ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 海外輸出に向けた安全な鶏卵生産〜有限会社丸一養鶏場の取り組み〜
埼玉県大里郡寄居町に立地する丸一養鶏場は、昭和45年3月14日、現代表取締役である一柳憲隆氏の父が設立し、当時から採卵鶏経営を営んでいる(写真1)。役員4名、従業員35名の計39名で構成されている。
同社の特徴の一つが、2種類の採卵鶏飼養方法を導入している点である。現在、日本では、多段式の鳥かごを設けたバタリーケージによる飼養方式(以下「ケージ飼養」という)が広く普及している(写真2)。同社ではこのケージ飼養に加え、エイビアリーによる飼養(以下「エイビアリー」という)を導入している。
エイビアリー(Aviary:「鳥小屋」の意)とは、鶏舎内の飼養羽数を減らし、鶏の行動欲求が満たされるように止まり木を設置した休息エリア、巣箱を設置した産卵エリア、砂浴びのできる運動エリアなどを備えた多段式の鶏舎のことである。ケージ飼養の方がエイビアリーよりも、多くの採卵鶏を飼養でき衛生管理も容易であるものの、鶏の行動が制限されてしまう。AWは五つの自由という指標が一般的であり、そのうちの一つである「正常な行動を発現する自由」に関係する、鶏の行動がより多様になるという点で、エイビアリーはAWに配慮した飼養方式である(写真3〜4、図2)。
飼養方法により鶏の品種を分けており、ケージ飼養では白卵を産むハイラインマリアを約15万羽、エイビアリーでは赤卵を産むボリスブラウンを約2万羽、合計で約17万羽を飼養している。
飼料は、鶏の品種、日齢などに合わせ、アミノ酸含有量を考慮しながら、トウモロコシ、大豆かす、飼料用米などをブレンドした自家配合飼料を給与している。このうち、エイビアリーで給与されるトウモロコシ、大豆かすは非遺伝子組み換えのものが使用されている。
主な出荷先は、食品スーパーと業務用メーカーとなっている。ハイラインマリアが産む白卵は、小〜中程度の大きさのものが多く、食品スーパー向けの包装販売に適していることから選択しているという。
鶏舎は、育成用を4舎、成鶏用を6舎整備している(このうち育成用の1舎、成鶏用の2舎はエイビアリーとなっている)。また、堆肥舎を2舎整備しており、発酵処理により生産された堆肥は、地元農家へ販売されている。
自社でGPセンター※2を整備しており、鶏卵の生産から梱包、配送までを一貫して実施している。
※2: GPはGrading & Packingの略で、生産農場で産まれた卵を洗浄殺菌し、重量ごとにサイズ格付け(Grading)し、包装(Packing)する施設のこと。
一柳代表は、エイビアリーを導入した際、従来とは異なる飼養方法であっても衛生管理が徹底されていることを対外的に証明する必要性があると考えていた。平成14年のエイビアリーの導入当時は、HACCP方式を活用した、農場における飼養衛生管理基準の検討が始まったばかりであったが、これらの方針が定まり、認証手続きが開始された平成24年に、農場HACCP認証※3農場(中央畜産会認証第1号)として登録された。また、これら衛生管理のさらなる向上や、AW、労働安全などに配慮していることを第三者認証するため、29年にJGAP認証※4を取得した。この二つの認証取得に当たっては、エイビアリーだけを対象とせず、ケージ飼養を含めた丸一養鶏場の生産農場全体を申請し、認証されている。
農場HACCPおよびJGAP認証の対象範囲とされていないGPセンターについては、同年、GPセンターHACCP認証※5を取得することで、同施設内の衛生管理を徹底していることを対外的に証明している。
これらの認証を取得したことで、現場での作業内容を記録・確認し、作業の矛盾点や通常と異なる工程が発生した際の変更点などを明確にすることができ、円滑な業務運営および従業員の教育に役立っているという。
丸一養鶏場のGPセンターは、1日5時間、従業員8名により稼働している。鶏舎で採卵された卵は、ベルトコンベアにより自動でGPセンター内に搬送され、洗浄、乾燥、選別および包装される。これらの卵は日単位でロット管理されており、そのロットごとに賞味期限は統一されている。
包装容器には卵を選別・包装した丸一養鶏場の所在地と、その卵の賞味期限が明記されている。卵を購入した消費者から問い合わせがあった際は、賞味期限が確認できれば、製造日、GPセンターにおける当日の処理量、同一ロットの納入先などを追跡できる仕組み(トレーサビリティ)により、これらを情報提供できる体制が整えられている(写真5)。
※3: 家畜の衛生管理を行うことは、家畜の伝染病の発生予防・まん延防止だけでなく、畜産物の安全確保の観点からも重要であることから、畜産農場における危害要因分析・重要管理点(HACCP)の考え方を取り入れた飼養衛生管理向上の取り組みを実施していることを第三者が審査・認証する仕組み。
※4: 農業生産活動の持続性を確保するため、食品安全、家畜衛生、環境保全、労働安全、AWに関する法令等を遵守するための点検項目を定め、これらの実施、記録、点検、評価を繰り返しつつ生産工程の管理や改善を行う取り組みを実施していることを第三者が審査・認証する仕組み。
※5: GPセンターがHACCPに則って鶏卵を洗浄、選別、包装していることを第三者が審査・認証する食品安全マネジメントシステムの規格。
ア エイビアリー導入の背景
平成10年、当時は専務であった一柳代表が、エイビアリーを導入しているスイスの採卵鶏農家を視察した。その際、ケージ飼養された鶏は、鶏舎に人が入るとざわつくことが多いが、エイビアリーでは鶏が人を恐れることなく近づいてきたことに衝撃を受けた。当時、欧州連合(EU)では、2012年にケージ飼養が禁止※6されることとなっており、将来的に日本もこのような諸外国における情勢の変化の影響を受ける可能性を想定し、自社へのエイビアリー導入を決めた。
※6: EUでは、2012年以降、従来型のバタリーケージは使用禁止となったが、1羽当たりのケージ面積などを改善したエンリッチドケージは使用されている。
イ エイビアリーの運用
平成14年、自社農場内に育成用のエイビアリーを整備した。エイビアリーは、鶏の行動習慣が身に付く育成期での導入が最も重要で、育成期に、給餌飲水エリアや休息エリアを利用することを従業員が育成
一柳代表によると、アジアでは初めての導入事例であったため、トラブルが発生した際などは、海外の鶏舎の販売メーカーに問い合わせるしか方法がなく、運用に当たっては苦労したとのことだ。特に、鶏舎内の換気と光線管理、そして鶏が巣箱内で産卵せず巣外卵となり殻付き卵での出荷を控える必要のあることへの対応については、現在も試行錯誤を繰り返している。品種についても、エイビアリーでは現在、ボリスブラウンを飼養しているが、採卵する卵の大きさや
エイビアリーにて採卵された鶏卵は、「放し飼いたまごecocco(エコッコ)」として、19年にインターネットでの通信販売や展示商談会で販売された(写真6)。販売開始当時は、国内のAWに対する認識がまだまだ浸透していなかったことなどから、販路拡大には苦労したとのことだが、積極的な展示商談会などでの営業活動により、有機農産物などを取り扱う食品スーパーなどで販売されるようになっていった。
丸一養鶏場では、平成31年3月から、香港の食品スーパーへ「放し飼いたまごecocco」を輸出している(写真7)。
国内の人口減少に伴う販売先の減少が懸念されていたこと、また自社のブランド価値向上を目的に、国内と香港での展示商談会へ積極的に参加し、現在の取引を獲得している。商談は難航することもあったが、取引先では、有機や平飼いの鶏卵を取り扱っており、日本産鶏卵の生でも食べられる「鮮度」「安全」という点に加え、丸一養鶏場産の鶏卵は農場HACCPなどの認証を取得していることで、衛生管理やAWが対外的に証明されている点が評価されたと一柳代表は言う。
また、一柳代表が、取引先の店舗で自社の卵をPRしたことも、販売促進になっていると考えられる(写真8)。
輸出に当たっては、羽田空港まで輸送し、そこから輸出先の定期便として他の食料品などと混載され空輸される。
香港では、これまで主にタイや中国、韓国産の卵が輸入されていたが、2017年に韓国で発生した鳥インフルエンザや鶏卵への殺虫剤混入事件※7などを機に、年々食品に対する衛生管理の意識が高まっている。そのような状況下で、日本産の鶏卵は、衛生管理が徹底され、生でも食べられる品質であることに加え、包装前の洗浄により見た目にもきれいであることが、他国産の卵よりも人気が高い理由だそうだ。
※7 詳細は、海外情報「殺虫剤「騒動」で鶏卵の安全管理を強化へ( 韓国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002021.html)を参照されたい。
一柳代表は、ケージ飼養とエイビアリーを両立した生産体制を維持しつつも、放し飼い卵に対するニーズが高まれば、エイビアリーによる生産量を増やしていきたいという。令和2年開催の東京オリンピック・パラリンピックにおける食料調達基準として、JGAP(AW対応)が注目されていることに加え、倫理的消費(エシカル消費)といったものが、価格以外の選択肢として認識され始めている。その状況下で、農場HACCPやJGAPなどの認証を取得し、衛生管理を徹底していることを対外的に証明できていることから、自社製品の付加価値が高まるだろうと考えているとのことである。