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国内の需給動向【牛乳・乳製品】 畜産の情報 2020年7月号

需給情勢が大きく変化する中、2年度の生乳生産量は微増の見込み

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生乳生産量は堅調に推移するも、緊急事態宣言を受け用途別処理量は大きく変化
 令和2年4月の生乳生産量は63万4023トン(前年同月比1.9%増)となり、元年9月以降、8カ月連続で前年同月を上回った(図24)。地域別に見ると、北海道は34万4959トン(同3.2%増)と前年同月をやや上回り、都府県は28万9064トン(同0.3%増)と前年同月をわずかに上回った。中でも、増加幅が最も大きかった中国地域は2万6885トン(同8.3%増)と、元年7月から10カ月連続で前年同月を上回った。
 
 
 こうした中、政府は4月7日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延が国民生活および国民経済に及ぼす影響への懸念から、7都府県を対象に緊急事態宣言を発令し、同月16日には対象地域を全都道府県に拡大した。これを受けた全国各地での学校給食用牛乳の供給停止や飲食店などの休業により、牛乳・乳製品需給が業務用を中心に大幅に緩和したため、用途別処理量において例年と異なる動きが見られた。
 まず、牛乳等向け処理量については、業務用向けが2万1553トン(同27.7%減)と前年同月を大幅に下回った。一方、家庭用需要は堅調に推移したことなどから、牛乳等向け全体としては31万4456トン(同2.8%減)と、わずかな減少にとどまった。
 乳製品向け処理量を見ると、クリーム向けが同23.3%減、濃縮乳向けが同38.6%減と、業務用需要の減少により前年同月を大幅に下回った(農林水産省「牛乳乳製品統計」)。一方、需給の調整弁となる脱脂粉乳・バター等向けは、18万3453トン(同23.7%増)と前年同月を大幅に上回ったため、乳製品向け全体としては31万5942トン(同7.0%増)と前年同月をかなりの程度上回った(農畜産業振興機構「交付対象事業者別の販売生乳数量等」)。

令和2年度の生乳生産量は前年度比1.4%増の見込み
 COVID-19の影響を受けて牛乳・乳製品需給の見通しには不確実性が伴うものの、夏季の生乳および牛乳・乳製品の円滑な需給調整を推進するとの観点から、一般社団法人Jミルクは令和2年5月27日、「2020年度上期の生乳及び牛乳乳製品の需給見通しと課題について」を公表した。これによると、2年度の全国の2歳以上の乳用牛頭数は、7月以降、前年度を上回って推移するとしている。特に、北海道では年度内のすべての月で前年度を上回って推移し、3年3月には前年同月を1万2000頭上回る4万9000頭に達すると見込んでいる。また、頭数の減少が続いていた都府県でも、12月以降、増加に転じると見込んでいる。これらを踏まえ、今年度の全国の生乳生産量は746万3000トン(前年度比1.4%増)と見込んでいる(表)。
 
 
 また、用途別処理量の見通しとしては、緊急事態宣言が5月末に全国で解除されるなどの前提の下、飲用等向け処理量は4〜5月にかけて前年同月を下回るものの6月以降は上回って推移するとして、上期(4〜9月)としては前年同期をわずかに上回る210万3000トン(前年同期比1.0%増)と見込んでいる。
 一方、脱脂粉乳・バター等向け処理量は、4〜5月にかけて前年同月を大幅に上回るものの、7月は前年同月をかなりの程度下回るとの見込みから、上期としては同12.2%増の85万1000トンと見込んでいる。

4月の牛乳生産量はやや減も、はっ酵乳・乳酸菌飲料は増産
 令和2年4月の牛乳生産量は、業務用が前年同月比27.6%減、学校給食用が同78.1%減と、いずれも前年同月から大幅に減少したものの、全体としては同3.5%減の24万3968キロリットルと、前年同月をやや下回る水準にとどまった。この背景には、農林水産省が4月21日から実施しているプラスワンプロジェクト(注)をはじめ、家庭内消費促進の取り組みが随所で積極的に展開されていることによる、牛乳の家庭内消費の増加があるとみられる。
 また、はっ酵乳は9万3926キロリットル(同5.2%増)、乳酸菌飲料は1万1403キロリットル(同14.6%増)と、いずれの生産も堅調に推移した。この一因として、免疫力向上への期待から機能性ヨーグルトを中心に需要が増加したことや、ヨーグルトを原料としたラッシーの飲用推進など、業界関係者による家庭内消費促進の取り組みが奏功したことなどが挙げられる。

(注) 緊急事態宣言の対象地域拡大によって、学校給食や外食産業における牛乳・乳製品の消費のさらなる減少が懸念される中、酪農家を支えるために、牛乳やヨーグルトを普段より1本多く消費することを推進する取り組み。

バター・脱脂粉乳の増産は継続し、月末在庫も前年同月比大幅増
 令和2年4月のバター生産量は、8472トン(前年同月比39.5%増)となり、2月以降3カ月連続で、前年同月と比較した増加率が20%を超えている(図25)。こうした中で、4月のバター期末在庫は、外食機会やインバウンド需要の減少に伴い業務用需要が減少していることから、3万2447トン(同31.9%増)と高水準となった。
 
 
 
 ただし、当機構が公表している「形態別バター需給表(国内乳業メーカー等13社)」によると、同月の家庭用バター消費量(出回り量)は同28.9%増と大幅に増加している。これは、休校措置や外出の自粛により家庭でバターを使った菓子や料理を作る機会が増えたことなどが要因とみられる。また、当機構が5月15日に公表した「小売店におけるバターの販売状況」でも、4月27日〜5月3日の小売店1店舗当たりバター販売重量は、9.46キログラム(前年同期比44.6%増)と前年同期を大幅に上回った。このため、一部の店頭では家庭用バターの欠品が見られたが、乳業メーカーが生産計画を上回って家庭用バターを増産していることに加え、店頭やオンライン通信販売で業務用のポンドバターの販売を増やしていることなどから、欠品状況は改善に向かっている。
 また、4月の脱脂粉乳需給は、生産量が1万4118トン(前年同月比15.5%増)と8カ月連続で前年同月を上回る中、期末在庫も8万546トン(同17.9%増)と前年同月を大幅に上回った(農林水産省「牛乳乳製品統計」)。
 このような急激な需給の緩和に対処し、生乳廃棄の発生を回避しつつ新たな需要を創出するため、当機構は農林水産省の要請を受けて各種緊急対策を実施している。

令和2年度の脱脂粉乳輸入枠を縮小
 農林水産省は5月27日、令和2年度の国家貿易に係るバターおよび脱脂粉乳の輸入枠数量の検証結果を公表した。これによると、バターについては、直近の生産量は増えているものの、前述の通り一部の店頭で家庭用バターの欠品が見られることから、年間の輸入枠数量2万トンは維持することとなった。一方、脱脂粉乳は、需給の緩和傾向が続く見込みであるとして、年間輸入枠数量は4000トンから3000トン強引き下げられ、750トンとなった。
 
(酪農乳業部 野田 圭介)