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調査・報告 畜産の情報 2020年1月号

物流危機、農業危機を乗り越え持続可能な社会の実現へ

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UDトラックス株式会社 広報部マネージャー 関 泰彦

【要約】

 少子高齢化、地球温暖化、電子商取引の拡大を遠因として物流の持続可能性への不透明感が強まっている。このことは、陸上運送依存度が高いわが国の経済活動の持続可能性を損なうことにもなりかねない。昨今、急速な技術革新をみせている自動運転、AI、IoTなど先端技術を活用し、物流業界や同業界を取り巻く社会課題を解決することで、持続可能な社会の実現に資することが期待されている。

1 はじめに

 電子商取引の拡大に伴う輸送需要が増大するなか、「物流危機」は日本固有の社会課題ではなく、世界的に取り組むべき喫緊の課題になっている。特に少子高齢化が世界で類を見ないスピードで進むわが国で「経済の血脈」である物流の持続可能性を高めるためには、オープンイノベーションを基本的な指針として、業界の垣根を超えてさまざまな知見やアイデアを持ち寄り、産業界・経済界が一丸となって取り組みを加速していかなければならない。
 人口動態の変化に伴う人手不足などに起因する物流危機は、担い手不足などの課題を抱えている農業界など私たちの暮らしに直結する産業の持続可能性を危うくする可能性が指摘されている。とりわけ年間貨物量の90%以上を陸上運送に依存する日本において物流の安定性を確保することは、電子商取引で飛躍的に利便性の高まった日々の生活を確保するという文脈にとどまらず、日本経済、そして社会全体の持続可能性を高めるために不可欠である。
 現在、官民を挙げて人手不足などによる物流危機を克服する取り組みが行われていることから、本稿では物流に係る現状と課題を整理するとともに、昨年8月に北海道でわが国初となる大型トラックの自動運転技術共同実証実験が行われたので、その内容を紹介する。

2 物流業界をめぐる情勢と労働の現状など

(1)物流業界をめぐる情勢

 米コンサルティング会社のボストンコンサルティンググループが2017年10月に公表した推計では、2027年の日本国内のトラック運転手は約24万人不足すると予測されている。これは貨物需要の増加と少子高齢化によるドライバーへの就業率の低下が主な要因とされている。また、米商業用不動産サービス会社のCBREは、電子商取引の拡大に伴い2018年から2019年に米国の物流業界だけで45万人以上の新規雇用需要が発生すると予想している。これは2013年から2017年までに同国の物流業界で創出された新規雇用者数の2倍以上にあたる。
 物流業界を取り巻く危機的な状況に対し、各社は他業界からの新規雇用の獲得、働き方改革の断行、自動化技術への投資を通じた労働生産性の改善など、さまざまな取り組みを行っている。日本通運株式会社(以下「日通」という)は2017年、「ロジスティクス・エンジニアリング戦略室」を立ち上げ、自動運転技術を活用したトラック隊列走行、先端技術による物流センターの無人化・省力化、人工知能(AI)活用の物流ソリューション、ドローンの多目的活用、トラックマッチング( 求荷求車きゅうにきゅうしゃ(注1)のシステム化―などを主要テーマとして研究・開発を推進している。また、経済産業省は2017年に「Connected Industries」(注2)構想を提唱した。産業間や業界間でデータを相互に活用することで個々の業界だけでは解決が難しかった社会課題を解決し、より良い社会を実現していくことを目指している。なかでも、IoT(モノのインターネット)、データや自動化技術の活用による物流機能の効率化および高度化は中心的な議題となっている。さらに、国土交通省では2014年からトラック運送業界における女性の活躍を促進するため、「トラガール促進プロジェクト」(注3)を進めている。
注1:目的地まで荷物を運び終わった帰りの便などでトラックの荷台が空いている輸送会社・運送会社の「車両情報」と、運びたい荷物があるが何らかの理由により車両手配ができず輸送が困難な状態に陥っている荷主の「貨物情報」を活用し、適切な配車手配を行うこと。
2:さまざまな業種、企業、人、機械、データなどがつながり、AIなどにより新たな付加価値や製品・サービスを創出し、生産性を向上させることにより、高齢化、人手不足、環境・エネルギー制約などの社会の課題を解決すること。これらを通じて、産業競争力の強化や国民生活の向上、国民経済の健全な発展を目指すこととしている。
3:トラック運送業界は、他業種に比べて女性の進出が遅れていたが、近年は、細やかな気配りや高いコミュニケーション能力、丁寧な運転など女性ドライバーならではの能力を評価する声が高まっている。このため、国土交通省は2014年、「トラガール促進プロジェクト」を立ち上げ、トラック運送業界における女性の活躍を促進するための取り組みを加速している。

 

(2)物流業界における労働の現状

 日本の一般労働者の標準労働時間は、一日8時間、週40時間である。経営者が、それ以上に従業員を就労させる場合には労働基準法36条に従い、三六さぶろく協定を締結しなければならない。同法では、限度基準告示によって月45時間、年360時間の所定外労働の上限が設定されている。また、同法の特別条項を締結した場合には、月80時間、年750時間の所定外労働が半年間可能となる。
 運輸労連に加盟する労働組合の三六協定をみると、一カ月当たりの所定外労働時間を81〜100時間としているところが35.9%、年間では1000時間を超えているところが52.5%となっており、一般の労働者よりも長い所定外労働が常態化していることが分かる。
 2019年4月1日に施行された働き方改革関連法では、一般労働者の残業時間が制限されたものの、自動車運送業に対しては猶予期間が設けられており、2024年4月に年960時間を上限とする罰則付きの時間外労働規制が適用される予定である。長時間労働が常態化している背景には物流業界における競争の激化、巨大プラットフォーマー(注4)の出現による取引慣行の悪化などさまざまな要因が指摘されている。
 しかし、政府も手をこまねいているわけではない。2019年に政府は荷物を大量に発送する荷主企業など6300社に対し、物流危機を是正する具体的な行動計画を作成・公表するよう要請した。現状を放置すれば、経済成長を阻害しかねないとみて異例の措置に踏み切った。また、2029年度末までの時限措置として「標準的な運賃」の告示制度を導入する計画で、労働条件改善・事業の健全な運営確保のため、国土交通大臣が「適正な原価および適正な利潤を基準として標準的な運賃を定め、告示する」としている。
 こうした政府の動きは一種の政策転換を意味している。1990年に物流二法が施行され、業界への参入を免許制から許可制に、運賃も認可制から事前届出制に変更された結果、2018年には事業者数は6万2000社超まで増えた。しかし、規制緩和は、過当競争、過剰サービス、安値受注を助長させ、ドライバーの長時間労働と低賃金をもたらし、労働力不足に拍車をかけ、物流の持続性が懸念される物流危機の遠因になったと言われている。
 一方、農業就業人口は、1970 年に1025万人だったが2019年には約168万人にまで落ち込んでいる(図1)。また、農業総産出額は1984年に11兆7000億円となった後、減少傾向にあり、2017年に9兆3000億円まで減少している。さらに、農業従事者の生産農業所得は1978年の5兆4000億円から、2017年には3兆7616億円と減少した(図2)。
 


 

  ホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」という)の内田会長は「今後、10年で運転手が18%不足すると言われており、自動運転システムの技術を借りないと消費地に安定供給できない」と危機感をにじませる。また、日通の竹津代表取締役副社長も「これまでもお客様企業と連携、協力し、さまざまな物流効率化に取り組んできたが、ドライバー不足は今後深刻化するのではないか」と危機感を募らせている。
注4:インターネット上でサービスを提供している企業
 

(3)物流業界が支える農畜産業の現状など

 北海道は、日本の農畜産物の一大産地であるが、例えば生乳、牛乳については北海道から都府県への移出が増えており、ドライバー不足や車不足でコストが高くなっていると言われている。また、野菜の分野でも秋冬における北海道産ばれいしょ、たまねぎの市場における占有率は高く、関東や関西、中京など遠方の消費地への輸送のみならず、道内における産地から消費地への輸送について同様の問題を抱えている。
 北海道開発局によると、北海道内間の農畜産物および加工品の輸送は大半(98.3%)がトラック輸送となっている。また、北海道から本州への移出は、57.3%がトラック・フェリーを利用しており、トラック輸送は重要な位置を占めている。このことからも、ドライバー不足の深刻化が道産農畜産物および加工物のバリューチェーンへいかに大きなインパクトを持つかが分かる(図3)。
 

 とりわけ、てん菜など季節繁閑が大きい農産物の物流上の課題を解決するためには、秋季における出荷調整などの自助努力だけではなく、情報共有化システムの構築などを通じ、より物流の高度化や自動運転技術の活用を通じた人手不足対策が求められている。
 安定的な輸送手段の確保が不安視されるなか、ホクレンは今年策定した第13次中期計画の重点方針の一環として、「販売に必要不可欠な安定輸送力の確保」を掲げた。「需要の季節変動の大きい農産物輸送では柔軟にドライバーを確保することが難しくなりつつあり、ドライバー不足が農産物の作付けの制約になりつつある」という農業関係者の証言から分かるように、持続可能な輸送ネットワークの再構築は待ったなしの状況と言えるのである。別の関係者からは、「輸入飼料の販売に当たり、港から現地への運搬代金が値上がりした。これはドライバー不足が主な原因とみられている。北米でもトラックへの電子運行記録装置(Electronic Logging Device:ELD)設置の義務付けという新しい規制が敷かれたことや、10時間以上の運転が禁止されていることから、配送業の値上がりが懸念されている」との声も聞かれている。

3 オープンイノベーションの実践 〜国内初の共同実証実験〜

 政府は成長戦略の一環として、他業種の知見やICT(情報通信技術)など日本の先端技術を活用して農業の産業化を実現するため、スマート農林水産業を推進している。生産現場におけるデータ活用は徐々に進みつつあるものの、第1次産業のバリューチェーン全体を俯瞰ふかんした場合、生産年齢人口の減少もあり農林水産物の輸送効率化は大きな課題となっている。長時間労働に代表される物流業界の構造的な課題を放置したまま単一の経済主体の効用のみを追及することは、根本的な解決にはつながらないことから、民間主導のオープンイノベーションの一例として、当社UDトラックス株式会社(以下「UDトラックス」という)、日通およびホクレンの3社は2019年7月に交わした合意に基づき、自動運転技術を使った大型トラックの実証実験をホクレン中斜里製糖工場の敷地内で実施した。これは、各経済主体単独による取り組みが業界の垣根を超えた有機的な連携の実現に至っていないのが現状であり、そのため、オープンイノベーションを通じ、業界の垣根を超え、幅広い知見や経験値などを集約することが不可欠になるものと考えられているためである。
 大型トラックがシステムのみで限定領域を走行する「レベル4」(注5)の実証実験を行うのは国内初となった。具体的には、8月29日に中斜里製糖工場周辺の公道から工場入口を経て、てん菜集積場と工場内加工ライン投入口へ横持ちする運搬ルートをレベル4自動運転技術を活用し、てん菜運搬業務について無人化の実験を行った、同実験では、当社の大型トラックをベースに開発された車両を使用し、RTK−GPS(注6)(リアルタイムキネマティック全地球測位システム)や3D−LiDAR、ミリ波レーダー、操舵アクチュエーターなどの自動運転技術を駆使し、およそ1.3キロの運搬ルート(公道、舗装道路および未舗装道路を含む)を時速20キロで自動走行した。なお、同実験は警察庁が定めた「自動走行システムに関する行動実証実験のためのガイドライン」の規定に基づき、車両にはドライバーが搭乗し、不測の事態に対する有人緊急操縦態勢を確保した上で実施した。さらに、独自の安全対策として、公道の使用部分を閉鎖し、実験中の構内走行に際しては、走行ルートと観覧席の間にブロックを敷設するなどの対策を講じた。同実験にはUDトラックスの酒巻孝光代表取締役社長、日通の竹津久雄代表取締役副社長、ホクレンの内田和幸代表理事会長、土屋俊亮北海道副知事などが列席したほか、約150人の経済産業省、国土交通省、農林水産省、北海道農業協同組合中央会(JA北海道中央会)や業界関係者などが臨席し、イノベーションを通じた社会課題の解決に対する関心の高さがうかがえた。
 酒巻社長は記念式典で、「人手不足という大きな社会課題に、業界の垣根を超えて取り組んでいかなければならないと痛切に感じている。今回、商用車メーカー、物流、農業が手を組み、そして、広大な農地を持つ北海道の協力を得て、実証実験を実現させることができた」と述べ、農業、物流、地域経済が抱える課題に向けて取り組んでいく決意を強調した(写真1)。
 

 この共同実証実験は、物流の省人化や効率化を通じ、物流業界が抱える課題を解決し、物流の持続可能性を高める一つのアプローチである。同実験により限定領域における自動運転技術の有用性を示したことから、人手不足に苦しむ業界関係者の間で実用化へ向けた期待感が高まっている。
注5:公益社団法人自動車技術会は、自動運動のレベルについて、レベル0(ドライバーがすべてを操作)、レベル1( システムがステアリング操作、加減速のどちらかをサポート)、レベル2(システムがステアリング操作、加減速のどちらもサポート)、レベル3(特定の場所でシステムが全てを操作、緊急時はドライバーが操作)、レベル4(特定の場所でシステムが全てを操作)、レベル5(場所の限定なくシステムが全てを操作)と6段階で定義している。
注6:4Gで受信するRTK基地局からの補正信号を使い、GPS衛星から得られる位置情報を補正することにより、誤差数センチメートルの精度を確保できる技術。悪天候や悪路などにおいてもより高い精度で自己車両の位置を測定するため導入された。

4 考察 〜社会的共通資本としての物流とAIの脅威〜

 北海道で行われた共同実証実験はその後、道内のみならず東北、関東、北陸、関西、山陰、四国や九州の新聞の地方版でこぞって報道されている(写真2)。このことは、少子高齢化に伴うさまざまな社会課題に直面する地方経済において「次世代技術を活用したイノベーションの潜在力」への期待感の高さの証左と言えるだろう。
 

 ここで重要なのは、電子商取引の普及に伴い圧倒的に利便性が高まった私たちの日常生活や経済活動を支えるため物流業界に過大な負担がかかっていることを認識するとともに、政官民が協力し、持続可能な社会的共通資本として再構築することである。なぜなら物流は、私有財産権、科学的合理主義、資本市場、通信とならび持続的な経済成長に不可欠な基礎的条件と位置付けられているためである。
 今回実施した共同実証実験は、物流を取り巻くバリューチェーンのユーザーであるホクレン、主要アクターである日通、そして物流を支えるツールを提供する商用車メーカーが協働し、先端テクノロジーを活用することで、農業から物流までより広範囲な社会課題の解決につながる一つの方向性を示すことができたことに大きな意義がある。
 特に、少子高齢化が急速に進展し、主要国のなかでは最も早く人口オーナス期(注7)に突入した日本では、人手不足の解消を短期的に見込まれることが困難であるため、先端技術などを活用し人間の機能や感覚を拡張し、個人のクリエイティビティを解放できるかが持続可能な社会実現のカギになる。
 一方で、AIなどの先端テクノロジーにシンギュラリティ(技術的特異点)が訪れ大量失業時代が到来する―とする「人工知能脅威論」は根強い。株式会社野村総合研究所は、英オックスフォード大学のマイケル A.オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究により、10~20年後に日本の労働人口の約49%が就いている職業において、人工知能やロボットによる代替が進むとした「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に~601 種の職業ごとにコンピューター技術による代替確率を試算~」と題する報告書を2015年に発表している。
 また、アクセンチュア(注8)が2018年に発表した日本を含む世界11カ国、1万527人の企業経営者や労働者を対象にした調査によると、57%の労働者はAIの重要性を認識しつつも、48%の労働者は「AIが雇用に脅威」となると回答している。
 3社が共同実証実験を実施した北海道において、当初、「将来ドライバーの仕事が奪われるのではないか」と不安視する声もあった。しかし、実験終了後には3社だけでなく、北海道庁、地元関係者や報道機関の間でも「イノベーションの持つ潜在力」を高く評価する声が相次いでいる。
注7:少子高齢化が進み、人口構成上、生産年齢人口(15歳以上65歳未満)に対するそれ以外の従属人口(年少人口と老年人口の合計)の割合が高まる時期。
8:アイルランドに登記上の本拠を置く、世界最大の総合コンサルティング会社

5 おわりに 〜誰も取り残さない持続可能な社会の実現へ向けて〜

 今般の共同実証実験の成果は単に技術的な検証が進んだという事実だけではなく、未知のものを恐れず、破壊的イノベーションであろうと運用を見誤らなければ、私たちの社会が直面する課題の解決する手がかりになるということを示せたことにあるのではないだろうか。
 そして、こうした意識変革の必要性は、物流業界だけではなく、停滞感の漂う幅広い産業において求められている。一方で、社会の受容性をいかに高めていくかは今後の課題である。例えば、政府の旗振りにも関わらずスマート農業の普及は端緒についたばかりだ。特に、スマート農業先進国であるオランダやイスラエルと違い、気候条件で土地の制約条件が低い日本においては初期導入コストの高さもあり、農業従事者にそのメリットが伝わりにくいのが現状である。実際、群馬県利根郡みなかみ町と株式会社日立システムズが2016年に発表した「農業ICTによる地方創生モデル」の官民共同プロジェクトは各方面の注目を浴びたが、これまでのところ目立った成果は出ていない。
 社会受容性はスマート農業に限った課題ではない。オランダのコンサルティングサービスKPMGが発表した「自動運転車対応指数2019」によると、イノベーションやインフラ整備が高い評価を受けたことで日本は第10位にランクインした。しかし、同社は、自動運転車の社会実装に向けて、厳しい規制や抵抗勢力など、今後日本が解決しなければならない課題は大きいと指摘している。今後、先端技術に対する不信感や不透明感を払しょくし、社会受容性を高めるためには、誠実で丁寧な情報発信を地道に行っていくことが大事になるだろう。
 最後になるが、物流や農業の業界課題を解決し、持続可能な社会を実現するためには、単一の経済主体の効用のみを目的とするべきではないと考える。このため、持続可能な開発目標の視点を取り込むことで、社会課題の解決のための方法論を検討する場合の基本方針としたい。
 国連は2015年9月、加盟国の全会一致により、「われわれの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択した。その中で、人間、地球、繁栄のための行動計画として掲げた目標が「持続可能な開発目標(SDGs)」の17の目標と169のターゲットで、わが国においてもSDGsとして定着しつつある。しかし、こうした目標やターゲットはSDGsアジェンダの宣言第4節にある「この偉大な共同の旅に乗り出すに当たり、われわれは誰も取り残されないことを誓う」とした世界を実現するための行動原則でしかないということを理解するべきだ。こうした理解に立つと、普遍的な価値観を大切にしつつも、これまでの常識に縛られず、協働・共創で活動を推進していく必要があることが分かる。
 今回、実施された共同実証実験を一つの事例として、「物流危機」の解消という利益を超えた目的を共有し、制約条件を生かし、先端技術を積極活用することで、社会課題の解決へ向けたユースケースとなる可能性を考察した。ただし、今回実証実験に参加した企業・組織は既存プレイヤーで構成されている。つまり既知の知見を集結することには一定の成果はあったが、未知の知見やアイデアを取り込むことはできていないことには留意が必要である。
 今後、破壊的イノベーションを恐れず、オープンイノベーションの範囲を拡大することでより広範囲な知見や経験値を取り込み、物流を再生し、持続可能なインフラとすることで、いかなる経済主体も取り残さない持続可能な社会につながっていくことを期待したい。