気象庁は1990年 に「気温上昇に伴う蒸発散量の増加により、土壌の乾燥化・有機物の分解が増加し、地力と保水力が低下し、加えて対流性降雨の増大で土壌の浸食が進む」と予測し、札幌管区気象台は2017年に「1時間に30ミリメートル以上の激しい雨の年間発生回数が増加傾向である」と報告しています。
最近の実態は、2019年に関東・東北で大型の台風15号、19号が上陸して甚大な被害が発生し、北海道では2015年〜2018年に連続した台風の上陸や長雨などで牧草やトウモロコシサイレージの生産調製に不安定な時期が続きました。同時に、春先〜初夏に長い干ばつ期間が発生し、牧草収量の減少や牧草・トウモロコシの発芽不良などの被害が発生しています。
牧草の栽培草種を、耐干ばつ性と耐湿性に劣るチモシーに偏りすぎないようにリスク分散し(写真1)、有機物の多い表土を大切にして保水性を保つ対応が必要と考えます。
激しい雨の発生回数が増加する環境で、地表面に有機物が少ない土壌をあらわにすると、土壌流亡(エロージョン)が発生しやすくなります(写真2)。土壌の有機物が少ないと牧草の発芽定着や生育が悪く、土壌流亡はより発生しやすくなります。深過ぎる耕起により、有機物の少ない心土を表面に出さないように留意が必要です。
簡易更新法による植生改善は、土壌流亡の発生防止に期待できますが、傾斜が急な
圃場では作溝法よりも、スパイクによる穿孔法が向いているようです。
また、草地更新直後の大雨などで発生したガリ(水の浸食による断続的な小崩壊跡)や、放牧地で牛道から発達したガリ形成の事例をよく見かけます。激しい雨の発生回数が増加する環境でガリを放置すると、崖にまで発達し、農地を失う場合があります。ガリが発生したらできるだけ早く修復する必要があります。一方、激しい雨の発生回数が増加すると農地の排水が追い付かず、滞水が発生しやすくなります。そのような環境では、有害なアルカロイドを産生するカヤツリグサ科の植物や、大量の種子による増殖で牧草を圧倒するヒエが増えます。放牧地においても
泥寧化が進み、作業性や土地生産性は大幅に低下します。
対策としては
明渠の整備が最も重要となります。明渠を確保できれば、
暗渠やサブソイラーなどで明渠に水を誘導できます。また、機械的な排水のみによらず、アルファルファやアカクローバーなどの直根を有するマメ科牧草を導入することも排水改善に有効です。これらの直根は水と空気を通すパイプとなり、土壌の物理性を改善します。
気候変動により平年を上回る雨が降り、酸性雨が継続的に降ることで、土壌の酸性化が進みます。土壌の酸性化を放置すると、
播種した牧草の発芽定着・初期生育が不良となり植生改善が難しくなります。肥料の効果も低減し、収量が低下します。また、酸性土を好む強害雑草が侵入・拡大し、牧草地の生産性はさらに低下が懸念されます。日頃から土壌pHを意識し、炭酸カルシウムの散布をお勧めします。