ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 韓国の畜産業界における環境問題への取り組み
韓国食品医薬品安全処※(MFDS:Ministry of Food and Drug Safety)は、畜産物衛生管理法の改正により、既に鶏卵に記載が義務付けられていた生産者固有番号および飼育環境の他、2019年2月23日から産卵日(採卵日)の記載を義務付けた(注)。
韓国養鶏協会で行った以前の調査では、産卵日(採卵日)の記載について養鶏農家などは反対しているとのことであったため、同協会に詳しく聞いたところ、政府と交渉を続けた結果、2月23日〜8月23日までは準備期間とされ、調査時点では30〜40%の鶏卵に産卵日(採卵日)が記載されているとのことであった(コラム1−写真1)。いずれにしても、8月23日以降は、全ての生産者の対応が必要とされている。
なお、鶏卵売場の店頭では鶏卵への記載について義務化の流れを説明した用紙が貼られていたり、地下鉄の構内に4桁の産卵日(採卵日)、5桁の生産者固有番号、1桁の飼育環境から成る10桁の表示に関する説明のポスターが貼られたりしており、消費者への周知が行われていた(コラム1−表、コラム1−写真2、3)。
※:日本の厚生労働省に相当
(注) 産卵日(採卵日)の記載の義務化については、海外情報「韓国食品医薬品安全処、鶏卵に生産者等の刻印を義務化」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002346.html)を参照されたい。
その後の現地報道によると、準備期間が終了してから100日が過ぎ、ほとんどの量販店で産卵日(採卵日)の記載が順守されているとのことである。こうしたことから、周知のため貼られていたポスターなども撤去され、流通業界では、事実上、消費者は産卵日(採卵日)の記載の義務を認知したと判断したとしている。
しかし、農家の一部では、鶏卵の不需要期に流通停滞が起きることを心配する声も聞かれる。現在は、制度が施行されたばかりなので、農家が自発的に需給調整をしているが、不需要期での対応は簡単ではないとの指摘もある。今後、飼養羽数の増加や暖かくなり生産性が向上すると、在庫が積み上がる可能性があり、その場合には流通業者が産卵日付順に鶏卵を選択していく「鶏卵序列化」につながる危険性もある。
そのため、韓国養鶏協会は、不需要期や休日明けに廃棄が生じた際に補償するよう政府に継続的に要求している。
今回の調査では韓国の畜産業界を取り巻くさまざまな環境問題について関係者から生の声を聞くことができた。しかし、中でも多かったのは、家畜排せつ物処理と臭気の問題であることから、この2点について述べる。
ア 家畜排せつ物の発生および処理状況
家畜排せつ物の処理量は、家畜の飼養頭数の増加に伴い2007年以降増加し、2011年に口蹄疫の発生に伴う家畜飼養頭数の減少により減少したものの、その後回復してから横ばいで推移しており、2017年は2007年比で16.7%増加した(図2)。処理方法別では、資源化の割合が最も高くなっているが、減少傾向で推移している一方で、政府の支援で設置された処理施設の増加に伴い委託処理の割合が増加している。また、2011年までは、家畜排せつ物の一定量は海洋排出で処理されていたものの、国際協約により海洋排出が禁止されたことから、2012年以降はゼロとなっている。なお、家畜排せつ物の処理の流れは図3の通りである
畜種別に家畜排せつ物の発生量を見ると、日本では、肉用牛、乳用牛、豚の順でそれぞれ3割弱となっているが、韓国では豚の発生量が約半数を占めている(図4)。次いで、肉用牛、乳用牛、鶏である。これは、両国で飼養する家畜の種類別割合の違いによるものと考えられる。
なお、地域別では、ソウル首都圏を控える京畿道の発生量が一番多い。
イ 家畜排せつ物の処理施設
韓国の家畜排せつ物処理の特徴として共同資源化施設および液肥流通センターが挙げられる。
日本では、各農家が家畜排せつ物を管理して、堆肥化などの処理を行うことが多い。一方、韓国では家畜排せつ物を資源化し、安定的に処理するため、国や地域主導で地域別に発生する家畜排せつ物を収集し、堆肥・液肥に資源化する中間処理団体に当たる共同資源化施設の設立などの事業を2007年から推進している。2018年時点で、106カ所の共同資源化施設がある(図5)。
また、堆肥・液肥化施設や農家などが製造した液肥を農耕地に散布する施設として、液肥流通センターが2003年から政府支援により設立され、2018年時点で202カ所が運営されている。
なお、同センターが耕種農家の農地に液肥散布を行う場合はその経費に補助金が出るため、耕種農家に金銭的な負担は無い。しかし、液肥は一年中生産されるものの、耕種農家には農閑期があるため、液肥貯蔵容量の超過問題が常に発生している状況である。
この他にも、畜産排水の浄化処理を行う公共処理施設やバイオガス施設がある。バイオガス施設は4カ所設置されているものの、残渣の処理が大変なためあまり広まっていないとのことであった。
ウ 堆肥の腐熟(注)度の基準
韓国において、家畜排せつ物由来の堆肥は、肥料公正規格に適合していなければならない。同規格の畜種共通項目としては、腐熟度と含水率がある。畜種別では、豚では銅、亜鉛で肉用牛・乳用牛では塩分が基準で定められている。なお、堆肥の腐熟度判定基準は、表9のとおりである。
(注) 堆肥の腐熟とは、原料資材中の易分解性の有機物が好気性微生物によって発酵、分解される過程のこと。この過程で発熱して堆積物の温度は70〜80℃まで上昇するが、微生物が利用できる易分解性有機物が消費尽くされ、もはや発熱しなくなれば堆肥は完全に腐熟したものと判断してよい。(資料:(財)畜産環境整備機構「畜産環境情報 第10号(2000年10月)」https://www.leio.or.jp/pub_train/publication/tkj/tkj10.html)
家畜排せつ物法では、2020年3月25日から排出施設の規模によって異なる堆肥の腐熟度判定基準を適用することとなっている。排出施設の面積が1500u以上の場合は腐熟後期または腐熟完了まで、1500u未満の場合は腐熟中期まで腐熟させなければならない。
なお、腐熟度の測定は、管理監督責任のある地方自治体が抜き打ちで検査を行い、違反者に対して、罰則規定に基づき罰金などの可能性もある。
今回、堆肥の腐熟度判定基準が適用されることに伴い、資源化施設が不足している農家は判定基準への適応が難しいと予想され、施設の増強や共同資源化施設などに委託して処理しなければならない。そのため、生産コストの上昇を懸念する声も聞かれた。
日本においては、畜産経営由来の苦情発生件数は減少傾向となっている。しかし、韓国の全産業における悪臭排出施設の苦情発生件数の推移をみると、ここ10年間で約4倍にも増加している(図6)。また、2017年の悪臭排出施設別の苦情件数では、畜産施設が40%を占めており、日本とは反対に畜産経営由来の苦情発生件数は増加しているものとみられ、畜産業における臭気の問題は大きくなっている(図7)。
韓国では、IターンやUターンなどによる都市化の進展により、畜舎が人々の目に触れるようになったことも苦情発生件数増加の要因の一つと考えられている。今回の取材では、畜舎が人の目に触れると、実際の臭気はさほどでなくとも臭いの苦情が出るという意見があった。