3月の生乳出荷量は前年同月比1.2%増
欧州委員会によると、2020年3月の生乳出荷量(EU27カ国)は、多くの加盟国で前年同月に比べ増加したため、前年同月を1.2%とわずかに上回る1273万990トンとなった(図21)。生乳出荷量は、複数の国が2018年の夏に干ばつに見舞われた影響により、同年9月〜翌2月は前年同月を下回って推移していた。しかし、2019年7月以降は9カ月連続で前年同月を上回って推移した。
3月の出荷量を加盟国別に見ると、スペイン(前年同月比7.1%増)、ベルギー(同4.2%増)、オランダ(同3.0%増)、アイルランド(同2.1%増)など、主要生産国の多くで前年同月を上回った(表11)。
一方、イタリア(同2.8%減)およびデンマーク(同0.6%減)では前年同月を下回った。
米国農務省(USDA)が公表したレポートによると、ドイツ、フランス、イタリア、アイルランドといった主要生産国は、欧州の中でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を最も受けており、サプライチェーンの混乱に加えて、乳製品の国内および国際的な需要の低下により2020年の春から夏にかけて生乳生産量が減少するとされている。しかし、COVID-19による影響が緩和されれば、同年秋と2021年春には生乳生産量が回復すると予測されている。
乳製品の民間在庫補助(PSA)の申請開始
EUの乳製品価格は、COVID-19の影響を受け、脱脂粉乳、全粉乳、バターで2020年3月以降、急激に下落したものの、5月に入ってからは下げ止まっている(図22)。欧州委員会によると、直近の5月17日の週平均の価格は、脱脂粉乳で前週比1.6%高、前月比0.3%高の100キログラム当たり198ユーロ(2万3760円、1ユーロ=120円)となった。また、全粉乳は前週比1.1%高、前月比0.6%安の266ユーロ(3万1920円)、バターは前週比2.4%高、前月比4.5%安の288ユーロ(3万4560円)となった。
欧州委員会が4月に公表した農畜産物の短期的需給見通しの中では、中国におけるCOVID-19の拡大により、フードサービスの閉鎖や春節休暇の延長に伴い需要が減少し、粉乳の価格が低下したとしている。また、中国での需要はすでに回復傾向にあるものの、粉乳の在庫水準が高いため、乳製品価格への下落圧力は続くと予想されている。
こうした中、欧州委員会では、COVID-19の支援対策である乳製品(脱脂粉乳、バター、チーズ)に対する民間在庫補助(PSA)の申請を5月7日から開始しており、5月24日までの各品目のPSAの申請状況は、表12の通りである。このうち、チーズについては、補助対象の上限数量がEU27カ国および英国
(注)で合計10万トンと決められているとともに、国ごとの上限も定められている。なお、5月24日までの申請で、アイルランド、スペイン、イタリア、スウェーデン、英国といった国で申請枠の消化率が100%となっている。
また、乳製品のPSAの申請期限は6月30日までとなっていることから、今後の申請状況が乳製品価格にどう影響するかが注目される。
(注) 英国は2020年1月にEUから離脱したものの、英国・EU間の離脱協定に基づき、離脱後、移行期間(2020年12月31日まで)が設けられ、同期間中はEU法が、英国に適用されている。
(参考) 海外情報「欧州委員会、新型コロナウイルスの追加対策を採択。乳製品、牛肉などの民間在庫補助(PSA)を5月7日から。チーズは最大10万トン市場隔離へ」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002692.html)を参照されたい。
(調査情報部 小林 智也)