豪州肉用牛業界では、業界が中心となった「牛肉持続可能性に関する枠組み(Australian beef Sustainability framework(以下「フレームワーク」という))」がさまざまな取組みを行っている。環境対策を中心にその取り組みについて概要を紹介する。
(1)フレームワーク成立の経緯、目的など
ア 成立の経緯
豪州肉用牛業界では近年、動物福祉、環境に与える影響、牛肉の栄養と人の健康などといった消費者や社会のニーズの変化に対応した取り組みを行うため、科学的根拠に基づく透明性の高い豪州独自の牛肉持続可能性に関する枠組みを作る必要があるとの認識が生まれた。
このため、レッド・ミート諮問委員会(RMAC)
(注)が中心となって2011年から調査を実施し関係者との協議を重ね、フレームワーク設立に向けた準備が行われた。RMACは2016年、この取り組みを運営する持続可能性運営グループ(SSG、以下「運営グループ」という)のメンバーを指名し、その後、運営グループが業界内外との広範な協議を重ね、2017年4月、正式にフレームワークが発足した。
注:RMACは、豪州の牛肉、ヤギ肉、羊肉業界を代表する団体で、政策提言や諮問を行う機関である。
イ 目的など
フレームワークは、持続可能性の確保に向け業界が取り組むべきテーマ及びその課題を定め、その指標に関するデータを収集し、この指標に照らした成果を毎年調査、報告することを目的としている。
(2)取り組むべきテーマ、課題
フレームワークでは、業界が取り組むべき大きなテーマとして、動物福祉、経済的
強靭性、環境への責務、人と地域社会の四つを定めている。この四つの大きなテーマを具体的な10テーマに細分し、さらに課題とすべき23項目を定めている。このうち環境への責務については、次の3テーマで6課題を設定している(表1)。
なお、課題とすべき23項目については、課題を克服するための指標および指標に関するデータの設定が行われている。
(3)具体的取り組み
フレームワークでは、運営グループを中心として、テーマおよび課題に沿って、次の取り組みを行う。
ア 課題ごとに定められた指標に関するデータの収集、目標の設定
課題となる23項目について、課題の解決に向けて取り組むべき指標の設定および統一性のある信頼性の高いデータを収集する。また、指標の改善に向けて継続的な見直しを行う。
イ すべての課題に対する目標値の設定
指標に関するデータは、すでに83%収集している。RMACは、運営グループに対し、フレームワークが設定した課題の解決に向け、指標ごとに目標値を設定し、その進捗状況を把握し明確に目標達成に導くと同時に、最新のデータに沿って毎年見直すよう指示している。
ウ 年次報告
運営グループは、課題となる23項目について設定する指標に関するデータの推移を提示し、年ごとにその進捗状況を把握できるよう計画している。
エ 消費者や社会の要望の変化に応じた柔軟な対応
フレームワークでは、取り組むべきテーマ及び課題について優先順位を定め、それぞれ指標に関するデータの収集、目標値設定を行うこととしている。この優先順位は、消費者や社会のニーズの変化に応じて柔軟に変更していく必要がある。
オ 取り組みへの理解
フレームワークの取り組みは、業界内外から広く意見を聞き、牛肉の持続可能性の確保に向け、誰もがその取り組みに賛同できるよう留意されている。
また、フレームワークが取り組むべきテーマなどの設定に当たっては、「持続可能な牛肉のための国際円卓会議(GRSB:The Global Roundtable for Sustainable Beef):豪州、米国、カナダ、南米、欧州、NZなどが参加する組織」や各国の牛肉生産者団体と協議し、他国においても同様の課題を有しており、業界として同じ方向性にあることを確認したとのことである。
(4)優先課題の選定
運営グループは2018年、国内外の関係者などで構成するフレームワーク諮問委員会などの意見を踏まえ、課題とすべき23項目のうち、業界として優先的に取り組むべき6項目の優先課題を決定した。環境への責務については、「森林と草地のバランス」「気候変動リスクの管理」の二つを優先課題とした。
ア 森林と草地のバランス
牛肉生産とよく管理された景観の関係に着目し、環境に影響を及ぼす土地の管理状況や植生の変化を測定し、牛肉産業に関連する自然資源と生物多様性への影響を測るものである。
イ 気候変動リスクの管理
温室効果ガスは、牛の消化で発生するメタンを含め、牛肉の生産、加工過程で発生する。牛肉の生産、加工過程における二酸化炭素換算の排出量を炭素隔離
(注)と合わせて測るものである。
注:炭素隔離は、二酸化炭素の大気中への排出を抑制する手段のこと。光合成による生物学的なものと地下への貯留といった地質学的なものがある。
(5)取組みに関する課題など
フレームワークは、現在の取り組みについて、以下のような課題などを挙げている。
ア 業界の取り組みに対する理解の促進
肉用牛産業の持続可能性確保に向けた取り組みに対して、国内の消費者などの関心は残念ながらあまり高くない。取組内容については、因果関係や関連性が複雑であり理解することは容易でないが、消費者などの理解は重要であり、その促進に努める必要がある。
イ 他業界との連携
豪州では、各農業分野において持続可能性に関するフレーム作りが行われているが、酪農では、この取り組みが先行しており、牛肉のフレームワーク運営においても参考とし、互いに協力している。また、羊肉業界でもフレームワークが立ち上がることから協力していく予定である。