(1)石川県における肉用牛飼養の動向
図1に石川県における肉用牛の飼養戸数および飼養頭数の推移を示す。飼養戸数は80〜90年代を通じて大幅に減少し、2000年代には100戸を超え横ばいで推移していたが、2013年度以降、100戸を下回っている。飼養頭数は近年3000頭弱で横ばい傾向にあり、1戸当たり平均飼養頭数は30頭前後で推移している。
(2)ブランド化の背景と定義
石川県は元来、和牛繁殖と稲作との複合経営による子牛産地であり、かねてより同県産和牛は県外実需者から「能登牛」の名称で親しまれてきた。こうした経緯の中、能登牛銘柄推進協議会(以下「協議会」という)が1995年11月に設立された。事務局は石川県農林水産部生産流通課が担当している。協議会は全国農業協同組合連合会石川県本部(以下「JA全農いしかわ」という)をはじめ県内の生産から販売・流通に至る12の関係団体で構成され、能登牛認定基準に基づき、当該ブランド牛の認定を行っている。
能登牛の認定基準は次の通りである。
(1)黒毛和種(血統が明確であるもの)
(2)石川県内が最終飼養地であり、かつ飼養期間が最長であること
(3)処理・解体場所は、石川県金沢食肉流通センターおよび県外の中央卸 売市場など
(注1)
(4)肉質等級はA3以上またはB3以上
能登牛は2007年に地域団体商標を取得している。また、肉脂肪中に含まれるオレイン酸の測定が開始された第9回全国和牛能力共進会(2009年に鳥取県で開催)で、特別賞「脂肪の質賞」を受賞している。おいしさに関係する指標の一つとして注目されるオレイン酸などを売りにしたブランド展開が図られている。
注1:共進会などで県外に牛を持ち出した際にも認定できるための規定であり、実質的にはほぼ全量が 金沢食肉流通センターで処理されている。
(3)「能登牛プレミアム」の創設と認定頭数の推移
「能登牛プレミアム認定制度」は2011年12月に創設された。これは協議会がA5等級と格付けされた能登牛の中でも、霜降り度合やおいしさの指標であるオレイン酸含有率が高く、特に肉質に優れているものを「能登牛プレミアム」として認定するものである。プレミアムという別規格を設けることで能登牛ブランドをより強く訴求することを目的としている。認定基準は、次の通りである。
(1)A5等級のうちBMS 10以上
(2)A5等級のうちBMS 8または9の場合はオレイン酸含有率55%以上
2017年度の認定頭数は283頭(能登牛全体の32.4%)であり、創設以来、その数は増えており、「能登牛プレミアム」の指定買いの動きも出てきている。
図2は、能登牛および能登牛プレミアムの認定頭数の推移を示したものである。2015年度には能登牛の価格が高騰し、一時的に客離れが起きたことがあった。同年、能登牛の認定基準を4等級以上から3等級以上に緩和することで、2016年度には大幅に認定頭数が増加している。2017年度の実績は874頭であり、2018年度は1000頭を超えている。現在、当該ブランド牛の流通は県内に限られるが、北陸新幹線開業に合わせ、同県食材がメディアで紹介されることで認知度は高まりつつある。
(4)生産と流通の実態
ア 能登牛1000頭生産体制整備事業
石川県では、2010年度より「能登牛1000頭生産体制整備事業」を実施している(表2)。これは2009年度当時の頭数規模を倍増させることを目的としたものであり、主に次の四つの対策からなる。
(1)増頭対策として、肥育牛1頭当たり5万4000円、繁殖雌牛1頭当たり10万円、畜舎整備支援として1 頭当たり9万円の補助を継続的に行っている。また、高齢化による家族経営の離脱への懸念もあり、2012年度以降、企業の誘致を行っており、後述の赤城畜産有限会社(群馬県)の関連会社(生産部門)である株式会社能登牧場やJA全農いしかわによる内浦放牧場跡地での能登牛生産がこれに該当する。また、単なる増頭だけでなく、地域における農家の規模拡大や法人化も展望している。
(2)担い手対策として、新規就農者の確保と技術習得に対する支援を行っている。最近では、新規就農も和牛繁殖部門などで数名出てきている。
(3)生産技術対策として、県畜産試験場ではオレイン酸含有率向上のための飼養管理技術の確立などを図っている。
(4)流通販売対策として、今後見込まれる能登牛の増産により首都圏での販売促進にも積極的に取り組んでいる。
イ 生産動向
同県では近年、肉用牛の肥育頭数は増えてきている。子牛の導入先はほぼ半数が県内となっており、そのうち半数程度は受精卵由来である。高齢化などにより繁殖農家が減少する中、乳用牛への受精卵移植による和子牛生産が繁殖基盤強化につながっている。能登町に立地する能登畜産センターでは、受精卵を年間900卵生産し、県内の酪農家に供給している。
能登牛の出荷頭数を維持・増加させるためには、県内での子牛生産は必須であり、同県では今後も受 精卵の供給を増加させたいと考えている。また、県内のCBS(キャトルブリーディングステーション)の整備も重要な検討課題となっている。
さらに、周年拘束性の強い畜産において、省力化や生産管理の効率化の面からもICT(情報通信技術)の普及は必要であると考えている。
ウ 流通の実態
図3は、能登牛の流通チャネルを示したものである。県内生産者から出荷された能登牛は、認定要件となっている金沢食肉流通センターでと畜・解体される。その後、全農いしかわ肉牛枝肉販売会で一元的に集荷され、県内の食肉卸業者などにより競り落とされ、能登牛認定店(2018年8月現在70店舗)
(注2)やその他店舗に流通する。
能登牛認定店の認定基準は、販売店は「能登牛を年間3頭以上取り扱っていること(部分肉の場合は1 頭300キログラムとして換算)」であり、飲食店は「常時、メインメニューで能登牛を提供しているこ と。能登牛をおおむね年間100キログラム以上購入していること」である。2018年4月より、加賀温泉や和倉温泉などの宿泊施設にも認定店制度を設けている。
能登牛の認定店に対して、協議会は認定料として2万円、運営費・更新料として年間6000円(月500円)の手数料を徴収している。更新の際には能登牛の幟(のぼり)やリーフレットなどを配布している。ちなみに、「能登牛プレミアム」だけに特筆したリーフレットの配布については今後の課題でもある。能登牛認定店は毎年増加し、ほぼ県内全域に立地している(写真1)。協議会としては、今後も能登牛認定店を増やしたい意向である。
注2:能登牛認定店とは、2011年12月から能登牛の生産振興や消費の拡大、ブランド力の向上を図るため、協議会が開始した能登牛認定店制度により認定された販売店および飲食店である。