(1)目的
本県の肉用牛繁殖雌牛の飼料自給率向上のためには、濃厚飼料の代替となるイネSGSの利用は非常に有効である。しかしながら、イネSGSの給与水準を高めた場合の、黒毛和種繁殖雌牛への影響は不明な点も多い。そこで黒毛和種繁殖雌牛にイネSGSを一定期間、高水準で給与することによる影響を血液代謝プロファイルテストやルーメン液の性状、採卵成績等で検証し、その影響について明らかにし、イネSGSのさらなる利用推進を図った。
(2)試験方法
給与したイネSGSと飼料稲WCSの飼料成分を表1、2に、サイレージ品質を表3、4に示した。イネSGSのサイレージ品質はV-score86点と高く、また飼料稲WCSのV-scoreも89点と高かった。この数値を基に、乾物摂取量(DM)、TDN(可消化養分総量)、CP(粗タンパク質)が同等になるよう給与設定した(表5)。なお、粗飼料は飼料稲WCSをメインに、配合飼料の代替としてイネSGSを用い、表6に示す通り、イネSGS区では1日当たりイネSGSをもみ米で3.6キログラム給与した。
供試牛は当場繋養の黒毛和種繁殖雌牛8頭を用いた。試験区分はイネSGS区と対照区の2区とし、各区4頭を反転法で実施した(表7)。
試験開始20日前から
馴致期間として通常の給与メニューを給与した。
1回の給与期間は60日間とし、1回目給与終了後、再度馴致期間として20日間、通常の給与メニューを給与した後、2回目の給与を開始した。
給与は、1日2回(9時、15時)に分け、他の飼料と混合し給与した。
イネSGSはTの保存性調査において有効であったプラスティックサイロと同一ロットのものを給与した(図8、9)。
過剰排卵処理に伴う処置は、表8に示すスケジュールに準じて行った。
発情後の黄体を確認し、CIDR(膣内留置型プロジェステロン製剤)を膣内挿入(day0)しPGF2α3ml(クロプロステノール750μg)を筋肉内投与、7日目にGnRH1.25ml(酢酸ブセレリン5μg)筋肉内投与、10日目に卵胞刺激ホルモンFSH30AUを皮下内1回投与、12日目にCIDRを抜去し、PGF2α(クロプロステノール750μg)を筋肉内投与した。13日目にGnRH2.5ml(酢酸ブセレリン10μg)筋肉内投与、14日目の午後にAI(人工授精)し、21日目に常法により採卵した。
採血とルーメン液の回収日は給与期間中の給与前(0日目)、給与中(30日目)、給与後(60日目)で、給与開始の5時間後(14時ごろ)に行った。ルーメン液の回収は経口から直接第1胃に胃汁採取器を挿入し行った(図10)。
(3)結果
ア 嗜好性・飼料摂取量
イネSGSは他の飼料と混合し給与した。(配合飼料も同様)。嗜好性は非常に良好であり、残餌は発生しなかった(図11)。残餌がなかったことから、給与量=飼料摂取量とし、その乾物量から飼料自給率を計算した(表9)。
イ 栄養度指数
栄養度指数(体重kg÷体高cm)を図12に示した。
体重並びに体高の測定は給与開始(0日目)、給与中(30日目)、給与後(60日目)で行った。イネSGS区は対照区とも同様に推移し、イネSGSを給与することによる栄養度指数への影響はみられなかった。
ウ 繁殖性
過剰排卵処置後の採卵成績を表10、図13に示した。
イネSGS区は対照区と比べ、回収卵数(20.8±4.9個vs13.9±3.9個)、正常胚数(10.4±4.4個vs6.8±2.7個)とも同様な成績であった。また正常胚率(45.9±10.3%vs47.9±7.6%)、分割率(70.0±12.0%vs77.2±10.5%)も同様な成績であった。
過剰排卵に伴うイネSGS給与の卵巣動態の一例を図14に示した。
過剰排卵処理前の卵巣のサイズは4×3×2センチメートル程度であったが、採卵時(過剰排卵処理後)には右卵巣においては8×6×4センチメートル程度と約2倍のサイズになり、左右卵巣とも多数の黄体が確認でき、ホルモンの反応性に問題はないと考えられた。
エ 血液性状
採血は給与開始(0日目)、給与中(30日目)、給与後(60日目)で行った。
グルコースはエネルギー代謝の指標となり、グルコースが基準値以下の牛群では一般的に繁殖性が悪いと言われる。今回、イネSGS区、対照区とも上限値をやや上回り推移した(図15)。
総コレステロールはエネルギー代謝の指標となり、黒毛和種繁殖雌牛では乾物摂取量と正の相関がある。イネSGS区は適正値内で推移したが、対照区は給与中(30日目)で上限値を上回り有意に高くなった(図16:P < 0.01)。
血中尿素態窒素はタンパク質代謝の指標となる。イネSGS区はほぼ適正値内で推したのに対し、対照区では給与中(30日目)で有意に高くなった(図17:P<0.05)。
GGTはタンパク質分解酵素の一種で、肝細胞が破壊されると血中濃度が高まることから、肝臓障害の指標として用いられる。イネSGS区、対照区とも上限値をやや上回り推移し、対照区は給与後に適正値内に推移した(図18)。
GOTは肝臓の実質障害の程度を知ることができ、急性肝疾患により上昇する。イネSGS区、対照区とも適正値内で推移した(図19)。
ビタミンAの前駆体であるはベーターカロテンはサイレージ調製すると減少し、また血中のビタミンA欠乏は繁殖性の低下を招くことが知られている。イネSGS区は対照区に比べ給与後に有意に高くなった(図20:P<0.05)。
オ ルーメン液性状
牛は反すう動物のため、第1胃(ルーメン)で微生物による発酵が盛んに行われ、そこで発生した揮発性脂肪酸をエネルギー源として利用している。そのため、ルーメン液性状はルーメン発酵の指標となる。イネSGS区、対照区ともルーメン発酵が良好に行われている目安となる酢酸の割合が高くなり(図21)、pHも適正範囲であるpH7.0前後で推移した(図22)。