今回、農林水産省が公表した食肉流通統計(平成31年4月〜令和2年3月)および食鳥流通統計(平成31年1月〜令和元年12月)の結果について畜種ごとに紹介する。
【牛肉】
令和元年度の成牛のと畜頭数、3年ぶりに減少
農林水産省が公表した令和元年度の「食肉流通統計」によると、成牛のと畜頭数は103万7720頭(前年度比1.3%減)と、前年度をわずかに下回った。近年、和牛のと畜頭数は増加傾向となっているものの、元年度は乳用去勢および交雑牛のと畜頭数の減少が大きかったことから、3年ぶりの減少となった。
また、調査卸売市場(中央卸売市場
(注1)および地方卸売市場
(注2)。以下同じ。)における市場経由率(卸売市場における取引成立頭数
(注3)が全と畜頭数に占める割合)を見ると、31.3%(32万4370頭)となった。このうち、中央卸売市場は23.1%(23万9217頭)と前年度より0.5ポイント低下し、7年連続で前年度を下回った。また、地方卸売市場も8.2%(8万5153頭)と前年度より0.3ポイント低下し、2年連続で前年度を下回った。
(注1) 卸売市場法(昭和46年法律第35号)の規定により開設されている仙台、さいたま、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島および福岡の10市場。
(注2) 卸売市場法の規定により開設されている地方卸売市場のうち、畜産経営の安定に関する法律(昭和36年法律第183号)第3条第1項の標準的販売価格の算出に用いられる市場をいい、茨城、宇都宮、群馬、川口、山梨、岐阜、浜松、東三河、四日市、姫路、加古川、西宮、岡山、坂出および佐世保の15市場。なお、食肉流通統計では「主要市場」と呼ぶ。
(注3) 卸売市場への上場頭数のうち、卸売業者と売買参加者との間に取引が成立した頭数。
和牛のと畜頭数、3年連続で増加
和牛のと畜頭数は、平成25年度以降減少傾向で推移する中、和牛の繁殖雌牛の増頭などにより、29年度からは回復傾向となっている。令和元年度は、45万9276頭(前年度比0.9%増)と前年度をわずかに上回り、3年連続の増加となった(図15)。
また、市場経由率を見ると、中央卸売市場は31.3%(14万3785頭)と前年度より0.5ポイント低下し、6年連続で前年度を下回った。地方卸売市場も7.8%(3万5904頭)と前年度より0.1ポイント低下し、2年連続で前年度を下回った。
直近10年間の市場経由率の推移を見ると、中央卸売市場は平成27年度まではおおむね34%台で推移し、その後は減少傾向となっている。卸売価格の推移を見ると、生産頭数の減少を受けて24〜28年度は上昇基調にあったことから、卸売価格が上昇傾向にある期間は中央卸売市場への出荷頭数が増える傾向にあることがうかがえる(図16)。また、成牛のうち、中央卸売市場の市場経由率は和牛が30%台と最も高く、市場関係者などによると、和牛の生産者において、市場取引で出荷牛が高く評価されることへの期待が大きいことが要因の一つとして挙げられている。
交雑牛のと畜頭数、減少傾向が続く
交雑牛のと畜頭数は、乳用種雌牛の減少から、平成30年12月以降、前年同月を下回って推移している。令和元年度は、23万4263頭(前年度比5.6%減)と前年度をやや下回り、4年ぶりの減少となった(図17)。
また、市場経由率を見ると、中央卸売市場は28.0%(6万5556頭)と前年度より1.3ポイント低下し、地方卸売市場も14.0%(3万2846頭)と前年度より0.2ポイント低下した。
直近10年間の市場経由率の推移を見ると、中央卸売市場は平成27年度以降、地方卸売市場は26年度をピークに、いずれもその後は減少傾向で推移している。交雑牛の卸売価格が上昇基調にあった27年度までは、中央卸売市場および地方卸売市場における市場経由率はおおむね横ばいないし微増傾向で推移していたものの、価格が横ばいとなった28年度以降は低下傾向で推移している(図18)。
乳牛のと畜頭数、8年連続の減少
乳牛のと畜頭数は、乳用種雌牛の減少や、性判別精液の活用などの乳用後継牛を確保する動きにより、令和元年度は33万2129頭(前年度比1.4%減)と前年度をわずかに下回り、8年連続で減少した(図19)。
また、市場経由率を見ると、中央卸売市場は8.8%(2万9321頭)と前年より0.3ポイント低下した。地方卸売市場も4.9%(1万6392頭)と前年より0.4ポイント低下し、3年連続で前年を下回った。
直近10年間の市場経由率の推移を見ると、中央卸売市場は平成24年度以降、地方卸売市場は28年度をピークに、いずれもその後は減少傾向で推移している。
乳牛は和牛や交雑牛に比べて市場経由率が低いが、市場関係者によれば、卸売市場への出荷にかかる輸送費用などを削減するため、生産地に近い食肉センターなどの活用が進んでいることが要因の一つとして挙げられている(図20)。
【豚肉】
令和元年度の豚のと畜頭数、前年度並み
豚のと畜頭数は、平成25年度に発生した豚流行性下痢(PED)の影響などから26年度に前年度をやや下回って以降、横ばいで推移している。農林水産省が公表した「食肉流通統計」によると、令和元年度は、1644万6085頭(前年度比0.3%増)と前年度並みとなった(図21)。元年度も近年の猛暑の影響による出荷頭数の減少が懸念されたものの、長梅雨の影響により気温が低い日が続いたことや暖冬の影響などから、年度後半の出荷頭数は回復に転じた。
また、市場経由率を見ると、中央卸売市場は、5.3%(86万8585頭)と前年度より0.3ポイント低下し、地方卸売市場も6.8%(111万8797頭)と前年度より0.6ポイント低下した。これは、中央卸売市場のうち名古屋市場で、地方卸売市場のうち岐阜市場で、それぞれ取引成立頭数が例年に比べて大きく減少したことによることから、CSF(豚熱)の影響によるものと考えられる。
直近10年間の市場経由率の推移を見ると、中央卸売市場は5%台を、地方卸売市場は7%台をおおむね安定して推移したものの、元年度は上述の理由からいずれも比較的大きな減少となった。
【鶏肉】
令和元年の肉用若鶏の処理羽数・処理重量・1羽当たりの重量はいずれも増加
農林水産省が令和2年5月27日に公表した「食鳥流通統計調査」によると、元年(1〜12月)の食鳥処理羽数は8億258万8000羽(前年比1.5%増)、処理重量は229万7886トン(同2.1%増)といずれも前年をわずかに上回った(図23)。
このうち、全体の約9割を占める「肉用若鶏(ふ化後3カ月齢未満)」は、近年の好調な鶏肉需要を受け、生産者の増産意欲が高まったことから、処理羽数が7億1249万3000羽(同1.7%増)、処理重量が213万1953トン(同2.4%増)と、いずれも8年連続の増加となった。また、1羽当たりの重量は3.0キログラム(同0.6%増)と、前年をわずかに上回った。年々増加傾向にあることから、大型で成長の早い品種の導入が進んでいることがうかがえる。
全体の約1割を占める「廃鶏(採卵鶏または種鶏を廃用した鶏)」は、処理羽数が8452万3000羽(同0.1%減)、処理重量が14万7738トン(同0.1%減)といずれも前年並みとなった。また、1羽当たりの重量も1.7キログラム(同0.0%)と、前年並みとなった。なお、採卵鶏の全国飼養羽数は近年増加傾向にあるため、処理羽数、処理重量ともに高水準で推移している。
地鶏などが含まれる「その他の肉用鶏(ふ化後3カ月齢以上)」は、処理羽数が557万2000羽(同4.2%減)、処理重量が1万8195トン(同3.5%減)といずれも前年をやや下回った。また、1羽当たりの重量は3.3キログラム(同0.7%増)と、前年をわずかに上回った。
(畜産振興部 郡司 紗千代)