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海外情報 畜産の情報  2020年1月号

オランダ酪農乳業の現状と持続可能性(サステナビリティ)への取組み〜EU最大の乳製品輸出国の動向〜

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 オランダ酪農は、長い歴史と伝統を持ち、同国の最大級かつ最も重要な農業部門の一つとなっている。また、長い年月をかけて輸出志向のビジネスモデルを確立し、世界各国にバターやチーズなどを多く供給し、乳製品輸出大国の地位を確かなものとしている。一方、今後、国際市場が拡大していくとみられる中、同国の輸出拡大も期待されるものの、国土の狭い同国ならではの環境規制に阻まれ、増産は限定的とみられている。今後は、乳業と酪農家が一丸となって、さらなる生産性の向上などを図っていくとともに、酪農先進国として、国際社会に求められる持続可能性(サステナビリティ)の実現を最大の目標としている。

1 はじめに

 オランダの酪農というと、風車のある広大な牧草地に放牧されている乳牛の風景を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。現在では、それに加えて背の高い風力発電用の風車もみることができるが、特に放牧地に関していえば、基本的には変わらず、夏場には乳牛がのんびりと闊歩かっぽし、牧草を食べている。
 日本とオランダ酪農の交流の歴史は古く、日本最初の牛乳製造販売は、1863年に横浜にてオランダ人から搾乳や生乳処理の技術を学び開始されたともいわれている。その後も両国間の関係は続き、現在、オランダにとって日本は欧州連合(EU)域外では最大のチーズおよびバターの輸出相手国となっている。
 オランダ酪農の役割は、風車と放牧地の牧歌的な光景の提供だけではもちろんなく、同国の最大級かつ最も重要な農業部門の一つとして、同国経済に対して大きく貢献している。長い年月をかけて輸出志向のビジネスモデルを確立し、日本向けのチーズやバターのみならず、世界各国に乳製品を多く供給し、生乳生産量ではEU加盟国の中で4番手であるものの、EU最大の乳製品輸出国(EU域外向け)に君臨している。また、昨今では、責任を持って次世代にバトンをつなげる酪農部門とするため、酪農乳業全体が協力して国際社会からも求められている環境対策を含む持続可能性(サステナビリティ)に対し、積極的に取り組んでいるところである。
 そのような同国の酪農部門だが、10月に入ってから酪農家も含む国内畜産農家らが、大規模なデモを起こしている様子が一般紙などを賑わせている(写真1、2)。報道によれば、2019年10月1日、何千人もの畜産農家らは、窒素排出量削減のための環境対策として政府が検討する畜産農家の規模縮小も含めた気候政策に反対するデモを行うため、国会のあるハーグに向けてトラクターで移動し、同国史上最長となる合計1000キロメートル以上の交通渋滞を引き起こした。畜産農家らの主張は、窒素排出を含む環境問題に十分な理解はあるものの、その責任が他の産業などと比較して自分たちに不当に問われているというものなどである。過去に類を見ないこのようなデモは、その後複数回にわたって行われている。
 

 

 酪農先進国であり、乳製品輸出大国であるオランダの酪農が、今後どのように国際社会から求められる環境対策などをはじめとした持続可能性への取り組みを実践していくのか、多くの同国産乳製品を輸入する日本としても関心は高い。本稿では、そのような同国酪農乳業の現状などについて、現地調査の内容などを踏まえ、報告する。なお、本稿中の為替レートは、1ユーロ=122円(11月末日TTS相場:122.09円)を使用した。

2 酪農部門の位置付けと概要

 オランダは、九州とほぼ同程度の国土面積であるにもかかわらず、農畜産物輸出額が米国に次ぐ世界第2位である。限られた国土面積の中、全国土の半分近くを占める農地で、資本・労働集約型の施設園芸や酪農、畜産による高収益農畜産物の生産に特化し、その約7割を世界各国に輸出している。同国から日本向け農畜産物輸出額の最大は豚肉で、その次がチーズとなっている。
 世界第2位の農畜産物輸出額を誇るオランダの輸出力の背景には、立地的に欧州最大級の消費地であるドイツ、フランス、英国などといった国と距離が近いことが最大の要因としてある。また、それだけではなく、5億人を抱える単一市場であるEUを中心に農畜産物の4分の3ほどを無関税かつ検疫上の制約も少ない中で輸出できることも大きな強みである。さらに、ライン川河口部のロッテルダム港を通じた世界各国への海外輸送にも強く、加工貿易や中継貿易も多い。
 同国の酪農は、高収益生産物の代表として、効率的かつ集約的に行われている。同国の総農畜産物純生産額(2018年)のうち酪農部門が占める割合は17.4%と高い(表1)。また貿易額でみると、同国の総輸出額4959億ユーロ(60兆4998億円)のうち農畜産物は876億ユーロ(10兆6872億円)、乳製品は77億ユーロ(9394億円)となっている(表2)。一方、乳製品の輸入額は38億ユーロ(4636億円)であり、貿易収支は38億ユーロ(4636億円)の黒字である。

 

 

 ほとんどが家族経営である同国の酪農家は、北部から東部の多湿地帯に集中しており、約8割が夏場に放牧を行い、冬はサイレージで対応するという飼養方法である(写真3)。放牧は、持続可能な酪農生産を推進する一つであり、業界の取り組みとしてプレミアムを加算して生乳取引をすることとしている。搾乳の主流はミルキングパーラーによるもので、全体の70%を占める。一方、搾乳ロボットを採用する酪農家戸数は、2005年には全体の3%であったものの、2015年には21%と近年伸びており、他のEU諸国と比べて比較的普及している。
 

 また、最大の特徴といえる輸出志向のビジネスモデルは、150年以上の歳月をかけて確立された。国内市場が限られている中、輸出による事業拡大が必要であったが、特に冷蔵輸送技術の進展がその発展に寄与した。生産拠点である乳業工場は、2017年末時点で計53カ所あり、25の企業で構成されている(図1)。そのうち27カ所(5社)が協同組合である。2010年の酪農従事者は3万4900人、乳業従事者は9700人であったが、2016年は酪農で3万6100人、乳業で1万3000人と拡大している。
 

コラム1 EU酪農におけるオランダの地位

 オランダの生乳出荷量は、EUの中ではドイツ、フランス、英国に次ぐ4番目で、EU全体の9.2%を占める(コラム1−図1)。上位3カ国がいずれも人口6000万人以上の大国である中、オランダの人口は2000万人未満であり、人口対比でみれば生乳出荷量は比較的多い。酪農の歴史が古いだけでなく、伝統的なチーズ市開催時には国外からも観光客が押し寄せるなど同国の酪農イメージは強い(コラム1−写真1、2)。
 


 

 世界の乳製品輸出量に占めるEUの割合は大きく、その中で最大の輸出国(EU域外向け)はオランダとなっている(コラム1−図2)。国内市場が小さいため必然的に輸出割合が多くなるが、改めて輸出志向のビジネスモデルが特徴であることが分かる。なお、EUの中で比較的同じ傾向なのはアイルランドである。
 
 
 しかしながら、そのアイルランドと差があるのは、家畜の飼養密度である。欧州委員会の指標によると、オランダにおける1ヘクタール当たりの家畜数を示す家畜単位は3.8と、EU平均である0.8の5倍近くとなっている(コラム1−図3)。EU最大の生乳生産国であるドイツが1.1であることからも、オランダの家畜密度の高さが分かる。よって、土壌への環境負荷が高く、同国における環境政策の難しさが他のEU諸国と比べても際立つこととなる。

コラム1−図3の脚注を修正しました(2020.1.24)〕


 なお、同国最大の乳業メーカーは、協同組合のフリースランド・カンピーナ社である(コラム1−写真3)。オランダの農協系金融機関ラボバンクが発表した2018年の世界主要乳業メーカーの売上高ランキング(注1)では、世界第5位であり、世界各国の乳業が製品価格の低迷などの影響を受ける中、国内や米国などでのチーズ事業への投資などにより前年から順位を一つ上げている。同社は、売上高116億ユーロ(1兆4152億円)、グループ従業員2万3769人、組合員である酪農家戸数1万2104戸から、103億7500万キログラム(国内の7割強)の生乳を集乳している(2018年)。同社は、最大の企業目標の一つとして持続可能性への取り組みを掲げている。
注1:「ラボバンク、乳業メーカーランキング(2018年)を公表」(海外情報令和元年8月22日発)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002499.html

 

3 生乳価格、乳製品の国内消費と輸出

(1)生乳価格

 欧州委員会によると、2019年10月のオランダの平均生乳取引価格は、前月比0.7%安の100キログラム当たり34.75ユーロ(4240円)となった(図2)。EUの同平均価格と比較すると、1.1%高い。オランダの同価格は、EU平均同様に需給により変動するものの、おおむねEU平均を上回って推移している。これは、生乳の仕向け先にチーズなどの高付加価値製品が多いことなどによる。
 
 
 オランダ農業園芸組織連合会(LTO)によるEU乳業別の同価格の比較によれば、オランダ最大手のフリースランド・カンピーナ社はEU中第3位の高価格となっている(表3)。また、第5位に同国のロイヤルAウェア社も入っている。
 
 

(2)乳製品の国内消費

 オランダは、伝統的に乳製品を多く消費する国の一つである。1人当たりの年間消費量は、飲用乳こそ42.0キログラムとEU平均(60.7キログラム)を下回るものの(日本の1.4倍の消費量)、バターは4.0キログラムとEU平均の1.1倍(日本の6.7倍)、チーズは21.7キログラムと同1.2倍(同9.0倍)となっている(表4)。1人当たり年間乳製品売上高も、824ユーロ(10万528円)とEU平均(327ユーロ(3万9894円))の2.5倍となっている(図3)。
 

 
 

(3)乳製品の輸出

 2018年の乳製品総輸出額は、前年からおよそ2%減の約77億ユーロ(9394億円)となった。生乳の減産に伴う乳製品生産量減のほか乳製品国際価格の下落などが要因だが、乳製品国際市場を全体的にみれば、アフリカや東南アジアなどの経済成長や人口増加などを背景として、需要は高まる傾向にある。
 生産された牛乳・乳製品の3割強がオランダ国内で消費され、それ以外が国外に輸出される。ドイツ、ベルギー、フランスといったEU域内にそのうち約7割、中国、日本、韓国などEU域外に約3割が輸出される(図4)。輸出額ベースを見てもオランダの最も重要な輸出先はEU域内で、2018年のEU域内輸出額は約57億ユーロ(6954億円)と輸出額の約4分の3を占め、域内輸出先上位3カ国のドイツ、ベルギー、フランスのみで域内輸出額の7割を超える(図5)。なお、全世界におけるオランダ乳製品輸出量の割合(2018年)は5.0%を占める。これは、ニュージーランド、米国、豪州、ベラルーシに次ぐ世界第5位である(コラム1−図2)。
 
 

 業界関係者に、このようなオランダ乳製品輸出の強みについて聞くと、その一つに業界団体の支援活動があった。乳業、貿易事業者らが乳製品を輸出する際には、輸出相手国ごとの特定の検疫上の課題に直面することが多い。そのような時に、オランダでは、乳業団体と生産者団体が共同で設立した酪農乳業チェーン協会(ZuivelNL)の専門部署が、同課題に対する政府との調整を担う。これは、乳業、貿易事業者らの円滑な輸出が、同国酪農部門全体の利益につながるとの考えから行われている。同国の乳製品輸出の強さは、このような業界団体の活躍に支えられている。
 なお、オランダ乳業、貿易事業者らに話を聞くと、一様に日本市場を有望な市場として挙げる。日EU経済連携協定(EPA)による効果はもちろんのこと、特に日本市場においてチーズ消費が増えていることに着目し、輸出拡大に期待している。欧州地域はすでに成熟市場であり、日本も含めた新たな地域への輸出拡大は、輸出志向の同国にあっては、最大手のフリースランド・カンピーナ社にとっても、国内中小乳業、貿易事業者にとっても、最大の関心事項の一つである。

コラム2 クラフトマンシップのチーズメーカー、日本市場を目指す(カースラスト(Kaaslust)社)

 オランダの中堅チーズメーカーの輸出への取り組みなどについて紹介する。
 ドイツとの国境に近いオランダ北東のフェーンハイゼンに工房と直売所を構えるカースラスト(Kaaslust)社は、2010年にヤン・クラーンス氏が創業、息子であるアンドレ氏とともに、こだわりのある有機を主としたゴーダチーズを製造・販売している(コラム2−写真1〜8)。2019年4月に工房からほど近い場所で新工場が設立、稼働したことから、生産量は、1週間当たり4500キログラムに拡大した。工場の生産能力にはまだ余力があり、今後さらなる増産も予定している。
 
 
 

 
 

 

 

 

 洗練され、かつ、どこか温かみを感じる外観と内装を備えた直売所併設のチーズ工房は、1823年に設立されたチーズやバターなどを製造する酪農施設を改修したものである。同敷地内には他社が経営する醸造所があり、地方行政の地域振興の一環として、チーズ製造販売だけにはとどまらず観光施設としての機能(ビール、チーズの直売および飲食、工房見学やチーズ作り体験のワークショップなどの実施)も担っている。
 チーズ製造に際しては、市場のニーズに応え、より品質の高いものを提供したいとの思いから、4年前から有機のものも取り入れた。また、生乳は、主に100%牧草飼養された近隣の酪農家から集荷している。乳牛の品種はモンベリアードが主で、含有される乳脂肪率、たんぱく質率が高く、高品質なチーズ作りへのこだわりのためだという。現在、25種類前後のチーズを製造しており、熟成期間が4週間程度のものから36カ月という長期のものや、看板商品であるビールかす(隣接の醸造所のもの)、海藻、バジル、ガーリック、クローバー、サフラン入りのもの、羊、山羊、水牛の乳を使用したものもある。クアトロチーズという牛、羊、山羊、水牛の乳を混ぜた珍しいゴーダチーズも販売している。
 現在は、直売所での販売のほか、オランダ、フランス、ドイツなどの有機食材取扱店やチーズ販売店や高級レストラン、米国などとなっている。国際的な農畜産物・食品の見本市への出展も積極的に行うなどして、新たな販路拡大を目指している。現時点では、日本向け輸出実績はないものの、チーズ市場が拡大傾向にある日本に対して、品質の高さを強みとして、近い将来には輸出を実現したいと計画している。
 同社は、信念として「職人の技術(クラフトマンシップ)」を大切にしたいとし、製造がオートメーション化されたゴーダチーズが多く国際市場に出回る中、手作業にこだわることによって差別化を図り、クラフトマンシップの思いを込めて製造した高品質でよい自分たちのチーズを、日本をはじめ世界各国の人に食べてもらいたいとしている。

4 環境対策の影響を受ける生産基盤

(1)飼養頭数・酪農家戸数

 オランダでは、環境対策(注2)の一環として、2016年から2017年にかけて、飼養頭数削減、営農中止、飼料中のリン酸塩削減が求められた結果として、総飼養頭数の1割を超える経産牛13万頭、子牛を含む未経産牛15万頭が淘汰とうたされ、約600戸が営農を中止した。
 その後も経産牛飼養頭数は減少傾向にあり、2018年4月1日時点では前年から7万2000頭が減少し、前年比4.3%減の162万頭となった(図6)。直近の2019年同時点では同2.4%減の158万頭と、さらなる減頭が進んでいる。また、2018年の酪農家戸数は1万6963戸で、前年比6.1%減少した。この結果、1戸当たりの飼養頭数も、2016年の160頭をピークに、2017年が156頭、2018年が153頭と2年連続して減少している。
 

 酪農の構造的発展は、長期にわたり戸数減少と継続的な規模拡大によって特徴付けられてきたが、近年は環境規制により変化が生じている。
注2:環境対策として、酪農部門では、飼養頭数削減、営農中止、飼料中のリン酸塩削減の三つの柱からなるリン酸塩排出削減計画が実施された。
   「家畜由来のリン酸塩排出量、EU基準を下回る(オランダ)」(海外情報平成30年1月26日発)
   
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002124.html
 

(2)生乳出荷量など

2018年の生乳出荷量は、飼養頭数の減少に伴って前年より2.9%減少し、1388万トンとなった(乳脂肪含有率は4.37%、乳たんぱく質含有率は3.56%)(図7)。生産基盤は、2015年3月末の生乳生産割当制度(生乳クオータ制度)の廃止で拡大が強まったものの、環境対策の必要性から直近2カ年は減産が続いている。
 
 
 一方、酪農家はそのような状況に対応するため、乳牛1頭当たり乳量の増加に努め、生産量の減少幅を小さくしている。2018年の乳牛1頭当たり乳量は、前年より1.4%増加し8684キログラムとなった。2010年時点では8000キログラムであったが、育種改良とともに酪農家が高品質の濃厚飼料を使用し、改善している。なお、乳牛1頭1日当たりの平均飼料摂取量は、粗飼料が55キログラム、濃厚飼料が5キログラムなどとなっている(表5)。濃厚飼料の内訳は、トウモロコシが25%、大豆15%のほか、かんきつジュースかす、パーム核油かす、なたね油かす、ビートパルプ、小麦、エコフィードとなっている。
 
 
 なお、生産された生乳の仕向け先はチーズが最大で55%、次いで全粉乳9%となっている(2018年)(図8)。また、近年需要が高まっている有機(オーガニック)(注3)の生乳は、生産量全体の1.8%(2017年)となっている。
注3:「EUにおける有機(オーガニック)農業の現状〜高まる有機志向〜」(「畜産の情報」2019年11月号)
   https://www.alic.go.jp/content/001170064.pdf

 

5 持続可能性に対する取り組み

 オランダの酪農部門は、伝統ある自国の酪農部門を、責任を持って次世代につなぐものとするため、政府、乳業、酪農家、その他研究機関などのあらゆる関係者が一体となって、持続可能性へのさまざまな取り組みを実施している。
 同取り組みは、生産者団体であるオランダ農業園芸組織連合会(LTO:Land- en Tuinbouw Organisatie Nederland)と乳業団体であるオランダ乳業協会(NZO:Nederlandse Zuivel Organisatie)が中心となり、業界の活動を継続的に支援している。「持続可能な酪農乳業チェーン」を取組目標として、次の四つの目標を策定している。各目標に対して、2020年までに達成すべき具体的な目標と達成のための方法を定め、その達成状況について「達成済」「計画通り」「やや遅滞」「遅滞」と四つのステータスに分けた年次報告書を公表しており、2017年実施分の報告書では、主に次の通り達成状況などを公表している(表6)。
 
 

(1)気候に影響を与えない開発

 2020年までに温室効果ガス排出量20%削減、総エネルギー生産の16%を再生可能エネルギーにすることなどを目標とするも、温室効果ガスは1990年比5%削減、再生可能エネルギー生産は3.8%と、いずれも「やや遅滞」。年間2%のエネルギー効率の改善は「達成済」も、温室効果ガス排出量削減のための酪農家の支援ツールの開発や、さらなる太陽光パネルへの投資などが必要。
 

(2)アニマルウェルフェア(動物福祉)の継続的な改善

 責任ある抗生物質の使用、乳牛の平均寿命の6カ月延長、アニマルウェルフェアの向上を目標とする中、抗生物質はすでに99.5%以上が基準値であり「達成済」、アニマルウェルフェアの向上も「計画通り」。一方、平均寿命については、リン酸塩排出削減計画により乳牛の淘汰が進んだことから「遅滞」。
 

(3)放牧の維持

 放牧の実施率を2012年水準である81.2%を維持することを目標としている中、支援団体の活動もあり、80.4%と「計画通り」。なお、すべての乳業は放牧に対するプレミアム分を支払い、財政面から酪農家を促進することとしている。なお、放牧は、年間120日間以上、1日6時間以上が必要。
 

(4)生物多様性と環境の保護

 リン酸塩、アンモニアの排出量を環境基準にとどめるほか生物多様性の保護を目標とする中、リン酸塩は「計画どおり」だが、アンモニアは「遅滞」。生物多様性の維持については、一部で「達成済」も、「やや遅滞」とする項目もあり、業界全体での取り組みが必要。

コラム3 フリースランド・カンピーナ社、再生可能なチーズ用包装の導入

 フリースランド・カンピーナ社は、新たに再生可能なチーズ用包装を導入し、主力製品のプラスチック使用量の30%、年間30万キログラム以上の削減を達成したと自社のウェブサイトで発表した(コラム3−写真)。
 

 同社は、大手乳業として持続可能性の取り組みを主導し、2025年までにすべての包装を再生可能なものにすることを目標としている。同社担当者は、「われわれは、再生可能なチーズ用包装により環境負荷の大幅な低減に成功したことを誇りに思う」とし、「ほとんどのチーズ用包装は異なる種類のプラスチックを素材としており、再生不可能である。われわれの新しいチーズ用包装は、分別および再生可能な素材であるポリプロピレンを使用しており、例えば、極端な例としては掃除機に生まれ変わらせることができる」という。同社は、国内外の政府、企業らと協力し、さらなる持続可能性を追求している。

6 おわりに

 オランダ酪農部門は、長い年月をかけて国内市場に頼らない輸出志向のビジネスモデルを確立させ、現在の乳製品輸出大国の地位を築いた。集約化された同国の酪農部門は、多くのお手本とされ、世界各国からの視察者は後を絶たない。
 そのような同国の酪農部門だが、冒頭に記した大規模なデモは、少しだけそのイメージを変えたのではないだろうか。オランダの酪農部門は今、直面する環境問題に業界関係者が一丸となり、懸命に立ち向かっている最中にある。国際社会が求める環境問題も含めた持続可能性に対し、酪農先進国として、責任を持って次世代にバトンをつなぐためにも、業界全体で正面を切って対応している、その一面であると考えている。
 今回、多くのオランダ酪農乳業関係者から話を伺ったが、ほとんどの者が持続可能性に対して自分たちがすべきことについて熱を込めて語っていたのが印象的であった。余談だが、フリースランド・カンピーナ社の日本市場担当者が、建物2階にある会議室へ案内してくれる際、エレベータを使わずに、受付から2階へと続く長い階段へと導いてくれたが、一気に駆け上がろうとしたその時、振り向きざまに、「サステナビリティ!」と明るくその理由を説明してくれた。同社では上下2階以内の移動にはエレベータは原則使用禁止としているとのことであった。
 オランダ国内には、25の乳業と多くの貿易事業者がおり、それぞれ個々の利益のために事業活動を行っているが、こと持続可能性についてとなると、主語は各所属によらず「オランダ酪農部門全体」となり、国内業界関係者の強い協力体制を感じることが多々あった。ある乳業団体も、自分たちの最大の強さは部門全体の強い結束にあり、EUの中でも農業環境面でいえば決して恵まれた国ではないながらも、長い年月をかけて乳製品輸出大国となり得た理由も、それと同じように、目先の利益にとらわれることなく、自国の酪農部門全体の成長を考え、協力してきたことによるという。
 オランダが環境問題を避けることは不可能であろう。そして、酪農部門の重要性が変わることもないであろう。今後は、これらの課題に業界が団結して対応しながらも、生産基盤の拡大は容易ではないものの、生産性や品質の向上にはますます力が注がれ、持続可能性の取り組みの面で世界をリードしながら、国際市場で変わらぬ存在感を保つであろうと考える。酪農家のほとんどが家族経営でありながらも、業界が一丸となって力強い活動を続けるオランダ酪農からは、条件の違いはあれど、日本の参考になることも少なくないと感じた。
 今回、「オランダ酪農乳業の現状と持続可能性への取り組み」と題した報告であったが、現状も持続可能性への取り組みもまさに今が過渡期にあり、今後も情報収集をしていく必要があると考えた。責任を持って次世代にバトンをつなげたいとするオランダ酪農乳業界と、わが日本酪農乳業界の根本にあるものは、そう違わないのではないだろうか。
 
(大内田 一弘(JETROブリュッセル))