(1)家畜排せつ物処理に関する業界関係者の声
本調査では、オランダの家畜排せつ物処理の関係者が集まったシンポジウムに参加した(写真6〜8)。シンポジウムでは、現在の家畜排せつ物処理の課題や今後どのように取り組んでいくかなどについて報告があり、意見交換が行われた。出席した関係者からは、以下のような意見が出された。
シンポジウムが催された後日、バイオガスプラントの一般開放も行われるとのことであった。
・ 循環型農業は、一戸の生産者で循環させる必要はない。周りの生産者と一緒に取り組めばよい。循環型農業ができると、家畜排せつ物を処分する必要がなくなり、「家畜排せつ物の処分」から「家畜排せつ物の加工処理」に変化させることができるようになる。
・ 全ての養豚生産者が一丸となって、排せつ物処理に取り組むことで排せつ物処理のコストを下げることができる。
・ 市民が持っている家畜排せつ物のイメージが悪いため、家畜排せつ物は価値があるものだと、市民に理解してもらう必要がある。そして、例えばバイオガスプラントといった家畜排せつ物処理施設を作ろうとしても地域の住民の理解が得られないこともあり、工場建設に時間がかかるといった課題を解決しなければならない。
・ 家畜排せつ物処理の方法はさまざまで、効果的で、安価に処理できる技術は生み出されているが、家畜排せつ物由来の製品の利用を進めるためには、その製品が市場の需要に合ったものでなくてはならない。最も重要なのは、市場の需要に合ったものを生産することである。
・ 例えばミネラル濃縮物といった製品が生産されても、規制の関係で利用が進まないなど、規制や法律が技術革新に追い付いていない。
・ 現在、家畜排せつ物や消化液の固液分離後の固体分の多くはドイツへ輸出されているが、より長距離輸送に適した製品が製造できれば、有機物を必要としている全ての国に輸出することもできる。
・ 耕作農家が全くコストを掛けずに肥料として家畜排せつ物を入手しているという構造が続く限り、家畜排せつ物の加工は進まず、養豚生産者が処分コストを負担して農地に散布するという現在の仕組みが続いてしまうだろう。
・ 養豚生産者は一丸となって固液分離を行わない排せつ物を減らすことに取り組む必要があるのではないか。排せつ物を加工することで、排せつ物の市場バランスをとる必要があるのではないか。
・ 処理施設のビジネスプランを立てるものの、銀行には、利益が出るかどうかが疑問と判断され融資を受けることが難しい。
業界として家畜排せつ物処理の課題に取り組むことに前向きであるものの、家畜排せつ物処理の現場ではさまざまな課題も抱えており、関係者の苦労もうかがえる。
(2)養豚業界の取り組み
オランダ養豚協会(POV:Producenten Organisatie Varkenshouderij)は、「養豚再活性化行動計画(2016年)」
(注4)で定められた行動方針「コストの低減および排せつ物の加工」の中で、「排せつ物の付加価値化を進めるために排せつ物の加工を行う6〜7社の地域企業を設立する」とし、その設立をサポートしている。
POV関係者によると、「すでに複数の養豚生産者で排せつ物処理を行うプラントが設立されているが、ここで想定される地域企業とは、ひとつの地域をカバーするより規模の大きなものである。しかしながら、施設が大きければ大きいほど、建設許可が下りにくい。なお、まだ地域企業は設立されていない(2019年10月の現地調査時点)が、近いうちに、地域企業の一つができる予定である。また、建設許可を受けるのに数年単位で時間を要したり、地域住民の反対にあったりと、家畜排せつ物処理施設の建設は非常に難しいものであるが、余剰家畜排せつ物の加工が義務付けられているのに、処理する施設がないというのは問題であり、現在、家畜排せつ物の加工施設の必要性を理解している州政府の後押しの下、これから幾つかの施設の建設が始まるところ」だという。
しかしながら、同者によると、「飼養頭数を半分にすると発言する政党もある中、今後も、豚の飼養頭数が維持されるのかどうか、施設を作っても確実に家畜排せつ物が必要量搬入されるかどうかが分からないなどの懸念もあり、処理施設側も建設して大丈夫なのかどうかという不安を感じている」という。
このような状況の中、同者によると「POVは、全国の余剰排せつ物を報告してもらい、データを収集し、余剰排せつ物を一元管理する協同組合(配分センター)の設立を進める構想を描いている。配分センターでは、農地への散布や加工向けの排せつ物の配分を行う。排せつ物処理の問題を、全ての養豚生産者で対応しようという考えで、全ての養豚生産者に自らの問題であると理解してもらう必要がある」とのことである。
「配分センター」の構想は、地域企業のサポートにもつながるものと考えられる。配分センターが排せつ物の配分を行えば、「本当に排せつ物が集まるだろうか」と、心配することなく地域企業を設立することができる。
なお、前述のシンポジウムでも、養豚関係者は口をそろえて、「養豚生産者が、排せつ物の扱いを自分の問題だと認識し、同じ方向を向いて、取り組むことが重要」としていた。しかしながら、養豚生産者はそもそも独立性が高く、現在、コストがかかるとはいえ、処理できている状況にある中、自分の問題だという認識を持たせて、同じ方向に向けるのは難しいという実態もあるようである。
注4:オランダ政府と養豚生産者などにより構成される「活力ある養豚グループ」は、かつての養豚先進国としての輝きを取り戻し、今後、グローバル社会においてオランダの養豚業が生き延びていくための具体的な行動計画である「養豚再活性化行動計画」を2016年6月23日に公表した。なお本計画は見直され、2019年に新たな計画が策定された。
(3)今後のオランダ政府の家畜排せつ物政策
オランダ政府は、循環型農業を目指す中、家畜排せつ物処理に関する環境対策の方法として、イノベーション開発のほか、家畜排せつ物の発生そのものを減らすという政策を打ち出している。
オランダ企業庁は、2019年11月から、養豚経営の廃業支援を行っている。同措置は、2019年11月〜2020年1月の間に、養豚経営を廃業する者の申請を募り、廃業する者に対して補助金を交付するというものである。