(1)特徴
有機生産による環境負荷の低減は、EUの一部の消費者の志向と合致しており、有機産品を求める理由となっている。また、有機産品が、より健康的な食品を求めたいとする一部の消費者からの要求にも応えるかたちになっており、それら消費者からの有機産品に対する評価は高い。EUでは、農薬や抗菌剤の過剰使用が健康へ悪影響を及ぼすという懸念の度々の報道が、消費者がより自然な代替品を求めている要因となっている。
2018年に実施されたフランスの有機農業開発・促進機構(Agence BIO)による有機産品に対する国内消費者の意識調査の結果によれば、有機産品の購入頻度が「少なくとも月に1回」の者は71%となり、前々回および前回調査(2012年および2015年)の43%、65%から増加が続いている。なお、購入頻度が「毎日」という者は12%であった。
また、農産物および食品のうち有機産品を購入する対象は、「野菜」が最大で59%、次いで「牛乳・乳製品」が52%、「鶏卵」が47%、「その他食品」が38%、「飲料」が35%、「食肉」が32%となっている。さらに、有機産品を選ぶ理由としては、「健康」が最大で69%、次いで「品質・味」が58%、「環境保護」が56%、「アニマルウェルフェア」が28%であった。有機産品の購入開始時期は、「1年~5年前から」が最大で56%、「1年未満」が17%であった。「20年以上前から」も8%あった。一方、有機産品を購入しない理由として挙げられたのは、「高価」が84%、「本当に有機なのか疑わしい」が62%、「必要性がない」が27%、「情報が少ない」が23%となった。これらの解消が、今後の有機農業拡大のための課題となってくるものと考えられる。
(2)消費量
欧州委員会によれば、2017年の有機食品・飲料市場は、前年比11%増の343億ユーロ(4兆1160億円)となった。これは、全世界の有機食品・飲料市場の920億ユーロ(11兆400億円)のうち37%を占める。なお、最大の市場は米国の同47%で、EUはそれに続く。EUは、ここ10年間で市場規模を倍増させるなど成長が続いているものの、規模には加盟国間差がある(図18)。最大市場はドイツで100億ユーロ(1兆2000億円)(全小売売上高に占める有機食品・飲料シェア5.1%)、次いでフランスが79億ユーロ(9480億円)(同4.4%)となっている一方、シェアが高いのはデンマークで13.3%と世界最高となっている。また、スウェーデンのシェアは9.0%、オーストリアのシェアは2017年に前年から12%伸びて8.6%となっている。
一方、シェアの低い国も、スペイン(同2.8%)やイタリア(同3.2%)など多くある。東欧諸国やバルト諸国でも同シェアは平均より低く、エストニアは同2.6%、ラトビアは同1.5%、リトアニアは同1.0%、チェコは同0.9%である。これらの国では、有機市場はまだ初期段階にあり、需要はまだ本格化していない。それにもかかわらず、小売売上高は、2017年にスペインで前年比16%増、イタリアで同8%と平均を上回っており、有機食品・飲料の消費は伸びつつある。
また、有機食品・飲料の需要の高まりは、1人当たりのEU平均年間支出額にも反映されており、2007年には29ユーロ(3480円)であったものの、2017年には67ユーロ(8040円)と2倍以上に増加している。
(3)品目別消費動向
品目別に全小売売上高に占める有機産品の2012年から2017年の年間成長率をみると、加盟国ごとに異なっていることがわかる(図19)。
品目別有機シェアがEU域内で最も高いのは鶏卵で、デンマークで33%、フランスで30%、オーストリアで22%、ドイツで21%となっている。鶏卵については、フランス、英国で年間成長率が10%を大きく超えるなど、引き続き拡大していくものと考えられる。また、果物や野菜もシェアは高く、オーストリア、デンマーク、スウェーデンでは10%超となっている。牛乳・乳製品も高く、特にオーストリアでは11%、スウェーデンでは10%となっている。中でも飲用乳のシェアは高く、デンマークでは32%、オーストリアでは18%となっている。
一方、食肉に関してはほとんどの加盟国でシェアはいまだ低いにもかかわらず、イタリアの年間成長率が13%、英国は同12%と一部の加盟国では拡大の予兆がみられている。
(4)流通
有機食品・飲料の流通は、加盟国ごとに異なるものの、多くの国で一般的な小売業者(スーパーマーケット)が最大の流通経路となっており、オーストリア、デンマーク、スウェーデンでは75%を超えている(図20)。一方、ポルトガルやスペインでは、有機産品専門店を通じた流通が多い。
流通構造は、小売売上高における有機産品のシェアが関係していると考えられる。シェアが高いスウェーデン、オーストリア、デンマークなどでは、有機産品の購買が多くの消費者の日常的な購買行動に含まれていることから、従来からある流通経路であるスーパーマーケットで容易に入手できるようになっている。一方、シェアが低いスペインやポルトガルなどでは、有機産品はまだ高級品として位置付けられた特別な市場と考えられており、主に有機産品専門店で購入されている。
他の流通経路には、市場などでの直接販売、ケータリング、オンライン販売などがある。ここ数年、他の流通経路による消費の増加が、多くの加盟国で報告されている。一例では、有機産品の公共調達(学校や病院などで提供されるもの)が増えており、スウェーデンでは公共調達のうち33%、デンマークでは20%に達しているという(2018年)。
(5)加盟国別動向
有機食品・飲料の主要生産地のひとつであるイタリアやスペインは、生産物の大部分を輸出している。また、オーストリアやスウェーデンのような有機農地シェアが高い加盟国は、国内需要を超えて生産している可能性がある。
有機食品・飲料のEU域内貿易に関する統計はないものの、欧州委員会は、2017年における加盟国の小売売上高に占める有機食品・飲料シェアおよび農地に占める有機農地シェアについて、図21の通り図解している。これにより、点線で示す45度線の付近にある加盟国では、一般的に有機産品の小売売上高と有機農地のシェアが均衡しており、この線よりも上にある加盟国では有機産品の自給力が高く、この線よりも下にある加盟国では国内生産が不足し、有機産品を場合によっては輸入に頼る傾向があると推測している。しかし、実際には産品の内訳が不明であることから、過剰な産品と不足産品が各加盟国の生産事情により異なって発生することに注意が必要である。
(6)輸入
2018年の有機農産品輸入量は、330万トンとなった。主な輸入産品は、トロピカル・フルーツ、ナッツ類など(有機農産品総輸入量の24%)、コーヒー、紅茶など(同4%)といったEU域内で生産されていないかほとんど生産されていない農産品を含む他、穀物(同22%。小麦や米を含む)、油かす、油料種子(同20%。大豆を含む)、砂糖(同5%)などEUでは有機生産のシェアが低い農産品が含まれている(図22)。