大きな混乱なく、輸出量は増加続く
ブラジル経済省貿易局(SECEX)によると、2020年1〜4月の鶏肉輸出量は、前年同期比5.7%増の126万6822トンとなった(表10)。同国でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大しており、4月には5カ所の食鳥処理場が稼働を停止した
(注1)。他にも複数の食鳥処理場において従業員の感染が確認されたものの、多くの食鳥処理場の稼働は継続したとみられ、供給面での影響はほとんどなかった。
また、本年に入り、米ドル高レアル安がさらに進行したことから、ブラジル産鶏肉の価格競争力はますます高まっている(図12)。輸送面でもCOVID-19の影響を大きく受けなかったことが、輸出量の増加につながったものとみられる。
輸出先別に見ると、中国向けは、同国でのASF(アフリカ豚熱)の発生に伴う代替需要を背景に、引き続きブラジル産鶏肉への引き合いが堅調なことから、22万2981トン(同41.5%増)と大幅な増加となった。また、日本向けは同2.5%増とわずかな増加となっており、現時点で大きな変動はみられない。
(注1) 海外情報「新型コロナウイルス感染症の拡大による食肉検査への影響(第2回報告)(ブラジル)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002697.html、109ページ)を参照されたい。
ブロイラーの生産コストは上昇続く
ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)養鶏・養豚センター(CIAS)によると、鶏肉の最大生産州であるパラナ州におけるブロイラー生産コスト指数は、2019年10月以降、230ポイント前後で高止まっていたものの、2020年3月に入って再び上昇し、4月は263.02ポイントとなった(図13)。
ブラジルでは、ブロイラーの生産コストのうち飼料が約7割を占める。ブロイラー用飼料の主原料となるトウモロコシ価格は、2019年末以降、上昇が続いている(図14)。米国農務省(USDA)によれば、シカゴ相場を基準に支払われるトウモロコシの農家販売価格が米ドル高レアル安によって上昇していることに加え、国内外の堅調な需要を背景としたブロイラーの増産に伴い、トウモロコシの国内需要が堅調であることが主な要因であるとしている。また、昨年から続くレアル安によるトウモロコシの価格競争力の高まりから輸出量が増加し、在庫量が減少していた中で、第1作トウモロコシの生産量がリオグランデドスル州を中心とした干ばつの影響により前年を下回ったことや、第2作トウモロコシの収穫時期は数カ月後であることから、供給面で不足感が広がっていることも影響しているものとみられる
(注2)。
(注2) 海外情報「2019/20年度主要穀物の生産状況等の調査結果(第8回)を公表(ブラジル)」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002698.htmlを参照されたい。
鶏肉卸売価格はCOVID-19の拡大により下落傾向
サンパウロ大学農学部応用経済研究所(CEPEA)によると、鶏肉卸売価格は、2019年末には中国におけるASFの影響による代替需要や春節に向けた手当てにより、同国から強い引き合いがあったことなどから上昇し、過去最高を記録したものの、1月後半から2月にかけては落ち着きを取り戻して推移した(図15)。ブラジルでCOVID-19が拡大し始めた3月以降は、生産コストは上昇しているものの、国内需要が減少し、価格は再び下落が続いている。ブラジルのボルソナーロ大統領は経済活動を優先させる姿勢を貫いているが、中国の経済活動再開後の状況および国内需要の推移を見通すのは難しく、今後の価格動向は不透明である。
(調査情報部 山口 真功)