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特集:人材育成に向けた取り組み 畜産の情報 2020年3月号

担い手人材育成確保の取り組み〜北海道十勝24JAが北海道帯広農業高等学校と連携〜

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北海道帯広農業高等学校 主幹教諭 安彦あびこ 勇二

1 はじめに

 本校は、北海道東部の十勝地方に位置し、基幹産業の農業や郷土の将来を担う人材の育成を目的に「農・食・環境」の専門的実学教育を展開している。全日制5学科(農業科学科、酪農科学科、食品科学科、農業土木工学科、森林科学科)の農業専門高校として99年の歴史があり、令和2年3月には創立100周年を迎える。この間多くの産業人を輩出し、十勝はもちろん、全道で活躍している。毎年、酪農科学科では約半数の生徒が農業の担い手となるために農業系大学への進学や農場研修、自営に就いており、担い手の輩出数は道内の高校1位である。高い自営率の背景には十勝という恵まれた環境と地域と一体となった取り組みがある。

2 十勝の酪農業と酪農科学科について

 十勝の酪農は畑作とともに十勝を代表する存在であり、乳用牛飼養戸数・飼養頭数、受託乳量ともに全道一を誇っている(図1、図2)。しかし、一経営体当たりの飼養頭数は増加しているものの、十勝においても農業者の高齢化などにより飼養戸数が年々減少しており、担い手の確保は地域の課題となっている。
 

 

 


 
 
  本校の酪農科学科には毎年40名の生徒が入学し、全体で現在119名の生徒が在籍している。また、卒業生の多くは、酪農経営や畜産関連の仕事に従事し、地域のリーダーとなり活躍している。在校生へのアンケートで酪農や他の畜産(肉牛など)経営を目指している生徒は、学年による違いはあるものの50%と高い。また、畜産に関する仕事や新規就農を目指す生徒を含めると、75%と高い割合になる(図3)。この中には非農家出身の生徒も含まれている。本学科には非農家出身の生徒が33名在籍しており、このうち新規就農を含めた担い手を希望している生徒は19名と、58%の生徒が農業の担い手を目指して日々学習している。このように将来、担い手を目指す生徒が多く、主体的に学んでいる(図4)。この背景には、本学科の地域に根差した学習活動や地域と連携した取り組みを続けてきたことが、こうした成果につながっていると考えられる。
 




 農家戸数の減少や農業従事者の高齢化が進行する中、十勝管内の農業や農村が今後とも活力を維持し、さらに持続的に発展していくには、地域農業はもとより地域産業を担う意欲と能力のある人材の育成・確保が重要かつ喫緊の課題となっている。
 このことから、帯広農業高校とJA、地域関係機関が、相互の連携協力の下、生徒の就農意欲の喚起や就農に向けた支援を行うとともに、昨年度、地域の若手農業者や農業理解者の育成・支援などを図ることを目的として、管内24農協とともに「北海道帯広農業高等学校 農業の担い手対策協議会」(以下「協議会」という)を設立した。この協議会の支援の下、酪農科学科ではより幅広い活動が可能となったため、いくつかの活動を紹介したい。

3 酪農科学科の取り組み

 まず、年間計7回参加しているホルスタイン共進会(ホルスタイン種の体型を競う大会)への取り組みがある。この取り組みには、ホルスタインクラブ(通称ホルクラ)と呼ばれる生徒の活動団体が取り組んでおり、現在は11名ほどの生徒が活動している。主な活動内容は牛の飼養管理・体の手洗い・毛刈り・調教などで、この活動を通して、酪農技術を学ぶ。昨年は地域や北海道の大会に7回全て参加した。これらの活動を通して、良い牛の見分け方やリード技術の向上につなげている(写真1)。また、共進会では酪農家や農協職員からさまざまな指導を受けて、将来の担い手としてだけではなく、人間性を養う貴重な場となっている。
 

 
 次に、酪農家や専門家を招いた講演会への取り組みがある。令和元年9月2日には十勝清水町農業協同組合の串田雅樹代表理事組合長をお招きした(写真2)。講演では、自身の学生時代に人とのつながりの大切さを実感し、その経験から今も相手の良いところを尊重して人間関係を築くことを意識していることや、2年間の米国実習を経て、家業の酪農経営を後継し、経営改善に取り組んだお話をしていただいた。生徒たちは、「経営や清水町の将来の農業、組合員に対する熱い思いも聞くことができ、人生について深く考える良い機会となった」と感想を述べていた。

 
 
 このように協議会の設立がきっかけとなり、講演会へとつながっていった例もある。
 最後に、管内の酪農家や関連施設、展示会などを毎年、学科やクラス単位で見学する農事見学と呼ばれる授業の取り組みがある。この授業では、酪農先進地域の十勝の農業関連施設を見学することで、日頃の学習活動を深め、農業の現場を肌で感じることができる。平成30年には帯広で4年に一度開催される国際農業機械展を見学することができた(写真3)。酪農科学科と農業科学科の1年生から3年生までの6クラス計240名がバスで移動し、見学した。見学後の生徒の感想は「私は以前にも行ったが、その頃に比べ、農業機械に興味や関心を持って見学することができた。帯広農業高校で学んだことが、そのきっかけとなっている。私が特に興味を持った展示機械は、メタンガスで動くトラクターだ。環境に優しく、性能も良いので、今後このようなトラクターが増えれば良いと思った。これからの学校生活や農業自営に生かせる、貴重な時間となった」といったように生徒にとって未来の農業を考えるための貴重な体験となっている。
 

4 おわりに

 農家戸数の減少や農業従事者の高齢化が進行していく中、担い手の育成は喫緊の課題となっている。特に、農業が基幹産業の十勝では、今後、地域が活力を維持し発展していくために、後継者はもとより非農家の生徒が畜産経営や畜産関連産業に従事していくことが大切である。
 そのためには、早い教育段階において興味・関心を持った子供たちに対して、農業に関する教育を行う必要がある。こうした取り組みが、興味・関心を膨らませ、将来の夢へとつながっていく。十勝には農業のお手本となる経営者だけではなく、人生のお手本となる経営者がたくさんいる。そういった方々から多くの事を学び、担い手として育てていく必要がある。
 今後も、担い手の育成に尽力し、酪農科学科としての使命を果たしていきたい。

【プロフィール】
平成9年 北海道東藻琴もこと高等学校勤務
17年 北海道美幌農業高等学校勤務
23年 北海道美幌高等学校勤務
24年 北海道帯広農業高等学校勤務