(1)農場HACCPとJGAPの認証取得
安楽畜産では、宮崎県において平成22年に発生した口蹄疫の再発防止を図るために農場の衛生管理を強化していた。そのために安楽畜産では29年3月に農場HACCPを取得した。図7に示すように平成28年度における全国の肉用牛の農場HACCP認証取得件数は18件に過ぎず
〔3〕、安楽畜産の取得は全国的にみても早期の取得であったことが分かる(宮崎県内では平成26年10月に取得した有限会社中林牧場児湯支場に次いで2番目)。
農場HACCPは、飼養衛生レベルを向上させる「一般的衛生管理プログラム」と、重大な危害要因が発生するポイントを管理する 「HACCP計画」で構成されており、システムの定期的な検証・改善により、飼養衛生レベルや畜産物の安全性を継続的に向上させることができるシステムである
〔4〕。安楽畜産についても、原材料(導入子牛、飼料、飲用水、薬品など)と作業工程を図式化し、危害要因を明らかにし、軽微な危害要因を管理するため、消毒や給餌などの基本的な衛生管理の手順を定めている。さらに重要な危害要因については、管理すべきポイントとその管理手段を決め、監視するとともに定期的に検証し、必要に応じて取り組みの改善を行っている。
例えば、家畜の飼養衛生管理基準(牛)には、(1)家畜防疫に関する最新情報の把握など(2)衛生管理区域を設定し同区域以外との境界の区分(3)衛生管理区域への必要のない者の立入り制限(4)衛生管理区域に立ち入る車両の消毒(5)衛生管理区域及び畜舎に立ち入る者の消毒などのチェックリストが準備されており、それを基に評価が行われている
〔5〕。
さらに、安楽畜産では、東京オリパラ選手村での使用食材に採択してもらうべくJGAP認証を30年2月に取得した。JGAP認証は、農業生産者が自主的に取り組むべき経営手法である一方、その導入後の達成段階では審査・認証制度を通して社会に広く認知されるべきであり、農業生産者が農畜産物・家畜の販売において供給者としての信頼性を表現する基準としても機能すべきものである。
家畜・畜産物の都道府県別認証農場数(30年3月末時点)は26農場であり、そのうち安楽畜産を含む2牧場が宮崎県内での認証牧場である
〔6〕。
(2)農場HACCPとJGAPの認証取得の関連性
農場HACCP認証基準とJGAP家畜・畜産物基準との関連を模式的に図示したのが、図8である
〔7〕。同図によれば危害要因分析(HA)は両基準に共通であるので、平成29年3月に農場HACCPの認証を取得した安楽畜産が、30年2月にJGAP基準認証を受ける際には、両基準の差分である(1)アニマルウェルフェア(2)人権の尊重(3)労働安全(4)環境保全(5)農場管理の項目について基準を満たすことが求められた。安楽畜産では農場HACCP認証取得時に基準達成のためにハードとソフトの改善を実施していたので、JGAP基準の達成は比較的容易であったという。
(3)安楽畜産におけるJGAP認証取得のための具体的取り組み
ア アニマルウェルフェア
JGAP認証取得以前は導入子牛に対して除角をしていたが、認証取得以後はアニマルウェルフェアに配慮して角を切らなくなった(写真1)。除角は、飼養管理上、牛の攻撃性を低下させ、不要な牛のけがの発生などを防ぐために推奨されているが、切らない方が切断作業を省くことができ、感染症の防止につながることに加え、切断による牛の体重減少も防止できる。また、牛が
横臥している体型から起きるとき角を利用できるので、牛は楽に起き上がることができている。
角があることで牛同士の衝突による枝肉の「アタリ」を回避するために、肥育後期には1室に相性の良い牛同士を2〜3頭入れ、ゆったりとしたスペースで飼養している。
イ 労務管理
JGAP認証取得に際し、従業員に農業機械の免許を取得する機会を与え、免許を持った従業員だけが農業機械の操作を行うなど安全性の確保に努めている(写真2)。
ウ 労働安全
中国から輸入した稲わらと豪州から輸入した乾草を倉庫の中に積み上げたり、積み下ろしたりする時に従業員が粗飼料の山から落下しないように安全ベルトや落下防止のためのロープを張り、従業員は落下防止装置を装着している(写真3)。さらに従業員にはヘルメット着用を義務付けており、労働安全に配慮している。
また、牧場が傾斜地に立地しているので、牧場内には段差やスロープが多いが、各段差には手すりを設置し、転倒などの作業中の事故を防止している(写真4)。
粗飼料の搬入、肥育もと牛の導入、肥育牛の出荷、堆肥の搬出の際には、段差を利用してトラックを横付けにしている。段差での従業員の転落防止のためにロープを張っている(写真5)。
JGAP認証取得以前には草刈機の刃にはカバーを掛けていなかったが、認証取得以後は防護カバーをかけて鋭利な回転刃による事故を防止している。
牧場内で利用する軽油などの燃料タンクには油漏れを防ぐコンクリート枠を付けるとともに、燃料輸送用の一般車両が農場内に侵入するのを未然に防止するために、その燃料タンクは牧場の入口に設置されている。また牧場が林道に面しているために部外者の侵入を防ぐためにロープを張っている。
エ 書類の整備・管理など
牧場内の各種作業をファイルに記録し、過去の作業内容などを従業員が必要なときに見ることができるようにしており、作業の効率化に役立てている(写真6)。
さらに緊急事態発生時の連絡網を図示した掲示物を壁に貼り、迅速な連絡ができるようにしている(写真7)。
オ 環境保全
粗飼料を結束していたプラスチック製のひもやネット類を分別して保管し、それらを納入した業者に引き渡し、リサイクルしている(写真8)。
医薬品などは、施錠できる保管庫で管理し、また薬剤が入っていた空瓶や使用した注射針などは厳重に分別・保管して業者に引き渡し、牧場内での薬剤汚染や注射針での事故を未然に防止している(写真9)。
カ 農場管理
農業機械の利用状況の把握および管理に当たり、鍵は事務所に一括して保管している。連日の作業であっても、鍵を差したままにはせず、夕方には引き抜き、翌朝事務所で受け取る。数台の農業機械があるので、鍵には農業機械名を記入して使用時の混乱を防止している。
粗飼料の保管倉庫や牛舎には防鳥ネットを張り巡らし、野鳥のふんによる汚染を防いでいる。また牛舎には電気柵を張り巡らしてイノシシの侵入を防いでいる。
水槽にも施錠し、不審者による営業妨害を未然に防止している。