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海外の需給動向【牛肉/カナダ】 畜産の情報 2020年5月号

飼養頭数の減少が継続、と畜頭数は増加

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飼養頭数は減少基調
 カナダ統計局(Statistics Canada)が2月25日に公表した牛の飼養動向によると、2020年1月1日時点の総飼養頭数は前年比1.9%減の1122万頭とわずかに減少し、2年連続して前年を下回った(表1)。カナダでは度重なる干ばつの発生や米国への生体牛流出などといった要因から幾度となく牛群の拡大が阻まれており、飼養頭数は2006年以降ほぼ一貫して減少傾向で推移している。2020年も統計開始以来最も多かった2005年の同時点の頭数を25%程度下回る結果となった。

 
 飼養頭数を区分別にみると、最も減少幅が大きかった去勢牛は前年比7.1%減の108万8000頭と前年をかなりの程度下回った。繁殖雌牛も同2.0%減の454万3000頭とわずかに減少し、うち肉用繁殖雌牛も同2.6%減の356万1000頭とわずかに減少した。
 今後の牛群再構築の要となる未経産牛の肉用後継牛は同6.3%減の51万5000頭であり、カナダの牛飼養頭数は引き続き減少基調で推移すると見込まれる。

と畜頭数は4年連続して増加
 牛飼養頭数が減少している要因として、と畜頭数が増加していることが挙げられる。カナダ肉用牛生産者協会(CCA)の畜産物市況部門であるCanFaxによると、2019年のと畜頭数(連邦検査ベース)は前年を4.6%上回る314万9503頭と、4年連続しての増加となった(図8)。


 
 区分別にみると、去勢牛は前年比7.1%増の171万2761頭とかなりの程度増加し、未経産牛は同2.7%増の91万3450頭とわずかに増加、経産牛は同0.4%増の50万7299頭となった一方、種雄牛は同8.1%減の1万5993頭とかなりの程度下回った。
 こうした状況について、米国農務省海外農業局(USDA/FAS)は、一部地域で干ばつによる飼料不足によりと畜頭数が増加し、飼養頭数が減少したことを要因として挙げている。また、2020年においては、2019年に更新された繁殖雌牛群の繁殖成績が向上すると見込まれることや、気象状況および飼料生育状況の好転、子牛価格の上昇などのプラス要素が繁殖農家の経営意欲を後押しするものの、未経産牛の飼養頭数が減少することから、牛群の拡大は一定の制約を受けるとしている。
 また、飼養頭数が減少基調で推移しているにも関わらずと畜頭数が増加していることの一因として、米国産生体牛の輸入増加が挙げられる。カナダ統計局によると、2019年の米国産生体牛の輸入頭数は前年比36.2%増となる27万4584頭と前年を大幅に上回った。うち乳用種・純粋種を除いた生体牛輸入頭数(肉用肥育もと牛に相当)も同38.4%増の25万7187頭と大幅に上回っている。
 既報(「畜産の情報」(2020年4月号)海外の畜産物の需給動向→牛肉→米国)の通り、米国のキャトルサイクルに伴う牛群拡大が終息を迎えている中、カナダの肥育業者が米国産肉用種肥育もと牛を比較的安価な価格で調達することは難しくなると思われる。
 さらに、USDA/FASによると、カナダ国内の子牛出生頭数が伸び悩む中、カナダ西部を中心としたフィードロットからの旺盛な需要により、米国産生体牛の輸入は増加したものの、2020年においては、カナダ東部(オンタリオ州)のと畜場が閉鎖されたこと、米国においても子牛出生頭数が減少することから、同輸入は減少するとされている。

牛肉輸出量は6年連続で増加
 こうした状況の中、牛肉輸出量(製品重量ベース)は2014年以降6年連続で増加し、2019年は前年比10.0%増の38万6223トンと前年をかなりの程度上回った。主要輸出先別にみると、シェア7割以上を誇る最大輸出先の米国向けは、同6.8%増の28万9373トンと同じく6年連続の増加となった。他の主要国向けでも香港、台湾を除き軒並み増加しており、最も増加幅の大きかった日本向けについては、同63.6%増の4万3491トンと大幅に増加している(表2、図9)。




 
 なお、USDA/FASによると、2020年の輸出見込みについて、前年比12%の増加を見込んでいる。主要輸出先については、輸出市場が多様化しているものの、米国が主たる輸出先であることに変わりはなく、シェアが減少するとしても首位を維持するとしている。日本向けについては、2019年は堅調であったものの、日米貿易協定の発効に伴いカナダと米国の関税率が対等となったため、今後の競争は激しくなるとしている。
 中国向けについては、2019年は4カ月間の禁輸措置(注)にも関わらずわずかに増加した。2020年においては、中国を含めたアジア諸国向けにおいて、ASF(アフリカ豚熱)発生に伴う代替需要により増加するとしているが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による物流面での影響も懸念されている。

(注) 2019年6月25日、カナダ政府は、成長促進剤であるラクトパミンの残留および偽造検査証明書が発覚したことなどを踏まえ、中国政府の要請により中国向け豚肉(および牛肉)輸出に係る輸出許可証明書の発行を停止した。その後、カナダ政府は11月5日、同輸出許可証明書の発行を再開すると表明し、輸出が再開されている。

(調査情報部 藤原 琢也)