各州の養豚生産事情が異なる一方、パッカー各社もさまざまな特徴を有している。このうち、カナダの豚肉産業を
牽引し、対日輸出にも積極的な主要パッカー3社をはじめとする各社の最近の動向は下記の通りである。
(1)オリメル社
ケベック州に本社を置く大規模農協系パッカーである同社は現在、ケベック州に4カ所、アルバータ州に1カ所のと畜場を有し、全と畜場の合計豚と畜能力はカナダ最大規模である。米国や中国への輸出も積極的に行ってきたが、近年は日本向け冷蔵豚肉輸出を拡大すべく、冷蔵豚肉生産能力の向上に注力している。例えば、ケベック州に立地するセントエスプリ工場はかつて冷凍豚肉専用工場であったが、2018年の改修によって冷蔵豚肉の生産・輸出が可能となった。
最近はケベック州豚肉産業における存在感を一層高めており、2017年には後述するルーシーポーク社との業務提携下で同州内に新たな工場を設立した他、本年7月には同州で長年豚肉生産・加工事業を展開してきたFメナール社の買収を発表した。
なお、同社は養豚生産の面でもカナダ最大級であり、東西の自社農場で保有する母豚飼養頭数は10万6000頭とパッカーの中では最大である。独自の種豚生産にも力を注いでおり、2017年にはCTスキャンを用いて背脂肪厚などのデータを分析し、優秀な能力を有する種豚を選抜する取り組みを開始した。
(2)メープルリーフフーズ社
オンタリオ州に本社を有する同社のと畜場はマニトバ州ブランドンとアルバータ州レスブリッジに立地している。前者がカナダ最大のと畜能力を誇る大規模施設である一方、後者は日本向け豚肉生産に特化した施設として、1週当たりと畜能力7500頭の生産ラインでは日本のと畜場で一般的な皮剥ぎ式と畜が行われている。現地担当者曰く、日本向け輸出が堅調に推移している昨今、レスブリッジ工場のと畜状況は処理可能頭数上限の水準を維持しているとのことであった。また、皮剥ぎ式と畜は湯剥ぎ式に比べコストは生じるものの品質面では優位性があるとして、レスブリッジ工場で製造された豚肉はカナダ国内で販売される際にも「Heritage Pork(ヘリテージポーク)」という名のブランド豚肉として取り扱われている。その品質は客観的にも認められており、同工場で製造された豚肉商品は本年、欧州に本部を置く国際的な味覚審査団体「ITI(International Taste Institute)」の審査において最高ランクの三ツ星評価を獲得した。
また、ブランドン工場へ豚を出荷する自社農場では抗生剤フリーやアニマル・ウェルフェアに配慮した生産を積極的に推し進めている。例えば、同社は2021年までに6万3000頭(2018年時点)の自社保有母豚をすべて群飼式に移行する計画を実行中であり、調査時点では80%が移行済であった。加えて、同社は豚肉部門の他に豚肉加工品事業や植物性たんぱく質事業にも注力しており、特に後者に関しては本年4月、米国に北米最大の植物性たんぱく質製造工場を建設することを発表し、急速に成長する植物性たんぱく質市場での地位固めを進めている。
(3)ハイライフ社
もともと養豚企業であった同社は2008年にと畜場を買収して以来、垂直統合による豚肉生産を行っている。こうした背景からと畜頭数に占める自社肥育豚の割合が高く、2018年時点で8万4000頭保有するという自社母豚がこれを支えている。上述した2社と異なり、と畜場はマニトバ州ニーパワに立地する1カ所に限られるが、近年は設備投資を積極的に実施しており、2018年4月に完了した同工場の拡張工事によって、1週間当たりと畜能力は3万2500頭から4万頭へと拡大した。特に日本向け豚肉輸出に注力しており、現地担当者によると、主要部位の日本向け輸出量の割合は8割を超えるという。
また、2018年10月には、2015年に買収したメキシコ(グアナフアト州)の2カ所の豚肉加工工場の拡張工事が完了した。現在、これらの工場では、ニーパワ工場から運んだ豚肉原料を用いた一次加工品をはじめ、米国産やメキシコ産の原料も活用し、顧客のニーズに合わせたさまざまな豚肉商品の日本向け輸出を本格化させている。なお、本年4月にはタイのチャロン・ポカパン・フーズ社が同社創業者グループの株式を買収し最大株主となることが発表されたが(クロージングは本年12月ごろの予定)、経営陣の変更もなく対日輸出を軸とする輸出戦略は今後も継続されるとのことであった。
(4)独自の存在感を発揮する中小パッカー
上述した大手3社を中心に豚肉産業の寡占化が進展する一方、中小パッカーはそれぞれ異なる手法で生き残りを模索している。以下ではその例として、オンタリオ州、アルバータ州、ケベック州の3社を紹介する。
ア コネストーガ社
オンタリオ州内157戸の養豚生産者で組織される協同組合「Progressive Pork Producers」が所有する農協系パッカーである同社では、生産者およびと畜場双方の利益の最大化を目的とした独特なシステムが構築されている。第一に、同社は組合員に「出荷割り当て」を付与するという特徴的な経営モデルにより、安定的に豚を調達することが可能となっている。加えて、豚取引価格は豚肉の販売価格を基に算定するため、組合員が受け取る肥育豚価格は他社の価格より高い場合もあるとのことであった。
連邦政府や州政府による補助金やローンを積極的に活用しており、と畜場を買収した2001年以降、通算6度目となる規模拡大計画を実施している。昨年10月に完成した新しいと畜フロアには最新鋭の胸割ロボットなどが導入され、不足しがちな労働力を補完すると同時に衛生レベルの向上に努めている。調査時点のと畜頭数は1週間当たり3万8000頭であったが、最終的に5万5000~6万頭までの規模拡大を目指している。今のところ輸出量に占める日本向けの割合は5~10%と低いが、今後は拡大させたいとの意向がきかれた。
イ ルーシーポーク社
ケベック州の農業生産企業ロビタイグループ傘下の豚肉パッカーである同社は1990年代より日本向け輸出を念頭においた豚肉生産を行っており、主要部位豚肉輸出量に占める日本向け割合は現在も9割に達している。肥育豚は自社農場と州内に立地する二つの契約農場のみから調達しており、雄豚系統には独自生産したデュロック種を用いている他、全ての農場で同一の飼料給餌、飼養管理が徹底されている。
1週間当たりと畜能力が7500頭の旧工場を閉鎖した今春、同社はオリメル社との業務提携の下で設立したヤマチチ工場に全ての豚肉生産部門を移管した。ヤマチチ工場では、衛生レベルの向上が期待されるスチームシャワーによる脱毛方式を採用するなど、最新の技術・設備が導入されている他、温度やpHの管理を厳格に行うことで、日本市場向け豚肉の品質を保持している。
1週間当たりと畜能力4万頭のヤマチチ工場は今後もオリメル社と共用されることとなっており、一日2シフトのうちルーシーポーク社が第1シフトを、オリメル社が第2シフトを使用するようオペレーションが区別されている。加えて、肥育豚の搬入経路なども明確に区別されており、異なるプログラムで生産されている両社の豚が混入することが無いよう設計されている。調査時点のヤマチチ工場は本格稼働に向けた移行期間にあり、稼働状況は上限を下回る水準であったが、ルーシーポーク社は自社シフトの処理可能上限頭数である1週間当たり1万6000頭に向けて、増産への意向を示していた。
ウ サンテラミーツ社
アルバータ州第3位の豚肉パッカーである同社は自社農場の他、数カ所の契約農場から豚を調達している。他社と比べ小規模ながら、バークシャー種をベースに開発した独自のハイブリット豚をSPF方式で生産しており、高付加価値豚肉の生産に注力している。輸出量のうち70~75%を占める日本市場を重視し、皮剥ぎ式と畜および日本式カットでの豚肉生産が行われている。と畜場は州内の1カ所で、1週間当たりと畜能力は4000頭だが、最近は労働力の確保が困難であることから調査時点の処理頭数は2500頭であった。
2016年にはイタリアの豚肉加工企業と提携し、昨年同州内に設立した豚肉加工製造工場で、イタリア風の豚肉加工品の製造を行っている。この他、同社は州内で小売店や飲食店も展開しており、これらの副収入も経営の一助となっている。