ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 台湾におけるツマジロクサヨトウ防除の現況
「State of the World's Plants 2017」(注2)では、ツマジロクサヨトウは世界十大植物病害虫の一つであり、世界クラスの病害虫になり得ると評価している。その主な要因の一つは生活史(ライフサイクル)の特性において、1年で複数世代発生することが可能ということである。発育時間は温度に関連しており、夏季においては、卵は約2〜3日での
また、ツマジロクサヨトウのメスは一生に最大2000個産卵するが、このうち大部分が羽化後4〜5日で、一つの卵塊当たり100〜200個を産卵することができる。強力な繁殖力も新たな生息地を増加させている要因の一つとなっている。
さらに、ツマジロクサヨトウは驚くべき移動能力も有している。成虫は一晩に100キロメートル、気流に乗ると200キロメートル移動することが可能であるため、例えば北米において冬季の温度が0℃以下となりその群がすべて死滅したとしても(注3) 、翌年には、南方の温暖な地域から再度侵入して被害を与えることとなる。
台湾は亜熱帯に位置しているため、冬季には一時的に10℃以下の低温となることがあるが、ツマジロクサヨトウを完全に死滅させることは困難であることから、一部の群は台湾で越冬する可能性がある(注3)。さらに毎年夏季には西南季節風の気流により新たな群が侵入するため、外来群および現地群の個体数は毎年持続的に増大することとなる。
病害虫が気候面の制限を突破して新たな地域まで拡散するためには、摂食する作物も鍵の一つである。CABI(科学文献の出版、研究、情報伝達に特化した非営利組織)のデータベースによれば、ツマジロクサヨトウの寄主植物(摂食可能な植物)は76科353種に達しており、特にイネ科が最も多く106種(約30%)である。水稲、こうりゃん、トウモロコシ、小麦などの重要な作物に食害をもたらすため、被害はその他の病害虫よりも重大である(写真1〜4)。
(注2) 「State of the World's Plants 2017(2017年世界植物現状報告)」は英国王立植物園が毎年公表している植物に関するレポート。2017年のレポートは下記を参照。https://stateoftheworldsplants.org/2017/report/SOTWP_2017.pdf
(注3) ツマジロクサヨトウの卵から成虫までの発育限界温度は10.9℃である。また、本種は休眠せず、低温では活動と発達は休止し、気温が氷点近くなると通常すべてのステージで死滅するとされている。本種が越冬できるのは亜熱帯から熱帯地域のみで、米国においては本種が冬期に存在できることが知られているのは、テキサス州南西部とフロリダ南部のみであり、他の地域では生存できない。(農林水産省「ツマジロクサヨトウ」防除マニュアル本編より)
ツマジロクサヨトウの寄主植物の種類は広範であるが、摂食する植物により系統が区分される。アメリカ大陸のツマジロクサヨトウの幼虫はトウモロコシを好んで摂食していたが、その後好んで水稲に被害を与える群が出現したことが発見されたため、水稲型およびトウモロコシ型の二つの系統(亜型)に区分された。両者の摂食の好み、成虫の交尾行為などは異なるものの、形態にはほとんど差異はなく、遺伝子鑑定によってのみ類別可能である。
台湾では二つの系統がいずれも発見されているが、トウモロコシ型の系統は1例のみで、その他はすべて水稲型系統である。しかしながら、いずれもトウモロコシ、こうりゃんに発生が集中し、一部でハトムギ、ギョウギシバおよびバミューダグラス上で発見されているものの、まだ水稲では発見されていない。現在、台湾において、ツマジロクサヨトウの被害を受けた寄主植物の種類は少なく、予測されていたほど被害は深刻ではなかったものの、このように、トウモロコシを主な寄主植物としているツマジロクサヨトウが台湾に飛来してきている状況において、台湾に定着したツマジロクサヨトウが、その他の寄主植物に対しても被害を与える可能性が高い状況にあると言える。
ツマジロクサヨトウは主に幼虫期に被害を与えるが、その幼虫の生態および行動に特徴が見られる。トウモロコシを例に挙げると、1齢幼虫は葉面を摂食するが、2〜3齢の幼虫は分散して葉の付け根の成長点まで穴を