(1)家きんの生産地域
家きん肉の生産は南部、北部および東部の一部で盛んで、生産量の多い上位10州で全体の約9割を占めている(表2、図3)。特に、菜食主義者の割合が少ない南部で生産量が多くなる傾向がある。マハラシュトラ州や北部3州は、菜食主義者の割合は高いものの、マハラシュトラ州やウッタルプラデシュ州は1〜2億人の人口を有しており、さらに、北部には首都ニューデリーを擁するデリー連邦直轄地が隣接しているため、当該地に供給するための家きん肉を、近隣州で生産している。
なお、北部、西部は酪農が盛んであり、菜食主義者にとって貴重なたんぱく質源となる牛乳・水牛乳の生産が多い。このように、インドの畜産業は、宗教との関わりが深いことがうかがえる。
(2)ブロイラーの品種とひなの供給
ブロイラーの品種は、コッブ系、ロス系などが飼育されているが、後述するインドの大手養鶏・鶏肉企業のVenkateshwara Hatcheries Group(以下「VH社」という)によると、同社のVencob系が市場シェアの80%を占めているという。同社がコッブ系のGP(原種鶏)を輸入してPS(種鶏)を生産し、自社販売店、フランチャイズ店、販売代理店を通じて養鶏・鶏肉企業にPS世代のひなやコマーシャル世代のひなを販売している。養鶏・鶏肉企業は、購入したひなを契約農家に育てさせて家きん小売店などに販売するだけの企業から、種鶏場、食鳥処理場、加工場、飼料工場などの全部や一部を自社で所有している企業(以下これらを総称して「インテグレーター」という)までさまざまである。
(3)ブロイラー経営の形態
総局によると、ブロイラー生産量の8割程度は養鶏・鶏肉企業の生産であり、そのほとんどが肉用鶏農家への生産委託契約によるものであるとしている。今回の調査や各種資料から推察すると、契約農家の飼養羽数は1000羽程度の小規模なものから数百万羽の大規模なものまでさまざまである。
インテグレーターは直営ブロイラー農場を保有しているところもあるが(写真11)、契約農家からブロイラーを調達している割合の方が高い。実際に、VH社はブロイラー生産量の75%を契約農家から調達している。
養鶏・鶏肉企業は契約農家に対し、初生ひな、配合飼料、動物用医薬品、給餌器などの器具、技術指導の提供を行っている。肉用鶏農家が養鶏・鶏肉企業の契約農家になるためには、土地と鶏舎を保有し、養鶏・鶏肉企業の生産マニュアルを順守する必要がある。ハイデラバードを拠点に活動するインテグレーターのSneha Group(以下「SG社」という)は、契約農家になるための条件として、40アール以上の土地と最低でも1000羽を飼養できる鶏舎を保有していることを挙げている。多くの肉用鶏農家は買取価格が安定している養鶏・鶏肉企業の傘下に入りたいと考えているが、一般的に肉用鶏農家は資金力に乏しく、飼養羽数1000羽以下の小規模の農家が多いため契約農家になることは容易ではない。資金力のある農家は、養鶏関連団体や大学においてブロイラーの飼養管理などを学び、その後、土地や鶏舎を取得して経営を開始する。また、金融機関から融資を受けて鶏舎を建設する者も多く、担保に充当するものがない場合は、養鶏・鶏肉企業が保証人となることもある。
(4)VH社のブロイラー飼養に関する条件や基準など
ここでは、今回訪問したVH社が契約農家に求めるブロイラー飼養に関する条件および管理基準などを以下に紹介する。VH社は、1976年に設立したインド最大のインテグレーターで、飼料、種鶏、動物用医薬品、ブロイラー、SPF卵、鶏肉加工品などの生産、販売を手掛ける。VH社、SG社と業界大手のSuguna Foodの概要は表3の通り。
ア 養鶏場の立地および鶏舎設立の条件
・養鶏場を建設する場合は、他の養鶏場から最低1.6キロメートル以上の距離を置くこと。
・水資源が豊富な土地であること。
・当該地の気候条件に合った換気システムを導入すること。
・鶏舎間は、最低18メートル以上の距離を置くこと。
・鶏舎は、野生動物(野鳥、野獣)などの侵入を防止するため、側面を金網で囲い、鶏舎の土台はコンクリートを使用すること。
イ 鶏舎の消毒と清掃
・前回の鶏群管理で使用した給餌器などの器具、壁などにある汚れやクモの巣、鶏舎回りの排水路などの清掃を行うこと。
・4%炭酸ナトリウム(ソーダ)を用いて鶏舎内の洗浄と消臭を行うこと。
・消毒液、消石灰を散布すること。
・鶏舎内が空になったら最低1週間は乾燥させる。その期間は鶏舎内に人、物を入れないこと。
ウ 野生動物の鶏舎内への侵入防止
・野生動物のエサとなる害虫を呼び寄せないため、鶏舎回りの雑草やゴミの除去や清掃を行うこと。
・ネズミなどの齧歯類(げっしるい)の捕獲器を鶏舎回りに設置すること。
・技術指導員などが定期的に鶏舎内の見回りを行うこと。