現在、飼料用米の生産を奨励するため、その生産には補助金が支給されている。それ故、輸入トウモロコシを完全に飼料用米に置換するためには補助金の増加が避けれらないことから、その実現は極めて困難である。実際、小川は飼料用米を1キログラム当たり30円で飼料として供給するためには、コメの収穫量を10アール当たり530キログラムとした場合、1キログラム当たり172〜176円の補助金が必要と見積もっている
14)。しかしながら、多収米品種に限ればコメの収穫量は10アール当たり700キログラムを超えるものも多く、このような多収米品種の活用やその品種改良が進めば、補助金の額を大幅に削減できる可能性もある。加えて、日本学術会議の答申
15)によれば、農業は、洪水防止機能(3兆4988億円/年)、水源
涵養機能(1年につき1兆5170億円)、土壌浸食防止機能(1年につき3318億円)および土砂崩壊防止機能(1年につき4782億円)などの多面的機能を有すること、水田は、生物多様性の維持や景観の保全など、換金し得ない機能も有することから、飼料用米生産に支払われる補助金を、わが国の食料需給に関する経済的収支の観点からだけではなく、災害に対する危機管理や環境保全を含めたわが国全体の生活基盤を維持するための経費として捉えることも必要と判断される。日本、韓国、中国、ベトナム、タイ、マレーシアおよびインドネシアにおける畜産物の消費量、ならびに生産量は1971年以降増加し続けており
16)、世界の畜産物生産量も2005〜2007年に比べ、2050年までには1.6〜1.7倍に増加することが見込まれている
17)。すなわち、近い将来、飼料穀物の争奪戦・価格上昇は避けられないことから、飼料用トウモロコシの価格と国産飼料用米の価格差は縮小する可能性が極めて高い。一方で、飼料用米の生産拡大の可能性については、主食用米も含めた水田活用の在り方とも大きく関係するため、飼料用トウモロコシの飼料用米への置換を進めるためには、継続的な政策と研究が必要となろう。
日本政策金融公庫の調べによれば、飼料用米で育てた畜産物やその加工品は、48.9%の消費者が「国産で安心ができる」と判断すること、飼料用米で育てた鶏肉については、価格が1割以上割高でも50%の消費者が購入する意思があること、残りの43.8%の消費者も価格が同等であれば購入する意思があることが、それぞれ示されている
18)。飼料用米で育てたブロイラーおよび国産鶏種の鶏肉が、その消費者の高い評価と購買意欲を追い風として、鶏肉市場の規模拡大・活性化、ひいては食料自給率の向上と持続的社会の構築に寄与することを期待したい。
【参考文献】
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