ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > タイブロイラー輸出産業の競争力と今後の展望
2017年のタイの鶏肉などの輸出額は1016億バーツ(3576億円)であった。このうち日本向けが551億バーツ(1940億円)と最大で、輸出額の54%を占める(図4)。日本向けは、鶏肉調製品が8割、冷凍鶏肉が2割となっている。
日本に次いでEU向けが多く、314億バーツ(1100億円)で、鶏肉調製品が8割、冷凍加塩鶏肉が2割を占める。なお、EU向けのうち、過半の179億バーツ(630億円)を英国向けが占めている。
輸出額を品目別にみると、鶏肉調製品が75%、冷凍鶏肉が19%、冷凍加塩鶏肉が約6%を占める(図5)。このほか、冷蔵鶏肉や冷凍丸どりもわずかに輸出されているが、輸出額に占める割合はそれぞれ0.19%、0.07%ときわめて小さい。
ア 冷凍鶏肉および冷凍加塩鶏肉
2004年の高病原性鳥インフルエンザの発生により、各国がタイからの鶏肉輸入を禁止したため、同年の冷凍・冷蔵鶏肉の輸出量は激減した(図6)。その後、徐々に増加し、日本が2013年12月に解禁したことで、2014年以降は、急速に増えている。2017年時点で、2003年とくらべて、日本向けは7割、EU向けは8割強まで回復している。なお、EUに仕向けられているのは、2003年以前は冷凍鶏肉、2012年以降は冷凍加塩鶏肉である。
冷凍鶏肉は、日本向けが58%で、次いでラオスが18%、マレーシアが12%である。輸出単価は日本が最も高く、ラオスやマレーシアにくらべて3〜4割高い(注2)。
(注2) 2017年の日本向けの鶏肉輸出単価(FOB)は1キログラムあたり99バーツ(350円)であり、ラオスの77バーツ(270円)やマレーシアの70バーツ(245円)よりも3〜4割高い。
現地専門家によると、タイのブロイラー生産費(注3)は、主に飼料原料が高いため、ブラジルより高く、同じ規格で競争することは難しい。このため、日本の買い手の要望に応じて小さくカット(注4)して利便性を高めたり、異物混入を減らすことで信頼を得たりして、差別化を図っている。
2017年3月に発覚したブラジルの食肉不正問題や2018年5月に起きた同国でのトラックドライバーのストライキ(注5)などにより、ブラジルの供給が減った際には、タイ産の鶏肉価格が上昇するなど、タイ産とブラジル産は、互いの価格が影響しあっている。しかし、日本市場では、タイ産とブラジル産の代替性は低い。これは、両者の規格が異なり(注6)、価格帯が離れているためである。
実際、日本のタイ産冷凍鶏肉輸入単価は、ブラジル産より3割程度高い(2017年時点、図7)
(注3) タイ農業・協同組合省によると2017年の生産費は生体1キログラム当たり36.3バーツ(128円)、2018年は32.6バーツ(115円)。
(注4) 骨なしもも肉角切り(BLK(BoneLess Kakugiri))と呼ばれる。
(注5) 燃油価格の急上昇に抗議するため、2018年5月21日から同月31日ごろまで、トラック運転手がストライキしたため、主要輸出港であるサントス港やパラナグア港に通じる道路を中心に23州の主要幹線道路が閉鎖された。詳細は海外情報「トラック業界によるストライキで鶏肉・豚肉業界に打撃(ブラジル)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002224.html)を参照されたい。
(注6) ブラジル産は部位ごとにカットされた加工度の低い鶏肉(骨なしもも肉(BoneLess))が多く、一方でタイ産は加工度の高い鶏肉(BLK)が多い。
また、2018年3月に、中国政府はタイ産鶏肉の輸入を解禁した。中国に輸出している企業の話では、中国からは「手羽なか」と「もみじ」の引き合いが強く、もみじは国内価格の2倍程度で輸出できているとのことであった。2018年10月までの輸出量と輸出単価については、畜産の情報2019年2月号「海外需給(タイ:鶏肉)」で分析した。これによると、確かに輸出量の大半は手羽なかともみじであり、もみじは明らかに国内よりも高い価格で輸出されていた。
冷凍加塩鶏肉は、ほぼ全量がEUに仕向けられる。これは、鶏肉調製品と同様に、2007年以降、EUが低関税輸入枠(注7)を設けているためである。同枠は年間9万トン強で、関税率は最恵国税率の約60%(注8)より大幅に低い15.4%である。
(注7) EUでは、2001年ごろにブラジルとタイからの冷凍加塩鶏肉(HSコード:0210)の輸入が急増した。これは、当時、冷凍鶏肉(同0207)の関税が1トンあたり1024ユーロ(従価税の60%程度に相当)と高い一方で、冷凍加塩鶏肉の関税は15.4%と低かったため、低濃度の加塩をすることで、用途の幅を狭めずに低い関税率で輸出することを意図したものと推察される。これに対し、EUは、両国の加塩鶏肉は、冷凍しないと品質を保てないほど塩分濃度が低いとの理由で、冷凍鶏肉とみなし、同1024ユーロの関税を適用したため、ブラジルとタイはこの措置を不服としてWTOに提訴した。WTOの裁定では、ブラジルとタイが勝訴し、EUは両国の冷凍加塩鶏肉と鶏肉調製品に対し、2007年から低関税輸入枠を設けた。詳細は海外情報「EUにおける家きん肉生産の輸入管理制度について」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_000151.html)を参照されたい。
(注8) 最恵国税率は1トン当たり1300ユーロ。2017年の輸入平均単価の同2156ユーロの約60%に相当する。
低関税輸入枠の消化状況をみると、タイは2014、2015年にほぼすべて使い切り、その後は2割程度の余裕があったが、ブラジルの食肉不正問題発覚や同国産の加塩鶏肉や鶏肉調製品からのサルモネラ菌の検出による輸出施設の認定取り消しによって増加し、2018年7〜10月は前年同期比210%と過去最高のペースとなった(表3)。
なお、EUの買い手は特別なカッティングを求めないため、ブラジル産との差別化が難しく、価格による競争になっている。このため、今後、ブラジルがEUの衛生基準に関する要求などを満たして輸出体制を整えれば、タイ産はふたたびブラジル産にシェアを奪われるおそれがある。
イ 鶏肉調製品
鶏肉調製品は、唐揚げや焼き鳥をはじめ、多様な製品がある(写真1〜6)。需要者ごとに異なるレシピで作られるものが多いため、少量多品目の生産がなされている。調製品は大きく分けて、加熱されたものと、未加熱のものに分けられる。
加熱調理は、「焼く」「蒸す」「揚げる」の3種類の調理法を組み合わせて行われる。タイ最大のインテグレーターであるCPグループのコーラート工場では、1度だけ焼いたものと蒸したもの、揚げたものがあわせて3割、2回揚げたものが1割、揚げてから蒸したものと揚げてから焼いたものがあわせて6割で約100種類の商品を月に合計5000トン生産している。
未加熱のものは、現地で「マリネ−ド」と呼ばれる味付けをした製品である。例えば、日本で揚げるだけで唐揚げを作れるように調理した製品などがある。
鶏肉調製品の輸出量は、2000年時点では10万トンに満たなかったが、2017年には50万トンを超えた(図8)。この間、日本向けが二度(2005〜07年と2012〜14年)停滞したものの、そのたびに中国で食品安全関連の事件が起き、タイ産への代替需要が高まった。
中国から日本への鶏肉調製品の輸出量は、中国産冷凍ギョウザに混入した薬物による食中毒の発生 (2007年12月ごろ)、期限切れ鶏肉使用問題の発覚(2014年7月)によって、2008年と2015年にそれぞれ急減している(図9)。
また、タイで2004年に高病原性鳥インフルエンザが発生し、加熱加工品を除く鶏肉が輸出できなくなったことから、インテグレーター各社は、加熱加工品の生産量を増やす努力を続けてきた。
現地専門家によると、中国産は、事件発生によりイメージが悪化したため、廉価な製品にシフトしていった。これと同時に、タイは中国産よりも高価な商品を増やし、ゆるやかなすみ分けが形成されていった。両国産の単価をくらべると、2000〜07年には平均で4.7%タイ産が高かったが、2014〜17年にはその差が10.3%まで拡大している(図10)。
また、インテグレーター各社は、今後中国は人件費の上昇による生産コストの上昇や、国内需要の拡大により、輸出余力が伸びることはないと見込んでおり、中国産に対する差別化よりも、タイの企業自身がいかに日本企業と結びついて取引を増やしていくかに関心を持っている。
他方、EU向けの鶏肉調製品輸出量は、2016年まで長期にわたって16万トン前後で横ばいとなっていた(表4)。これは、EU側がタイ産の鶏肉調製品に対し、年間16万トンまで関税を8%とする低関税輸入枠(最恵国税率は27%(注9)程度)を設けているためである。同枠が創設された2007年以降、タイは、ほぼ毎年枠を消化し切っている。なお、ブラジル産にも7万9000トンまで8%の低関税枠が設けられているが、消化率は9割前後である。
(注9) 最恵国税率は、1トンあたり1024ユーロである。2018年8月の鶏肉調製品の平均輸入価格は同3275ユーロなので、30%に相当する。
タイでは、国内で2004年1月に高病原性鳥インフルエンザが発生してから、鶏肉輸出から鶏肉調製品へのシフトが進んでいる。しかしながら、今後、仮にタイでふたたび高病原性鳥インフルエンザが発生した場合、未加熱の鶏肉調製品を製造する工場は輸出できなくなる。現地専門家によると、このリスクを減らすため、加熱品の製造に特化する工場を増やす動きがあるという。
冷凍鶏肉、冷凍加塩鶏肉、鶏肉調製品の1キログラム当たりの輸出単価をくらべると、鶏肉調製品は150バーツ(530円)前後、冷凍鶏肉と加塩冷凍鶏肉は100バーツ(350円)前後で推移している(図11)。近年最も大きく変化しているのは冷凍加塩鶏肉で、2017年5月の70バーツ(250円)から2018年7月には119バーツ(420円)まで急上昇している。これは、ブラジルの食肉不正問題発覚に加え、ブラジルの加塩鶏肉や鶏肉調製品からサルモネラ菌が検出され、EUでタイ産への代替需要が高まったことが大きく影響していると考えられる。なお、これらの問題が鶏肉調製品単価に与えた影響は限定的で、バーツ安の影響の方が大きかったことから、鶏肉調製品のバーツ建ての単価は上がっていない。
タイから日本への輸出には合計で10〜15日程度かかる。CPグループのコーラート工場の場合、工場から出荷後、バンコク南西にあるムチャバン港まで約12時間で到着する。その後、タイの港から日本の港まで8日以上かかる。
一方、ブラジルから日本へは45〜60日かかる。