(2)米国における2020年農畜産物の需給見通し
ア 牛肉
(ア) 飼養頭数
2020年1月1日現在の牛飼養頭数(乳牛含む)は、9440万頭と前年比で0.4%減少した(図1)。乳牛も含めた繁殖雌牛は同1%減の4070万頭、このうち肉用繁殖雌牛は同1.2%減の3130万頭となっている。
牛群拡大傾向は2014年以降続いていたが、減少に転じたことで2019年がキャトルサイクルの転換点であったとみられている。2020年は牛の飼養頭数の減少が進み、肥育前の若齢牛は同2%減少し、出産予定の育成牛数も減少すると予想されている。
(イ) 生産量
2020年1月1日時点のフィードロット飼養頭数は、前年比2.0%増の1470万頭であった。フィードロット飼養頭数は2008年以降最大となる一方、同日時点のフィードロット外の牛の飼養頭数は同0.4%減となっている。2020年の牛肉生産量は同約1.0%増の1246万トンと予測されている(図2)。2020年上半期は、現在フィードロットで飼養されている牛群が昨年より増加していることや牛のと畜頭数も増加していることから、前年を上回ると予想されている。しかし、下半期は牛のと畜頭数が減少し、フィードロット飼養頭数も減少すると予想されていることから、生産量は前年を下回ると予想されている。2020年の年間のと畜頭数は昨年と同等になると予想されているが、牛の出荷体重が増加していることから、2020年の生産量は増加すると予想されている。
(ウ) 輸出入量
2019年の牛肉輸出量は、前年比で4%超の減少となった(図3)。日本、メキシコ、カナダ、香港向けの輸出は減少したものの、韓国向けの輸出は増加し、韓国は第2位の輸出市場となった。2020年は豪州やニュージーランドなどの競合国の生産量が減少すると予想されていることから主要な輸出市場において米国の優位性が増加すると予想されていること、日米貿易協定などの最近の貿易協定、韓国での段階的な関税引き下げにより、輸出量は137万トンと予想されている。しかし、メキシコの経済成長が引き続き弱含みとなった場合には、輸出の向かい風となり得ると考えられている。
2020年の牛肉輸入量は同6%減の131万トンと予想されている。2020年の米国での乳用牛のと畜頭数は減少すると予測されているが、オセアニア地域からの牛肉供給余力がひっ迫していることやアジア諸国からの需要が増加していることが影響すると考えられている。
(エ) 価格
2020年の主要5地域(テキサス・オクラホマ、カンザス、ネブラスカ、コロラド、アイオワ・ミネソタ)の平均去勢肥育牛販売価格(100ポンド当たり)は、前年の平均価格116.78米ドル(1万2846円)とほぼ同じ、平均117米ドル(1万2870円)と予測されている(図4)。上半期のフィードロット飼養頭数の増加や、豚肉と鶏肉の生産量が増加することが、価格下落要因と考えられている。
イ 豚肉
(ア) 飼養頭数
2019年12月1日時点の豚飼養頭数は前年比3%増の7730万頭で、同時点としては過去最多記録を更新した(図5)。このうち繁殖豚は同2%増の約650万頭となった。しかし、2019年中頃は生産者の利益は急激に増加していたが、2019年後半には堅調な輸出需要による楽観的観測があったにも関わらず減少したため、生産者は頭数拡大をためらう可能性がある。繁殖候補豚は、2019年下半期の繁殖候補豚は前年同期比約0.5%減であったが、2020年上半期は同1%弱増になると予想されている。
(イ) 生産量
2020年の豚肉生産量は、前年比約5%増の1310万トンと過去最高を更新すると予測されている(図6)。これは主にと畜頭数の増加によるものであるが、枝肉重量の増加も見込まれている。2019年の第2〜4四半期における1腹当たりの産子数の増加率は平均して前年同期比約3%増であり、この増加率が今後も続くと仮定すれば、2019年下半期から2020年上半期の豚のと畜頭数は、前年同期比で約3%増となる。そのため、2020年は記録的なと畜頭数になると予想されている。
(ウ) 輸出入量
2019年は堅調な需要が輸出を後押しし、豚肉輸出量は前年比8%増の287万トンと過去最高を更新した。そして、2020年はさらに同17%増の335万トンと予測されている(図7)。2019年はメキシコ、日本、韓国等の主要な輸出先向けは減少したものの、ASFの影響を受けている中国向けが現在も高率な追加関税が賦課されているにも関わらず増加したことが大きい。2020年は日米貿易協定により、日本市場で競合国と同等の競争条件を獲得したことや、中国からの需要が引き続き堅調であることが予想されている。
2019年の輸入量は約43万トンとなり、2年連続で減少した。中国による豚肉需要が大きくなったため、他の輸出国にとって米国市場の魅力が薄れたことが要因とされる。また、2020年は記録的な生産量が予想されることと、中国による豚肉需要は続くと考えられることから、2019年よりも12%減少し、約38万トンと予想されている。
(エ) 価格
2020年の肥育豚価格(赤身率51〜52%、生体ベース、100ポンド当たり)は、昨年の47.95米ドル(5275円)からわずかに上昇し、平均49米ドル(5390円)と予測される(図8)。記録的なと畜頭数にもかかわらず、好調な輸出部門が価格をけん引すると予想されている。
ウ 鶏肉(ブロイラー)
(ア) 生産量
2020年の鶏肉生産量は前年比4%増の2077万トンとなり、過去最高を更新する見通しである(図9)。生産量増加による利益減少にもかかわらず、2020年初めは鶏群の拡大は続くと予想されている。しかし、2020年後半になるにつれ価格の低下が生産者の負担となり、鶏群の拡大は鈍化すると予想されている。ブロイラーの出荷体重は増加すると予想されている。
(イ) 輸出量
2020年の鶏肉輸出量は前年比4%増の336万トンと見込まれており、2013年に記録した333万トンは上回ると予想されている(図10)。生産量の増加と海外需要の高まりが2020年の輸出を強く支えると予想される。2019年11月に、中国による米国産家きん肉の中国向け輸出停止措置が解除されたことも後押しになると思われるが、中国における鶏肉価格は豚肉や牛肉程上昇していないため、中国向け輸出が大きく増加するかは不透明である。
(ウ) 価格
2020年の平均鶏肉卸売価格(1ポンド当たり)は、2019年の89米セント(98円)と比較して、87米セント(96円)と予測されている(図11)。価格は、鶏肉生産量の増加と、記録的な生産量が見込まれる牛肉と豚肉との競合により下落傾向になると予想されている。
エ 乳製品
(ア) 飼養頭数
2020年1月1日現在の乳用経産牛飼養頭数は、前年比0.2%減の933万5000頭であった。2020年の第1四半期は牛肉需要の高まりや更新牛がやや少ないことにより乳用経産牛は減少するが、その後は持ち直し、2020年通年の平均では933万5000頭と予想されている(図12)。
(イ) 生産量
乳用経産牛飼養頭数の減少に伴い、生乳生産量の伸びが鈍化している。2019年の生乳生産量は前年比0.3%増の9902万トンであった。2020年の生乳生産量は、乳用経産牛の増加や1頭当たりの年間乳量の増加により、同1.7%増の1億70万トンになると見込まれている。(図13)。
2019年の1頭当たり年間乳量は、前年比1.1%増の1万612キログラムであった。2020年は、乳価の上昇や飼料価格の安定が想定されることから、成績の悪い乳用経産牛の更新が進むと予想され、1万789キログラムになると予想されている。
(ウ) 輸出入量
2020年の乳脂肪ベースの輸出量は、前年比3.2%増の426万トン、無脂乳固形分ベースでは、同4.6%増の1978万トンと予想されている。2020年の輸出が増加する要因として、現在、米国産乳製品の価格は国際的に競争力を持っていること、第1位の輸入国であるメキシコ向け乳製品輸出に対する追加関税が撤廃されたこと、中国向け輸出の追加関税は継続すると想定されているが、代替市場を獲得することにより損失を相殺する可能性があることが挙げられている。
2020年の乳脂肪ベースの輸入量は、前年比11.1%減の286万トン、無脂乳固形分ベースでは、同5.5%減の249万トンと予想されている。2020年の輸入が減少する主な要因として、EUからの乳製品に対して25%の追加関税が賦課されることが挙げられている。
(エ) 価格
2019年の年間全国平均乳価(All milk price:飲用向け乳価と加工原料向け乳価の加重平均価格100ポンド当たり)は前年比で14%高の平均18.60米ドル(1キログラム当たり44.8円)であった。2020年の年間全国平均乳価は25米セント上昇し18.85米ドル、(1キログラム当たり45.5円)になると予測されている(図14)。
2019年はバター価格は前年を下回ったものの、その他のチーズや脱脂粉乳(NDM)、ホエイパウダーといった主要な乳製品価格は前年を上回った。2020年はバターとホエイパウダーは前年を下回り、チーズとNDMは前年を上回ると予想されている。バター価格は2019年8月以降下落傾向にあり、価格上昇が予想されているNDMの生産量が増加すると考えられることから、バターの余剰感が起きると予想されている。チーズ価格は2019年12月以降は下落しているが、在庫は比較的少なく、メキシコによるチーズへの追加関税も撤廃されたため国内および輸出需要が伸びると見込まれることから、価格は上昇すると予想されている。NDMは国際競争力が高まっていることから、輸出の増加が想定され、価格は上昇すると予想されている。ホエイパウダーは中国による追加関税の継続や中国国内でのASFの影響による豚飼養頭数の減少により、家畜飼料用途が減少していることも価格下落要因となっている。
オ 飼料穀物(トウモロコシ、大豆)
(ア) 作付面積および生産量
2019/20年度(9月〜翌8月)はトウモロコシの作付面積が前年度比で0.9%増の8970万エーカー(3630万ヘクタール)、大豆の作付面積が同17.2%減の7610万エーカー(3080万ヘクタール)であった。大豆需要の高まりにより大豆の作付面積は増加傾向にあったが、中国による追加関税の影響や春先の天候不順により作付適期を逃したことが主な減少要因と考えられている。2020/21年度の作付面積は、現在の穀物先物取引価格や輪作状況等を考慮すると、トウモロコシが9400万エーカー(3804万ヘクタール)、大豆が8500万エーカー(3440万ヘクタール)と予想されている。
2019/20年度の1エーカー当たりの収量は、トウモロコシが前年度比5.0%減の168.0ブッシェル(4.3トン)、大豆が同6.8%減の47.4ブッシェル(1.3トン)であり、トウモロコシ生産量は同4.7%減の136億9200万ブッシェル(3億4778万トン)、大豆生産量は同19.6%減の35億5800万ブッシェル(9678万トン)であった。
2020/21年度の1エーカー当たりの収量は、トウモロコシが前年度比6.3%増の178.5ブッシェル(4.5トン)、大豆が同5.1%増の49.8ブッシェル(1.4トン)であり、トウモロコシ生産量は同12.9%増の154億6000万ブッシェル(3億9268万トン)、大豆生産量は同17.9%増の41億9500万ブッシェル(1億1410万トン)であった(図15)。
※トウモロコシ 1ブッシェル=25.4kg
大豆 1ブッシェル=27.2kg
(イ) 消費量
2020/21年度の輸出量も含めた総消費量は国内需要と輸出量の増加が見込まれることから、前年度比4.8%増の147億4000万ブッシェル(3億7440万トン)と予測されている(図16)。内訳としては、畜産分野での需要が大きく、飼料等向けが同5.0%増と伸びており、食品・種子・その他工業向け、バイオエタノール向けは前年同様と予測されている。
(ウ) 輸出量
トウモロコシの2020/21年度の輸出量については、前年度比21.7%増の21億ブッシェル(5334万トン)と予測されている(図17)。国際的な需要の高まりにより、輸出は増加するとみられているが、アルゼンチン、ブラジル、ウクライナという主要な競合国との競争は続くと予測されている。
大豆の2020/21年度の輸出量は、前年度比12.3%増の20億5000万ブッシェル(5576万トン)と予測されている(図17)。中国による追加関税の影響で直近2年間は輸出量が減少していたが、中国を含む国際的な需要の高まりにより、輸出量は回復するとみられている。
(エ) 在庫量および生産者平均販売価格
トウモロコシの2020/21年度の期末在庫量は前年度比39.4%増の26億3700万ブッシェル(6698万トン)と予測されており、期末在庫率(期末在庫/総消費量)は17.9%と前年度から4.5ポイント増加する見込みである(図18)。一方、当該年度の平均販売価格は前年度から25米セント(27.5円)上昇し、1ブッシェル当たり3.60米ドル(396円)と予測されている。
大豆の2020/21年度の期末在庫量は前年度比24.7%減の3億2000万ブッシェル(870万トン)と予測されており、期末在庫率(期末在庫/総消費量)は7.4%と前年度から3.1ポイント減少する見込みである(図18)。このため、当該年度の平均販売価格は前年度から5米セント(5.5円)上昇し、1ブッシェル当たり8.80米ドル(968円)と予測されている。