(1)活動のコンセプト
霜降りの芸術的な美しさ、独特な和牛香、柔らかい食感等の日本産和牛の魅力、試食を通して、これらをそれぞれ独自の食文化を持つ外国人の感性に訴えていくことが第一歩である。
百年以上の歴史を誇る和牛の血統登録制度、法律に基づくトレーサビリティ制度、唯一の機関による食肉格付制度といった日本産和牛の信頼を支える取り組みが外国産WAGYUとの差別化の決定打であり、これらの情報提供をより強化していく必要がある。
さらに和牛の魅力を最大限引き出し、堪能するためのカッティング技術や日本食文化に裏打ちされた繊細なメニューの紹介等もプロモーション活動には欠かせない。
(2)実践
これを実践する場として、協議会は海外の名立たる国際食品見本市においてPRブースを設置し、米国や豪州等の一大牛肉産地と肩を並べ出展しているが、われわれのブースは試食を開始するや人だかりとなる。また、新たに輸出解禁された市場では、輸出業者の動向も見つつ、独自開催あるいは独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)と連携したお披露目を行っている。こうした場では農林水産大臣や政務官によるトップセールスで場を盛り上げていただくこともある(表)。
また、カッティング技術の研修や生産から加工・販売までの現場視察、関係者との意見交換等を目的とした、協議会会員による牛肉取扱事業者の招へい・専門家の派遣への支援も実施している。
(3)成果
協議会会員の精力的なビジネス展開と協議会活動の成果として、日本産牛肉の輸出実績は順調に拡大し、2018年は247億円と目標達成目前となっている(図2)。国・地域別輸出実績をみると、香港、台湾、シンガポール、タイといったアジア市場向けが大半を占めてはいるものの、EU、米国といった欧米市場向けも着実に実績を伸ばしている(図3)。また、1キログラム当たりの単価(FOB)ではハラール市場が上位3位を占めている。
(4)課題
着実に輸出実績を積み上げてきた一方、さまざまな課題も浮上している。台湾・香港・シン ガポールなどのアジア市場ではそもそも日本の食品への信頼と理解は深いものの、日本産和牛の人気にあやかろうと和牛統一マークの不正使用や類似マークがみられている(図4)。
また、欧米、ロシア、中東などの高級牛肉市場では、外国産WAGYUがすでにその市場を開拓していたため、神戸ビーフは知られているが、日本産和牛の認知度はまだ低い。食品展示やセミナーでわれわれが展示している牛肉でさえ本物かと問われることもある。欧州ではテロ ワール
(注)の意識が高く、ミシュラン星付きのシェフからはトレーサビリティと品質について正確かつ詳細な情報を求める声が多く聞かれる。
注:食品の持つ生産地特有の性格・特徴
(5)情報提供の新たな取り組み
以上の課題に対処するべく、今年の6月から 牛の個体識別番号を確認できるQRコードと和牛統一マークを一体化したシールを作成し、スマートフォンでQRコードをスキャンすること により、その場で個体識別、登録、格付等の品質情報を提供するシステムの運用をモデル事業 として開始した(図5)。このシステムには日本側供給業者から提供された独自情報も見ることができる機能も付加されている。オールジャ パンの統一マークの下で、各社の独自性もアピールできる、より進化したマーケティングツールを目指すものである。
モデル事業段階では、店頭での表示例を紹介しつつ(図6)、仕向け国・地域に応じた多言語化(現在は英語のみ)やユーザーの情報提供をより自由な形でできる方法を工夫するなど、ユーザーの意見も取り入れ、必要な改修を施し、来年度の本格運用に備えていくこととしている。
国別輸出戦略で今最も注目されているのは中国の牛肉輸入解禁の動きである。約13億人の人口を抱え世界第二の経済大国に上り詰めた今、この市場ポテンシャルは計り知れない。これまで政府は粘り強く中国政府と協議を続けてきているが、日本側のみならず中国の業界関係者の間でもその期待度が高まりつつある。さまざまな状況を想定し心しておく必要があろう。