ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 中国の肉用鶏産業の現状と鶏肉需給の見通し
中国では、アヒル、ガチョウ、ハトなどさまざまな「家きん」が飼養されており、豚肉に次いで家きん肉が多く消費されている(表1)。2019年の家きんの総出荷羽数は約146億羽、家きん肉生産量は2239万トンであり、山東省や河南省をはじめとする東部から南部で生産が盛んである(図1)。
このうち鶏肉は、後述する白羽肉鶏や黄羽肉鶏、また、採卵鶏の廃鶏などから生産されており、同年の生産量は、米国農務省の予測によると1375万トンと家きん肉の約6割を占めている(図2)。これは、米国、ブラジルに次ぐ世界第3位の生産量となっている。
肉用鶏は、海外からの輸入品種を白羽肉鶏、在来種を黄羽肉鶏と呼び、飼養期間や流通経路、消費方法などが区別されている。白羽肉鶏は1980年代に欧米から輸入され、広まってきた。飼養期間は42〜48日で、出荷体重は2キログラムを超える。一方、黄羽肉鶏は55日以上飼養され、出荷体重は2キログラム未満のものが多い。例えば、日本でもなじみのある
従って、地域ごとの家きん出荷羽数と家きん肉生産量を見ると、東北部に位置する河北省や遼寧省では出荷羽数に対する生産量の割合が大きく、南部に位置する広東省や広西チワン族自治区では小さくなっている(図3)。
肉用鶏農家数は、2007年は2914万5000戸であったが、2017年には1900万2300戸と3分の2まで減少した(表3)。「中華人民共和国環境保護法(2015年1月1日施行)」をはじめとする法令により環境規制が強化され、家畜および家きん飼養禁止区域が制定されたこと、2018年1月からは、「中華人民共和国環境保護税法(2016年12月制定)」により5000羽以上の飼養規模の家きん農家は環境保護税の徴収対象となった(注1)ことにより、中小規模の養鶏農家が減少し続けていると言われている。
規模別飼養戸数を見ると、1999羽以下の肉用鶏農家は10年で1000万戸減少した。一方で、10万羽以上飼養する養鶏場は増加している(表4)。現地専門家によると、10年ほど前までは飼養羽数の7割が庭先養鶏であったが、大企業によるインテグレーションが急速に進んだため、2018年には飼養羽数の約6割をこのような企業が占めるようになった。
(注1) 環境規制の詳細は「畜産の情報」2018年4月号『中国の養豚をめぐる動向と環境規制強化の影響」(https://www.alic.go.jp/content/000149048.pdf)P.95〜98を参照されたい。
現在、インテグレーターは、飼料原料の調達から、飼料の生産、種鶏(PS)(注2)の生産、肉用鶏の肥育、食鳥処理、鶏肉加工、鶏肉および鶏肉加工品の販売まで一貫して行うことが主流となっている。
白羽肉鶏の主な企業には、福建聖農発展股
黄羽肉鶏の主な企業には、温氏食品集団股
(注2) 食用に肥育される肉用鶏(コマーシャル鶏)は種鶏から生産されており、その親世代の種鶏をPS(種鶏)、祖父母世代をGP(原種鶏)という。多くの国は、肉用鶏を生産する上で、そのひなを生産するためのGP(原種鶏)やPS(種鶏)を海外からの輸入に依存している。
2019年の鶏肉生産量は1375万トン、輸入量は58万トンであり、鶏肉の供給は、ほぼ国産で賄っている(表5)。
生産量の推移をみると、1990年以降2012年まで増加している。その後、「食品消費期限切れ事件」(注3)による鶏肉消費の減少を受け、生産量も減少した。さらに、高病原性鳥インフルエンザの発生や環境規制により減産が続いたが、2018年に入り増加に転じた。鳥インフルエンザの影響が薄れてきたこと、養鶏企業の大規模化が進み生産性が向上したことが要因とされている(図4)。
(注3) 2014年7月に発覚した、中国の食品加工工場が製造した食肉加工食品に消費期限切れの鶏肉などを使っていた問題。この事件の後、中国国内の鶏肉消費が大幅に減少した。また、当該工場で生産された食品は、日本や米国など多数の国に輸出されており、世界の食品企業が取引を中止する事態となった。
中国では白羽肉鶏の輸入開始以来、GP(原種鶏)を海外から輸入し、国内でPS(種鶏)を増産して鶏肉を生産していたため、輸出国における鳥インフルエンザの発生が中国国内の生産に影響を与えることが多かった。このような状況を受け、2017年からは、一部の大企業が自身でGPを生産するようになった。現地専門家によると、このような企業は2019年時点では2社であったが、2020年には3〜4社に増加する見込みであり、GP生産量も増加している。輸出国の鳥インフルエンザの影響が薄まってきたこともあり、2018年のGP更新量(注4)は輸入が55万組(注5)、国産が20万組であったが、2019年は、輸入が前年比約2倍の108万組、国産が同1.5倍の30万組まで増加した(図5)。
さらに、輸入先を拡大する動きもある。中国は2019年11月に米国からの鶏肉輸入停止を解除し、2020年2月に鶏および鶏肉製品の輸入停止の解除を発表した。これにより、GPの輸入が可能となった。しかしながら、現地専門家によると、輸入停止解除前でも必要な品種および量のGPの輸入は他国から輸入可能であり、米国からの輸入が解禁されたところで市場に大きな影響はないとのことであった。
なお、黄羽肉鶏の原種鶏は全て国内で生産されている。具体的なデータを入手することはできなかったが、近年は減少傾向にあるという。
(注4) GPの産卵能力が衰えてくると、若くて能力が高いGPと入れ替える。GPの産卵期間については、畜産の情報2016年6月号「生鮮鶏肉輸出再開後のタイの鶏肉産業の動向」(https://www.alic.go.jp/content/000125475.pdf)を参照されたい。
(注5) 中国では原種鶏を「組」単位で表す。父系原種鶏の雄・雌、母系原種鶏の雄・雌の4種がセットとなっており、原種鶏100組は原種鶏約170羽で構成される。
白羽肉鶏については、インテグレーターの直営農場や契約農場で飼養された鶏が、同社が所有する食鳥処理場でと鳥され、隣接するカット場で整形されたあと、そのまま卸や小売に出荷されるか、加工工場で加工された後出荷されている。
このような農場では、外部からの人や資材の進入は制限され、鶏舎内を調査することは不可能であったが、企業からの聞き取りによると、鶏は、疾病の侵入防止に配慮された鶏舎で、オールイン・オールアウト方式で飼養されている。また、給餌や排せつ物処理、アンモニア濃度管理などの飼養環境の制御といった作業は全て自動化され、機械で行われているとのことであった。
なお、GPやPS農場は防疫に特に注意を払っている。あるGP農場では、部外者が立ち入らないよう、監視カメラが設置された入口のゲートは常に閉鎖されており、飼料運搬車などは車両消毒槽を通過して入場するような構造であった。鶏舎への出入りも管理されており、出勤した従業員は事務棟で作業着に着替えてから作業するよう決められているとのことであった。
高病原性鳥インフルエンザの発生や国内需要の影響を受けて、生産量が100万トン程度増減することがあるが、輸入量は生産量ほどの大きな変化はない。2019年の冷凍鶏肉輸入量は、需要の増加により前年比54.6%増の77万4343トンであったが、例年は40〜50万トン程度である(表6)。輸入鶏肉はほとんどが冷凍であり、冷蔵鶏肉の輸入はほぼない。
かつて、主な輸入先はブラジルと米国であったが、2015年に米国において高病原性鳥インフルエンザが発生したため、輸入が停止された。このため、現在ではブラジルからの輸入が約9割を占めている。2018年以降は、輸入先の多様化を図っており、同年3月に解禁したタイや、2019年6月に解禁したロシアからの輸入が増加している。また、米国からの輸入停止の解除や、フランスからの輸入を解禁するなど、多様化の動きは続いている(注6)。
(注6) 中国の鶏肉輸入先の多様化の動きについては、海外情報「家きん肉輸入先を拡大(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-cu/joho01b_000037.html)を参照されたい。
なお、輸入量の内訳は、手羽が21万5900トン、もみじ(鶏足)が16万700トン、骨付き鶏肉が12万6100トンとなっている(図6)。手羽の人気が高いが、近年は「骨付き鶏肉」に含まれるもも肉の輸入量も増加している。