(1)農業生産など
徳之島は、鹿児島県本土から南西約450キロメートルに位置する奄美群島の一つであり、徳之島町、天城町、伊仙町の3町からなる(図2)。気候は亜熱帯海洋性気候に属しており、年間平均気温は21度前後と鹿児島市より3度高い。年間降水量は約2000ミリメートルと多く、温暖多雨な気候条件を生かした農業を主幹産業としている。島の中央を走る、井之川岳を主峰とする山脈の裾野に平野が広がっており、耕地面積は6880ヘクタールと群島中で最大である。
徳之島における農業の役割に目を向けると、島民の約6割が第三次産業に従事しているが、農業を含む第一次産業の従事者も3割弱と多くの割合を占めており、農業が島民の生活を支えていることがうかがえる(図3)。
平成28年度の農業産出額は148億6436万円である。この内訳を見ると、肉用牛が50億2543万円で最も大きく、次いでサトウキビが49億7748万円、野菜が43億5065万円となっており、これらが農業産出額全体の9割以上を占めている。なお、野菜の産出額のうち約9割は、平成24年5月に、「かごしまブランド産地」に指定されたばれいしょが占めており、サトウキビを基幹作物としつつ、肉用牛(繁殖)や、ばれいしょなどを組み合わせた複合経営が営まれている(表1)。
このように、畜産以外の耕種部門を持つことは、副産物として生じる堆肥を有効に活用できることに加え、収入源を複数とすることで経営のリスクを分散する効果も期待できる。肉用子牛価格が大きく変動する可能性がある中で、台風常襲地帯である奄美群島においては、取引価格がほぼ一定で、倒伏などにも強いサトウキビは、一定の収入を確保する上で、特に重要な複合作目であるといえる。
また、徳之島では粗飼料は自給飼料を用いることが一般的となっている。他の島
嶼同様、飼料や敷料などの資材の購入費用に輸送コストが上乗せされることはデメリットではあるものの、温暖な気候を生かし、粗飼料の全量を自給飼料で賄う農家も多い。
このほかに、徳之島は古くから続く闘牛文化でも知られている。島内には、闘牛のモニュメント(写真1)や闘牛場が見られ、夕方には散歩する闘牛に出会うことも珍しいことではない。
島内では、「全島大会」と呼ばれる本場所が年3回開催されるほか、個人が主催する大会なども含め、年間に大小20回程度の大会が開催されている。徳之島の闘牛における最高タイトルは、「全島一横綱」と呼ばれ、牛主にとって、自らの愛牛がそのタイトルを獲得することはこの上ない名誉となっている(写真2)。
(2)肉用牛生産
平成30年2月1日現在の繁殖雌牛飼養戸数は954戸、飼養頭数は9180頭となっている。一戸当たりの繁殖雌牛飼養頭数は9.6頭と、全国平均の14.6頭を下回っており、小規模な経営が多いことが特徴である。これは、徳之島において、一部の大規模な畜産専業農家を除けば、耕種部門との複合経営が一般的となっていることが影響しているものと思われる。繁殖雌牛飼養頭数の推移を見ると、26年までの間、減少傾向で推移したものの、27年以降は増加に転じている。一方、飼養戸数については、高齢化の進行などにより減少傾向で推移している(図4)。また、島内にはおよそ900頭ほどの闘牛およびその繁殖雌牛が存在しているとみられ、近年では、そうした雌牛に黒毛和種の優良受精卵を移殖し、新たに黒毛和種繁殖を開始する生産者もいるという。
徳之島の家畜市場は1カ所(徳之島中央家畜市場)で、島内の子牛生産者のほとんどが、同市場に子牛を出荷している(写真3)。同市場は、もともと天城町と徳之島町の2カ所に設置されていた家畜市場を統合する形で、23年5月に開設されたものである。新たな市場の開設により、それまで隔月の開催であった市場が毎月の開催となっている。このことは、島内の生産者にとっては、子牛の販売収入が毎月得られることに加え、子牛の出荷時期が調整しやすいといった点で、経営上の大きなメリットとなっているものと考えられる。
平成30年度の全国の家畜市場における肉用子牛(黒毛和種、雌雄計)の取引頭数31万708頭のうち、鹿児島県の取引頭数は6万2146頭であり、都道府県別では全国1位を誇っている。県内では
曽於、
肝属地域の取引頭数が最も多く、両地域で2万5225頭と県全体の約4割を占めている。次いで取引頭数が多いのが徳之島中央家畜市場であり、同市場での取引頭数は県全体の約1割に当たる6155頭におよび、肉用子牛の供給地点として重要な役割を担っている。
全国の家畜市場における肉用子牛の取引頭数は、鹿児島県を含め減少傾向にある中、同市場における肉用子牛の取引頭数についても25年度の6443頭から、27年度には5909頭まで減少したものの、28年度以降は3年連続で増加傾向を維持している(表2)。
30年度に同市場において取引された肉用子牛の平均日齢は262日齢であり、全国平均の278日齢と比較して早期に出荷される傾向がある。このことにより、上場する子牛の体重もやや軽い傾向にあるが、1頭当たりの取引価格は、77万741円と、全国平均の76万6505円とほぼ同等である(表3)。
なお、同市場に子牛を買い付けに訪れる購買者は毎月ほぼ固定であり、その構成割合は、約8割が県内から、残り2割が県外からとなっているが、そのうちの大半が九州管内からの買い付けである。
(3)繁殖経営が抱える課題と解決に向けた取り組み
牛を飼養する際には、一般的におが粉やもみ殻などの資材を敷料として用いるが、島内には木材加工工場がほとんどなく、稲作も行われていないことから、それらの資材を確保しにくい。敷料が十分でない牛舎では、牛が足を滑らせ転倒するなどの事故が発生する可能性もあり、敷料の安定的な確保と事故率の低減が島内の繁殖経営にとって大きな課題となっている。これに対し天城町では、周辺の山野から調達した木材を原料として敷料を生産するための施設を整備し、同施設で生産された敷料を購入した生産者に対し、その購入費用を助成したり、分娩監視カメラの導入費用を助成するといった取り組みを行っている。
このほか、堆肥センターでは、家畜のふん尿と、製糖工場から生じるバガスを原料とした敷料を交換するといった取り組みも行われている。さらに、サトウキビの精脱葉の過程で発生するハカマを敷料として利用するなどといった取り組みも行われている。しかし、これらは入手できる時期が限られており、周年供給が難しい上、バガスは製糖工場においても燃料として使用されることから、今後さらなる安定調達に向けて取り組んでいくことが望まれる。
また、一般的には繁殖雌牛の供用回数は6〜7産といわれている中で、徳之島では10産以上供用されることも多い。繁殖雌牛の更新の遅れは、分娩間隔の長期化などにもつながり、収益性を低下させる要因となる恐れがある。しかし現在、子牛価格の高騰により、後継牛の導入にも多額のコストが必要となるため、特に小規模な生産者にとっては、適期の更新が難しいという実情がある。そこで、町によっては、繁殖雌牛の導入や自家保留に対して奨励金を交付している。小規模な生産者が多い徳之島においては、そうした生産者に更新を促すことで今後のさらなる頭数増に期待が持てる。
このほかにも、町、農協、家畜共済組合、家畜保健衛生所、家畜人工授精師、肉用牛振興会などが一体となり、毎月1回、マニュアルに基づく生産者の指導を行っており飼養管理技術の向上を図っている。