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調査情報部では世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、各国政府の対応など需給に影響を与えるタイムリーな情報を、海外情報としてホームページで随時掲載しております。
(掲載URL:https://www.alic.go.jp/topics/index_abr_2020.html)
ここでは、5月8日までに掲載したものをまとめて紹介いたします。
新型コロナウイルスの感染拡大が続く米国において、大手食肉パッカーの操業停止が相次いでいる。
米国最大の豚肉パッカーであるスミスフィールド社は4月12日、サウスダコタ州スーフォールズにある豚肉処理場の操業停止を発表した。同処理場の豚肉処理能力は1日当たり1万9500頭。今後の閉鎖に向け、4月14日に在庫製品の処理を行い、その後は地方自治体、州政府および連邦政府当局の指示があるまでの間、操業が停止される。同社は4月9日、従業員の新型コロナウイルスへの感染が確認されたため、3日間の操業停止を行うと発表していた。
同社のプレスリリースによると、同処理場は米国最大の豚肉加工施設の一つで、米国の豚肉生産量の4〜5%を占め、3700名の従業員を雇用し、550戸の養豚家からの出荷を受けているとのことである。また、今後2週間は引き続き従業員に給与を支払うとしている。
社長兼最高経営責任者(CEO)のケネス・サリバン氏は、「本処理場の閉鎖により、米国内で操業を停止する食肉処理場が増加しつつあることと相まって、米国の食肉供給能力は危険な水準にまで達しつつある。処理場の稼働なくして、食料品店で食肉を購入することはできない。また、サプライチェーンに関連する多くの人々、特に畜産農家に対して深刻な影響を与えることになるだろう」と、今後の食肉需給への影響を懸念するコメントを発出している。
【スミスフィールド社 プレスリリース 】(令和2年4月12日閲覧)
https://www.smithfieldfoods.com/press-room/company-news/smithfield-foods-to-close-sioux-falls-sd-plant-indefinitely-amid-covid-19
なお、現地業界紙によると4月11日、サウスダコタ州知事およびスーフォールズ市長の連名の書簡において、同処理場の従業員238名が新型コロナウイルスに感染し、これは、同処理場の従業員の大半が居住するミネハハ郡の感染者数の54%を占めていることを明らかにしていた。
米国内に60カ所の食肉処理場、調製食料品工場を保有する、米国最大の牛肉パッカーであるJBS USA社は4月13日、コロラド州グリーリーにある牛肉処理場(牛肉処理能力は1日当たり5,400頭)を4月24日まで操業停止することを発表した。同社の操業停止は、ペンシルベニア州サウダートンの牛肉処理場に次ぐ2例目となる。同社はコロラド州で6000人以上を雇用する最大の企業であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大抑制の支援に焦点を合わせた措置であると説明している。
同社のプレスリリースによると、まず15日から2日間、操業停止に係る準備として、施設内に留まっている食肉製品処理のための最少人員を残しつつ、一時閉鎖を行うとしている。その後、コロラド州公衆衛生・環境局などと協議の上、同処理場の従業員に対し、コロラド州知事による在宅命令を順守するよう勧告する予定だ。なお、処理場閉鎖中も従業員への給与支払いを継続するとしている。
最高経営責任者(CEO)のアンドレ・ノグエイラ氏は、「グレーリー牛肉処理場は、米国の食料供給および肉牛生産者にとって極めて重要だが、(処理場が所在する)ウェルド郡でCOVID-19の拡大が続いているため断固とした行動が必要とされている。この地域の先導的一員として、当社は地域の医療従事者を支援し、COVID-19との闘いを先導する最初の企業として、当社のできることを行わなければならないと考えている」と述べている。
また、同社では他の処理場でも欠勤者が増えているが、過半の処理場は米国民に食料を提供し続けるため、稼働率を高めて操業を続けているとしている。
【JBS社 プレスリリース】(令和2年4月13日閲覧)
https://jbssa.com/about/news/2020/04-13/#.Xpa3h0l7k2w
なお、現地報道によると、JBS USA社は従業員の感染に関する情報を公開していないが、同処理場の従業員が複数感染し、重症・死亡者も出ているとしており、症状を自覚していた多くの従業員が業務を継続していたことが指摘されている。
上記2社以外にも、タイソンフーズ社、ナショナルフーズ社、カーギル社などの大手パッカーにおいても、従業員の感染や処理場の消毒、清掃などによる処理場の操業停止が行われている。
現地在住の関係者によると、米国内では外食産業における食肉需要が減少していることや一定の食肉在庫が存在するため、多少の食肉処理場の営業停止では小売のサプライチェーンへの影響は限定的とされている。
しかし、大手食肉処理場の操業停止期間が長引いた場合や地域差の偏りがみられた場合、食肉処理場から小売店までの物流網に影響が出た場合などにおいてはさらなる混乱が予想されるとのことであり、今後の動向が注目される。
(調査情報部 藤原 琢也)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、全米では各地で都市閉鎖が行われ、必要不可欠な業種以外は在宅勤務を行うという行政命令が州によって発出されている。食肉業界は必要不可欠な業種と認定され、多くの食肉および食鳥処理場は現在も稼働しているが、州によって外食産業は店内飲食が禁止され、持ち帰りや宅配のみの営業が命じられたことから、食肉需要が減少している。また、食肉および食鳥処理場で勤務する従業員のCOVID-19への感染が確認されたことにより、処理場の業務停止や処理能力の減少がみられており、食肉生産量が減少している。このような状況を受け、各食肉団体は救済措置を求めている。
4月14日、NCBAはCOVID-19が大流行したことによる牛肉業界の損失は136億米ドル(1兆4688億円:1米ドル=108円)に達すると試算した研究結果を公表した。この研究結果は、2兆2000億米ドル(237兆6000億円)規模となるコロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARAS:Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security)法に基づく救済資金を、米国農務省(USDA)がどのように肉牛生産者に配分するのが最善かを判断する材料の一つとなる。
本研究では、繁殖農家が最も影響を受けると試算しており、合計で37億ドル(3996億円)、つまり繁殖牛1頭当たり111.91米ドル(1万2086円)の損失が発生すると推定した。救済資金による補てんがなければ、今後数年間で繁殖牛1頭当たり135.24米ドル(1万4606円)、合計で44億5000万米ドル(4806億円)まで損失が増加する可能性が指摘されている。
2020年の育成部門の損失は、1頭当たり159.98米ドル(1万7278円)、全体で25億米ドル(2700億円)、肥育部門の損失は、1頭当たり205.96米ドル(2万2244円)、全体で30億米ドル(3240億円)と試算されている。
NCBAのコリン・ウッドオールCEOは、「本研究により、COVID-19の影響により肉牛生産者が大変な経済的被害を受けたことが明確になった。これらの損失は今後何年にもわたって拡大し続け、すぐに利用可能な救済基金が得られなければ、多くの生産者が破産の瀬戸際に追い込まれる可能性を指摘している。また、議会によって設置された救済基金は第一弾としては良かったが、さらなる支援が必要であることが明らかになった。肉牛生産者への直接支援を目的とした救済基金であっても、複数の品目を対象としており、しかもその品目の多くはすでに他の政府の生産支援プログラムの対象となっている。しかし、肉牛生産者はこれまで政府による救済措置がなくても自立して生計を維持してきており、現在もその多くが、他の品目の生産者が享受しているセーフティネットに頼らずに経営を行っている。いま、われわれが直面している状況があまりにも異常であるため、肉牛生産者は救済を必要としている。われわれは、肉牛業界を支援し、肉牛生産者を救済基金の対象としてくれた連邦議会の多く議員に感謝している。しかし、支援を必要とするすべての肉牛生産者が救済基金を利用できるようにするために、われわれは彼らのさらなる努力を必要としている。肉牛生産者に特化した追加の基金を要求する」と述べている。
【NCBA プレスリリース】(令和2年4月14日閲覧)
https://www.ncba.org/newsreleases.aspx?NewsID=7225
4月14日、NPPCはCOVID-19の影響により生体豚価格が急落し、2020年末までに全体で50億ドル(5400億円)もの損失が生じる可能性に言及し、政府や議会に至急の救済を要求した。
声明では、COVID-19の影響による豚肉処理場の稼働停止と従業員の欠勤の増加が、地方での労働力不足問題に追い打ちをかけるように既存の処理場の生産能力を悪化させ、限られた生産能力によって豚の余剰感が増加し、生体豚の価格が急落していることを指摘している。また、レストランのようなフードサービス市場が崩壊し、COVID-19の影響を受けた多くの輸出市場では都市封鎖によって豚肉需要は激減し、冷蔵倉庫が限界に達していることを指摘した。
また声明では、2020年末までに、豚1頭当たり約37ドル(3996円)、全体で約50億ドル(5400億円)の損失になるとの、アイオワ州立大学のエコノミストであるダーモット・ヘイズ博士と養豚コンサルタント会社カーンズ&アソシエイツ社のエコノミストであるスティーブ・メイヤー博士試算を公表している。COVID-19発生前の業界予測では、2020年は豚1頭当たり平均約10ドル(1080円)の収益が予想されていた。
このような試算を受けて、NPPCは、全米の養豚農家と協議して、連邦政府の政策立案者とともに次のような対応策を提案している。
・豚肉の在庫を減らし、失業率の上昇により需要が急増しているフードバンクプログラムを支援することにもなるUSDAによる10億ドル(108億円)超の豚肉の購入。この購入分は、レストランやその他のフードサービス用の豚肉製品の需要減少を補う面もある。
・受給制限のない生産者への公平な直接支払い。
また、NPPCは米国中小企業庁(SBA)が提供する需要の大きい救済資金を利用できないため、約1万戸の家族経営養豚農家が危機に瀕しているとしており、緊急融資プログラムの修正も求めている。
NPPCの会長でありウィスコンシン州ワウゼカの養豚農家でもあるハワード・ロス氏は、「われわれは米国人に高品質の米国産豚肉を提供する努力をしているが、何千もの農家の生計を脅かす悲惨な状況に直面している。私たちは水しか口にしていない。早急な救済措置が講じられなければ、多くの養豚農家が破産することになる。豚肉業界は、必要な時に必要な分だけ生産する体制となっており、(処理されない)豚の行き場は農場以外にどこにもなく、養豚農家は悲惨な選択を迫られている。酪農家は牛乳を、果物や野菜の生産者は農産物を廃棄することができる。しかし、養豚農家には豚を移動させる場所がどこにもない」と述べている。
【NPPC プレスリリース】(令和2年4月14日閲覧)
https://nppc.org/hog-farmers-face-covid-19-financial-crisis/
4月10日、NCCはCOVID-19に関連した潜在的なサプライチェーンへの影響を受ける家族経営の養鶏農家への支援を要請する書簡をUSDAのパーデュー農務長官に送った。
書簡には、従来から存在したアニマルウエルフェアへの潜在的懸念に加えて、「食鳥処理場での労働力の減少、一夜にして消失したフードサービスの需要、歴史的な高水準となっている在庫量、発生が確認された高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の影響による輸出停止に伴う損失の結果として、減少した需要への対応として一部の鶏肉処理業者が(ひな用の)鶏卵を減少させ始めている。それは、鶏肉処理業者が鶏を飼育させるために密接に関わっている家族経営養鶏農家へのひなの導入が遅延しうることを意味している」と書かれている。
また、パーデュー長官に対し、CARES法に基づいてUSDAに配賦された、商品信用公社(CCC)に対する140億ドル(1兆5120億円)と同長官の裁量で農業者を支援できる95億ドル(1兆260億円)の予算の活用を求めている。
さらに、最近、トランプ大統領が農家への支援を行うよう指示したことについても触れており、鶏肉の需要減によって直接的な影響を受ける可能性のある養鶏農家への支援を求めている。
【NCC プレスリリース】(令和2年4月13日閲覧)
https://www.nationalchickencouncil.org/ncc-requests-relief-for-chicken-farmers-affected-by-covid-19/
COVID-19による影響は長期に及ぶと予想されており、今後、米国での経済活動が徐々に再開されたとしても、これまでの日常に戻ることはなく、これまでとは異なる行動パターンが求められる新たな日常に戻るということが予想されている。そのためか、食肉需要に関しては、フードサービスで失われた需要は急激な回復は望めず、ゆるやかな回復が予想されている。一方、供給に関しては、これまで食肉の安全性を高めるために食肉および食鳥処理場の従業員に求められてきた高度な衛生対策に加えて、安定供給を確保するため、処理場の安定的な稼働を目的とした、従業員間の感染防止対策の導入が求められる可能性がある。COVID-19による影響がどこまで及ぶのか今後の動向が注視される。
(国際調査グループ)
4月17日、米国農務省(USDA)は、国家的非常事態である新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けている農家や牧場主、消費者を支援するため、190億ドル(2兆710億円:1ドル=109円)のコロナウイルス食料支援プログラム(CFAP)を公表した。
CFAPは、生産者への直接支払いと政府による食品買上げ配給プログラムが2本の柱となっており、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security (CARES) Act)、ファミリー・ファースト・コロナウイルス対処法(Families First Coronavirus Response Act: FFCRA)およびその他のUSDA既存のプログラムの資金や規則に基づいて実施される。
USDAによれば、このプログラムは、COVID-19によって価格やサプライチェーンが影響を受けた生産者に対し、実際の損失額に基づく直接支援のために160億米ドル(1兆7440億円)を提供し、2020年度に需要の減退や短期的供給過剰が生じる結果として発生する追加的調整や流通コストを補うものである。
ジョン・ホーベン上院議員(ノースダコタ州、共和党)によるプレスリリースによれば、その原資は、CARES Actによる95 億ドル(1兆355億円)、既存の商品信用公社(CCC)基金による65 億ドル(7085億円)から拠出される。当支払いは、2020年1月1日から4月15日までに生じた価格低下の85%と、4月15日以降の2四半期に予想される価格低下の30%を生産者に支払うものとなっている。支払限度額は1個人または事業体内で、1品目につき12万5000ドル(1363万円)、全品目合計で25万ドル(2725万円)となっている。支給対象となる品目は、1月から4月の間に5%以上価格が下落したものとされている。
160億ドル(1兆7440億円)の直接支払いの配分は以下の通り。
・肉用牛部門に51億ドル(5559億円)
・酪農部門に29億ドル(3161億円)
・養豚部門に16億ドル(1744億円)
・とうもろこしや小麦等の穀物、大豆等の油糧作物部門(加工品を除く)に39億ドル(4251億円)
・野菜や果物等の園芸作物部門に21億ドル(2289億円)
・その他の農作物分野に5億ドル(545億円)
また、同議員のプレスリリースによれば、USDAは、直接支払いが迅速に行われるよう5月上旬からの申請開始、5月下旬または6月上旬までに支払い実施を目指しているとのことである。
当プログラムでは、多くのレストランやホテル、その他のフードサービス等の閉鎖によって労働力に深刻な影響を受けている地域の流通業者と提携し、30億ドル(3270億円)の生鮮青果物、乳製品、食肉を購入するとしている。
生鮮青果物、乳製品、肉製品の三つの分野について、各分野で毎月1億ドル(109億円)の調達規模を見積もっており、その商品は流通業者や卸売業者からフードバンク、地域コミュニティ、宗教団体および非営利団体に供給される。
また、上記の二つのプログラムに加えて、USDAはフードバンクへの食料の配給のためにさまざまな農産物を調達するため、1935年農業法第32条に規定された恒久的歳出予算のうち、8億7330万ドル(952億円)についても活用可能であるとしている。これらの基金の使用方法は、業界の要請、USDAによる農業市場分析およびフードバンクからのニーズによって決定される。
さらに、CARES ActとFFCRAに基づき、フードバンクの運営コストとUSDAによる食料買い上げのために少なくとも8億5000万ドル(927億円)が確保されており、そこから最低でも6億ドル(654億円)がUSDAによる食料買い上げに充てられるとしている。これらの基金の使用方法は、フードバンクからのニーズと商品が入手可能かどうかに基づいて決定される。
今回の発表に合わせて米国農務省のパーデュー長官は、「この国家的危機の状況において、トランプ大統領とUSDAは、米国の農家、牧場主、そしてすべての国民とともにあり、彼らを確実に支える。米国の食料サプライチェーンはこの困難を克服しなければならず、安全、安心、強固な供給網を保ち続ける必要がある。そして、その始まりとなるのは農家や牧場主であることを誰もが知っている。このプログラムは、米国の農家や牧場主のための即時救済を提供するだけでなく、食料を必要としている米国人に豊かな農産物を提供することになる」と述べている。
【参考:新型コロナウイルス関連情報(米国)】
・食肉団体は新型コロナウイルス感染症の影響を受ける業界の窮状を訴える(米国2番の情報)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002679.html
(国際調査グループ)
トランプ大統領は4月28日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する国家非常事態宣言が適用されている間において、国防生産法(Defense Production Act)に基づき、米国民にたんぱく質を供給し続けるために、牛肉、豚肉、鶏肉の食肉および家きん肉処理場が操業を続けることを命じる大統領令に署名した。
大統領令によれば、州によって処理場でCOVID-19の感染が発生した時の対応にばらつきが生じており、特にいくつかの州では工場の完全な封鎖を求めたことについて、保健福祉省の疾病対策予防センター(CDC)や労働省の労働安全衛生庁(OSHA)が定めたガイドラインから逸脱しているのではないかとの懸念があることから、ガイドラインに従った形で、操業を継続することを求めている。
今回の大統領令の発令を受けて、米国農務省(USDA)のパーデュー長官は、以下の声明を公表した。
トランプ大統領が今回の大統領令に署名し、米国の食料サプライチェーンが安全、安心および十分な量の供給を保つことの重要性を認識してくれたことに感謝している。米国の食肉および家きん肉処理場は、食料サプライチェーンの維持に不可欠な役割を果たしている。これらの重要な処理場を操業し続けるために、処理場で勤務する勇敢な従業員の健康と安全を確保することが何よりも重要である。食料供給を維持するだけでなく、従業員の安全を確保するために最善を尽くしている食肉企業にも感謝している。USDAは今後も政府全体の関係者と協力して、必要不可欠な産業を維持するために従業員の安全確保に努めていく。
CDCとOSHAは、再開を目指す処理場または操業し続けている処理場において、従業員の安全を確保するために実施すべき衛生対策指針を公表している。今後、USDAは食肉処理業者と協力して、CDCとOSHAの指針に沿って処理場を操業させることを確認し、そのことによって、米国人が必要とする食肉および家きん肉を供給するために処理場が操業できるよう、州および地方当局者と協力していくとしている。
(国際調査グループ)
欧州では、イタリアを中心に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が広がっている。欧州連合(EU)の機関である欧州疾病予防管理センター(ECDC)は3月2日、EU市民の新型コロナウイルスのリスクレベルを「普通」から「高い」に引き上げた。同日、欧州委員会のフォン・テ?ア・ライエン委員長は会見を行い、現状について「ウイルスが広がり続けている」と報告するとともに、27加盟国とEUによる包括的で一致団結した取り組みが求められているとした。その上で、コロナウイルス対策本部を立ち上げ、ECDCなどとの連携を図り、ウイルス撲滅に向けて迅速なアプローチを行っていくとEU市民に説明した。
そのような中、ドイツ政府機関であるドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は2月24日、食品を介して新型コロナウイルスに感染した証拠は現在のところない、と報告した。
また、子供の玩具や衣服などの感染地域からの輸入製品も同様で、それらの乾燥した表面を介しての感染は起こり難いとした。この報告は、同機関に対し寄せられた多くのドイツ国民からの照会に対して応じる形で報告されている。
BfRは、食品や玩具などを介した感染のリスクについて、これまでに感染記録や新型コロナウイルスの環境中での安定性が低いという事実に基づいてこの評価を行ったとしている。
正確な感染経路の把握は不十分であるとするも、最も主要な感染については飛沫感染であるとし、その他接触感染によるものもあるとした。また、環境中の新型コロナウイルスの安定性の低さから、接触感染は汚染後の短期間にのみ起こる可能性も報告している。
「感染しないようにするにはどうしたらよいか」という照会に対しては、食品や玩具や衣類などの製品を介した感染は起こり難いものの、定期的な手洗いなどの日常における衛生対策と、食品を扱う際の衛生面の確保が重要であるとした他、新型コロナウイルスは熱に弱く、食品を加熱することで感染リスクをさらに減らすことができるとした。
(国際調査グループ)
欧州各地にて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るっている。フランスのマクロン大統領は3月16日にテレビ演説を行い、翌17日正午から最低15日間は原則的に市民の外出を禁止するとした。演説の中で、「われわれは(新型コロナウイルスとの)戦争状態にある」と現在置かれている状況をフランス国民に強調した。ドイツでも近隣諸国との出入国制限が措置されたほか、ベルギーでも18日正午から外出が禁止されるなど、各国で感染拡大を抑制するための動きが続く。
そのような中、欧州委員会のフォン・デア・ライエン欧州委員長は3月16日、感染拡大を抑制するため、原則として、第三国から欧州連合(EU)への不要不急の渡航を30日間禁止する異例の方針を示し、加盟国首脳は17日、この方針に合意した(参考1)。
また、欧州委員会は16日、欧州における急速な感染拡大を背景として、各国が推し進める国境管理措置に関するガイドライン(参考2)をEU加盟国に通知した。これは、食料や医療機器などの不足を防ぎ、EU単一市場を確保したうえでEU市民の健康を守るためのものである。医療従事者などの渡航の必要のある者には適切な処遇を保障し、家畜を含む食品など生活必需品の物資や、乳幼児・高齢者ケア、公益事業などの生活必需サービスの確保を図る。また、特に食品や医薬品、医療機器など必需品の必要性から、当該貨物輸送については優先レーンを導入することなどを加盟国に求めた。
欧州食品安全機関(European Food Safety Authority(EFSA))は3月9日、現時点で、食品がウイルスの感染源または感染経路である可能性を示す証拠はないと報告した(参考3、4)。
EFSA担当者は、「同様の重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群 (MERS)の発生時に、食品を介した感染は確認されておらず、現時点で、今回の新型コロナウイルスがこの点で異なることを示す証拠はない」とした。また、欧州疾病予防管理センター(European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC))によれば、今回のウイルスは人から人への飛沫感染により広がっているとし、世界中の関係者およびEFSA自らも当該ウイルスを監視し続けているものの、食品を介した感染の報告は現時点でないとした。なお、EFSAはイタリア北部のパルマを拠点としており、イタリア政府による移動規制対象地域となっている。
(参考1) COVID-19: Temporary Restriction on Non-Essential Travel to the EU(令和2年3月16日閲覧)
https://eeas.europa.eu/headquarters/headquarters-homepage/76221/covid-19-temporary-restriction-non-essential-travel-eu_en
(参考2) COVID-19 Guidelines for border management measures to protect health and ensure the availability of goods and essential services(令和2年3月16日閲覧)
https://ec.europa.eu/home-affairs/sites/homeaffairs/files/what-we-do/policies/european-agenda-migration/20200316_covid-19-guidelines-for-border-management.pdf
(参考3) Coronavirus: no evidence that food is a source or transmission route(令和2年3月16日閲覧)
https://www.efsa.europa.eu/en/news/coronavirus-no-evidence-food-source-or-transmission-route
(参考4) ドイツ政府機関、食品を介した新型コロナウイルス感染の証拠はないと報告(EU1番の情報)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002641.html
(国際調査グループ)
欧州の飼料産業団体である欧州穀物・油糧作物輸出入組合(COCERAL)、欧州油脂・油糧粕協会(FEDIOL)、欧州配合飼料生産者連盟(FEFAC)の三者は連名で3月17日、欧州での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大する中、飼料供給に混乱が生じないよう緊急措置を講じるよう欧州委員会に要請した。
具体的には、欧州委員会が前日16日、欧州における急速な感染拡大を背景として、各国が推し進める国境管理措置に関するガイドライン(参考)をEU加盟国に通知したところであるが、その対象に「飼料」も含めるよう要請した。
同ガイドラインは、食料や医療機器などの不足を防ぎ、EU単一市場を確保した上でEU市民の健康を守るために通知されたものである。医療従事者などの渡航の必要のある者には適切な処遇を保証し、家畜、食品などの生活必需品や、乳幼児・高齢者ケア、公益事業などの生活必需サービスの確保を図ることを目的とし、特に食品や医薬品、医療機器などの貨物輸送については優先レーンを導入することなどを加盟国に求めていた。
上記飼料産業団体三者はプレスリリースの中で、消費者が必要とする主要な食料(である畜産物)の供給および動物福祉を確保する観点から、飼料は家畜に対し毎日給与される必要があるとした。また、スペイン、イタリア、ベルギーなど一部の加盟国ではすでに飼料を必需品の対象物資に加えているものの、EU全体で統一的な取り組みが必要であるとした。
また、EUおよび各加盟国当局に対し、あらゆる飼料や飼料原料が、日持ちするものであっても、必要な衛生対策が講じられている限り、EU域内を制限なく輸送できる環境が確保されるよう迅速な行動を求めるとした。さらに、16日に決定されたEU域外との国境管理の強化は、EUで必要とされる食品や飼料原料を輸送するEU域外からの船舶には適用されるべきではないとした。
プレスリリースの最後で各団体の長は、欧州委員会の推し進める新型コロナウイルスの感染を遅らせるためのEUおよび加盟国レベルでの厳格な封じ込め政策の必要性は十分に理解するとしたものの、消費者への食料供給および動物福祉の観点による「飼料」の重要性を強調した。
【参考】
・欧州委員会、新型コロナウイルスの感染拡大に対し、食品流通を含む国境管理措置に関するガイドラインを公表。欧州食品安全機関、食品を介した感染の証拠はないと報告(海外情報(EU2番の情報)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002646.html
(国際調査グループ)
欧州委員会は3月25日、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、食料の安定供給の重要性を改めて示すとともに、極めて厳しい状況に直面している農業および食品部門に対し、すでに措置している支援策の他にも必要があれば追加措置を実行する準備もあるとしてプレスリリースを行った。
欧州委員会は同プレスリリースの中で、生産者らが多くの困難に直面する中、欧州大陸全体における食料安全保障と安定した食料供給体制の確保が、引き続き優先事項の一つであるという認識を示した。
また、欧州委員会のヤヌシュ・ボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員は、「われわれが前例のない危機に直面している中、生産者らが絶え間なく努力を続けてくれていることに対し、これまで以上に感謝している」とした。そして、欧州連合(EU)各加盟国の農業担当閣僚らと開催した同日のテレビ会議を踏まえ、引き続き各加盟国間の連携を強化し、急激に変化する各国の状況や要望事項などの把握に努め、欧州委員会として必要があれば追加措置を実行する準備があるとした。
EU委員会は農産物市場および食品貿易の動向(需給)を監視し、同委員会の市場観測サイト(注1)を定期的に更新している。
欧州委員会はまた、新型コロナウイルスの発生以降、農業および食品部門に対して次の支援策をすでに措置しているとした。
・共通農業政策(CAP:Common Agricultural)の補助金申請期限延長
2020年5月15日であったCAPの補助金申請期限は、1カ月延長され、6月15日に変更された。当該延長は先行してイタリアで措置され、その後、全加盟国に対しても適用された。
・加盟国による補助 Policyの増額
新たに採択された加盟国による暫定的な補助の枠組みにより、生産者1戸当たり最大10万ユーロ(1200万円:1ユーロ=120円)、食品企業は最大80万ユーロ(9600万円)の補助を受けることができる。同補助は、欧州委員会の事前承認なしに加盟国が実施できる、いわゆる「デミニミス」助成(注2)に追加して支出することが可能である。前年に同助成の上限額は2万5000ユーロ(300万円)に引き上げられており、これにより生産者1戸当たりの最大補助額は12万5000ユーロ(1500万円)となる。
・優先レーンによる途切れない食品流通
農産品を含む食品の優先的な流通のため、各加盟国との連携により「グリーンレーン(優先レーン)」を創設し、EU単一市場の機能を担保する。同レーンは、指定の主要国境検問所に設けられ、検査は15分以内に実施される。
欧州委員会はその他、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために各加盟国で国境管理が行われている中、農業部門における必要な季節労働者などの移動が円滑に進むよう症状を示していない労働者に対する強制的な検疫を免除したり、医師による健康証明書を求めないよう手引きを定めるなど、対応を進めている。
(注1) 欧州委員会は生乳、食肉、砂糖、作物、果樹・野菜、ワインに関する市場観測サイト(EU market observatories)を開設している。生乳、果樹・野菜のサイトについては、「生乳クオータ制度廃止後の需給調整を目的に市場観測サイトを設置」(海外情報(平成26年4月23日発)) https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_001020.html
「欧州委員会、需給動向の情報提供を行う果樹・野菜市場観測サイトを開設(EU)」(海外情報(令和元年10月24日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002533.html
をそれぞれ参照されたい。
(注2) EU加盟国が農業部門に対して補助をしようとするときは、事前に欧州委員会に通知して認可を受ける必要がある。一方、補助金の総額が充分小さく、域内市場での競争や貿易歪曲的でないとされる場合は、「デミニミス」助成として、この通知や認可の必要がない。各国の補助金総額の上限は、各国の農業生産額の1.0%とされていたが、2019年2月に1.25%(特定の条件では1.5%)に引き上げられた。
(国際調査グループ)
欧州委員会は3月31日、欧州連合(EU)(注)における児童生徒の健康的な食生活を支援するため、2020/2021年度(8月〜翌7月)の学校給食用果実・野菜・牛乳供給事業に前年度と同額になる2億5000万ユーロ(297億5000万円:1ユーロ=119円)を措置し、各加盟国への配賦額を決定したと発表した。
本事業は、果実、野菜、牛乳・乳製品の供給だけでなく、児童生徒に対する農業への理解醸成、健康的な食生活の促進などの教育プログラムも対象となり、予算額は、果実および野菜に総額1億4500万ユーロ(172億5500万円)、牛乳・乳製品に総額1億500万ユーロ(124億9500万円)となった。各加盟国は、国独自の予算を追加することも可能である。供給される農産品は、環境に配慮して生産されたもの、季節性のあるもの、地元産であることが基本とされている。
欧州委員会のヤヌシュ・ボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員は同発表の中で、「児童生徒らは同事業により栄養や農業について学ぶことができ、健康的な食習慣も身につけることができる」とした。また、「今年度(2019/2020年度)については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により休校が余儀なくされたことを考慮すべく、対策を講じてある」とした。
欧州委員会は、EU全域での休校の影響に配慮し、学校へ供給されなかった果実、野菜、牛乳・乳製品についても、支払を行うことは可能とした。供給されなかった青果物・乳製品は、病院、慈善団体、フードバンクなどに寄付することが認められている。
欧州委員会はまた同日、2018/2019年度の同事業の報告書も併せて発表した。それによると、同年度の同事業には、約15万5000校が参加し、2000万人以上の児童生徒が対象となっている。なお、EU予算の1億9200万ユーロ(228億4800万円)により、合計で7万1000キログラムの新鮮な果実と野菜、16万7000キロリットルの牛乳がEUの児童生徒らに供給された。
(注) 2020/2021年度予算には英国が含まれる。英国は、2020年2月1日にEUを離脱したものの移行期間中にあり、EU法が2020年12月31日まで適用される。
多くの加盟国で供給されたものとして、生鮮野菜ではにんじん(25カ国)、トマト(22カ国)、きゅうり(19カ国)、乳製品は飲用乳(乳糖を除去したものを含む。28カ国)、プレーンヨーグルト(19カ国)、チーズ類(15カ国)であった。数量ベースでは、飲用乳が16万7858キロリットル、プレーンヨーグルトが9457トン、チーズ類が2116トン供給された。
(国際調査グループ)
欧州連合(EU)最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca(注1))は4月7日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響により、価格急落などに直面する生産者やその生産者組合を支援すべく、緊急支援措置を講じるよう欧州委員会に要求した。
Copa-Cogecaによると、COVID-19の感染拡大を抑えるために各加盟国が外食等産業の多数の営業を突然に差し止めたことにより、業界に農畜産物を供給する生産者等が深刻な影響を受けているとし、欧州委員会に対し、酪農、牛、めん山羊部門に対する影響を示すデータを分析の上、共通農業政策(Common Agricultural Policy:CAP)予算外での支援策を措置するよう要求した。
このことについて、同団体のPekka Pesonen事務総長は、「4月6日に開催された欧州議会の農業特別委員会(Special Committee on Agriculture:SCA)にて、農業部門への支援策が措置されなかったことに失望している」とし、農業部門はそのような間にもすべてのEU市民に対する食料安全保障を確保しながらも、農業とはかけ離れた要因により引き起こされた未曽有の状況に直面していると現状を説明した。そして、欧州委員会および各加盟国がEU域内市場の機能を確保するために講じている取り組みを認める一方、「CAP予算枠外を財源とする、例外的な措置を含めた畜産部門対象の新たな市場措置が必要」であるとした。
酪農部門
Copa-Cogecaは、現在の牛乳・乳製品市場について、生乳生産量がピークをまもなく迎える時期に価格の下落がみられているとし、脱脂粉乳については市場介入レベル(注2)までの急落がみられ、乳価に大きな影響を与えているとした。
同団体の牛乳・乳製品部門責任者は、「EU乳製品市場がこれ以上悪化することは許されるものではない」と現状に懸念を示し、欧州委員会に対し、今すぐ責任ある行動として「すべての乳製品に対してPSA(注3)を措置するよう求める」とした。COVID-19対策としての学校閉鎖による牛乳・乳製品供給量減少の影響の精査や、このような「不可抗力事態」下での競争法に基づく不必要な規制の緩和の必要性も併せて指摘した。
牛肉
牛肉および子牛肉部門もCOVID-19により深刻な打撃を受けたとした。外食等産業およびケータリングへの販売機会が消失し、子牛肉を含む高級部位は深刻な需要減少となっている。
牛肉・子牛肉部門責任者は、「現在の牛肉および子牛肉部門は、前例のない困難な状況に直面している」とし、特に枝肉の総価値の3割程度を創出する高級部位、中でも特定の牛群由来の牛肉の需要減少による影響が極めて大きいとした。また、このような困難な状況下にもかかわらず、低級部位はメルコスール(南米南部共同市場)(注4)から継続して輸入されている状況であることに言及した上で、欧州委員会に対し、「非常時には非常手段が必要である」とし、高級部位に関する関税割当制度の見直しを要請するとした。さらに、特定の高級部位や子牛肉のためのPSAや、CAPに基づく「単一共通市場」政策(Common Market Organization:CMO)の枠内で実行可能な例外的な措置を緊急に、具体的には4月27および28日に開催予定の次回のEU農業閣僚理事会までに決定する必要がある」とした。
Copa-Cogecaは、特に季節的に最盛期を迎える羊および山羊部門についても同様の懸念を示し、関税割当制度やPSAなどの検討を求めた。また、欧州委員会が、高品質なEU畜産部門を守るために、必要かつ不可欠な措置を真剣に検討するよう望むとした。
(注1) Copa-Cogecaとは、EU加盟国の農業生産者によって構成されるCopa(欧州農業組織委員会)および農業共同組合により構成されるCogeca(欧州農業協同組合委員会)により組織された農業生産者団体。CopaおよびCogecaは、独立した組織であるものの、両者は共同で事務局を設置し、主にロビー活動を行っている。
(注2) 欧州委員会は、乳価の下支えとして、公的買い入れおよび民間在庫補助(Private Storage Aid:PSA)という市場介入措置を実施している。公的買い入れは、加盟各国のバターや脱脂粉乳の卸売価格が、あらかじめ設定された公的買入価格を下回った場合、当該国の機関が、製造業者または取扱業者の申請に基づき同価格で買い入れるもので、EU全体で買い入れできる上限数量が定められている。PSAについては注3の通り。
(注3) PSAとは、バター、脱脂粉乳およびチーズを対象に、大幅な価格の下落など欧州委員会が必要と認めた場合、一定量を一定期間、市場から隔離するため、在庫として保管する業者に対し、保管経費の補助が行われるもの。直近では、2014年8月のロシアによるEU産農畜産物の禁輸措置の影響を最小限に食い止めるため、緊急措置としてバターに対して2016年9月まで、脱脂粉乳に対して2017年2月まで実施された。
(注4) アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4カ国で発足した関税同盟。2019年7月2日現在、ボリビアが加盟について各国議会の批准待ち。ベネズエラが加盟資格停止中。
(国際調査グループ)
アイルランド最大の生産者団体であるアイルランド農業連盟(Irish Farmers' Association:IFA)は4月10日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響が甚大であるとして、特に肉用牛農家への緊急支援を即時実施するよう、同国のマイケル・クリード農業・食糧・海洋大臣に要請したと発表した。
IFAのティム・カリナン会長は、IFAの家畜および酪農部門責任者らとともに同大臣との電話会談を行い、肉用牛農家は自らには落ち度のない理由により生じた危機と戦っていると報告した。そして、同部門に対する緊急支援として「未使用財源である2400万ユーロ(28億5600万円、1ユーロ=119円)のBEAM(BEEF EXCEPTIONAL AID MEASURE:牛肉特別援助措置)資金による即時対応が必要である」とした。同会長は電話会談の後、肉用牛農家に対する緊急支援の必要性については大臣と意見が一致したとした。
同会長は現在、欧州連合(EU)では牛肉および酪農部門の民間在庫補助(PSA)(注)の発動などを含めた農業部門の支援についての検討がなされているものの、それらが話し合われるEU農業閣僚理事会の次回会合は4月27日からであり、「特に、肉用牛農家はそれまで待てない状況にある」と大臣に訴えた。
(注) PSAとは、大幅な価格の下落など欧州委員会が必要と認めた場合、一定量を一定期間、市場から隔離するため、在庫として保管する業者に対し、保管経費の補助が行われる緊急的な支援措置。
また、IFAの家畜部門責任者であるブレンダン・ゴールデン氏は同大臣に対し、食肉処理場が肉用牛を受け入れることができず、多くの農家は肉用牛の処分が不可能となっていることを説明し、「肉用牛価格は過去3週間で1頭当たり100ユーロ(1万1900円)下落し、損益分岐点からは200ユーロ(2万3800円)も低い」と置かれている厳しい現状を伝え、緊急対応の必要性を強調した。
その他IFAは、市場が閉鎖されたことによる子牛および肥育もと牛の取引が滞っている状況に対し、アイルランド政府が生産者に対し一部の非雇用農業労働者等が対象となっている補助金と同様に週350ユーロの支払いを行うよう求めた。
さらに、IFAの酪農部門責任者であるトム・フェラン氏は大臣に、酪農部門にとって前述のPSAによる支援が市場の安定に必須であると述べるとともに、外食部門の閉鎖などにより乳製品価格の下落が起きていることについても説明した。
アイルランドのみならず、欧州各国にて同様の動きがみられている。極めて異常事態である現状の中、安定的な食料供給は市民生活に必要不可欠であり、各国で農業生産者らを支援、保護する動きが出ている。
【IFAのプレスリリース】(令和2年4月16日閲覧)
https://www.ifa.ie/ifa-president-seeks-immediate-action-from-minister-creed-on-beef/
(国際調査グループ)
欧州委員会は4月16日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により困難な状況にある欧州連合(EU)の農業および食品部門を支援するため、二つの追加支援措置を採択したと発表した。生産者のキャッシュフローの改善と、関係当局および生産者の行政手続負担の軽減が期待されている。
欧州委員会は、生産者へ支払う補助金の前払分を増額するとした。具体的には、EUの共通農業政策(CAP)のうち農業者の収入保障として実施している直接支払いの前払金を現行の50%から70%に、条件不利地域対策などを講じている農村振興政策の前払金を同じく75%から85%に増額する。生産者は10月中旬から前払金を受け始めることとなる。
また、さらなる条件緩和として、加盟国は現地確認完了前であっても生産者へ前払いすることが可能となる。
欧州委員会は、補助金に係る現地確認の数を減らすこととした。本来であれば、加盟国は生産者らの補助金受給要件が満たされているかを確認する必要がある。しかしながら、現在の状況では、生産者と現地確認の検査官の間の物理的な接触を最小限に抑えることが重要となっていることから、現地確認に係る抽出率をCAP予算のうち5%から3%へと減らす。
なお、確認時期についても柔軟な対応を許可したほか、これまでの農場訪問の代わりに、衛星画像を活用した農場の活用状況の確認や、位置情報が埋め込まれた写真による調査箇所の証明といった新技術の活用も推奨している。
【欧州委員会のプレスリリース】(令和2年4月17日閲覧)
https://ec.europa.eu/info/news/coronavirus-commission-adopts-additional-measures-support-agri-food-sector-2020-apr-16_en
(国際調査グループ)
英国の食品基準庁(Food Standards Agency:FSA)をはじめ同国の食肉産業界を代表する13の組織は4月14日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下にある英国食肉産業界の総合的な対応などについて、共同声明を発表した。
英国食肉業界の代表者らは4月9日に会議を開催し、COVID-19の感染拡大によって生じた業界の課題に対する総合的な対応の把握などを行った。
共同声明では、COVID-19が英国民の日常生活に前例のないほどの影響を与え、食肉業界も大きな影響を受けているとし、日々変化する状況に対処していく緊急事態の中にあって、食肉業界にもたらされる深刻な問題や不確実性を認識しているとした。
また、特に食料関係従事者に言及し、多くのそれら関係者が食料供給の維持のために、毎日最前線で無私無欲で働き続けていることに感謝を示した。そして、業界として、この重要な役割のため、関係者の安全を確保するために可能な限りの措置を講じているとした。
さらに、規制当局および業界団体として共通の目的を共有しているとし、業界として、安全な食品生産、消費者保護、高いレベルのアニマルウェルフェア(動物福祉)の確保に取り組んでいるとした。
声明の最後には、大小問わずさまざまな関係者の協力に謝意を示すと同時に、今後も数週間、数カ月間にわたって間違いなく直面するさらなる困難を克服するための協力継続を決意し、英国全土における安全な食料供給の維持に対し、柔軟かつ実用的で、即応性のある方法を業界で協力して対応することを約束するとした。なお、13の組織は以下の通り(共同声明原文掲載順)。
英国食肉供給者協会(Association of Independent Meat Suppliers:AIMS)
英国食肉加工協会(British Meat Processors Association:BMPA)
英国家きん協議会(British Poultry Council:BPC)
英国食品基準局(Food Standards Agency:FSA)
スコットランド食品基準庁(Food Standards Scotland)
ミートプロモーションウェールズ(Hybu Cig Cymru – Meat Promotion Wales:HCC)
国際食肉輸出入協会(The International Meat Trade Association: IMTA)
全国食肉販売事業者組合(National Craft Butchers)
全国農業者連合(National Farmers Union)
北アイルランド食肉輸出協会(Northern Ireland Meat Exporters Association: NIMEA)
食料輸出入連盟(Provision Trade Federation)
スコットランド食肉卸売業協会(Scottish Association of Meat Wholesalers :SAMW)
食肉輸出入協会スコットランド連盟(Scottish Federation of Meat Traders Association)
上記の組織の一つである英国食肉加工協会(BMPA:British Meat Processors Association)は4月7日、CEO(最高経営責任者)であるニック・アレン氏によるCOVID-19の畜産物価格への影響などについての報告を、同協会のホームページにて発表した。
調査会社のデータによると、3月22日までの4週間で消費者の買いだめによって牛ひき肉販売量が前年同期比45%増加し、主要な小売を通じて販売された全牛肉の60%超がひき肉を含む低価格帯の製品だったという。
また、小売が通常時にひき肉とステーキなどのカットを組み合わせて発注することに代えて、今回の需要に合わせて、ひき肉およびその他の低価格帯のものを集中的に大量に発注している現状、さらに、政府がCOVID-19対策として外食を閉鎖したことや、外出禁止令などによりイースター(キリスト教の復活祭)やラマダン(イスラム教の断食)のための家族の集まりなどはなくなり、消費者の高級部位の購買機会が失われている現状が取り上げられている。
さらに、パニック的な買いだめの結果、家庭在庫が十分にあるためにしばらくは小売需要が落ち込むとみている。また、従業員が不足することに伴う食肉加工ラインの遅延のため、食肉処理場の労働能力が20%近く失われ、搬入する家畜の数も減少し始めているという。
畜産物価格は、現状ではあらゆる品目で下落を示している。例えばひき肉は、通常時のバランスのとれた市場では枝肉の約40%だが、加工業者によってゼロまたはゼロに近い利幅で販売されることが多く、その増加は枝肉全体の価値が低下することを意味する。牛枝肉の約3.5%を占める比較的低価格帯部位であるブリスケット(肩ばら)をひき肉にすると、枝肉の全体的な価値は1キログラム当たり0.14ポンド(19円:1ポンド=139円)下落する。食肉が冷蔵販売ではなく、冷凍された場合も同様の下落が起こり、ヒレは通常同20ポンド(2780円)で販売されているものの、冷凍すると価格は何分の一かに低下するという。
同氏は報告の最後で、今までは加工業者がこうした影響を吸収してきたが、いずれは食品産業の自助努力だけでは生産者価格の低下を防ぐことはできなくなることから、英国の食料安全保障の維持するためには、危機が継続する間、生産者を支援するための政府による介入を行うか、そうでなければ、小売業界が高級部位を含む多様な部位も仕入れて販売促進を行い、消費者に多様な選択肢を示すことが必要かもしれないと言及した。
なお、FSAの業務部門責任者であるマーティン・エバンス氏に直近の英国食肉業界の状況について照会したところ、最大の懸念の一つとして輸出市場の停滞があるという。高級部位の主要な輸出先であった欧州大陸でも英国と同様の需要の低迷がある中、特に高級部位の輸出量は一気に減少しており、英国内で在庫が積み上がっているという。現在の先の見えない混乱の中、英国食肉業界は業界のさらなる結束を強めて、共同声明通り引き続き対応を模索するとのことである。
(国際調査グループ)
生乳生産者団体である欧州ミルクボード (European Milk Board:EMB)(注1)は4月15日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による牛乳・乳製品市場の危機的な状況に対応すべく、EUレベルで自主的な生乳減産プログラムが直ちに実施されるよう、欧州委員会に要請したと発表した。
発表の中でEMB会長のErwin Schöpges氏は、非常に危険な需給の不均衡から脱するためには、需要減に対して「一時的な供給の減少に応じなければならない」とし、「欧州委員会のヤヌシュ・ボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員に対し、自主的な生乳減産(プログラム)について直ちに実施するよう求めた」。また、EMB副会長のSieta van Keimpema氏も現状について懸念を示し、価格の急激な下落と生乳廃棄に対して、EUレベルでの自主的な生乳減産が実施されなければ、欧州全体の酪農部門は崩壊すると指摘し、現状に対する迅速な対応の必要性を強調した。
EMBは、同プログラムはEU全体で、かつ数カ月にわたって実施する必要があるとし、増産に制限をかける一方、自主的な生乳減産に応じた生産者には前年同時期比で減産分1キログラムごとに奨励金を出し、生産者が減産に応じる経済的環境を整えることを提案した。一方、EU内で要請が上がっているバターや脱脂粉乳の民間在庫補助(PSA)や公的買い入れ(注2)については、需要のない乳製品在庫が市場圧力を緩和できないばかりか、それ自体が有害な圧力を生むとして、直ちに自主的な生乳減産を実施し、余剰生乳生産を防ぐ必要があるとした。
Erwin Schöpges氏は、「今後も予期せぬ出来事が何度も発生する可能性があることは明らかである」とし、「われわれ生産者は、このことについて十分に準備ができている」と、発表を結んでいる。
欧州では、2016年に生乳取引価格が下落した際、共通農業政策(CAP)の共通市場規則(CMO)に規定される市場混乱時の特別措置として、生乳減産を目的とした自主的生乳供給計画の策定を可能とするEU規則を策定し、期間限定で施行したことがある。しかし、今回要請された自主的な生乳減産を実施する場合には新たな規則が必要となる。
一方、4月17日には、PSAの発動要請も含むEU全加盟27カ国の農業大臣による前例のない共同声明が欧州委員会に提出されており、欧州委員会はそれに応じるべく、PSA発動を中心とした例外的措置の検討を進めている。
(注1) 2006年に設立された16か国の21団体からなる生産者団体で、小規模生産者にも配慮した政策のあり方を志向する団体であると言われている。
(注2) 欧州委員会は、乳価の下支えとして、公的買い入れおよび民間在庫補助(Private Storage Aid:PSA)という市場介入措置を実施している。公的買い入れは、加盟各国のバターや脱脂粉乳の卸売価格が、あらかじめ設定された公的買入価格を下回った場合、当該国の機関が、製造業者または取扱業者の申請に基づき同価格で買い入れるもので、EU全体で買い入れできる上限数量が定められている。PSAは、バター、脱脂粉乳およびチーズ(地理的表示(GI)製品のみ)を対象に、大幅な価格の下落など欧州委員会が必要と認めた場合、一定量を一定期間、市場から隔離するため、在庫として保管する業者に対し、保管経費の補助が行われるものである。
(国際調査グループ)
欧州委員会は4月22日、前例のない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、大きな打撃を受けている欧州連合(EU)の農産物および食品部門を支援するため、追加対策となる例外的措置案を発表した。4月末までの採択を目指す。
欧州委員会のヤヌシュ・ボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員はプレスリリースの中で、農産物および食品分野におけるCOVID-19の脅威はますます強まっているとし、すでに措置したCOVID-19対策に加えて、「迅速な行動を取る」とした。また、提案する例外的措置について、「市場の安定に向けたシグナルを送ることを意図したものであり、将来の価格と生産の安定、ひいては安定した食料供給と食料安全保障を提供するために最も適切なもの」とし、「市場の不安を解消し、速やかに具体的な結果が出てくるものと確信している」とした。
今回発表された例外的措置案は以下の通り。
・民間在庫補助(Private Storage Aid:PSA)
乳製品(脱脂粉乳、バター、チーズ)および食肉(牛肉、羊肉、山羊肉)を対象とする民間在庫補助の発動。これにより、最低2〜3カ月、最長5〜6カ月の期間、該当製品を市場から一時的に隔離することができる。この措置により市場供給量が減少し、長期的に市場を再均衡させる。
・柔軟な市場支援事業等の運用
ワイン、青果物、オリーブオイル、養蜂を対象とした市場支援事業、および牛乳・乳製品、青果物を対象とした学校給食事業を柔軟に運用する。これにより、加盟国ごとにあらゆる部門の危機管理措置に向け、資金調達の優先順位の変更が可能となる。
・EU競争法の適用除外
生乳、花き、ばれいしょを対象に、共通市場組織(Common Markets Organisation:CMO)規則第222条に基づく競争法の一部適用除外を認め、事業者が自ら共同で、市場安定対策をとることができるようになる。具体例として、生乳部門が共同で生乳生産を計画することができ、花きおよびばれいしょ部門は共同で市場から製品を撤去することができる。民間事業者による共同保管も認められる。これによる合意や決定は、最長でも6カ月間のみ有効。消費者価格の動向は、悪影響を避けるために注意深く監視される。
欧州委員会は、4月末までの採択を目指して加盟国に諮ることとしており、内容変更には引き続き留意が必要である。関係者によれば、PSAについては(生乳換算ベースではなく)製品ベースで乳製品33万トン、食肉6万1000トンが対象となる見込みであるが、保管期間などこれらの詳細は最終的な採択時に明らかになる。一方で採択を見据え業界団体は、適用対象などのガイドライン公表を開始している。
今回発表された追加対策は、国家補助の増額、前払金の増額、補助金申請期限の延長などの、欧州委員会がCOVID-19対策として早期に採決した包括的な対策に続くものとなっている。
欧州委員会、新型コロナウイルス感染拡大に対応する農業・食品部門を引き続き支援(EU4番の情報)、111ページ
欧州委員会、追加支援措置を採択。新型コロナウイルスの影響下にある生産者のキャッシュフローの改善など(EU8番の情報)、116ページ
EU加盟の全27カ国の農業大臣は欧州委員会による追加対策案発表の5日前の4月17日、COVID-19による危機に対応すべく、EU共通農業政策(CAP)に基づくEUレベルでの必要な措置がなされるよう、欧州委員会に対し共同声明を提出していた。
共同声明では、公衆衛生上の緊急事態において人々の命と健康が優先すること、危機的状況下における欧州の食料安全保障と食料供給維持のため、生産者と各種農業・食品部門およびこれらに関するCAPの基本的な枠組みが果たす役割が極めて重要であること、将来にはより強力なCAPが必要となることを強調した。
その上で、すべてのEU加盟国に対し連帯と協力を呼びかけ、COVID-19が農業・食品市場に与えたこれまでにない影響に留意しつつ、欧州の生産者、食品産業、農村経済にとって中長期的な影響は深刻かつ長期にわたる可能性を慎重に見据えているとした。
また、すでに欧州委員会が措置した暫定的な国家補助の緩和の枠組みや、国境管理および労働者の自由な移動のためのガイドライン、経済対策であるコロナウイルス対策投資イニシアチブの二つのパッケージ、CAPに関するいくつかの柔軟な対応などこれまでの対策を評価する一方、CAPの下で緊急かつ適切で責任ある措置を追加的に実施する必要性を熟慮しており、加盟国の農業大臣として、欧州委員会に以下の点を促進するよう要請するとした。
・PSAを含むCAPの市場関連制度であるCMO規則に基づく措置の実施。市場の大きな混乱と価格への影響がある部門を守るため、CMO規制第219条・第221条(例外的措置)に基づく生産者に対する支援
・必要に応じてCMO規則に基づく追加措置を講じることができるよう、継続的なあらゆる部門の検査、監視
・CAPの二つの柱(価格・所得政策および農村振興政策)の下、加盟国のさらなる柔軟な対応の即時拡大。具体的には、補助金の早期支払い、すでに措置された前払金(率)の増額、その他農村振興における特定措置の実施や管理システムの有効性を下げない範囲での現地確認や行政手続きの緩和
・強力かつ協調的な欧州の対応の継続。具体的には、COVID-19対応において、欧州の生産者および各種農業・食品部門が極めて重要な役割を果たしていることと同時に、この困難な局面および将来において、食料安全保障、環境保護、活気ある農村地域の支援のためCAPの強化が必要であることを示していくこと
・欧州の生産者がCOVID-19の危機に加えて、気候変動や生物多様性の損失を含むその他の現在および将来の課題に備えること
(国際調査グループ)
欧州委員会は5月4日、前例のない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、大きな打撃を受けている欧州連合(EU)の農産物および食品部門を支援するため、4月22日に発表していた例外的市場措置である追加対策を採択したと発表した。
欧州委員会のヤヌシュ・ボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員はプレスリリースの中で、COVID-19の影響により深刻な状況下にある生産者らに対し、「支援に必要な措置をただちに利用できるよう迅速に行動した」とした。また、農業および食品市場が深刻な打撃を受けたことに言及した上で、今回採択されたこれらの措置が「市場に正しいシグナルを送り、ただちに一定の安定をもたらすことを確信している」とした。さらに、欧州委員会は、引き続き関係者や欧州議会、各加盟国と密に連携をとり、状況を注視していくとした。
今回採択された追加対策は以下の通り。
民間在庫補助(Private Storage Aid:PSA)(注)
乳製品(脱脂粉乳、バター、チーズ)および食肉(牛肉、羊肉、山羊肉)を対象とする民間在庫補助(PSA)の発動。これにより、最短2~3カ月、最長5~6カ月の期間、該当製品を市場から一時的に隔離することが可能になる。市場供給量を減らし、長期的に市場を再均衡させることが目的で、申請は5月7日から開始され、終了は乳製品については6月30日まで、食肉については現時点では公表されていない。
隔離のために保管する民間事業者に対し、保管経費の補助が行われ、対象品目ごとの主な要件などは以下の通り。なお、牛肉については、外食産業の閉鎖により特に需要が低下した、ステーキカット用に仕向けられるヒレやサーロインを含む月齢8カ月以上の生鮮または冷蔵の後四分体に対象が絞られた。また、チーズのみ上限数量を10万トンと示された。なお、各品目に割り当てられたPSAを含めて本対策に係る予算額については、市場を歪める可能性があるとして公表していない。
(注) 民間在庫補助(PSA)とは、大幅な価格の下落など欧州委員会が必要と認めた場合、一定量を一定期間、市場から隔離するため、在庫として保管する業者に対し、保管経費の補助を行う制度である。
ワイン、青果物、オリーブオイル、養蜂を対象とした市場支援事業、および牛乳・乳製品、青果物を対象とした学校給食事業を柔軟に運用する。具体的には、青果物では、実施中の事業変更や一時中止に対する行政上の措置が緩和される。また、学校給食事業では学校が閉鎖されていた期間を補うため、実施期間の9月30日までの延長や、執行額にかかわらず翌年度への繰越が可能になる。
生乳、花き、加工用ばれいしょについて、共通市場組織(Common Markets Organisation:CMO)規則第222条に基づくEU競争法の適用除外が認められ、事業者自ら共同で、市場対策をとることができるようになった。これにより、市場安定のために生産者や関連団体自ら共同で、商品の市場からの隔離、無料配布、共同販売促進、計画生産を行うことが認められる。具体的な例として、生乳部門は共同で生乳生産を計画することができ、花きおよびばれいしょ部門は共同で市場から製品を撤去することができる。民間事業者による共同保管も認められる。
例外適用期間は6カ月間であり、花き、加工用ばれいしょは5月5日から、生乳は4月1日から遡及して適用される。農協などの生産者団体は、生乳生産量の計画等の対策とその結果を加盟国当局に報告し、加盟国は欧州委員会に通知しなければならない。また消費者価格をはじめとして、EU単一市場の機能が損なわれることがないよう注意深く監視される。
なお一部で求められていた生乳減産に対する奨励金支払いは、今回の発表には盛り込まれていない。
欧州生乳生産者団体、減産プログラムの実施を要請。新型コロナウイルスの影響により需要減少(EU10番の情報)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002686.html
今回採択された追加対策は、国家補助の増額、前払金の増額、補助金申請期限の延長などの、欧州委員会がCOVID-19対策として早期に採択した包括的な対策に続くものとなっている。
また、欧州委員会は今回の追加対策に加えて、EU各加盟国が、EUの共通農業政策(CAP)の第2の柱である農村振興政策の財源である農村振興基金の未使用分により、生産者および中小規模の農業・食品事業者に対し、最大でそれぞれ5000ユーロ(59万5000円:1ユーロ=119円)、5万ユーロ(595万円)の補償を年内に支払うことを可能とする新たな措置を欧州議会、EU理事会に提案するとしている。
・欧州委員会、新型コロナウイルス感染拡大に対応する農業・食品部門を引き続き支援(海外情報(EU4番の情報)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002669.html
・欧州委員会、追加支援措置を採択。新型コロナウイルスの影響下にある生産者のキャッシュフローの改善など(EU8番の情報)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002681.html
(国際調査グループ)
中国国家乳牛産業技術体系産業経済研究室(注1)は2020年3月21日、下記の通り「新型コロナウイルスの中国酪農業に対する影響に関する調査」の結果を発表した。
(注1) 国家乳牛産業技術体系産業経済研究室(National Dairy Industry and Technology System)は、2007年10月に中国農業部(現農業農村部)の許可を得て中国農業大学下に設立された、酪農関連産業技術の普及を目的とした団体。
(1) 調査期間:2020年2月28日〜3月5日
(2) 調査方式:オンラインアンケート
(3) 調査対象:酪農場
(4) サンプル数:128カ所
(地域分布は表1を参照)
・対象農場の2019年の1頭当たりの年間搾乳量の平均は8500キログラム。
・対象農場の居住地区(村落)までの平均距離は2.6キロメートル。
・対象農場の6%の農場の所在地で新型コロナウイルスの感染が確認された。
(1)防疫期間中に農場が直面した問題
① 物流面の問題(表4)
・防疫期間中(特に1月下旬)は各地で道路の通行規制が行われ、飼料など資材の輸送が制限されたため、供給不足に陥った。
・供給不足により、飼料など価格が上昇した。
・その他、設備修理などのサービスが受けられず、必要な防護用品も不足した。
② 販売面の問題(表5〜7)
・物流停滞により乳製品市場が停滞していたため、生乳買付拒否と買付制限、買たたきなどの問題が頻繁に発生した。
・16農場で生乳廃棄があり、1農場当たりの廃棄数量は数トンから100トン以上であった。この廃棄量は防疫期間中の生乳生産量の15%〜60%に当たる。
・中小規模の農家で、生乳廃棄などによる売上減が大きい傾向がある。
③ 資金面の問題(表8、9)
・資金繰りの問題を抱える農家が多い。資材などの高騰により負債が増加し債務が返済できない、乳業メーカーからの生乳の売上金の支払いが遅れることにより資材費や光熱費が支払えない、銀行業務の停滞などにより融資が受けられない、などの理由がある。
・2019年末の飼育頭数で計算すれば、農場の1頭当たり損失額は平均で476元(約7430円)であった(注2)。大規模農家の平均の損失は334元(約5210円)、中規模農家の平均損失は498元(約7770円)、小規模農家の平均損失は587元(約9160円)と、小規模農家の損失が最も大きい。
(注2) 搾乳牛1頭当たりの収益については、「畜産の情報」2019年9月号「中国における酪農・乳製品生産の現状と今後の需給見通し」(https://www.alic.go.jp/content/001168402.pdf)P.81を参照されたい。
(2)新型コロナウイルスの影響への対応措置(表10)
・農場では、搾乳牛の早期乾乳や淘汰の加速、飼料の調整などで生乳生産量を調整した。
・中小規模農場は大規模農場と比較して早期乾乳や更新を選択する割合が高かった。これは、中小規模農場が経営リスクに弱いこと、また、規模が小さいため生産量を調整しやすいことによる。
(3)対応措置の結果(表11〜13)
・対応措置の結果、多くの農場で生乳生産量が減少した。小規模農家は中・大規模農家より影響を受ける傾向がある。
・早期乾乳と搾乳牛淘汰の結果、生乳生産量は一時的に減少したが、長期的生産能力に対する影響は限定的と考えられる。
(調査情報部 寺西 梨衣)
タイ農業・協同組合省農業経済局は、2020年第1四半期の農業分野のGDP(国内総生産)を公表した。これによると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により前年同期比4.8%の低下となり、年間では0.3%の微減を見込んでいる。これは、消毒用アルコール向け需要が増加傾向にあるキャッサバや、中国や東南アジア各国でのASF(アフリカ豚熱)の発生により豚肉の需要が増加傾向にあるためである。一方、外出規制により、外食での消費が比較的多い鶏肉、砂糖の原料であるサトウキビなどの需要が低下傾向にあることが原因としている。
年末や春節(2020年は1月下旬)時期に出身国に帰省していた労働者がタイに戻ってくることができていないため、今後労働者不足に陥ることが懸念されており、タイ飼料生産者協会は、2020年の畜産物生産量は5〜10%程度減少すると見込んでいる。
タイ商務省国際通商交渉局の発表によると、タイは日本に向けて、冷凍鶏肉および鶏肉調製品を最も多く輸出しているところ、2020年1〜2月の輸出量はそれぞれ、前年同期比37.9%増の2万3000トンと、同5.2%増の4万8000トンであった(表1、2)。これは、日・タイ経済連携協定により関税面で他国産より優位に立っているためであり、両国ともCOVID-19の影響は受けているものの、今後も依然成長の余地はあるとしている。
また、中国向け冷凍鶏肉輸出は、2018年3月の解禁後継続的に輸出量が増加しており、2020年1〜2月の輸出量は同13.1%増の1万3000トンであった(表1)。中国では、ASFの影響で、豚肉の代替として鶏肉の消費が増加している。タイ農業・協同組合省畜産局は、今月に入りタイの鶏肉輸出施設が新たに7施設追加認定されたと公表しており、輸出拡大に向けた動きがみられた。
このように、日本や中国への輸出が堅調であることから、総輸出量は同4.7%増の5万トンとやや増加している。
一方、現地専門家によると、欧州における都市封鎖等の措置により流通が一部制限されたことを受け、2020年1〜2月の英国向け鶏肉調製品輸出は同2.7%減の2万7000トン、オランダ向けは同8.9%減の6000トンとなった(表2)。
また、韓国においても、COVID-19による経済の低迷を受け、同10.4%減の4000トンとかなりの程度減少するなど、輸出の伸び悩みが確認された(表2)。
(調査情報部 寺西 梨衣)