前述の通り、旭養鶏舎の従業員は半数以上を女性が占めており、この体制は創業以来変わらない。その背景には、地域内に男性が留まらず、都心部へ働きに出てしまうという実情もあるそうだ。そのため、自然と女性に配慮した職場環境づくりが図られ、その能力が発揮されてきた。以下では、特に女性の能力が活用されている部署とその業務内容を述べるとともに、その成果を紹介する。
(1)業務体制
旭養鶏舎の業務は、図の通り、8部門により運営されている。
配属された部門は専属で担当することとなり、基本的に部門間の異動はない。ただし、産前産後休業などの職員については、身体への負担が少ない事務作業が中心となる総務部への異動に加え、半日勤務といった労働時間の短縮など、従業員の要望に応じた配慮がなされている。
ア 鶏卵・加工販売部
主に自社製品の営業、配送業務を担当している。1週間のうち1日は社内で事務作業を行うが、4日は取引先のもとへ営業に出向いている。従来は男性職員のみで構成されていたが、営業活動の幅を広げるために女性職員2名を配属した。その結果、消費者に対する意識や顧客に対する気配りが、主に県外の新規顧客の獲得につながったという。また、女性職員のアイデアにより、創業以来初めてとなるスーパーマーケットでの試食販売を実施するなどした。これらの取り組みは売り上げの向上に貢献しているという。
また、商品開発の一環として、県外出張などの際は他社の卵製品を購入し、社内で研究・議論する。デザートなどに詳しい女性職員のアイデアが商品開発に生かされ、これらの取り組みが創造性の向上につながっているという。
イ 鶏卵・製造加工部
GPセンターにおいて、卵の選別、割卵作業、パック詰めから配送業務を担当している。従来から女性職員が多く配属されており、運搬や配送といった力仕事以外は全て女性が担当している。細い注意力により、機械で除去しきれなかった破卵や汚卵に加え、卵の表面の触感、卵形のゆがみ、小さな染みなど、見落としがちな細かな異変に気付くことができている。さらに、パッキング時も、ラベルのズレなどを見つけ機敏に対応できることで、自社製品の品質向上に大きく貢献している。消費者の方からは「旭養鶏舎の卵は非常にきれい」という声が寄せられることも多く、信頼関係の構築にもつながっている。
GPセンターの生産量は、平成元年に設立した当時に比べ4.5倍まで増加しているため、作業導線を見直した上で、今後再建する予定である。その際はHACCPやJGAPなどの認証取得も検討している。
ウ 育雛管理部
種鶏場から導入したひよこを42日齢まで育成する業務を担当している。従来から女性が専属的に配属されている。最も繊細な生育時期を任せるに当たり、鋭い観察力により、ひよこの顔や声により健康面の異変に気付けることで順調な生育が促され、生産性の向上につながっている。
現在の担当者は、肉用牛経営の経験者であり、動物に携わる仕事を希望して旭養鶏舎に就職したという。本業務は、採卵鶏飼養の根幹を担うことに加え、全部門の中で最も専門性が高いことから、後継者育成にも力を入れている。
エ 鶏卵加工部
加工・直売所での加工製品の製造および販売を担当している。普段から食料品を買う機会の多い女性職員目線で企画・立案された自社製品は、地域内外から好評を得ている。また、売り場は非常にきれいで、購買意欲が沸く陳列、ポップ広告が飾られていた(写真5〜6)。
当部署は、別会社としての設立も検討されていたが、縦割りの組織体系を避け、まとまりのある組織づくりを念頭に新部署設立という形になったという。そのため、繁忙期となるお中元やお歳暮のシーズンには、全部門の職員が総出でフォローに当たる。
今後、さらなる新製品の開発・販売により、売り上げの向上を図りたいとのことだ。
(2)働きやすい職場環境づくり
ア 提案会の実施
経営の多角化、従業員のモチベーションの向上を図るため、従業員の意見やアイデアが経営に生かされる仕組みとして提案会を実施している。従業員からどんなことでも提案してもらい、毎週月曜日の朝礼時に採用の可否について、その理由を含め発表される。採用された場合は、提案した従業員に金一封が送られる。採用されなかった場合でも、提案者が自らの提案の実施を強く希望する場合は、採用することもあるという。提案のほとんどは女性職員のものであり、会社としては今後も積極的に提案を採用していきたいとのことだ。
【これまでの採用事例】
・ 外見が汚ければ社内の全てが不衛生であるという印象を与えることから、社内で利用するタオルは使 用後1カ月で全て交換
・ 注意事項などを周知する際は「言葉のニュアンスを軟らかい表現にした方が浸透する」という観点か ら、「○○すること」から「○○しましょう」に統一・・・など
イ 福利厚生などの充実
旭養鶏舎の勤務時間は、原則8〜17時で、完全週休二日制となっている。ただし、従業員からの要望により、時短勤務といった労働時間の調整に対応している。また、社会保険などへの加入、退職金の積み立てなどに加え、従業員の誕生日には花束を贈呈するなどきめ細かく対応している。さらに、自治体や関係団体が実施する研修へ従業員を積極的に参加させるなど、養鶏に関して勉強できる機会を設けている。
ウ 今後の展開
今後も、女性に配慮した更衣室や休憩室、シャワールームなどを設置するとともに、新しいユニフォームにも機能性やデザインの要望を反映させ、一層働きやすい職場環境を整備することで、労働力の確保を図りたいという。また、風通しのよい職場環境には、職員間のコミュニケーションも重要であることから、「おはようございます」「お先に失礼します」といったあいさつは徹底するよう指導して いるとのことだ。
しかしながら、地域の過疎化が進む中で、このような雇用体系の構築や職場環境づくりをしても労働 力の確保には苦慮しており、今後は機械化を進めることで効率化を図りたいとのことだ。