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話題 畜産の情報 2019年10月号

最近の消費者による食肉の潜在需要について

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和歌山大学食農総合研究所 特任講師 だい 容秦思ようしんし 

1 食肉の主な需要は家庭内にある

 食肉の消費市場における主たる需要は家庭内需要であり、全体の6割程度を占めていると推定される。家庭内需要はまた、「内食」といった家庭内で調理を行うための精肉の需要と、「中食」といった加工調理品や総菜の需要から成っている。特に近年の動きとしては、外食産業の市場規模の縮小と消費者による食肉の外食の喫食頻度の減少により、食肉の家庭内需要のウエイトが増していることが示唆されている。
 一般社団法人日本フードサービス協会および公益財団法人食の安全・安心財団の推計では、外食産業の市場規模は29兆1000億円で1997年に頭打ちとなり、2018年には約25兆4000億円で1990年(約25兆7000億円)の水準まで縮小した。一方、総務省「家計調査年報」によると、2000年以降食料に対する家計支出のうち外食の割合が減少傾向であるのに対し、肉類と調理食品への支出割合が増加している。また、公益財団法人日本食肉消費総合センターの「食肉に関する意識調査」(2015年10月)においても、食肉全般の内食・中食傾向が顕著で、特に豚肉と鶏肉の内食・中食の喫食頻度が高いと指摘している。また、過去3年間のデータと比較すると、牛肉の内食、中食の喫食頻度が年々高まってきており、特に内食では大きな増加がみられている。
 このように、変化する食肉市場の先を見通すためには、消費者による食肉需要の現状把握が重要になってきている。また、食肉の家庭内需要の実態把握は、国産食肉の需要喚起にとっても重要な手掛かりになるものと思料される。従って、消費者による食肉の家庭内需要の特徴について、筆者が2017年1月に全国における1250名の家庭料理担当者を対象に実施したアンケート調査結果からいくつかの発見を中心に紹介してみたい(注1)

2 精肉と食肉加工品・肉総菜の消費が促進し合う関係

 まずは家庭内需要の主な構成部分として、家庭内で調理する必要のある精肉といった「内食」と、ハム・ソーセージなどの食肉加工品や肉総菜などの調理済品といった「中食」が挙げられる。両者の関係について、精肉の購入頻度と食肉加工品・肉総菜の購入頻度との間の相関分析を行った。その結果、正の相関関係で1%水準での有意が認められた(相関係数は0.314)。「中食」の利用頻度が増加した分、「内食」を使う頻度が減少すると予想していたが、この解析結果からすると、両者は矛盾しておらず、むしろ「促進しあう」関係にあることが分かった。つまり、食肉加工品・肉総菜をよく購入する消費者は、精肉の購入頻度もやや高いという調査結果となった。この点に関して、筆者が食品スーパーで行った店頭調査でも同じような結果が出ている。食品小売店の場合、精肉と肉総菜の共同陳列や両者の売り場を近づけるなどが販売促進に効果的ではないかと推察する。

3 精肉の2大選択要因:精肉の用途と調理の手間

 消費者による精肉の購入選択の潜在的要因を探るために、牛肉、豚肉、鶏肉それぞれの市販の代表的な精肉形態(ミンチ、切り落とし、コマ切れ、ブロック、ハンバーグに成形されたもの、味・衣付けられたものなど)計38種について、「よく買う」「買う」「あまり買わない」「買わない」「知らない」の5段階で質問して得た回答を、さらに因子分析を行った。その結果、 消費者が精肉商品を選択する際に主に四つの因子に規定され、この四つの因子もまた二つの要素で解釈することができる(表1)。一つは調理労働の程度、つまり料理をする時にどれぐらいの手間がかかるのか、もう一つは用途の範囲、つまり料理をする時の食材としての汎用性はどれぐらいあるのか―である。
 

 ただし、「手間」と「用途」についての判断は、料理担当者の調理経験などに基づくもので人によって異なる。そこで、年齢によって「手間」「用途」に対する判断はどのような傾向があるのかを明らかにするため、回答者年齢と精肉形態の購入状況の相関関係を調べた。その結果、低い 年齢層ほど、カットや調味などの作業の省略といった調理の手軽さを求め、用途や料理のイメージができやすい形態を購入する傾向にある。高い年齢層の場合は、ブロックや厚切りなどのような品質の分かりやすく、かつ自ら好きな形にカットできるといった調理の汎用性のある形態を購入する傾向にあることが分かった。

4 畜種別・部位別の需要特徴

 畜種・部位に対して異なる消費者層の購買行動の特徴とその要因を探るために、畜種別・部位別について「よく買う」「買う」「あまり買わない」「買わない」「知らない」の5段階で質問 して得た回答を、クラスタ分析とクロス分析の方法を使って解析した。まず、クラスタ分析の結果として、回答者を三つのグループに分けることができる(図1)。
 

 第1グループは165人と最も人数の少ない層で、いずれの畜種の購買頻度もやや高く、購入部位についても大きな偏りがいない層である。第2グループは561人と最も人数の多い層で、特徴としては豚肉と鶏肉の購入頻度に二極化がみられ、買う部位と買わない部位が明確である。第3グループは524人で第2グループの次に多い。このグループは、食肉全般の購買頻度・部位に対する認知度が低く、牛肉をほぼ購入せず、豚肉と鶏肉も特定の2〜3部位しか買わない。
 この三つのグループの消費者像についてクロス分析した結果(表2)、第1グループは、他のグループに比べ若い世代の割合が高く、経済的余裕のある方もやや多いことから、消費行動がまだ定着しておらず、食肉の購買について模索的な層である。第2グループは、年齢層の高い方が多く、世帯年収も特に大きな偏りがないことから食肉の購買行動が定着している層である。第3グループは、年齢層に大きな特徴がみられなかったが、全体的に世帯年収が低い傾向であることから、食肉の購買に節約志向が強い層である。
 

5 おわりに

 アンケート調査による家庭内需要の把握を通じて、精肉の購売要因から消費者の購売行動の特徴を明らかにし、その傾向について紹介した。精肉に関する消費者の購買行動は全体的に経済的要因が強く、特に牛肉の需要は豚・鶏よりも価格の変化に敏感である。ターゲットと訴求ポイントを明確にした上で、それにマッチした国産食肉、とりわけ牛肉商品の開発と販売促進の工夫が求められる。これからは、購買行動が定着している消費者層への安定的・継続的な売れ筋商品の提供、消費行動未定着の若い層の日常的需要を喚起するための手頃でかつストーリー性のある商品創出と販売促進が必要になってくるであろう。また、国産食肉を使用した総菜・ 調理品開発の促進、精肉と総菜の「促進し合う」 関係を利用した販売手法の工夫も重要であると考える。なお、今後の研究課題として、地域別の食文化・食習慣による影響についての検証も必要であると考える。

注1: 当調査は、日本食肉流通センター平成27年度食肉流通関係委 託調査研究の一部である。
  2: グラフでは、三つのグループの点の分布が一定の傾向を直観的に示している。いずれの畜種も、第1グループの点がやや下の位置にある程度集中している。豚と鶏は、いくつかの点の集中傾向があり、買う部位とあまり買わない部位が明確である。第3グループは第2グループの分布幅より小さいが、いずれの部位も購入頻度がより低い水準にあることが分かる。 表では、例えば第1グループの場合、いずれの畜種の購入頻度が大体2〜3の範囲内であることから、同頻度はやや高いと言える。また括弧内の数値をみると、いずれも「<1」で、同頻度が集中していることを示している。同様に他のグループの数値を解読すると、各グループの傾向が分かる。



(プロフィール)
1986年 中国・雲南省昆明市生まれ
2008年 中国・天津理工大学生物工学学科卒業
2014年 広島大学大学院生物圏科学研究科
      生物資源科学専攻 博士(農学)取得
2016年 広島大学教育室特任助教
2018年 和歌山大学食農総合研究所特任講師
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