このような中で、地域経済・畜産を支える大型プロジェクトは、着実に進行しています。
まずは、有限会社はやま農場の育成鶏生産農場の建設です。同農場は、東日本大震災により福島県川俣町にあった採卵鶏農場の20万羽を処分したことから、新たな農場建設に着手、田村市船引町堀越に100万羽の育成農場を、東日本大震災農業生産対策交付金
(注1)(以下「交付金」という)を活用して建設中です。平成29年度の第一期工事が終了し、すでに2棟の育成鶏舎にひなが導入され、事業が開始しています(写真2)。30年度(二期)工事分が完成・竣工すると飼養羽数は100万羽となり、育成鶏農場としては東洋一の規模となります。従業員として、地元を中心に50人以上の雇用も予定されており、地域経済への波及効果も期待されています。
次に、福島さくら農業協同組合(以下「JA福島さくら」という)は、生産基盤の維持および農家支援が可能な体制整備のため、子会社(株式会社JA和牛ファーム福島さくら)を設立し、キャトル・ブリーディング・ステーション(CBS)事業に着手、年度末までには施設などのハード整備が完了、31年度からの本格操業開始に向けた準備を進めています。事業の柱は、①地域の畜産農家から子牛を預かり育成・出荷する預託事業②自ら繁殖・育成出荷する繁殖経営事業であり(総頭数180頭規模)、新規就農者の研修機関としての役割も果たす計画です(写真3)。
また、JA福島さくらが事業実施主体となり、交付金を活用して自給飼料生産・調整用機械などを導入・整備し、自給飼料生産面積の拡大と定着による、飼料の地産地消に基づいた地域畜産の再生についても、31年度から開始する予定です。
さらに、個別畜産農家の奮闘ぶりとしては、原発から20キロメートル内である旧都路村での、株式会社和農の存在があります。若手畜産農家T氏など3名が法人を設立、現在敷地面積1.2ヘクタール、自力施工で牛舎などを建設中です。150頭規模での繁殖経営で、受精卵移植を活用しながら、自給飼料を基本とした低コストな経営を目指しており、除染済み農地での放牧も視野に入れて土地を取得しています(写真4)。
T氏は別途、任意組織「MKF(都路(M)機械(K)ファーム(F))カンパニー」の主要メンバーでもあります。当該組織は、25年に旧都路村の畜産農家5名で設立、自給飼料の確保と、畜産業の維持・拡大を目指し、機械の共同利用により避難指示解除後の水田を活用した稲WCS生産に取り組んでいます。機械は交付金を活用して導入、湛水直播(たんすいちょくはん)
(注2)にも取り組んでいます(写真5)。初年度の20ヘクタールから30年度には収穫面積36ヘクタールまで拡大、生産技術を磨きながら、栄養価・嗜好性の高いWCS生産に取り組んでいます。
注1:同交付金は、東日本大震災農業生産対策事業において交付されるものであり、同震災により被害を受けた農業用施設や営農用資機材等の復旧、ならびに生産資材などの購入経費への助成などを通じて被災地域の復興を図るものである。
2:水田に種子をじかまきにする方法で寒冷地に適している。