実感できる職場をつくることができるかが、私に課せられた課題です。
 一昨年、当社は4週6休の労働条件の実現に成功しました。次の目標は酪農部門における一日当たりの労働時間を短縮することです。これからは、肉牛事業部、酪農事業部、食品事業本部などに属する各部門などの数値の精度をもっと上げることも目指していきます。そのためには、IT(情報技術)やAI(人工知能)の導入を行っていくつもりですし、社内に現場をサポートするための機械化部門のチームを設置し、積極的に取り組んでいきます。
 全国新規就農相談センター内の特設サイト(https://be-farmer.jp/hatarakikata/)では、農業経営者の方々による「働き方改革」実行宣言が紹介されております。これは、農業高校や農業大学校生をはじめ一般に広く周知するために同センターと農林水産省が行っている取り組みで、私は「農業で世界中に驚きと笑顔を」と宣言しました。これは、私の会社で安全でおいしいものを生産し、消費者の方々へ届けて満足してもらい笑顔になっていただくこと、そして今後は国内にとどまらず世界に向けて「攻めの経営」を展開していくことを目標としているためです。
 今後も多様な個性を生かしながら人材の育成に力を入れるとともに、私も職員とともに成長し続けていきたいと考えております。
 

写真3 職員と一丸になって頑張ります!

 
【プロフィール】
昭和53年 北海道上士幌町生まれ
平成08年 北海道帯広農業高校卒業後、米国ネブラスカ州の肉牛牧場で研修
平成09年 延与牧場(現株式会社延与牧場)に勤務
平成18年 株式会社ノベルズ創業
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-4398  Fax:03-3584-1246