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話題 畜産の情報 2020年4月号

女子高校生と育む、これからの畜産〜未来の畜産女子育成プロジェクト〜

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公益社団法人国際農業者交流協会 派遣業務課 課長  皆戸かいと 顕彦

1 はじめに〜農業人材の育成〜

 公益社団法人国際農業者交流協会は、農業者を育て、農業を職業とする人を増やすことを目的に、1952年から日本人青年に対する1〜2年間の長期の海外農業研修事業を行うとともに、海外諸国からの若者を日本に受け入れる、約1年間の農業研修事業を行ってきました。これまでに海外農業研修に参加した人は約1万5000人、海外から日本に来て農業を学んだ人は約3000人に上り、農業経営者を中心に各方面で活躍しています。これまでは、19歳から30歳までの方々を研修対象者としてきましたが、近年の農業従事者の激減に伴う農業後継者の減少を考えると、もっと若い世代から農業に対する関心を持ってもらうことの必要性を考えるようになりました。
 若年層の畜産に対する興味を刺激し、将来に向けた就農意欲を高めることの重要性に着目するとともに、女性の畜産参入を促し、活躍できる畜産社会を目指すことを目的に、2018年から日本中央競馬会の畜産振興事業の助成により、畜産を学ぶ女子高校生を対象とした畜産女子育成プロジェクト事業を実施しています。具体的には、2019年〜2021年までの3カ年に海外農場現場を調査・体験する海外研修です。
 これは、特に畜産業を目指す高校生に海外の畜産事情を学んでもらい、広い視野と新しい視点を持ってもらうとともに、その経験から畜産の魅力を広く日本全国に広めることが狙いです。
 2019年は多くの応募があり、選考の結果全国から20名の農業高校生(女子生徒)に参加してもらいました(写真1)。また、農業高校教員2名、海外農業研修を経験し、海外の酪農業に詳しい2名のメンター(指導者)がグループに同行しました。
 

2 海外研修の場所

 ニュージーランド(NZ)は、南北の大きな二つの島で構成されており、南半球であることから、気候は日本と真逆です。研修場所は北島のタラナキ地方でした(図)。ここは富士山とよく似たタラナキ山という山があり、この山の裾野はそのまま海岸へと続いています(写真2)。サーフィンで有名な地域ですが、実は酪農も盛んに行われている場所であり、家畜排せつ物の河川汚染に関する高い意識を持った地域でもあります。今回は高校の夏休みに当たる2019年8月下旬に実施したので、現地は真冬で、しかも雨が多く、気温は時折5度を下回る気象条件でした。
 

 
 
 
 タラナキ地方にある、タラナキダイオセサン女子高校に協力してもらい、畜産関連業の視察、女性畜産農家へのインタビュー、ファームステイなどを実施しました(写真3)。
 
 

3 女子高校生たちの成長

 10日間の海外研修がただの体験で終わらないよう、そして人に頼らずしっかり学習できるように、ビジネス、女性の活躍、環境保護・家畜福祉、担い手という四つのテーマを設け、そこに関連した1人一つのキーワードを20人の生徒たちが分担し、研修しました。このテーマは、帰国直後の報告会でグループ発表することとしました。一人一人(参加者は2、3年生)畜産の学習進度が違う上、外国語(英語やマオリ語 (注))でNZの人々とコミュニケーションをとるのは、たやすいことではありません。英語通訳がアテンドしましたが、20人相手では付きっ切りで通訳はできません。限られた時間の中で効率的な情報収集が求められました。最初のうちは何を質問したら知りたい答えが得られるかを悩み、話しかける勇気が出ない様子もうかがえましたが、中間に2泊3日のファームステイ(9農場に数名ずつ配属、通訳は無し)を行ったころから、顕著な変化がありました。一生懸命話せば、相手も一生懸命応えてくれたと、口々に報告してくれました。メモ帳には英語と絵や表がたくさん書き込まれており、質問の度にすでに得た情報と見比べる様子は、さながらジャーナリストのようでさえありました(写真4)。
注:NZの先住民族の言葉
 

4 帰国時研修成果報告会

 帰国翌日、畜産関係者やメディアを招いて研修成果報告会を実施しました。膨大な量の情報を各グループ10分程度のプレゼンテーションにまとめなくてはならず、引率教員やメンターたちにアドバイスをしてもらいながら、何を伝えるべきか話し合い、データをまとめ、発表原稿を練り上げました。
 彼女たちが会場で強く訴えたことは、NZでは男女で酪農業に携わる機会は平等であり女性畜産農家が自信に満ちあふれていたこと、酪農はもうかる魅力的な仕事であり、羨望せんぼうのライフスタイルであること、環境保全は畜産業の義務であり、家畜はパートナーであること、そして、酪農家になりたい人が夢を実現できるシステムが確立していることでした。動物に関わる仕事に就きたいと考えている彼女たちが、畜産の魅力にはっきり気が付いたことを見事に体現してくれたと思います(写真5)。
 

5 畜産アンバサダー活動

 参加した生徒たちには、日本の畜産業を担っていきたい、変えていきたいという確かな意欲が芽生えたようでした。
 夏休み明けから、各校でNZの経験を発表してもらいました。母校の先生の協力により地域の畜産会議などで発表する機会を得た生徒もいました。このように、畜産の魅力を自分たちの言葉で伝える20名の女子高校生たちを「畜産アンバサダー」と呼んでいます。彼女たちには、本会が実施する全国5ブロックの国際化対応営農研究会にも登壇してもらい、地方の農畜産関係者や学生などに向けて自分の考えを伝えてもらいました。

6 今後の展開

 畜産アンバサダーたちが考えていることが、そのまま日本に取り込めるかというと、そうではないかもしれません。しかし、畜産業の将来に夢を持ち、また就農を目指す若者が素直に頑張れる環境を整えていけないだろうかと思います。
 オリンピックのアスリートたちが、概して幼いころから自身の専門競技に触れ、頑張った結果が金メダルにつながっているのと同じように、夢に向かって進んで行く若者の本気を応援していきたいと思います。
 本事業にはたくさんのご声援をいただいています。来年度はデンマークで実施を予定していますので、意欲ある高校生たちに出会えることを楽しみにしています。

(プロフィール)
2002年 九州東海大学畜産学科卒業
 同年  海外農業研修スイス派遣
2003年 社団法人国際農業者交流協会欧州支部勤務
2010年 公益社団法人国際農業者交流協会勤務