2020年3月の牛肉輸出量、3カ月連続して増加
米国農務省経済調査局(USDA/ERS)によると、2020年3月の牛肉輸出量は、と畜頭数の増加および記録的な牛肉生産量、アジア諸国からの旺盛な需要を背景に、前年同月比8.6%増の12万1172トンと前年同月をかなりの程度上回り、3カ月連続しての増加となった(表1)。
主要輸出先別に見ると、首位の日本向けは同25.2%増の3万9134トンと大幅に増加した。この要因として、USDAは、日米貿易協定が発効したことを挙げている。
第2位の韓国向けも同11.7%増の2万7704トンとかなり大きく増加し、第4位のカナダ向けも同32.4%増の1万1474トン、第5位の台湾向けも同11.8%増の8078トンとそれぞれ増加した。米国食肉輸出連合会(USMEF)によると、カナダ向けは前年の減少傾向から回復したとし、韓国向けについては過去最高となった前年をさらに上回っており、韓国内の量販・小売店に加え、フードサービス業界からのテイクアウト需要がこれをけん引しているとしている。台湾向けについては、日本向けや韓国向けと同様、米国が主要な輸入先であるが、旺盛な小売需要に加え、競合する豪州、ニュージーランドからの牛肉輸入が鈍化しており、米国産の輸入量は記録的なペースで推移している。さらに、USMEFは韓国および台湾について、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抑制に成功、または規制が緩和されたため、5月以降のフードサービス部門の販売動向について楽観的な見方があることを紹介している。
一方、第3位のメキシコ向けは同17.7%減の1万2867トン、第6位の香港向けも同31.7%減の5180トンと、いずれも大幅に減少した。
この結果、2020年第1四半期(1〜3月)の輸出量は前年同期比10.5%増の34万8927トンとかなりの程度増加し、主要輸出先別でも、メキシコおよび香港を除き軒並み増加した。
その他、絶対量は多くないものの、中国向けは同国内でのASF(アフリカ豚熱)発生に伴う豚肉からの代替需要により増加し、インドネシアやベトナムといったASEAN(東南アジア諸国連合)向けも前年からの増加傾向が継続している。
なお、USMEFは、COVID-19の影響について、各国において外食産業の営業規制や自粛が行われている現状を踏まえ、「テイクアウトの増加などの消費形態の変化、物流面での障害の表面化、米ドル高などの逆風があったものの、米国産レッドミート(牛肉含む)への需要は堅調であった。3月の輸出データは米国内での食肉処理場、加工場の一時閉鎖などによる影響が反映される前の数字であり、4〜5月の輸出は減速する可能性があるものの、2020年通期で見ると好調を維持する見通しである」としている。
4月のフィードロット飼養頭数、導入頭数、出荷頭数のいずれも減少
米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)が2020年5月22日に公表した「Cattle on Feed」によると、4月のフィードロット導入頭数は前年同月比22.3%減の143万2000頭と前年同月を大幅に下回り、同月の導入頭数としては、現行の形式で調査が開始された1996年以降で2番目に少ない頭数となった。また、出荷頭数は同24.3%減の145万9000頭と、こちらも前年同月を大幅に下回り、同月の出荷頭数としては1996年以降で最低となった。
この結果、2020年5月1日現在のフィードロット飼養頭数は1120万頭と、前年同月を5.1%下回った(図1)。フィードロット飼養頭数は、堅調な肥育牛価格を背景にフィードロットの収益性が良好であったため、2018年以降記録的水準で推移していた。しかし、COVID-19の拡大に伴う牛肉市場の混乱や、肥育牛価格が低迷したことなどによりフィードロット導入頭数が減少した結果、4月の飼養頭数は6カ月ぶりに前年と比較して減少に転じており、5月もこの傾向が継続することとなった。
こうした状況について、現地報道では、出荷頭数が減少し、フィードロットでの肥育期間が延びていることは、COVID-19による一部の食肉処理場の閉鎖およびそれに伴うと畜能力の減少による出荷遅れの兆候を表したものだとしている。また、食肉処理場は再開されつつあるものの完全に回復しておらず、出荷遅れを解消するまでには至っていないことが、通常は計画的に行われているフィードロット経営を混乱させている要因だとしている。
4月の牛と畜頭数、大幅に減少
フィードロット出荷頭数が過去最低となる中、と畜頭数も同じく減少している。USDA/NASSが2020年5月27日に公表した「Livestock Slaughter」によると、4月の牛と畜頭数(連邦検査ベース)は、前年同月比21.5%減の218万9000頭と前年同月を大幅に下回った(図2)。
と畜頭数は、3月はフィードロット出荷頭数も多く、COVID-19の拡大に伴う小売特需があったことなどから堅調だったものの、4月は大手食肉処理場の閉鎖が相次ぎ、と畜処理能力が低下した影響により減少したものと考えられる。
牛肉供給量の減少に伴い卸売価格は異例の高騰
COVID-19の拡大以降、牛肉卸売価格(カットアウトバリュー
(注1))が異例の高騰を見せている。米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)が毎日公表する「National Daily Boxed Beef Cutout and Boxed Beef Cuts」によると、カットアウトバリューは3月中旬以降乱高下し、4月に入ると再び急騰に転じた(図3)。4月9日以降、連日上昇を続け、5月12日には100ポンド当たり475.39米ドル(1キログラム当たり1142円:1米ドル=109円)という異例の高騰を見せた。その後は下落に転じたものの、5月27日時点で同377.77米ドル(同908円)という水準にとどまっている。
このような状況について、現地報道によると、3月中旬以降、全米各地で実施された都市封鎖や外出制限の実施に伴う小売特需により流通在庫が激減し、その補充買いでカットアウトバリューが急騰したとのことである。その後、レストランの一斉休業などに伴い需要が減少したため一時的に下落したものの、4月中旬以降、主要な牛肉処理場の操業停止などによりと畜頭数が減少し、新たな操業停止報道も相次いだことが、上昇に拍車をかけたとみられる。
5月に入っても、前述の通り4月のと畜頭数が大幅に減少する中、夏場の需要期を控えた小売チェーンや外食産業の間で、限られた牛肉を競り合う(オークション)ような状況に陥ったため、カットアウトバリューは異例の展開を見せたとされる。
こうした中、牛肉を含めた食肉の安定供給および過熱した市場の沈静化を図るため、トランプ大統領は4月28日、COVID-19に関する国家非常事態宣言が適用されている間において、国防生産法(Defense Production Act)に基づき、米国民にたんぱく質を供給し続けるために、牛肉、豚肉、鶏肉の食肉および家きん肉処理場の操業継続を命じる大統領令に署名した。これを受け、USDAのパーデュー農務長官は5月5日、大手食肉企業などに対し、保健福祉省の疾病対策予防センター(CDC)と労働省の労働安全衛生庁(OSHA)が、食肉処理場において労働者の安全を確保しつつ施設を稼働するために示したガイドラインの順守を求めるなどの対策を講じた
(注2)。
これらの対策が行われる中、食肉処理場が相次いで稼働を再開し、5月中旬以降のと畜頭数、牛肉生産量が回復の軌道に乗り、絶対的な供給不足が解消されつつあることにより、カットアウトバリューも下落に転じたとされている。
(注1) カットアウトバリューとは、各部分肉の卸売価格を1頭分の枝肉に再構成した卸売指標価格。
(注2) 海外情報「食肉・食鳥処理場の操業維持に関する大統領令に基づき、米農務省が対応を講じる(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002695.html、99ページ)を参照されたい。
(調査情報部 藤原 琢也)