本章では、「ウルグアイではどのような牛肉生産を行っているのか」「ウルグアイからどのような牛肉が日本に入ってくるのか」と いう観点から、現地の農場を取材した結果を報告する。
(1)Natural Beefとは
ウルグアイで生産される牛肉の多くは「Natural Beef」と形容され、輸出時もプロモーションワードとして使用されている(写真2)。これについて、INACに定義を確認したところ、「①畜産副産物未使用②成長ホルモン未使用③『自然』に近い形で飼養している牧草肥育」であるとの回答であった。①および②については、主要輸出先国であったEU向けに対応するため、1980年代までに、畜産副産物、成長ホルモンおよび増体目的の飼料添加物の使用を法律で禁止したことから、この点を同国産牛肉の強みとしてアピールしている。また、③については、出荷頭数のうち、牧草肥育の割合が85%、穀物肥育
(注1)の割合が15%とされており、「自然に近い形で飼養された赤身肉」というのがセールスポイントとなっている。なお、穀物肥育牛についても、近年需要の高まりがみられており、従来から高級牛肉無税枠(QUOTA481)を持つEUや、米国、最近では中国からも需要があるという。
品質については、ウルグアイナチュラルミート認定プログラム(PCNCU)
(注2)を始め、国内外のいくつかの認証制度によって保証されているが、多くのパッカーでは、「ウルグアイ産牛肉というだけで、豊かな自然環境の中で育っているという背景から、一定の品質は保証されているので、仮に認証を取得しても、それが付加価値につながることは少ない」と語っており、実際に浸透している認証は少ない。その中でも、より多くのパッカーに採用されているのが、USDAの認証である「NEVER EVER 3」である(写真3)。この認証は、上記の法律を順守しているのは当然のこと、抗生物質の使用も禁止しており、もし抗生物質を使用した場合は、使用していない牛群と分けて管理しなければならないなど、法律の規定に上乗せした要件が付される。 しかし、この点が、Natural志向を持つEUなどの市場では付加価値と評価されている。
注1 : フィードロット由来または仕上げ期に穀物を給与されていること
注2 : 詳細は畜産の情報:海外編2007年3月号「ウルグアイの牛肉産業の概要(輸出市場獲得に向けた取り組みを中心に)」を参照されたい。
(2)トレーサビリティシステム
トレーサビリティ法(法律第17997号2006年7月12日制定)の下、全ての牛を対象としたトレーサビリティが整備されている。この制度では、政府が無料で配布する個体番号が記録された耳標とICタグにより、出生時期、と畜までの移動履歴、所有者の変更などの情報を把握することが可能となる。パッカー搬入後は、INACの食肉産業情報電子システム(SEIIC)の下で、通称「ブラックボックス」と呼ばれるデータ登録システムを通じて枝肉重量などの情報がINACにリアルタイムで送信される仕組みとなっており、輸出される部分肉から個体までのトレースバックも可能となっている。これらは、州を超える移動のみに義務がある米国や、トレースの範囲が生産農場からと畜場までとなっており、部分肉はロット管理となっている豪州と比較すると、輸出国の中でも先駆的な制度と して確立されているといえよう。INACも対輸出プロ−モーションにおいても、「Natural Beef」と併せて、ウルグアイ産牛肉の大きな強みとして、積極的にアピールしている。
(3)事例紹介〜ウルグアイではどのよ うな牛肉が生産されているのか〜
本調査では、首都モンテビデオ周辺の3農場を取材した。なお、主要生産県等については、畜産の情報2017年3月号「ウルグアイの牛肉生産の現状と輸出市場での潜在力」参考1および表4を参照されたい。
ア Santisima Trinidad農場
同農場では、肉用牛の繁殖から育成・肥育までを行っている。2011年に、CREAのメンバーである現在のオーナーが購入し、肉用牛を956頭飼養し、一部羊も飼養している。 農場の面積は984ヘクタールで、そのうち草地が870ヘクタール(牛用670ヘクタール、羊用200ヘクタール)、耕地(トウモロコシなどの穀物)114ヘクタールとなっている。草地は、自然草地が7割で、改良草地が3割となっている。改良草地は、自然草地の上にライグラスやクローバーなどを播種するパターンと、自然草地を全て除草した後に播種するパターンの2通りあるという。穀物については、現金獲得のための外部販売用であるが、今年のような豊作のときは冬期の補助飼料とすることがあるという。
同農場では、CREAの繁殖成績改善プログラムを実施した結果、受胎率は、2016年の76%から2018年は97%と飛躍的に向上した。これについて担当者は、「早期離乳を実施したことで、母牛の消耗を最低限に抑えることができた」と語った。品種は、アンガスとヘレフォードの交雑種となっている(写真4)。その理由として、同者は、「アンガス種の血統を強くしたい気持ちはあるが、一方でヘレフォードの方が増体が良く、また個人的 な主観だが、交雑種の方が純粋種より受胎率が良いと考えている」と話した。
出荷先は、肥育牛としてのパッカー向けが6割、肥育もと牛としてのフィードロット向けが4割となっている。パッカーへは、生体重約500キログラムで出荷している。価格交渉は、出荷が近づいた頃に、荷受業者を通 してパッカーへ牛群の提案を行うという。パッカーによって、プレミアムを付ける基準(基準重量、重量ごとの価格の上昇率など)が異なるため、牛群の平均重量や体格から判断し、荷受業者にパッカー選定を任せるのではなく、自ら提案を行っている。また、近年はフィードロットへの出荷も増えているという。フィードロットへは、同約360キログラムで出荷しており、ほとんどがQUOTA481の枠を利用して、EUへ輸出される。
両者への出荷価格(去勢牛)の違いを比較すると、
・パッカー:生体1キログラム当たり1.75ドル(193円)=生体1頭(約500キログラム)当たり875ドル(9万6250円)
・フィードロット:生体1キログラム当たり2ドル(220円)=生体1頭(約360キログラム)当たり720ドル(7万9200円)
となる。両者の差は155ドル(1万7050円)だが、360キログラムから500キログラムまで肥育する場合半年間かかることから、コストを考えると、フィードロットへ出荷した方が利益を得ることができるという。そのため、今後もフィードロットへの出荷割合が高まっていくと見込んでいる。
イ Los Taras農場
同農場は、繁殖部門に特化し、約3年前から、草地管理に力を入れ、2018年からは週に1回、外部の専門家の指導を仰いでいる。牧区を細分化し、自然草地と改良草地でそれぞれ回復期間を判断、適正な牧区運用に努めたところ、2018年は、1ヘクタール当たりの年間増体重
(注)が、2016年の144キログラムから162キログラムまで増加し、受胎率も85%と、国内平均を上回った。また、草地が改善したことで、冬期の補助飼料の使用量を抑えることができ、生産コスト減につながった。
品種は、アンガス種とヘレフォード種の交雑種が主体だが、年々アンガス種の血統が強 くなっている(写真5)。これについて、農場主によれば、近年アンガス種の引き合いが強まっており、フィードロットへ販売する際に、ロット全体が真っ黒である(=アンガス種の血統が強い)と、取引価格が上昇するとのことであり、このため本農場ではアンガス種の血統を強くし、現在フィードロットへ全頭出荷している。また、2018年は国内出荷価格より5〜10%高くトルコ向けに生体牛輸出を行ったという。
(注)年間の増体重=(出荷時体重−導入時体重)÷(出荷月齢−導入月齢)×12
1ヘクタール当たりの年間増体重=年間の増体重÷土地面積
ウ Don Horacio農場
同農場は肥育専業であり、去勢牛(アンガス種の純粋種9割、ヘレフォード種との交雑種1割)を300頭肥育している。牛は、同じ経営者が所有している繁殖農場(Cerrolargo農場)と育成農場(Tacuarembo農場)から導入している。草地の割合は、自然草地1対改良草地1で、改良草地はライグラス、クローバー、ロータスなどを使用している。繁殖農場における繁殖成績は、生産コストとの兼ね合いから、必ずしも一番上を目指す必要はないと考えており、人工授精は未経産牛の約7割のみに使用し、その他は自然交配を行っている。また、受胎率は平均80%程度だが、生産マネージャーは「これ以上受胎率を上げるためには、早期離乳などにも取り組まなければいけないが、それを行うことによる収益的なメリットは薄い」とし、現状を維持していくことが最善だと語った。
アンガス種の純粋種が中心となっているのは、出荷先の契約パッカーがアンガス種を多 く求めていることに加え、導入元の農場はあまり草地の質が良くないので、ヘレフォード種よりサイズが小さいアンガス種の方が、受胎率が高いことによる。また、除草剤や化学肥料を使わず、補助飼料に非遺伝子組み換えの穀物を使用するなど、できるだけ有機に近い生産を行うことで、契約パッカーからプレミアムを得ることに成功しているという。なお、有機に近い生産を行った牛肉は、主に米国に輸出される。
(4)フィードロット
現在、ウルグアイ産牛肉の約15%が穀物肥育であるといわれている。飼料となるのは、ソルガム、トウモロコシ、大豆、小麦などで、特にソルガムについては、輪作体系において土壌改良の効果を持ち、生産コストもトウモロコシより圧倒的に低いことから、ウルグアイでは広く利用されている。飼料穀物は、国内産では不足するため、3割程度がアルゼンチンなどからの輸入となっている。価格に関しては、穀物の種類が多いことから一概には言えないが、国産の方が約1割程度輸入より安いとされている。そのため、多くのフィー ドロット農家は、近隣の農家から口約束で穀物を入手する一方、大規模農場であれば、自ら生産する農場も少なくない。
ウルグアイにおけるフィードロットの特徴として、大規模農場が少ない点が挙げられる(図12)。飼養頭数が5000頭以上の農場は全体の5%にとどまり、小規模の牧草肥育農場が穀物肥育に移行したというパターンが多 い。
穀物肥育牛肉の今後の見通しについて、フィードロット協会(AUPCIN)は、①輸出先は現在EUのQUOTA481に限定されており、価格変動リスクが牧草肥育牛肉より小さいこと②中国の富裕層向けの引き合いが強まっていること─などから、生産量は増加傾向で推移するとしつつ、土地の制約から規模拡大が難しいため、小規模の牧草肥育農家が仕上げ期に穀物を給与する程度であることから、急激かつ大幅な増加は考えにくいとしている。