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話題 畜産の情報 2020年5月号

牛乳乳製品の価値や持続可能な酪農乳業の取り組みを見える化する食育活動

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一般社団法人Jミルク マーケティンググループ 前 いずみ

1 はじめに〜子どもたちへの食育活動で学校現場と連携〜

 一般社団法人Jミルク(以下「Jミルク」という)は、酪農乳業関係者や消費者に影響力のあるインフルエンサー(医師、栄養士、学校教職員)、メディアなどに牛乳乳製品の価値向上と酪農乳業の共通課題の解決に役立つ情報を提供する、生産者、乳業、販売店の組織で構成された酪農乳業団体です。
 特に、食育活動で牛乳乳製品の価値向上や酪農乳業の取り組みへの共感を得ていくためには、子どもたちに対する食育を実践する学校現場と連携し、学校給食の時間や教科などの教育活動で系統立てたアプローチが必要です。
 また、牛乳の栄養や健康面だけでなく、暮らしとの結びつきを通した社会や文化面などの多様な価値を幅広く情報提供し、学校現場での年間を通した食育活動で活用してもらうことも重要と考えています。
 そこでJミルクでは、学校教育や酪農乳業で食育を実践する関係者を対象とした食育研修会や教材開発を実施するなどして情報提供しています。
 こうしたJミルクの食育事業は、国内の研究者などで組織する「乳の学術連合」で教育分野を担う「牛乳食育研究会」の協力で実施しています。同研究会は、教育研究者を中心に構成する研究グループで、牛乳の持つ多様な教育的価値を探求するとともに、子どもたちの資質・能力の育成につながる「乳」を活用した教育プログラム開発に向けた調査・研究活動を行っています。

2 学校現場とつくる食育教材

 毎年、全国数カ所で実施している「牛乳食育研修会」は、公益社団法人全国学校栄養士協議会や教育委員会、地域の酪農乳業関係組織との連携で小中学校や特別支援学校の学校教職員を対象にしています。
 研修会に参加する学校教職員は、開催地域の牧場視察や地元乳業会社による講演で得た情報を材料に、2日間かけて教育研究者の指導で牛乳の教育的な価値探しをする「教材研究」から、最終的に子どもたちに牛乳を活用して食育実践するための授業づくりまでをワークショップ形式で学びます。
 2019年度の研修会では、酪農家が食品工場の副産物などを利用したエコフィード飼料などを活用する工夫を通して「サスティナブルな食生活について考える」や、牛乳パックに着目して「産業の工夫や努力」「地域の農産物に関心を持つ」など、学校の食育課題に沿って即実践に活用できるものばかりがそろいました。この授業案は、研修会後、参加者が実際に所属校で実践し、児童・生徒の反応や授業案の改善点などをJミルクにフィードバックしてもらい研究者の協力を得て検証します。
 さらに、全国の学校教職員が活用できるよう、Jミルクの公式Webサイトで教材として公開しています。

3 FAOや学校とパートナーシップでSDGsに貢献

 国際連合食糧農業機関(FAO)が提唱して始まった6月1日の“World Milk Day”を起点に募集を開始する「牛乳ヒーロー&ヒロインコンクール」は、小学生を対象に「牛乳のキャラクター」を考えてもらうコンクールです。2019年度で7回目となり、全国1382校の小学校が参加し、2万8736点の作品が応募されました(図1)。小学校の「牛乳」を活用した食育活動に本コンクールを活用してもらい、作品づくりの過程で子どもたちの「牛乳や食べものを大切に思う気持ち」を育むことを目的に実施しています。
 
 
 また、酪農乳業産業が、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に貢献する行動として、世界の飢餓問題、食品ロス、リサイクルなど、FAOや小学校とのパートナーシップで問題解決に取り組む活動としても位置付けています。
 実際にある小学校では、子どもたちの給食の食べ残しや飲み残し問題について、日頃から課題意識を持っていた一人の児童の応募作品が、全校児童の行動に影響を与えた事例などもコンクール参加校の学校教職員から報告されています。毎年参加校も増えており、学校の食育活動での定着や広がりを見せています。

4 「食育」から考える牛乳の風味変化問題への対応

 最近の学校給食用牛乳(以下「学乳」という)の風味変化問題への対応は、酪農乳業に共通する解決すべき大きな課題です。Jミルクでは、季節や地域によっても変わる牛乳の特性や子どもの味覚についてまとめた学校教職員向け資料「牛乳は生きている」を2014年に製作しました。さらに、学校教職員による子どもたちへの食育実践を通じて「牛乳の農産物としての特性」についての理解を醸成する、小学校3〜4年生向けの授業案と資料「牛乳は生きている」活用教材(図2)を、学校現場や教育研究者の意見を参考にして製作し、酪農乳業関係者を通じて学校に配布しています。
 
 
 本教材では、牛乳の特性を生かし「農産物の特徴」や「工場で働く人たちの工夫や努力」を学習する教材として、学校の学習活動と連携できる内容になっています。

5 学校関係者の疑問の解消のために

 学校給食における牛乳の風味変化問題に対しては、こうした学校への教材提供のほかに、学校関係者が体験的に理解できるようなプログラムとして、酪農乳業関係者が学校(大人)に説明するケースを想定した「牛乳の風味体験プログラムキット」を、公益財団法人日本乳業技術協会や乳業会社、学校関係者の意見をもとに製作し、学校関係者向けに実践を希望する酪農乳業団体や乳業会社に提供しています(図3)。
 
 
 この体験プログラムは、「牛乳は、乳牛の食べるえさによって風味が違うこと」、「匂いや味の表現の仕方は、人によって違うこと」の二つを体感してもらうことがねらいです。
 実際に東京都内五つの地域で学校教職員向けに、学乳を提供する乳業会社と共同で本プログラムを実施したところ、「牛が食べているもので風味が違うことを初めて知った(理解した)」「自分の舌は当てにならない」「人によって感じ方がこんなに違う」などの意見が出るなど、牛乳の農産物としての特性についての理解を得ることができました。また併せて「牛乳をつくり届けるまで」を乳業会社が講演したところ、「毎日届けられる牛乳は多くの人が携わって届けられていることを知った」「子どもたちへ伝えたい」といった学習の素材としての魅力をお伝えすることができ、「出前授業などをしてほしい」などの要望もいただきました。Jミルクでは、本プログラムなどを活用し、学校教職員の疑問を一つ一つ解消し、支えていくことも必要だと考えています。

6 食育活動のこれから

 学校教育の基準となる学習指導要領が新しく施行されました。解説・総則編で食育については、「心身の健康に関する内容に加えて、自然の恩恵・勤労などへの感謝や食文化などについても教科等の内容と関連させた指導を行うことが効果的である」(一部抜粋)とあり、食育の幅は広がっています。しかしながら授業数はすでに目一杯で、「食育」のまとまった時間の確保は難しく、各教科などの学習課題に分散するか、短時間化して分散するかの傾向が強まっています。
 このような環境にあっても牛乳乳製品の価値や持続可能な酪農乳業の取り組みを見える化し、学習内容に沿って提供することで、牛乳を素材にした学習活動を取り組みやすくすると考えています。

(プロフィール)
1993年9月 社団法人全国牛乳普及協会(現Jミルク) 総務採用
2013年4月から現職