チーズは前年同期比3.1%増、バターは同23.1%増
欧州委員会によると、2019年1月〜8月のEU(28カ国)の主要乳製品(チーズ、バター、脱脂粉乳、全粉乳)輸出量(域外向け)は、全粉乳を除き増加となった。チーズが前年同期比3.3%増の57万3027トン(表14)、バターが同23.1%増の10万8042トン(表15)、脱脂粉乳が同28.8%増の68万7894トン(表16)となった一方で、全粉乳は同15.7%減の20万2333トン(表17)となった。
チーズおよびバターは、最大の輸出先である米国向け増加などが原因
チーズおよびバターの輸出量の増加については、最大の輸出先である米国などへの増加が原因である。チーズの米国向け輸出量は、前年同期比11.4%増の9万2499トンとなった。日本向けやサウジアラビア向けもそれぞれ同4.7%増の7万6984トン、同6.7%増の2万5678トンとなった。また、バターの米国向け輸出量は、前年同期比35.6%増の2万5564トンとなった。中国向けや日本向けもそれぞれ同20.6%増の6669トン、同53.2%増の6493トンとなった。
脱脂粉乳および全粉乳の輸出量の増減については、中国向けが影響している。脱脂粉乳の中国向け輸出量は、前年同期比60.5%増の9万1393トンとアルジェリアを抜いて最大となった。また、主要輸出先であるインドネシア向けやフィリピン向けもそれぞれ同81.0%、同125.7%と大幅に増加した。一方、全粉乳の中国向け輸出量は、前年同期比27.4%減の1万1638トンとなった。また、最大の輸出先であるオマーン向けやアルジェリア向けもそれぞれ同13.3%、23.9%と減少した。
欧州委員会が10月に公表した農畜産物の短期的需給見通しによれば、上記のような状況を受け、2019年のチーズ、バター、脱脂粉乳の輸出量を、それぞれ前年比1.8%増の84万7000トン、同10.1%増の15万7000トン、同16.0%増の95万2000トンとする一方で、全粉乳は前年比15.0%減の28万4000トンと見込んでいる。
米国によるEUへの追加関税措置がどこまで輸出に影響を及ぼすか注目
こうした中で、米国政府は10月2日、欧州大手航空会社エアバス社へのEUの補助金が不当だとして、世界貿易機関(WTO)の承認を受け、EUからの輸入品に対する報復関税として合計74億9662万米ドル(8246億2820万円:1米ドル=110円)の追加関税措置を発表した。同措置は、10月18日からEU産農産品およびその他の製品の一部に25%の追加関税を課すものであり、対象となる乳製品は加盟国ごとに品目は異なる。なお、報復関税の規模としては、WTO史上最大のものとなっている。
上記の通り、EUにとって米国はチーズおよびバターの最大の輸出先であるが、2019年1月から8月までの国別輸出量を見ると、チーズでは、イタリアが2万6158トンと全体の30%近くを占めている。次いで、フランス(1万4441トン)、オランダ(9639トン)、スペイン(7415トン)などと続いている。また、バターではアイルランドが2万2053トンと全体の85%以上を占めている。次いで、フランス(1161トン)、ドイツ(657トン)などと続いている。
英国農業園芸開発公社(AHDB)の分析によれば、今回の措置を2018年輸出量ベースで試算すると、チーズについては約75%もの量が追加関税の対象となり(表18)、イタリア産チーズの99%以上が追加関税の対象となる。フランス産チーズは、約96%が対象となる。また、バターについては、アイルランド産バター全てが追加関税の対象となる。
AHDBは、今回の追加関税の発動により、米国市場におけるEU産乳製品はより高価になり、米国市場での競争力は低くなるとしている。また、EU輸出事業者は、追加関税分をコストに吸収するか、製品の代替市場を探す必要があるとしている。今回の米国によるEUへの追加関税措置は、今後のEUの乳製品輸出にかなりの影響を及ぼす可能性があるがその動向が注目される。
(調査情報部 国際調査グループ)