(1)肉用牛飼養頭数
肉用牛飼養頭数は、2014年以降、干ばつに伴い雌牛を中心とした淘汰により減少傾向で推移したが、2017年は天候の回復に伴い増加に転じていた。しかし、2018年前半からは、QLD州およびNSW州を中心に、広範囲な干ばつが継続しており、雌牛を中心に淘汰が増加し続けた。雌牛と畜割合は、過去20年の平均が48%であるのに対し、2019年の平均は56%、特に3月から6月は、58%と記録的な水準に達した。このことから肉用牛飼養頭数は、再び減少に転じ、2020年6月末時点では、2107万頭(前年比5.8%減)と、1990年以来、過去30年間で最も少ないと見込んでいる(図2)。
2021年の後半からは、段階的な牛群再構築期間に移行すると見込んでいる。これが一時的にと畜頭数、生産量、輸出量の減少を招くものの、2022年以降は、肉用牛飼養頭数は年間平均4%ずつ回復するとみられている。
豪州では牧草肥育を基盤としているため(35ページ図13参照)、肉用牛飼養頭数は、天候条件に大きく左右される。ABARESはこの予測について、2022/23年度より過去20年間のデータに基づき、より好ましい条件を含む近年の気候変動パターンに基づいて想定したとしている。
(2)と畜頭数、牛肉生産量
と畜頭数については、2019/20年度は、841万頭(前年度比3.4%減)とやや減少すると見込んでいる(図3)。その後も牛群再構築のための雌牛保留などにより、2022/23年度には633万頭まで減少するものの、その後は、飼養頭数の回復に伴い増加を見込んでいる。
牛肉生産量については、2019/20年度は、と畜頭数の減少に伴い226万トン(同3.9%減)とやや減少すると予測している。
牧草の生育条件の改善と雌牛と畜割合の減少により平均枝肉重量が増加するため、部分的にと畜頭数の減少による生産量の減少を相殺するものの、2022/23年度までは、減少を見込んでいる。その後2024/25年度までには、これまでの長期的な平均水準となる230万トンに回復すると見込んでいる。
(3)肉用牛価格
家畜市場における肉用牛平均取引価格(加重平均、枝肉重量換算
(注4))は、2019/20年度は、ASF(アフリカ豚熱)により多くの豚をと殺処分した中国をはじめとした海外の強い需要により、1キログラム当たり505豪セント(343円、前年度比13.2%高)とかなり大きく上昇すると見込んでいる(図4)。
(注4) 家畜市場で取り引きされる牛の1キログラム当たり生体価格に、歩留まり率をかけて、枝肉重量1キログラム当たりの価格に換算。
2019/20年度以降も同様の傾向が続き、歴史的な高値水準を維持すると見込んでいる。
(4)牛肉輸出
牛肉輸出量(船積重量ベース)は、2018/19年度は、干ばつに伴う肉牛と畜頭数(牛肉生産量)の増加とASF発生による豚肉からの代替需要に伴う中国向けの大幅な増加により、122万トン(前年度比8.8%増)と増加を見込んでいる(図5)。
2019/20年度以降数年間は、牛群の再構築に伴うと畜頭数の減少(生産量の減少)により減少するものの、牛群が再構築された後は、生産量の回復に伴い増加すると見込んでいる。
特に中国向けは、2019/20年度に30万トン(同31.5%増)に達し、初めて豪州牛肉の最多輸出先国となることを見込んでいる。中国の牛肉需要は、短期的にはこのまま増加するが、2024/25年度までには、中国やその他の生産国で豚肉や鶏肉の生産が増えることで、徐々に落ち着くと見込んでいる。
輸出単価については、旺盛な需要に伴い2019/20年度まで上昇を続けるが、その後は豚肉や鶏肉の生産量増加に伴う牛肉需給の緩和により、下落傾向で落ち着くと見込んでいる。
また、輸出市場においては、日米貿易協定や米中の第一段階の経済・貿易協定が合意されたことにより、中期的に米国との競合が増すと予測している。短期的には、中国が南米諸国に対して牛肉工場の承認を急速に進めているため、南米との競合が増すと分析している。
なお、これらの見通しについてABARESは、COVID-19が需要に著しい影響を与えなかったという前提を置いて分析したものだとしている。
(5)生体牛輸出
2019/20年度の生体牛(と畜場直行牛および肥育もと牛)の輸出頭数は、東南アジア全体で需要が増加し続けていることから、118万頭(前年度比13.2%増)とかなり大きく増加すると見込んでいる(図6)。ただし、輸出先国ごとの数値は示されていない。
生体牛の最も重要な輸出先であるインドネシアでは、肥育もと牛5頭に対し、繁殖雌牛1頭の輸入が義務付けられていたが、2019年に肥育もと牛20頭に対して1頭に緩和された。さらに、2020年2月に締結されたインドネシアとの包括的経済連携協定(IA-CEPA)により、肥育もと牛(雄のみ)の無関税枠(初年度57万5000頭、6年で70万頭に拡大)が新設された。また、枠外の関税率は、肥育もと牛が5%から2.5%に削減され、繁殖牛は引き続き無税とされた。