ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 畜産の未来のために、女性の視点を活かす
私が大学を卒業して畜産の仕事に携わるようになってしばらくの間は、周囲は男性だらけという状況が続き、そんな環境に特に違和感もなく順応していた。だが、この10年少しの間に、畜産分野で女性が主体となって作った集まりに加わり、女性ならではの感性、視点があることを感じている。仕事として畜産業に携わり、技術の向上や経営管理の改善に貪欲である一方、家庭や地域に根ざした視点を持ち、消費者との交流、次世代の育成、地域の活性化、環境保全への関心が高い。どの集まりも、畜産女性が自ら企画し、活動しており、やる気とエネルギーに満ちあふれている。
(1) 全国畜産縦断いきいきネットワーク
飼養畜種を超えて、畜産を魅力あるものにしようと、牛・豚・鶏の女性畜産経営者が中心となって全国的な女性ネットワークが平成17年に発足した。発信力の高いメンバーが多く、審議会委員や農業委員等で活躍している。年1回、東京での大会が恒例だが、県単位でのネットワークも立ち上げ、勉強会や地域での畜産振興、消費者に向けた広報活動などを行っている(http://jlia.lin.gr.jp/joseinet/)。事務局は、公益社団法人中央畜産会が担当しており、会誌発行や若手後継者育成研修会、畜産団体や行政担当者との意見交換などを開催している。毎年の年次大会では、熊本県肉用牛生産者の那須真理子元会長のシナリオによる、カラスに扮して畜産問題を鋭く描く寸劇が大好評である。
(2) 全国モーモー母ちゃんの集い
牛に対する情熱や愛情、誇りを持っている女性たちが自分たちで作り上げた全国の牛飼い女性による、牛飼い女性のための手作りの会。阪神淡路大震災の後、平成12年に淡路島で第1回全国モーモー母ちゃんの集いを開催した。固定した事務局はなく、その後は1年おきに開催希望地で実行委員会を立ち上げ、最大400名が参加する大イベントとなった。県単位の「モーモー母ちゃんの集い」での研修会や交流会も開催されている。今年は、兵庫県姫路市で第10回大会が開催される(図2 連絡先:10th.moumou.hyougo@hyotiku.ecweb.jp)。
(3) 畜ガールズ(産業動物に興味のある女性の会)
産業動物に関心のある獣医師や生産者が参加し、産業動物に関連した仕事を通じて社会に貢献することを目的としている。ただ、女性が産業動物分野で活躍することを阻害する要因が存在することも確かで、女性の悩み相談にも応じている。それらの課題を解決し、男女ともに仕事と生活のバランスを取って活躍できる時代を作ることを目指すとしていることから、会員は男女を問わない(https://chiku-girls.jimdo.com/)。事務局は宮崎大学農学部の産業動物臨床繁殖学研究室が担当しており、ウェブサイトでの情報提供、学会での活動報告、ワークショップの開催などを行っている(図3)。産業動物獣医師の長時間労働、緊急対応への問題提起も行い、メンバーの勤務する家畜診療所では、繁殖健診と飼養管理指導を含む生産獣医療契約を増加させて、農家の生産性向上と緊急対応診療の減少、診療所の収益改善を進めた。
(4) SAKURA会
北海道広尾町の酪農家である砂子田円佳さんは、1人で酪農経営を始めた中で仲間に助けられた経験から、農業関係で働く女性の会となるSAKURA会を発足させた。北海道の酪農・農業などに携わる女性を中心とした交流会を開催し、若手、子連れの参加者も多い(図4)。平成29年から「酪農女性サミット」を開催している。また、SNSを活用して情報発信、情報交換を行い、快適な作業着の開発や食育活動にも取り組んでいる(https://www.facebook.com/groups/sakura.agri)。
(5) いわて牛飼い女子会
岩手県の肉用牛生産と酪農振興を目的に、岩手県内の酪農家、肉用牛生産農家の女性グループが活動している(https://www.facebook.com/ushikaijoshi/)。県庁畜産課が事務局を務めているものの、各地のグループごとに勉強会や地域間交流、消費者への広報活動など自主的に企画し、畜産施策への提案も行っている。その活動成果は、SNSでの発信や年次大会で報告し、畜産業に対する一般消費者の認知度の向上に寄与している(図5)。
こうした女性主体での集まりは、初対面でも旧知のように打ち解け、畜産・農業・そのほかの話題で大いに盛り上がることができる。既存の考え方にとらわれず、さまざまなアイデアが飛び交う。何よりも、気持ちの交流があり、心温まる時間は、明日へのエネルギー源となる。時には、寸劇やゲームを取り入れ、「楽しい時間」にする工夫を凝らす。こうした発想の柔軟性や、共感を中心とするコミュニケーションは、一概には言えないが、女性が得意とするところだろう。また、そこに立ち会った男性陣も、きっと楽しい気分を味わうことができる。機会があれば、ぜひ畜産女性の集まりに参加してみてください。