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調査・報告(学術調査) 畜産の情報 2019年11月号

食料自給率の向上および持続的社会の構築に向けた国産飼料米による国産鶏肉生産の検討

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国立大学法人神戸大学大学院 農学研究科 准教授 本田 和久

【要約】

 国産鶏肉の90%以上は輸入種鶏を用いて生産された若どり(ブロイラー)であり、給与される飼料にも輸入トウモロコシが高い割合で含まれている。本研究では、国内産飼料による差別化を図り、トウモロコシを含まない玄米主体飼料の給与が、ブロイラーおよび国産鶏種(はりま・ひょうご味どり)の鶏肉の肉質などに及ぼす影響について調べた。玄米主体飼料の給与は、ブロイラーの体重および産肉量を減少させるが、国産鶏種の体重、むね肉およびもも肉重量には影響せず、ブロイラーのもも肉の香り全体の強さと脂っこさを弱めること、およびはりまのもも肉の鶏肉らしい香りを強めることが示唆された。これらの結果から、国産鶏種は玄米主体飼料に対する適性が高いことが示唆された。

1 はじめに

 世界人口の恒常的増加や新興国の経済発展から、世界的な農作物の価格高騰は今後避け得ないと予想されるが、わが国においては、耕地面積の継続的な減少1)や、食料自給率の低下2)など、食料生産基盤の脆弱化が進んでいる。このような状況下、飼料用米は、年間約1000万トン輸入されている飼料用トウモロコシの代替品となる国産の飼料穀物として期待されている。例えば、農林水産省の試算によれば、若どり(ブロイラー)の配合飼料の原料として、飼料用米は年間最大229万トンまで利用できる可能性があるとされている3)。ここで、わが国において食される鶏肉の64%は国内産の鶏肉であるが、肉用鶏に給与される配合飼料の原料のほとんどは海外からの輸入に依存しているため、飼料自給率を考慮した鶏肉の自給率は8%にまで低下する2)。それ故、国産鶏肉生産用の配合飼料に含まれる主要な飼料穀物である輸入トウモロコシを飼料用米に置換できれば、わが国の低い食料自給率(37%)の向上、すなわち持続的社会の構築に大きく貢献できると判断される。
 最近、われわれは飼育後期飼料におけるトウモロコシの全量を飼料用米に置換しても、鶏肉の産肉量と食味には悪影響がないことを報告した4)。それ故、飼育前期から後期に渡って給与される全ての飼料に含まれるトウモロコシを飼料用米に置換することができれば、国内産飼料による差別化が図られ、高付加価値国産鶏肉の生産も可能になると判断された。
 平成29年畜産物流通統計によれば、わが国で処理される食鳥は、羽数にして88.7%、生体重量にして実に92.6%が肉用若鶏である5)。そして、この肉用若鶏のほとんどは、海外から定期的に輸入される種鶏を用いて生産される(すなわち、国内で継続的に生産することができない)ブロイラーであると推定される。それ故、わが国における持続的な鶏肉生産を実現するためには、輸入飼料の国産化に加え、国内で継続的に生産可能な国産鶏種の生産量の増加が必要と判断される。
 本研究では、食料自給率向上に基づく持続的社会の構築のための一環として、肉用鶏用配合飼料におけるトウモロコシの玄米への全量置換が、ブロイラーおよび国産鶏種のニワトリ(はりま・ひょうご味どり)の産肉量、肉色および食味に及ぼす影響について調べた。

2 材料および方法

(1)玄米主体飼料の給与が肉用鶏の産肉量に及ぼす影響

 1日齢の雄のブロイラー(Ross 308、株式会社ヤマモト)、0日齢の雄のはりま(石井養鶏農業協同組合)および0日齢の地鶏(ひょうご味どり、兵庫県農林水産技術総合センター)を平均体重が等しくなるよう2群に分け、トウモロコシ主体飼料あるいは玄米主体飼料のいずれかを、ブロイラーとはりまは56日齢まで、ひょうご味どりは76日齢まで、それぞれ給与した。12時間絶食後、体重を測定し、炭酸ガス麻酔下で安楽死後、脱羽した。右むね肉および左もも肉を摘出し、重量を測定後、24時間冷蔵保存した。むね肉の色調は分光色査計(NF 333,日本電飾工業株式会社)を用いて測定した。もも肉は、上ももを減圧包装し、マイナス30℃で冷凍した後、中央部を内転筋に対して垂直に1センチメートル幅でスライスし、内転筋、大腿二頭筋および縫工筋他を含む4枚のスライス肉を再び減圧包装後、官能検査に供するまでマイナス30℃で冷凍保存した。

(2)官能検査用パネラーの訓練

 官能検査のパネラーとして、神戸大学の学生および教員18名から、五味テストに合格した10名を選抜した。選抜されたパネラーには、ホットプレートで加熱処理した、和牛、国産牛および輸入牛のロース肉を用いて、官能検査項目[香り(鶏肉らしい香り、獣臭、異臭、全体の強さ)、風味(鶏肉らしい風味、獣風味、異風味、全体の強さ)、食感(しゃくしやすさ、歯ごたえ、ジューシー感、噛み切りやすさ)および味(うま味、甘味、酸味、塩味、苦味、異味、コク、脂っこさ、まろやかさ、持続性、全体の強さ)]、ならびにその評価方法[標準検体を基準値0とした上下3段階(+3,とても強い;+2,強い;+1,やや強い;−1,やや弱い;−2,弱い;−3, とても弱い)]を判断できるよう訓練した。

(3)官能検査方法

 これまで、鶏肉の食味比較に関する報告においては、湯煎したむね肉6)、湯煎した赤身(皮と脂肪を除いたもの)のもも肉スライス7)、オーブンで熱処理した皮なしももひき肉のパティ8)、オーブンで熱処理した浅胸筋、深胸筋あるいは大腿二頭筋9)、オーブンで熱処理したもも肉を冷蔵後、室温に戻したもの10)が用いられてきたが、実際に食する鶏肉の調理法とは必ずしも一致していない。官能検査に供する検体は均一性が求められることから、このような調理法が用いられているが、わが国においては、むね肉に比べて脂肪分が多く、ジューシーなもも肉の需要が多いことから、本研究では、実際に食する調理法(鍋料理)に近い方法で調製したもも肉を官能検査に供するべく、(1)で調製したスライス肉に3倍量の1%食塩水を加えた後、90℃以上で15分間湯煎した鶏肉を調製した。パネラーには、(2)で示した項目について、最初に食べた鶏肉(トウモロコシ主体あるいは玄米主体飼料給与区の鶏肉)に比べ、次に食べた鶏肉(玄米主体あるいはトウモロコシ主体飼料給与区の鶏肉)の値を評価させた。なお、食べる順序が官能評価に与える影響をなくすため、パネラーには鶏肉の食べる順序を伝えない条件下で、トウモロコシ・玄米の順序で食して評価する官能検査と、その逆の順序で食して評価する官能検査を各パネラーごとに行った。

(4)統計解析

 鶏種ごとに、体重、むね肉重量、もも肉重量および色調検査のL*a*b*値について、スチューデントのt検定により統計解析した。官能検査の結果は、マン・ホイットニーのU検定により統計解析した。

3 結果および考察

 ブロイラーにおいては、玄米主体飼料給与群において、21および56日齢時の体重、むね肉重量およびもも肉重量の有意な減少が認められた(図1のaおよびd)。



 一方、はりまとひょうご味どりの体重、むね肉およびもも肉の重量には有意差は認められなかった(図1のb、c、eおよびf)。これらの結果から、本研究で用いた国産鶏種は玄米主体飼料への適性が高いことおよびブロイラーに飼育前期から玄米主体飼料を給与する場合は、生産に悪影響を及ぼさないよう工夫する必要があることが明らかになった。González-Alvaradoらは、トウモロコシ主体飼料あるいはコメ主体飼料のいずれかを21日齢までブロイラーに給与した場合、体重に有意差は認められないことを報告している11)。この報告においては、破砕したコメが使用されているが、本研究においては破砕していない玄米を用いている。飼料の形状が摂取量に影響することはよく知られており、特に幼ヒナ期においてはその差が顕著である。それ故、本研究とGonzález-Alvaradoらの研究との結果の違いは、使用に用いたコメの形状の違いに基づくものかもしれない。また、Nantoらは、トウモロコシ主体飼料、あるいはコメ(玄米)主体飼料のいずれかを28日齢まで給与した場合、体重、浅胸筋、および骨付きもも肉の重量に有意差は認められないことを報告している12)。この報告と本研究との結果の違いの原因については不明であるが、Nantoらの報告では配合飼料に魚粉が含まれておらず、大豆かす含有率が高いことが影響しているのかもしれない。それ故、本研究で認められたブロイラーにおける成長の遅延は、玄米以外の原料を工夫することで改善できる可能性もある。今後、玄米の形状および飼料タンパク質源の変更などについて検討する必要があろう。
 玄米主体飼料の給与は、本研究に用いた全ての鶏種のむね肉の色調(L*a*b*値)に有意な影響を及ぼさなかった(表1)。
 


 われわれは、ブロイラーの飼育後期飼料におけるトウモロコシの精白米への全量置換はL*値を有意に上昇させること、すなわち、色味を白くさせることを報告しているが4)、本研究においては、玄米を使用したため、その白色化の効果が弱かったのかもしれない。しかしながら、一般に、加工食品においては原料肉の品質が変化することは、商品規格の再検討を余儀なくさせるものであることから、色調などの大幅な変化は望ましくない。それ故、鶏肉の肉色に関してトウモロコシから玄米への置換の影響が認められなかったことは望ましい結果と言える。
 官能検査の結果、玄米主体飼料給与は、ブロイラーのもも肉の香り全体の強さと脂っこさを弱めること(図2)、およびはりまの鶏肉らしい香りを強めること(図3)が示唆された。一方、ひょうご味どりの食味には玄米主体飼料給与の影響は認められなかった(図4)。







 佐々木らは、「おいしい鶏肉に関係がある」用語としては「さっぱりした」「あっさり」「すっきり」といった用語が、「おいしい牛・豚肉に関係がある」用語としては「濃厚」「こってり」「まったりした」「脂肪味」という用語が挙げられることが、調理従事者と一般消費者の間で共通していることを報告している13)。それ故、ブロイラーのもも肉で認められた玄米主体飼料給与による脂っこさの低下は、望ましい変化と言えるのかもしれない。これらの結果は、飼料用米の活用により鶏肉の食味を制御することによって、多様な消費者ニーズに対応できる可能性を示すものと言えよう。

4 おわりに

 現在、飼料用米の生産を奨励するため、その生産には補助金が支給されている。それ故、輸入トウモロコシを完全に飼料用米に置換するためには補助金の増加が避けれらないことから、その実現は極めて困難である。実際、小川は飼料用米を1キログラム当たり30円で飼料として供給するためには、コメの収穫量を10アール当たり530キログラムとした場合、1キログラム当たり172〜176円の補助金が必要と見積もっている14)。しかしながら、多収米品種に限ればコメの収穫量は10アール当たり700キログラムを超えるものも多く、このような多収米品種の活用やその品種改良が進めば、補助金の額を大幅に削減できる可能性もある。加えて、日本学術会議の答申15)によれば、農業は、洪水防止機能(3兆4988億円/年)、水源かん養機能(1年につき1兆5170億円)、土壌浸食防止機能(1年につき3318億円)および土砂崩壊防止機能(1年につき4782億円)などの多面的機能を有すること、水田は、生物多様性の維持や景観の保全など、換金し得ない機能も有することから、飼料用米生産に支払われる補助金を、わが国の食料需給に関する経済的収支の観点からだけではなく、災害に対する危機管理や環境保全を含めたわが国全体の生活基盤を維持するための経費として捉えることも必要と判断される。日本、韓国、中国、ベトナム、タイ、マレーシアおよびインドネシアにおける畜産物の消費量、ならびに生産量は1971年以降増加し続けており16)、世界の畜産物生産量も2005〜2007年に比べ、2050年までには1.6〜1.7倍に増加することが見込まれている17)。すなわち、近い将来、飼料穀物の争奪戦・価格上昇は避けられないことから、飼料用トウモロコシの価格と国産飼料用米の価格差は縮小する可能性が極めて高い。一方で、飼料用米の生産拡大の可能性については、主食用米も含めた水田活用の在り方とも大きく関係するため、飼料用トウモロコシの飼料用米への置換を進めるためには、継続的な政策と研究が必要となろう。
 日本政策金融公庫の調べによれば、飼料用米で育てた畜産物やその加工品は、48.9%の消費者が「国産で安心ができる」と判断すること、飼料用米で育てた鶏肉については、価格が1割以上割高でも50%の消費者が購入する意思があること、残りの43.8%の消費者も価格が同等であれば購入する意思があることが、それぞれ示されている18)。飼料用米で育てたブロイラーおよび国産鶏種の鶏肉が、その消費者の高い評価と購買意欲を追い風として、鶏肉市場の規模拡大・活性化、ひいては食料自給率の向上と持続的社会の構築に寄与することを期待したい。

【参考文献】
1)作物統計調査,平成29年耕地および作付面積統計,累年統計,耕地面積および耕地の拡張・かい廃面積,耕地面積,田畑別耕地面積
 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&lid=000001202630
2)食料需給表,平成29年度食料需給表(概算),
 http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyukyu/index.html
3)飼料用米の推進について,農林水産省政策統括官,平成30年1月
 http://www.maff.go.jp/j/seisan/kokumotu/attach/pdf/siryouqa-26.pdf
4)本田和久.国産飼料の増産・鶏肉の輸出促進に向けた飼料用米による国産鶏肉のおいしさの向上.畜産の情報,2019; 3: 59-66.
5)畜産物流通統計,平成29年調査結果の概要,畜産の情報, 2019; 3: 59-66
 http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tikusan_ryutu/index.html
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7)松石昌典,加藤綾子,石毛教子,堀剛久,石田雄祐,金子紗千,竹之中優典,宮村陽子,岩田琢磨,沖谷明紘.名古屋コーチン,ブロイラーおよび合鴨肉の食味特性の比較.日本畜産学会報,2005; 76: 423-430.
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12)Nanto F, Kikusato M, Ito C, Sudo S, Toyomizu M. Effects of defulled, crushed and untreated whole-grain paddy rice on growth performance in broiler chickens. J. Poult. Sci. 2012; 49: 291-299.
13)佐々木啓介,本山三知代,渡邊源哉,中島郁世.一般消費者および調理従事者を対象としたアンケートによる食肉の記述的官能評価候補用語集の作成.日本畜産学会報,2018; 89: 471-488.
14)小川真如,2017.日本の飼料用米振興施策のあり方に関する一考察.農村計画学会誌,36,95-100.
15)日本学術会議.2001.地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)
16)石田元彦.2009.アジアにおける飼料イネ生産の重要性.日本畜産学会報 80,363-389.
17)Alexandratos N, Bruinsma J. 2012. World agriculture towards 2030/2050: the 2012 revision. ESA Working paper No. 12-03. Rome, FAO.
18)日本政策金融公庫.2015.飼料用米で育てた畜産物,約9割が購入に意欲.ニュースリリース, 2015.