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特集:海外の持続可能な畜産における取り組み〜環境への配慮、規制の取り組みや課題〜 畜産の情報 2020年2月号

オランダ養豚における家畜排せつ物処理の取り組み〜持続可能な養豚のために〜

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調査情報部 前田 絵梨、石井 清栄
【要約】
 オランダは家畜の飼養密度が高く、国土面積当たりの家畜排せつ物の発生量も多い。家畜排せつ物のほとんどはオランダ国内の農地に施用されており、施用量が農地にとって過剰になると地下水や地表水に流出するため、環境保護の観点から家畜排せつ物処理は注意を払うべき事柄となっている。
 オランダ政府は、循環型農業への移行を進めており、家畜排せつ物は、農地を豊かにし化学肥料との置き換えができる有用な物質と認識され始めている。同国の養豚生産者は、農地を所有していないことが多いため、費用をかけて排せつ物を処理しているが、バイオガスプラントによる排せつ物処理など新たな取り組みが始められている。

1 はじめに

 オランダは面積が九州ほどの小国であるが、輸出額ベースでは米国に次ぐ世界第2位の農産品輸出国であり、家畜の飼養頭数も多い。家畜の飼養密度に関しては、EU28カ国の平均0.8LSU(注1)に対し、オランダは約5倍の3.8LSUとEUで最も高い値となっている。飼養密度が高いため、国土面積当たりの家畜排せつ物の発生量も多い。オランダでは、発生する家畜排せつ物のほとんどが国内の牧草地を含む農地に散布されているが、特定の地域では、集約的な家畜生産により、地域の農地に散布できる以上の量の家畜排せつ物が発生している。家畜排せつ物に含まれる窒素やリン酸塩は、化学肥料にも含まれるものではあるが、農地への施用量がその農地にとって過剰になると、地下水や地表水に流出するため、環境保護の観点から家畜排せつ物の処理は注意を払うべき事柄となっている。
 オランダでは、他のEU加盟国同様、EUが定める「硝酸塩指令(1991年:91/676/EEC)」、「総合汚染の予防と制御に関する指令(1996年)」「水枠組み指令(2000年)」といった環境規制に従い、環境政策が取られている。
 現在オランダでは、特に窒素の排出が課題となっているがオランダの窒素の排出量の4割は農業由来とされ、政府は、窒素排出量削減のための環境対策として畜産生産者の規模縮小も含めた政策を検討している。
 オランダではこの数十年、環境上の観点から家畜排せつ物は否定的な評価を受けてきた。しかしながら、現在、家畜排せつ物は、農地を豊かにし、化学肥料との置き換えができる有用な物質と認識され始めており、関係者の捉え方も変わってきている。こうした中で、オランダ政府は、従来型の農業を循環型農業に移行することが持続可能な発展につながるとして、家畜排せつ物やその処理を農業サイクルの一環としてとらえることが重要としている。
 本稿では、オランダにおける環境規制なども含めた現在の家畜排せつ物の処理方法や、持続可能な養豚生産のために排せつ物にどのように向き合っていくのかといった今後の展望などを、2019年10月に実施した現地調査を踏まえて報告する。なお、本稿の為替レートは、1ユーロ=124円(2019年12月末日時点)とした。

注1:家畜単位(LSU)とは、家畜の飼養密度を表す指標として用いられる係数で、2歳以上の雄牛:1.0LSU、1歳以上2歳未満の牛:0.7LSU、体重50キログラム以上の繁殖雌豚:0.5LSU、体重20キログラム未満の子豚:0.027LSU、他の豚:0.3LSUなどとなっている。

2 オランダ養豚の概要

(1)生産動向など

 オランダは、EUで第6位の豚肉生産国であり(2018年、153万5920トン(枝肉重量ベース)(欧州委員会)、EU域外向けの輸出量でみると、EUで第4位の豚肉輸出国となっている(2018年、製品重量ベースで24万2039トン(欧州委員会))。また、オランダの農業大学であるワーヘニンゲン大学のデータによると、オランダは自国の消費量を超える数量をEU域内外に輸出している純輸出国であることが分かる(表1)。
 
 
 オランダ中央統計局(CBS)によると、2018年の養豚生産者数は4185戸、飼養頭数は1243万頭となっている(図1)。養豚は主に国の南部および東部で営まれており、オランダの全飼養頭数の48%に当たる595万頭が南部の北ブラバント州で飼養されている(図2)。
 



 

(2)豚生産権の概要

 オランダでは、1998年に「豚生産の再編法(Wet herstructurering varkenshouderij (Whv))」が制定され、豚生産権の保有を義務付ける制度が導入された。
 豚生産権は、作物に吸収されなかった排せつ物の土壌や水源への流入による環境汚染を防止するために飼養頭数を制御し、発生する排せつ物を管理することなどを目的としたものである。
 豚生産権の算出に当たっては、養豚生産者の飼養頭数に豚生産権を確定するための係数(種別、生体重、生育期間などによる区分に応じた水準を設定)を掛けて行う。
(算出例)
 ・生体重約25キロの肥育豚を1頭飼養する場合の豚生産権の算出方法
 1頭×係数1VE(豚生産権の単位)=1VE
 上記の豚を3頭飼養した場合、3VEとなり豚生産権が発生する。
 ・生後6週間の子豚がいる繁殖豚を1頭飼養する場合の豚生産権の算出方法
 1頭×係数1.97VE=1.97VE
 上記の豚を2頭飼養した場合、3VE以上(3.94VE)となり豚生産権が発生する。
 ・生後6週間の子豚(肥育向け)を1頭飼養する場合の豚生産権の算出方法
 1頭×係数0.36VE=0.36VE
 上記の豚を9頭飼養した場合、3VE以上(3.24VE)となり豚生産権が発生する。
1998年に養豚生産者には、1995年または1996年の養豚生産者の飼養頭数(生産者は95年または96年の飼養頭数を選択することができる)の85%に相当する豚生産権が割り当てられた。
 さらに、2000年に豚生産権は1998年の豚生産権を基準に、その10%が削減された。
 一度に3VE以上の豚を飼養する場合には、豚生産権の取得が必要である。養豚生産者は、各自、所有する豚生産権に応じた頭数を上限に豚を飼養している。
 なお、豚生産権は売買(移動)することができるが、例えば養豚の密集地域(注2)間では、豚生産権を売買(移動)することができない。ただし、排せつ物を自ら処理する場合などには特例が適用される。

注2:オランダ政府は、生産地域を、養豚の密集地域である南部地域と東部地域、密集していないその他の地域の三つに区分している。

3 オランダにおける家畜排せつ物に関する政策

(1)オランダにおける環境規制

 オランダの家畜排せつ物に関する政策は、肥料法(Meststoffenwet)および土壌保護法(Wet Bodembescherming)の肥料施用に関する法令(Besluit Gebruik Meststoffen)に基づいて行われている。
 肥料法は、肥料の施用基準に関する規定、家畜排せつ物の加工などに関する規定、ならびに肥料成分などに関する規定を定めている。同法は、窒素とリンの環境放出の削減を目的としており、少なくとも5年に1度は同法の有効性などについて評価が行われている。
 オランダの家畜排せつ物に関する政策は、EUの硝酸塩指令に基づくものである。EUでは、1960〜70年代にかけて家畜の多頭飼育が始まり、それにより水質汚染などの環境問題が発生したことで規制が整備されてきた。家畜排せつ物に含まれる硝酸塩は水質汚染を起こしやすいことから、1991年に硝酸塩指令が定められた。
 オランダでは、硝酸塩指令に基づく「オランダ行動計画」の中で、家畜排せつ物の農地への施用に関して定めており、家畜排せつ物の施用基準や家畜排せつ物を散布できる時期が決められている。
 家畜排せつ物由来の窒素(N)施用量は硝酸塩指令に基づき、1ヘクタール当たり年間170キログラムとなっている。ただし、許可を受けることにより同230または同250キログラムまで散布ができる。
 なお、オランダは独自に、窒素およびリン酸塩の総施用量(家畜排せつ物由来および化学肥料由来の合計施用量)の基準値を定めている。窒素(N)については1ヘクタール当たり385キログラムを最大値とし、土壌別(5種)および作物別など(150種類以上)に細かく上限を設定している。リン酸塩(P2O5)については、同100キログラムを最大値とし、草地および耕作地について、それぞれ土壌中の利用可能なリン酸塩の量に応じた3種の区分を設けて上限を設定している。
 家畜排せつ物が農地へ施用できる期間は限られており、例えばスラリー状の家畜排せつ物を散布できる期間は、草地の場合は2月16日〜8月31日、耕作地の場合は2月16日〜9月15日(一定の条件あり)となっている。なお、土壌が凍結または雪に覆われているときは施用が禁止されている。
 畜産生産者は、自ら所有する農地に施用できる量を上回る家畜排せつ物(余剰家畜排せつ物)が発生した場合は、余剰家畜排せつ物の一部を原則、輸出を前提として加工しなくてはならない(家畜排せつ物加工義務)。生産者は、余剰家畜排せつ物に、毎年、政府が決める割合を掛けて算出した数量(リン酸塩ベース)を、加工する必要がある。政府の決める割合は地域ごとに異なっており、三つの区分がある。養豚の密集地域である南部地域および東部地域の割合は高くなっており、2019年については、南部地域では余剰家畜排せつ物の59%を、東部地域では52%を加工しなくてはならない(表2)。なお、家畜排せつ物加工義務は、畜産生産者間で取引することが可能となっている。
 
 

(2)循環型農業への移行と家畜排せつ物の位置付け

 現在、オランダでは、政府主導の下で循環型農業への移行が始まっている。オランダ農業・自然・食品品質省は、2018年9月に農業・自然・食料:その重要性と関連性 循環型農業のリーダーとしてのオランダ「Landbouw, natuur en voedsel:waardevol en verbonden Nederand als koploper in kringlooplandouw」と題して、循環型農業に関するビジョンを示した。その中で、同省は、「オランダは国連が発表した持続可能な開発目標(SDGs)に完全に賛同している」とし、「将来の食料供給を確保する唯一の方法は循環型農業への移行である」としている。そして、循環型農業では、畜産が効率的な資源の利用という観点において重要な貢献を果たすとしている。
 循環型農業への移行は、消費された資源を再利用することなく直線的に廃棄してしまう「直線型(リニア型)」の消費サイクルから、再利用するという「循環型(サーキュラー型)」の消費サイクルに移行していくという考えに基づくものである。家畜排せつ物や農業由来の廃棄物などの有機肥料は、資源を再利用するという観点から、循環型農業の促進につながる重要な資源である。
 循環型農業では、家畜排せつ物は、家畜と耕作農家を結ぶという重要な役割を担うとされる。また、家畜排せつ物は大量に発生していることから耕作農家などが利用する機会を得やすいという利点もある。
 また、オランダ政府は、同ビジョンの中で、「土壌は循環型農業の土台となるものである」また、「加工処理された家畜排せつ物を施す一方で、化学肥料を着実に減らすことにより、耕作地と牧草地に作物残さ(農業由来の廃棄物)や家畜排せつ物を基にした良質な有機肥料が施される。これにより、現在はまだ重要とされる化学肥料の役割を確実に小さくしていくことができる」としている。
 現在、オランダでは、こうした取り組みが、農業分野をはじめ、酪農・畜産分野の持続可能性向上につながっていくと考えられている。
 なお、EUもSDGs達成に向けた取り組みを強化しており、欧州委員会は、「2030年までに持続可能な欧州へ(2019年1月30日)」と題した考察文書を発表している。環境や気候への影響を抑え、持続可能な方法で経済成長を継続しつつ生活水準を向上させるためには、さらなる原料や製品の再利用、修理、リサイクルを促すような新設計が必要であるとし、資源の再利用やリサイクルを通し、有効活用することで資源を持続可能な形で循環させ経済成長を目指す「循環型経済(Circular Economy)」の重要性に言及している。

4 オランダにおける家畜排せつ物発生量および処理方法

(1)オランダで発生する家畜排せつ物の量

 オランダでは、年間約7620万トンの家畜排せつ物が発生する。発生量が最も多いのは牛由来で家畜排せつ物全体の8割を占め、豚由来の排せつ物は1割強(約1000万トン)を占める(図3)。
 発生する家畜排せつ物のうち68%(約5230万トン)は、家畜生産者が所有する農地に散布されるか近隣で処理されている(図4)。残りの24%(約1800万トン)は、オランダ国内に輸送され、8%(約590万トン)が肥料としてオランダ国外に輸出されている。
 




  家畜排せつ物の処理方法は、畜種によって大きく異なる。牛の生産者の多くは牧草地を所有していることから、排せつ物のほとんどを所有する農地に散布している。一方、養豚生産者の多くは、農地を所有していないことから、散布することができないため、養豚由来の排せつ物は、散布が可能な耕作農家や十分な農地を所有する畜産生産者で散布されるケースが多い。なお、家畜排せつ物を農地に直接散布する場合は、インジェクション方式(地中に直接注入する)による散布が義務付けられている(写真1、写真2)。
 
  
スラリー状の家畜排せつ物が入ったタンクとインジェクターをトラクターでけん引し、インジェクターで土中に家畜排せつ物を直接注入する。
 

(2)家畜排せつ物処理に係る費用

 ワーヘニンゲン大学の報告書「Livestock Manure Treatment Technology of the Netherlands and Situation of China」によると、畜産生産者が所有する農地に散布できない余剰家畜排せつ物の流通には、「余剰家畜排せつ物を発生させる家畜生産者」「家畜排せつ物の運送会社」「家畜排せつ物を受け入れる生産者(耕作農家や十分な農地を有する家畜生産者)」が関わっている。
 また、ワーヘニンゲン大学によると、2019年の家畜排せつ物処理に係る費用については、畜産生産者は、運送会社に1トン当たり10〜25ユーロ(1240〜3100円)を支払い、家畜排せつ物を引き取ってもらうとのことである。運送会社は、家畜排せつ物を受け入れる生産者に、同3〜10ユーロ(372〜1240円)を支払っている。加工していない家畜排せつ物を輸送できる距離は150キロメートル程度であり、輸送距離(20〜150キロメートル)によって異なるものの、輸送コストはおおよそ同5〜15ユーロ(620〜1860円)程度になるとみられる。
 オランダ環境評価庁(PBL)が作成した2016年の「肥料法評価報告書(2017年3月30日)」によると、畜産生産者における家畜排せつ物処理コストは高く、特に農地を所有していない豚の生産者のコストが高くなっている。
 同報告書によると、平均的な養豚生産者の年間排せつ物処理費用は、1戸当たり4万ユーロ(496万円)以上(2015年)となり、経営規模拡大により農場当たりの処理コストが増加している。なお、酪農については、同6000ユーロ(74万4000円)(2016年)であった。その一方、耕作部門全体でみると、家畜排せつ物の受け入れにより、2013〜2015年の間に同部門全体で年間約2億ユーロ(248億円)の追加所得が生まれたという。この追加所得の4分の3以上は、化学肥料の購入を減らしたことによるコスト削減によるもので、残りの4分の1は、家畜排せつ物供給者(運送業者や畜産生産者)からの受け入れに対する支払いによるものだという。
 他のEUの主要豚肉生産国と比べても、オランダの養豚生産者の排せつ物処理に関するコストは高く、枝肉1キログラム当たりの排せつ物処理コストは、他の主要生産国が1〜3セント(0.01〜0.03ユーロ)(1.24〜3.72円)台であるのに対し、9.2セント(0.092ユーロ)(11.408円)となっている(図5)。なお、オランダの養豚生産者の生産コストは同1.60ユーロ(198.4円)で、生産コストに占める排せつ物処理コストは6%となっている。オランダの養豚関係者は、排せつ物の処理コストの低減のために、排せつ物に付加価値を付ける取り組みが必要だとしている。
 
 

(3)一般的な家畜排せつ物の処理方法

 前述の通り、オランダにおける主な家畜排せつ物処理方法は、農地への直接散布であるが、オランダ国内の()(じょう)に直接散布できる数量には上限がある。また、スラリー状の家畜排せつ物は、輸送距離が短く、衛生面での制約があることから、オランダ国内に施用できない家畜排せつ物を輸出するためには、加工処理をする必要がある。なお、肥料の輸出の際には、水分含有量が少ないこと、また栄養レベルの向上もポイントとなる。加工処理された家畜排せつ物は、肥料としてオランダ国外に輸出されており、最終的に利用される作物や土壌によって、加工処理は異なり、さまざまな処理が行われている。
 家畜排せつ物処理の方法としては、バイオガスプラントによる処理(コラム1)やミネラル濃縮物の製造(写真3、写真4)、焼却、堆肥化(写真5)、造粒および生物学的処理が行われている。
 
  



 
 バイオガスプラントによる処理については、密閉した発酵槽で家畜排せつ物を嫌気性処理(注3)によるメタン発酵でバイオガスを生成し、これを精製して家庭や企業に供給、またこれを燃焼させることによる熱利用や発電が行われる。処理の過程で生じた消化液は、肥料として利用される。
 また、加工処理の一つに、NK肥料と呼ばれるミネラル濃縮物の生産がある。この加工処理は、家畜排せつ物の固液分離、ろ過、逆浸透といった技術を組み合わせ、化学肥料との置き換えができる濃縮物を生産することである。家畜排せつ物やバイオガスプラントで生産された消化液を、まず、固形分(20%)と液体分に分離し、液体分を逆浸透膜で処理し、ミネラル濃縮物(NKミネラル)(30%)と水分(50%)に分離する技術である。
 硝酸塩指令では、家畜排せつ物由来のミネラル濃縮物は、化学肥料と同等の扱いにはなっていない。現在、ミネラル濃縮物を農地に散布する場合、家畜排せつ物由来の窒素施用量に含まれるが、ミネラル濃縮物が化学肥料と同等の扱いになれば、実質的に、オランダ国内の農地に散布できる家畜排せつ物の量が増えることになる。オランダは、ミネラル濃縮物の試験プロジェクトでミネラル濃縮物の科学的な分析も行っており、ミネラル濃縮物を化学肥料と同等に扱われるようにしてほしいと欧州委員会に働きかけている。

注3:酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性菌の代謝作用により、有機物をメタンガスなどに分解する生物学的処理方法。

コラム1 HoSt社のバイオガスプラントによる家畜排せつ物処理

 オランダでは、2009年のEUの「再生可能エネルギー促進指令(2009/28/EC)」(注1)により、2020年度までに最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を14%(目標)とすることが課せられている。オランダ政府としては、これを促進するため「再生可能エネルギー促進補助金」(SDE+)制度(注2)を実施している。
 こうした中で、今回訪問したオランダ最大のバイオエネルギーシステム供給業者であるHoSt社のバイオガスプラント(オランダ北東部の2カ所MARRUM(マルム) 、JELSUM(イェルスム))について報告する(コラム1−表、コラム1−写真1〜4)。

 

 







 同社は、オランダにあるバイオガスプラントの40%以上を設計・建設してきた。また、同社のプラントは、ベルギー、ポーランド、ルーマニア、英国、ラトビア、ポルトガルといった国々に建設されている。日本でも2020年中に沖縄県の石垣島に牛の排せつ物や農業残さを利用した同社のバイオガスプラントが建設される予定である。
 HoSt社関係者からの聞き取りによれば、バイオガスプラントを作るために必要なことは、以下の通りであるとしている。
(1)原料の安定供給
 1MW(メガワット:1000キロワット)分の電力(1立方メートル当たりのガス)を生産するためには、何が必要か。バイオガスプラントの近くには原料として何があるか。家畜排せつ物だけでは、十分な原料量を確保できないのであれば、他の原料を調達する必要がある。
(2)運営管理
 バイオガスプラント建設に当たって、政府機関や金融機関から融資を得られるかどうか。また、プラントの運営期間は約20年であるが、途中で不測の事態が生じた時にどのように対応するのかなど。
(3)地域住民への対応
 バイオガスプラント建設に当たって、地域住民の了解を得られるかどうか。

 農業由来の原料を使用するバイオガスプラントは、今後、増加が見込まれるものの、家畜排せつ物については、豚などの家畜の飼養頭数を削減する政策が進められる中で、永続的に安定的な原料となりうるかどうかは予測できないとしている。
 なお、プラントで生産された消化液は、遠心分離により固体分と液体分に分けられ、固体分は肥料として販売しているが、液肥として利用される液体分については、技術改良などにより付加価値を付けることが必要であるとしている。

注1:2020年度までにEU全体の最終エネルギー消費の20%を再生可能エネルギーで賄うという目標を設定し、加盟国に2年ごとに取り組み状況を欧州委員会に報告することを義務付けるもの
2:再生可能エネルギー発電(ガス供給)事業者を対象に、再生可能エネルギーの基準価格(生産コスト)と卸電力(ガス)市場価格の差を補助金として補てんする制度

(4)家畜排せつ物由来の製品に付加価値を付ける取り組み

 家畜排せつ物の加工技術はさまざま開発されているが、生産される家畜排せつ物由来の製品は、必ずしも市場の要求に合ったものではないこともある。そうした課題に対応するため、家畜排せつ物や食品廃棄物といったバイオマスから、栄養素を回収し、資源として循環させることで、循環型農業を達成することを目的としたプログラム「SYSTEMIC」が行われている。本プログラムは、欧州委員会の資金援助を受けており、五カ国から、五つのプラントが参加している。
 オランダからはバイオガスプラント「Groot Zevert Vergisting」が参加しており、家畜排せつ物から栄養素である窒素とカリウムを分離し、市場の需要に応えた複数の製品を製造し、家畜排せつ物に付加価値を付けている。

コラム2 バイオガスプラントによる肥料製造

 EU最大の研究イノベーション(技術革新)プロジェクト(ホライゾン2020)(注)の一環である「SYSTEMIC」プログラムにより、オランダ北東部Beltrum(ベルトラム)のバイオガスプラント「Groot Zevert Vergisting」では、家畜排せつ物の栄養素の回収・再利用(循環型生産)を目的として、前述のようにバイオガス、ミネラル濃縮物、リンを含む化学物質(肥料)、リンを含まない化学物質(土壌改良剤)、水が生産されている(コラム2-表1、2、写真1、2)。




   
 
 2004年から稼働している同プラントでは、硫酸アンモニウム系やカリウム濃縮物系肥料を生産していたが、2017年に市場調査を行ったところ、硫酸アンモニウム系肥料よりもミネラル濃縮物系の肥料の方が、市場価値が高いことが明らかになった。これを受け、同プラントでは施設を改修し、ミネラル濃縮物系肥料の生産を始めることとなった。
 同プラントで生産されたバイオガスについては、80%がオランダの乳業メーカーであるフリースランド・カンピーナ社に直接移送(販売)され、20%はガスにより発電し、自己利用や売電が行われている。
 同プラントはオランダ国内で最大規模のバイオガスプラントであり、同族経営により運営されている。プラントは無人であるが、プラント横に事務所があり、7名の技術者が常駐している。休日のプラント管理は、スマートフォンでも行えるようになっている。
 関係者からの聞き取りによれば、現在の課題を次のように述べている。
 (1)農家とコミュニケーションを取り、化学肥料の代わりにプラントからの肥料を受け入れてもらえるように努力が必要である。
 (2)原料である家畜排せつ物などは、品質が安定していないものの、品質が安定した製品を作らなくてはならない。
 なお、このような課題もあるが、同プラントでは、家畜排せつ物の栄養素の回収・再利用の技術が進展し、バイオガスのほかに3種類の肥料などを廃棄物なしで生産しているとのことであった。

(注)EUで2014年から2020年まで行われる総額8000万ユーロ(99億2000万円)の研究技術革新プロジェクト

5 養豚業界の家畜排せつ物処理に関する課題やその対応

(1)家畜排せつ物処理に関する業界関係者の声

 本調査では、オランダの家畜排せつ物処理の関係者が集まったシンポジウムに参加した(写真6〜8)。シンポジウムでは、現在の家畜排せつ物処理の課題や今後どのように取り組んでいくかなどについて報告があり、意見交換が行われた。出席した関係者からは、以下のような意見が出された。
 






シンポジウムが催された後日、バイオガスプラントの一般開放も行われるとのことであった。
 
 ・ 循環型農業は、一戸の生産者で循環させる必要はない。周りの生産者と一緒に取り組めばよい。循環型農業ができると、家畜排せつ物を処分する必要がなくなり、「家畜排せつ物の処分」から「家畜排せつ物の加工処理」に変化させることができるようになる。
・ 全ての養豚生産者が一丸となって、排せつ物処理に取り組むことで排せつ物処理のコストを下げることができる。
・ 市民が持っている家畜排せつ物のイメージが悪いため、家畜排せつ物は価値があるものだと、市民に理解してもらう必要がある。そして、例えばバイオガスプラントといった家畜排せつ物処理施設を作ろうとしても地域の住民の理解が得られないこともあり、工場建設に時間がかかるといった課題を解決しなければならない。
・ 家畜排せつ物処理の方法はさまざまで、効果的で、安価に処理できる技術は生み出されているが、家畜排せつ物由来の製品の利用を進めるためには、その製品が市場の需要に合ったものでなくてはならない。最も重要なのは、市場の需要に合ったものを生産することである。
・ 例えばミネラル濃縮物といった製品が生産されても、規制の関係で利用が進まないなど、規制や法律が技術革新に追い付いていない。
・ 現在、家畜排せつ物や消化液の固液分離後の固体分の多くはドイツへ輸出されているが、より長距離輸送に適した製品が製造できれば、有機物を必要としている全ての国に輸出することもできる。
・ 耕作農家が全くコストを掛けずに肥料として家畜排せつ物を入手しているという構造が続く限り、家畜排せつ物の加工は進まず、養豚生産者が処分コストを負担して農地に散布するという現在の仕組みが続いてしまうだろう。
・ 養豚生産者は一丸となって固液分離を行わない排せつ物を減らすことに取り組む必要があるのではないか。排せつ物を加工することで、排せつ物の市場バランスをとる必要があるのではないか。
・ 処理施設のビジネスプランを立てるものの、銀行には、利益が出るかどうかが疑問と判断され融資を受けることが難しい。
 業界として家畜排せつ物処理の課題に取り組むことに前向きであるものの、家畜排せつ物処理の現場ではさまざまな課題も抱えており、関係者の苦労もうかがえる。

(2)養豚業界の取り組み

 オランダ養豚協会(POV:Producenten Organisatie Varkenshouderij)は、「養豚再活性化行動計画(2016年)」(注4)で定められた行動方針「コストの低減および排せつ物の加工」の中で、「排せつ物の付加価値化を進めるために排せつ物の加工を行う6〜7社の地域企業を設立する」とし、その設立をサポートしている。
 POV関係者によると、「すでに複数の養豚生産者で排せつ物処理を行うプラントが設立されているが、ここで想定される地域企業とは、ひとつの地域をカバーするより規模の大きなものである。しかしながら、施設が大きければ大きいほど、建設許可が下りにくい。なお、まだ地域企業は設立されていない(2019年10月の現地調査時点)が、近いうちに、地域企業の一つができる予定である。また、建設許可を受けるのに数年単位で時間を要したり、地域住民の反対にあったりと、家畜排せつ物処理施設の建設は非常に難しいものであるが、余剰家畜排せつ物の加工が義務付けられているのに、処理する施設がないというのは問題であり、現在、家畜排せつ物の加工施設の必要性を理解している州政府の後押しの下、これから幾つかの施設の建設が始まるところ」だという。
 しかしながら、同者によると、「飼養頭数を半分にすると発言する政党もある中、今後も、豚の飼養頭数が維持されるのかどうか、施設を作っても確実に家畜排せつ物が必要量搬入されるかどうかが分からないなどの懸念もあり、処理施設側も建設して大丈夫なのかどうかという不安を感じている」という。
 このような状況の中、同者によると「POVは、全国の余剰排せつ物を報告してもらい、データを収集し、余剰排せつ物を一元管理する協同組合(配分センター)の設立を進める構想を描いている。配分センターでは、農地への散布や加工向けの排せつ物の配分を行う。排せつ物処理の問題を、全ての養豚生産者で対応しようという考えで、全ての養豚生産者に自らの問題であると理解してもらう必要がある」とのことである。
 「配分センター」の構想は、地域企業のサポートにもつながるものと考えられる。配分センターが排せつ物の配分を行えば、「本当に排せつ物が集まるだろうか」と、心配することなく地域企業を設立することができる。
 なお、前述のシンポジウムでも、養豚関係者は口をそろえて、「養豚生産者が、排せつ物の扱いを自分の問題だと認識し、同じ方向を向いて、取り組むことが重要」としていた。しかしながら、養豚生産者はそもそも独立性が高く、現在、コストがかかるとはいえ、処理できている状況にある中、自分の問題だという認識を持たせて、同じ方向に向けるのは難しいという実態もあるようである。

注4:オランダ政府と養豚生産者などにより構成される「活力ある養豚グループ」は、かつての養豚先進国としての輝きを取り戻し、今後、グローバル社会においてオランダの養豚業が生き延びていくための具体的な行動計画である「養豚再活性化行動計画」を2016年6月23日に公表した。なお本計画は見直され、2019年に新たな計画が策定された。

(3)今後のオランダ政府の家畜排せつ物政策

 オランダ政府は、循環型農業を目指す中、家畜排せつ物処理に関する環境対策の方法として、イノベーション開発のほか、家畜排せつ物の発生そのものを減らすという政策を打ち出している。
オランダ企業庁は、2019年11月から、養豚経営の廃業支援を行っている。同措置は、2019年11月〜2020年1月の間に、養豚経営を廃業する者の申請を募り、廃業する者に対して補助金を交付するというものである。

コラム3 政府による養豚経営の廃業支援の取り組み

 オランダ政府は、2019年10月、環境問題への対応として、養豚生産者の廃業支援の補助金申請を受け付けると発表した。現在オランダでは、環境問題、特に「窒素」が問題視されており、今回の支援策の目的は、養豚経営に伴う悪臭軽減であるが、本措置も最終的に窒素の排出の削減につながるものとみられている。
 本措置により、豚生産権を政府に返還する、つまり、養豚経営を廃業することで補助金を受給することができる。廃業のための補助金を含むプログラム「Subsidieregeling sanering varkenshouderijen」の予算は1億8000万ユーロ(223億2000万円)。補助金の受給を希望する養豚生産者は、2019年11月25日から2020年1月15日までの間にオランダ政府(企業庁)に参加登録の申請を行う。
 対象には例えば、以下のような要件が定められている。
・対象地域は、養豚の密集地域である、南部地域および東部地域
・対象養豚場は、自宅を除く住宅から半径1キロメートル以内に位置するもの
・養豚場で排出される臭気排出量などから決定される臭気のスコアが補助の対象となる基準を上回ること
・少なくとも5年以上養豚経営を行っている者
・補助の対象となると認められてから8カ月後までに豚の飼養を終了し、その6カ月後までに豚舎などの施設を解体し、養豚経営(補助の対象となると認められてから14カ月後までに)を停止すること
 受給できる補助金は、豚生産権ごとに決まっており、豚生産権の単位(1VE)当たりの補助金額は、東部の生産者は52ユーロ(6448円)、南部の生産者は151ユーロ(1万8724円)となっている。このほか、豚舎などの施設の処分費用の一部も補助の対象となる。政府は、今回の措置により、7〜10%の豚が減少する可能性があるとみている。
 なお、政府は2020年1月16日に、1月15日の締め切りまでに合計503の養豚生産者から参加登録の申請があったことを報告した。今後、審査が行われ、申請者が補助金の対象となるか否かは、申請が締め切られた後13週間以内に通知される予定となっている。

6 おわりに

 オランダではこの数十年、環境上の観点から、家畜排せつ物は否定的な評価を受けてきたが、オランダ政府が循環型農業を目指す中で、現在、家畜排せつ物は畜産生産者の「問題」だけではなく、耕作農家にとっても今後の展開によっては「チャンス」になり得ると、関係者の捉え方も変わってきているという。
 また、われわれが調査を行っていた間も農業生産などに係る窒素排出問題が連日メディアで報道されるなど、環境問題に対するオランダ国民の関心も高まっている。
 余剰家畜排せつ物の最良の処理方法、また、その付加価値化もまだ模索中ではあるが、オランダでは、政府や生産者団体などが家畜排せつ物の処理について新たな取り組みを始めており、今後の展開が注目される。