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海外の需給動向【牛肉/米国】 畜産の情報 2020年6月号

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い牛肉市場は混乱

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4月のフィードロット飼養頭数、対前年で減少に転ずる
 米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)が2020年4月24日に公表した「Cattle on Feed」によると、3月のフィードロット導入頭数は前年同月比22.7%減の155万7000頭と前年同月を大幅に下回り、3月の導入頭数としては、現行の方式で調査が開始された1996年以降で最も少ない頭数となった。また、出荷頭数は同13.1%増の201万頭と前年同月をかなり大きく上回り、こちらは3月の出荷頭数としては過去2番目に多い頭数となった。
 この結果、2020年4月1日現在のフィードロット飼養頭数は1129万7000頭と、前年同月を4.5%下回った(図1)。フィードロット飼養頭数は、堅調な肥育牛価格を背景にフィードロットの収益性が良好であったため、2018年以降記録的水準で推移していた。しかし、後述の通り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う牛肉市場の混乱や、肥育牛価格が低迷したことなどによりフィードロット導入頭数が減少した結果、4月の飼養頭数は6カ月ぶりに対前年で減少に転ずることとなったとみられる。
 

 
 
3月の牛と畜頭数、かなりの程度増加
 フィードロット出荷頭数が過去2番目に多い水準を記録する中、と畜頭数も同じく増加している。USDA/NASSが2020年4月23日に公表した「Livestock Slaughter」によると、3月の牛と畜頭数(連邦検査ベース)は、前年同月比10.2%増の287万5000頭と前年同月をかなりの程度上回った(図2)。また、2020年1〜3月のと畜頭数は、前年同期比5.8%増の826万8000頭となった。
 
 
 この要因として、現地報道によると、2月以降肥育牛価格が下落したことや、COVID-19の拡大に伴い、需要期である夏場以降の肥育牛価格が不透明なこと、後述の通り、3月中旬に小売特需があったことなどが挙げられている(図3)。
 
 
COVID-19の発生、拡大に伴い卸売価格は乱高下
 COVID-19の発生、拡大に伴い、牛肉卸売価格(カットアウトバリュー(注1))が大きく変動している。米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)が毎日公表する「National Daily Boxed Beef Cutout and Boxed Beef Cuts」によると、カットアウトバリューは3月13日以降急騰したものの、3月23日を一旦ピークに下落した(図4)。しかし、4月に入ると高騰前の水準に戻ることなく再び急騰に転じ、4月9日以降は連日上昇を続け、4月27日には100ポンド当たり311.84米ドル(1キログラム当たり742円:1米ドル=108円)という異例の水準となった。
 
 
 この背景について、現地報道によると、3月中旬〜下旬は全米各地で実施された都市封鎖や外出制限の実施に係る小売特需により流通在庫が激減し、その補充買いでカットアウトバリューが急騰したものの、その後のレストランの一斉休業などに伴い需要が激減したため、急落したとされる。
 しかし、4月中旬以降、主要な牛肉パッカーの休業や操業停止によりと畜頭数が減少する中、さらなるパッカーの操業停止報道も相次いだ。
 加えて、現時点で米国の牛肉生産能力が10%程度削減されており今後の牛肉生産動向も不透明であるといった情報も飛び交い、活動再開を見据え、在庫を確保しようとするレストランや小売チェーンからの旺盛な需要により、同価格は再び急騰したとみられている。
 このように牛肉市場が混乱する中、米国農務省(USDA)は4月17日、COVID-19の影響を受けている農家や牧場主、消費者を支援するためのコロナウイルス食料支援プログラム(CFAP)を公表した(注2)
 さらに、トランプ大統領は4月28日、国家非常事態宣言が適用されている間において、国防生産法に基づき、米国民にたんぱく質を供給し続けるために、牛肉、豚肉、鶏肉の食肉および家きん肉処理場は操業を続けることを命じる大統領令に署名(注3)するなど、牛肉市場の鎮静化を図っているところであり、今後の動向が注目される。

(注1) カットアウトバリューとは、各部分肉の卸売価格を1頭分の枝肉に再構成した卸売指標価格。
(注2) 海外情報「米国農務省、新型コロナウイルス感染症に対する農業支援策を発表(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002685.html、106ページ)を参照されたい。
(注3) 海外情報「トランプ大統領、食肉・食鳥処理場の操業継続を命じる大統領令を発出」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002691.html、107ページ)を参照されたい。
(調査情報部 藤原 琢也)