イ ソニー・パーデュー農務長官
米国農業を支える研究と技術基盤は拡大し、それらが世界中で尊敬され、目標とされている。米国は世界の農業のリーダーとして世界中の食料・燃料・繊維をより効率的に生産するバイオテクノロジーや生産ツールの開発に貢献している。
USDAは、安全で栄養価の高い手頃な価格の食料を持続可能性をもって生産する手段を、生産者のために確保することが使命であり、グローバル市場への公正なアクセスの確保に努めている。
世界人口はわずか31年後に97億人に達すると予測されている。つまり、限られた資源で環境を保護し、農業用地の拡大も行わず、持続可能性を保ちながら、農産物の生産性を向上させることで食料生産量を2倍にする必要がある。これは驚異的なことである。世界中で増え続ける人々に対して食料を供給し続けることが私たちにとって重要な課題であり、このままではその生産性を確保することは難しいため、あらゆるツールを駆使することが必要になると考えられる。
現在、食品について消費者の不安をあおる動きがあることを残念に思う。この不安が増大すれば、我々が既に使用している重要な技術さえも抑制されるため、研究者、生産者、加工業者および小売業者というサプライチェーン全体でこの問題を考え、不安を解消していく必要がある。米国は食料と環境の安全と管理を確実に行うための責務を担い、科学に基づく厳格な基準を適用して農作物を生産している。
米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の重要な側面として、21世紀の革新を支援するために初めて農業バイオテクノロジーに取り組むこととしている。3カ国は農業バイオテクノロジーの貿易関連事項に関する情報交換および協力について、連携を強化することに合意した。事実と異なることは訂正し、食に対する不安を解消し、共に前に進もう。
ウ カナダ農業・農産食料省ローレンス・マコーリー大臣
パーデュー農務長官が言及した貿易は非常に重要であり、この25年間でカナダの貿易量は4倍になった。我々はこの状況を継続させることが必要であり、これからも共に協力して取り組むことが重要である。現在は、鉄鋼とアルミニウムに関する関税が引き起こしている3カ国の問題を解決しなければならない。
30年後には世界人口が約100億人に達すると予測されており、我々3カ国が協力して食料を供給する必要がある。これは道義的な責務であり、そのためには科学技術が必要となる。技術の規制プロセスは科学に基づいて行われるため、恐れる必要はなく、政治的な判断で決定されるものではない。この問題に対処するに当たりUSMCAは極めて重要な協定である。
エ メキシコ農業・農村開発省ビクトル・ビジャロボス大臣
我々はこれまでとは違ったアプローチで農業に関する問題に対処する必要がある。科学的知識や技術革新が普及することと同様に、農村社会の発展や農業の経済的成長を協力して達成する必要があるという精神を共有している。これが、USMCAが合意に至った理由であり、明確なルールに基づき、公平で開かれた貿易を促進することになる。消費者だけでなく中小規模の農家にとっても利益を得るための方法を探す必要がある。
新しく就任したメキシコのロペス・オブラドール大統領は、貧困対策、国境周辺の治安改善、財政基盤の立て直しなどの課題に対処するという大きな責任を負っている。農業部門では、性別も年齢も文化も異なるさまざまな農家が、経済や気候条件、農業環境などのさまざまな課題にそれぞれ直面し、問題が多様化しており、単一の政策モデルでは、それぞれのニーズに対応できない。より弱い立場にある人々を優先して、あらゆるレベルでのギャップを埋めるために、新しい制度を再設計しなければならない。特にメキシコ南部地域における改善が必要である。不平等な経済成長の結果、メキシコの総人口の51%は貧困状態にあり、新しい手段で真の変革を行う必要がある。
ロペス・オブラドール大統領は、上から下へのトップダウンだけではなく、農家や牧場主からの声に耳を傾け、双方向のコミュニケーションメカニズムの構築に力を入れている。メキシコも、食料安全保障と持続可能な農業を行う重要な責任があり、これまでも3カ国は衛生植物検疫に関するプログラムを共同で行ってきた。これにより、いくつかの病害虫や疾病の撲滅を達成し、北アメリカの農業がより安全で競争力のある食料供給能力を確保することにつながった。我々3カ国は長い協力関係を築いており、今後も我々が協力することが必要である。
(2)パネルディスカッション
パーデュー農務長官(米国)、マコーリー大臣(カナダ)、ビジャロボス大臣(メキシコ)が講演後登壇し、テーマに沿って議論を行った。
USMCAのそれぞれの国内承認までのスケジュールについて具体的な日程は示されなかったものの、各者から、3カ国にとって重要な協定であるため速やかに承認されることを期待する旨の発言があった。また、今後農畜産物の生産性向上には、新たな科学技術の活用が必要であり、新たな科学技術の規制は科学に基づくものであるべきとの見解で一致した。その他の概要については以下の通りである。
ア アフリカ豚コレラのような疾病や病害虫から農家と農業分野を守るために、3カ国は協力することができるか。
●ビジャロボス大臣(メキシコ)
3カ国は疾病や病害虫から農家と農業分野を守るために、強固で相補的なプログラムを構築し、お互いの情報や技術を共有し、各々の分野でレベルアップを図っている。農業を疾病や病害虫からどのように守るかについては常にチャレンジであるが、我々が相互に協力し、技術を共有し、それぞれの国で開発するメカニズムを認識する限り、農業を持続させ、食品を守ることができると考える。世界中で物流が盛んになると、リスクも増大することから、疾病や病害虫に対処するために、我々は関係構築と技術的能力を強化させなければならない。
●マコーリー大臣(カナダ)
アフリカ豚コレラ(ASF)は私がこれまでに何度も提起した問題であり、この疾病が北米地域に侵入した場合、壊滅的な被害を及ぼすことになることを十分に理解している。この疾病が発生すれば、豚の輸出市場から退場することになるため、発生してからではなく、発生する前に対応することが何より重要となる。ASFは中国だけでなくベトナムでも確認され、アジア全域に広がりつつある。一つの発生事例が数十億米ドルものコストを生じさせることから、これは農業分野にとって非常に大きな問題である。我々は協力して侵入防止に努め、発生してからではなく、発生する前に対処することが大事である。
●パーデュー農務長官(米国)
USDAの動植物検疫局(APHIS)がカナダとメキシコの農業当局とすでに協力して対応している。マコーリー大臣の言う通り、事前に対処することが重要である。人やモノの移動が盛んとなった今日では、疾病や病害虫が旅行時、輸出時などのあらゆる機会に伝播する可能性を秘めており、それぞれの段階で情報を共有しなければならない。そのような取り組みを通じて、世界の人々から北米産農産物が安全であるという信頼を得ることができる。現在、ASFは最大の問題だが、その他の病原体による疾病も発生しうる状況にあり、北と南で長い国境を接している我々は協力してこの問題に対処しなければならない。
イ 北米の農家にとって輸出は非常に重要だが、新しい輸出市場、特にアジア市場を獲得するためにどう協力すべきか
●パーデュー農務長官(米国)
私がジョージア州知事を務めていた時、アラバマ州、ノースカロライナ州、テネシー州、サウスカロライナ州、フロリダ州とは経済成長の面でライバル関係にあったが、我々はいつもその地域とともに成長してきた。それは現在の我々3カ国の状況に似ている。メキシコやカナダが生産できても米国が生産できない農産物があり、北米地域は低コストの農産物を生産することが可能であることから、共同して市場開拓を行えば、アジアやアフリカ地域の消費者が北米産の農産物が衛生的で安全だと理解する手助けとなり、新しい市場開拓につながる。
●マコーリー大臣(カナダ)
我々3カ国は異なる場所で異なる農産物を生産している。ハンバーガーの例で言えば、小麦粉、牛肉、レタス、トマトなどの具材の生産地が異なっていることがある。このように、我々は協力をすることができ、高品質で安全な食料を供給することが非常に重要である。そして、適切な規制に従って、安全で高品質な食料を協力して生産することは、他の地域でも消費者の信頼感を得ることにつながる。
●ビジャロボス大臣(メキシコ)
3カ国が統合的に食料生産を行えば、より効果的により良い方法で国際市場にアクセスすることができる。統合的な生産体制を整えれば、各々の国で別々の作物を生産するだけでなく、北米全体で作物をローテーションで栽培することも可能である。そうすることでより強力にアジア市場を獲得することができる。伝染性疾病のコントロールや食品安全の協力も同様である。
ウ 北米の農村コミュニティは、次世代の農家を育成するという課題に直面している。 農家が世界に食料を供給し続けるのを手助けするために、どのように取り組むことができるか
●ビジャロボス大臣(メキシコ)
メキシコでは社会の大部分の人々が貧困状態で暮らしており、その中でも貧しい人々が農村や先住民の土地に住んでいる。そして彼らは長年にわたって無視されてきた。我々は彼らをより良い生活水準に引き上げる必要がある。我々は現在、若者が農村部に留まり、我々が開発を進める生産計画に従事できるようにするためのプログラムを提供している。彼らは都会での仕事を探しているが、そのための能力を持ち合わせていない。そのため、この取り組みは非常に重要であり、このような農業を発展させるプログラムを通じて、若者に知識と技術を獲得する機会を提供することで、彼らの農村地域での生活をより良くする可能性がある。農村における新しい可能性は、彼らの理解と収入と生活水準を押し上げる、新しい選択肢をもたらし、農村地域におけるこの社会的問題にどのように対処するかということに尽きる。
●マコーリー大臣(カナダ)
ビジャロボス大臣に完全に同意する。それぞれの国が違った問題を抱えている。我々は農村地域のブロードバンドに投資を行っている。インターネット通信が遮断された状態では農村地域に企業をひきつけることもできない。より若い世代の人々に農業への参加を呼び掛けており、それが我々の国で本当に実現されるように懸命に取り組んでいる。私の見解では、農村部の生活の質は良くなければならないが、農村部には都市部では見られない特性がある。農村地域が人々をひきつけ、維持するためには何か核となるものが必要である。それこそが我々の国でやろうとしていることであり、私は世界的な問題でもあると考える。
●パーデュー農務長官(米国)
米国でも農村部と都市部における格差の拡大が見られている。これは国家全体の課題であり、さまざまな面で社会的不安を引き起こす可能性があると考える。21世紀におけるブロードバンドの改良は、劇的な革命をもたらすツールの一つであると感じている。農家は非常に起業家精神にあふれ、創造性に満ちている。彼らが電子機器を通して世界市場にアクセスすることができれば、多くの仕事と多くの製品を生み出すことができる。農村部と都市部の格差を是正するためには我々が十分な投資を行い、公共および民間の地方自治体と連邦両方のパートナーシップを構築することが不可欠である。
エ 我々3カ国は、一般食品に欧州の名称を使用しており、EUは地理的表示(GI)の使用を制限したいと考えている。これに対しどう対応できるか。
●マコーリー大臣(カナダ)
地理的表示については、十分なコミュニケーションが行われずに進められており、問題である。このような問題は交渉担当者が議論すべきであり、疑問が解消されて初めて前に進むべきものである。地理的表示は厄介な問題である。
●パーデュー農務長官(米国)
一般的な食品名を商標登録したり特許を取得したりすべきではないと思う。欧州の進め方は人質を取って交渉を進めているようで、ただただ不快である。これまでずっと自由に使われてきた名称が使えなくなるということは許されることではない。