体重、むね肉、もも肉、およびささみの重量は、地鶏に比べてブロイラーの方が有意に高い値を示したが、飼料用米の給与は、ブロイラーおよび地鶏の体重、むね肉、もも肉、ささみ、手羽元、および手羽先の重量には影響しなかった(表1)。González-Alvaradoらは、トウモロコシ主体飼料、あるいはコメ(粉砕米)主体飼料のいずれかを21日齢までブロイラーに給与した場合、体重に有意差は認められないことを報告している
5)。また、Nantoらは、トウモロコシ主体飼料、あるいはコメ(玄米)主体飼料のいずれかを28日齢まで給与した場合、体重に加え、浅胸筋および骨付きもも肉の重量にも有意差は認められないことを報告している
6)。本研究においては、飼料用米が鶏肉の食味に及ぼす影響を検証するべく、ブロイラーと地鶏の肥育後期用飼料におけるトウモロコシの飼料用米への全量置換が鶏肉の生産性に及ぼす影響を調べ、体重ならびに産肉量に有意差は認められないことを明らかにした。これらの結果から、飼料用米は鶏肉の生産性に悪影響を及ぼすことなく、トウモロコシから全量置換できる国産の飼料素材として利用できることが示唆された。
官能検査の結果、ブロイラーのもも肉の食味には飼料用米の給与による影響は認められなかった(図1)が、地鶏のもも肉においては肉の香り全体の強さが弱まる一方で、鶏肉らしい香りがやや強まる傾向、および脂っこさがやや弱まる傾向が示された(図2)。また、味覚センサーによる分析では呈味の差は認められなかった(図3)。ブロイラーにおいては、飼料用米の給与期間(3週間)が地鶏のそれ(7週間)に比べて短かったことから、食味に及ぼす飼料用米の影響が表れなかったのかもしれない。また、豚骨ラーメンを好む人もいれば、しょうゆラーメンを好む人もいるように、人によって鶏肉の嗜好も異なることから、今回認められた食味の変化は、必ずしも全ての消費者にとって望ましいものではないかもしれない。しかしながら、本研究によって、少なくとも鶏肉の食味は飼料用米による悪影響を受けないことが明らかになった。
これまでの種々の鶏肉の食味比較に関する報告においては、湯煎したむね肉
8)、湯煎した赤身(皮と脂肪を除いたもの)のもも肉スライス
9)、オーブンで熱処理した皮なしももひき肉のパティ
10)、オーブンで熱処理した浅胸筋、深胸筋、あるいは大腿二頭筋
11)、オーブンで熱処理したもも肉を冷蔵後、室温に戻したもの
12)が用いられており、実際に食する鶏肉の調理法とは必ずしも一致していない。官能検査に供する検体は均一性が求められることから、このような調理法が用いられているが、わが国においては、むね肉に比べて脂肪分が多く、ジューシーなもも肉の需要が多いことから、本研究では、実際に食する調理法(鍋料理)に近い方法で調製したもも肉を官能検査に供した。また、地鶏とブロイラーの間で肉の呈味成分含量を比較した報告においては、比内地鶏とブロイラーの浅胸筋の一般成分、アミノ酸、無機質、および脂肪酸組成からは肉の食味に影響する成分は特定できないこと
13)、名古屋コーチンとブロイラーのもも肉から調製したスープ中のアミノ酸の濃度は、ブロイラーの方がむしろ高いこと
9)、ローストしたもも肉の遊離アミノ酸含量は、名古屋コーチンおよび三河地鶏に比べてブロイラーの方が多いこと
12)、および会津地鶏、名古屋コーチン、およびブロイラーの皮無むね肉の遊離アミノ酸含量の比較では、多くの遊離アミノ酸がブロイラーで多いこと
14)が報告されている。本研究においては、これまでの報告で調べられてきた調理前の鶏肉抽出液や鶏肉スープではなく、実際に食する機会の多い湯煎調理した鶏肉に残存する呈味成分としてアミノ酸および核酸関連物質を分析したところ、これまでの報告と同様、地鶏肉に多く含まれる呈味成分は認められなかった(表2)。それ故、鶏肉の食味にアミノ酸および核酸関連物質が関与する可能性は低いと判断された。
飼料用米の給与は、ブロイラーのむね肉のL値を有意に上昇させた(表1)。一般に、肉色は赤みが強い方が望ましいとされるが、ニワトリのむね肉に関しては、蒸し鶏、サラダチキン、およびチキンフィレカツなど、白い肉色が好まれる用途が多い。それ故、飼料用米給与によるL値、すなわち明るさの上昇は、食品素材としてのむね肉の価値を高める望ましい変化と言える。
鶏肉の肉質については日齢
13、15)、あるいは飼育形態
16、17)により影響を受けることが報告されている。また、地鶏肉においては雌雄の飼育期間が異なる場合も多く、例えば、本研究に供したひょうご味どりは、雄は90日齢、雌は110日齢まで飼育することが推奨されている
18)。さらに、極端な例としては、比内地鶏においては雄の鶏肉は味が劣ることから、雌しか鶏肉生産用に供されない場合が多い。それ故、雄の比内地鶏の食味改善を目的に雄ヒナの効率的な去勢方法が検討されているほどである
19)。今後、地鶏肉の性や日齢の違いによる食味の違いに及ぼす飼料用米の影響を調べる必要もあると考えられた。