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海外情報 畜産の情報 2020年7月号

新型コロナウイルス感染症関連の情報

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調査情報部 国際調査グループ
 調査情報部では世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、各国政府の対応など需給に影響を与えるタイムリーな情報を、海外情報としてホームページで随時掲載しております。
(掲載URL:https://www.alic.go.jp/topics/index_abr_2020.html
 ここでは、前月号でご紹介したもの以降、5月末までに掲載したものをまとめて紹介いたします。

【北 米】

1 (令和2年5月13日付)食肉・食鳥処理場の操業維持に関する大統領令に基づき、米農務省が対応を講じる(米国)

 4月28日、トランプ大統領が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する国家非常事態宣言が適用されている間において、国防生産法に基づき、米国民にたんぱく質を供給し続けるために、牛肉、豚肉、鶏肉の食肉および家きん肉処理場(以下「処理場」という)が操業を続けることを命じる大統領令に署名した(下記参考リンク先参照)。
 当大統領令により、米農務省(USDA)のパーデュー農務長官は食肉処理場の操業維持に係る権限を大統領から委任されたため、パーデュー長官は5月5日夜、2通の書簡を全米各知事および大手食肉企業の首脳陣宛てに発出した。
 これらの書簡において、パーデュー農務長官は、以下のことを求めており、必要に応じて追加の対策を講じるとしている。
・4月26日に保健福祉省の疾病対策予防センター(CDC)と労働省の労働安全衛生庁(OSHA)によって公表された、従業員と地域のコミュニティの健康を確保しながら、操業継続や操業再開を行うための、処理場における衛生対策に関するガイダンス(以下「CDC / OSHAガイダンス」という)の順守。
・今後、操業の縮小を検討、または5月1日以降に閉鎖した処理場で、短期間での操業再開に向けた明確なスケジュールが準備できていない処理場は、CDC / OSHAガイダンスに基づいて作成された操業、衛生、安全に関する実施手順の文書をUSDAへ提出すること。
・処理場は、適切な衛生対策を実施した後、できるだけ早く操業を再開すること。USDAは、引き続き、処理場、CDC、OSHA、州および地方の担当者と協力して、処理場がCDC / OSHAガイダンスに沿って衛生対策が実施されているかどうかを確認するとしている。
 パーデュー長官は、上記の書簡を発出した旨を公表した翌5月6日付けのUSDAのプレスリリースにおいて、「USDAは、州と地方の当局者が食肉処理場と協力し、従業員の健康を守りながら処理場の操業を維持することを期待している。食肉処理場は重要なインフラであり、米国の国家安全保障にとって不可欠なものである。これらの施設の操業を維持することは食料サプライチェーンにとって非常に重要であり、関係者が協力してこの問題に対処することを期待している」と述べた。
 今回の大統領令は、従業員に対する感染防止対策が確実に実施されることを要請するものであり、食肉の生産能力の回復効果を疑問視する見方もある。一方、USDAが大統領令に基づき、処理場の再開に積極的に関与し、再開までの基準が統一化されることで、処理場の再開が進み、処理場の生産能力は現状から回復に向かうとの声もある。パーデュー長官によると、徐々に処理場の再開は進んでおり、5月中旬頃には通常の生産能力に近い水準まで戻るとのことである。
 一方で、CDC/OSHAガイダンスにおいては、処理場内でのCOVID-19感染防止対策とて、作業中の従業員同士の間隔を約1.8メートル以上(社会的距離)開けることや、対面で作業しないこと、必要に応じて仕切りを設けること、休憩時間中も従業員同士が社会的距離を保つこと、社会的距離を保つための印などの視覚的補助、従業員が一度に集まらないようシフト制の導入検討、通勤用バスの時差出勤、消毒の徹底、個人防護具の着用など、さまざまな衛生対策が求められている。これらを実施することによって、COVID-19発生前の食肉生産能力を維持できなくなる懸念や、労働力不足による懸念もあり、今後の動向が注目される。

【参考:新型コロナウイルス感染症の情報(米国)】
・トランプ大統領、食肉・食鳥処理場の操業継続を命じる大統領令を発出(6月号 米国4番の情報)https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002691.html

上から順に
・悪い事例
 従業員同士が、横、対面共に、6フィート(1.8メートル)よりも狭い間隔で作業
・良い事例
 従業員同士が向かい合わない、かつ、6フィート(1.8メートル)よりも広い間隔で作業
・良い事例
 従業員同士が向かい合わない、かつ、パーテーションで区切られた状態で作業
・良い事例
 従業員同士が、横、対面共に、パーテーションで区切られた状態で作業


 
 (同時に作業を行う必要がある場合を含む)
 (国際調査グループ)

 

2 (令和2年5月26日付)米国農務省は新型コロナウイルス感染症の影響を受けている生産者への支援策の詳細を発表(米国)

 米国農務省(USDA)のパーデュー長官は5月19日、コロナウイルス食料支援プログラム(CFAP)のうち、生産者への直接支払いプログラムの詳細を公表した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行の影響を受けた米国の農家や牧場主などを救済するため、最大160億米ドル(1兆7280億円:1米ドル=108円)の生産者への直接支援が行われる。また、多くのレストランやホテル、その他のフードサービスなどの閉鎖によって労働力に深刻な影響を受けている地域や地元の流通業者と提携し、30億米ドル(3240億円)分の生鮮青果物、乳製品、食肉を買い上げ、食料を必要としている米国人へ届ける、食品買上げ配給プログラムの実施が決まっている。

損失に基づく直接支払い

 USDAによれば、CFAPは、COVID-19の影響で5%以上の価格下落に見舞われ、需要減少、生産過剰、出荷パターンや通常の売買が混乱した結果、多大な追加のコスト負担に直面している生産者に対して、極めて重要な財政的支援を行うものである。
 農家と牧場主は、二つの財源から直接支援を受けることになる。
 一つ目は、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security(CARES) Act)に基づく95億米ドル(1兆260億円)の財源である。これは、2020年1月中旬から2020年4月中旬までの間に発生した価格下落による農家への損失補償と、同期間に農場から出荷されたものの、その後販路を失い結果として損失が発生した果物や野菜などの園芸作物への支援に充てられる。
 二つ目は、商品信用公社(CCC)憲章法に基づく65億米ドル(7020億円)の財源であり、継続的な市場の混乱による生産者への損失補償に充てられる。

家畜

 支払い対象となる家畜は、肉用牛、豚、2歳未満の若羊。支払い総額は、2020年1月15日から4月15日までの間に売却された頭数に1頭当たりの支払い率を乗じた額と、2020年4月16日から5月14日までの間における最大飼養頭数に1頭当たりの支払い率を乗じた額の合計額となる(表1)。生産者は所有する家畜・クラス別に、対象期間の販売額と最大所有頭数についての情報を提供しなければならない。
 

 

生乳

 2020年1月から3月までの第1四半期に生産された生乳(廃棄された生乳を含む)の証明をもとに支払われる。
 2020年1月から3月までの第1四半期に生産された生乳100ポンド当たり、同四半期の価格低下の80%に相当する4.71米ドル(509円、1キログラム当たり11.2円)を乗じた額と、第2四半期の生産量増加を考慮して第1四半期の生乳生産量に1.014を乗じた量100ポンド当たり、第1四半期の価格低下の25%に相当する1.47米ドル(159円、1キログラム当たり3.5円)を乗じた額が支払われる。
 2020 年第 1 四半期の価格低下に対する補償にはCARES Actの財源が活用され、第2四半期の市場と需要の混乱に対する補償にはCCCの財源が活用される。

果物や野菜などの園芸作物

 園芸作物については、①2020年1月15日から4月15日までの間に販売されたが5%以上の価格下落により損失が生じた農産物②2020年4月15日までに農場から出荷されたものの販路を失い重大な品質劣化が生じた農産物、③2020年4月15日までに農場から出荷されなかった農産物や販売先が見つからないまたは見つかる見込みがないため、収穫できずに収穫適期が過ぎてしまった農産物が対象となる(表2)。
 ①に関しては、生産者は当該農産物の販売価格が記された売渡書などが必要となる。
 ②に関しては、生産者は販売先から代金が支払えないことが記された文書などが必要となる。これには、販売先に当該農産物を出荷した際に、契約条項をすべて満たしているにも関わらず代金が支払われなかった場合も対象となる。

 

とうもろこしや小麦などの穀物、大豆などの油糧作物部門

 2020年1月中旬から4月中旬までの間に5%以上の価格低下を受け、在庫の販売コストが上昇している穀物や油糧作物が対象となる。生産者は、価格低下のリスクがあった2020年1月15日時点の対象作物の在庫量に基づいて支払いを受ける。支払いは、生産者の2019年の総生産量の50%または2020年1月15日時点における2019年産在庫量いずれか小さい方に0.5を乗じた値に、当該作物に適用される支払い率を乗じた額となる(表3)。

 
 生産者は、当該作物の2019年総生産量および2020年1月15日時点で販売されていない2019年産の総生産量についての情報を提出する必要がある。

羊毛

 一定期間に5%以上の価格低下を受け、在庫の販売コストが上昇している羊毛が対象となる。生産者は、価格低下のリスクがあった2020年1月15日時点の在庫量に基づいて支払いを受ける。支払いは、生産者の2019年の総生産量の50%または2020年1月15日時点における2019年産在庫量のうち、いずれか小さい方に適用される支払い率を乗じた額となる(表4)。

 
 生産者は、羊毛の2019年総生産量および2020年1月15日時点で販売されていない2019年産の総生産量についての情報を提出する必要がある。

受給資格

 1個人または1法人につき全品目合計の支給額の上限は25万米ドル(2700万円)となっているが、法人に関しては、実際に経営や作業に従事する株主の数に応じて、最大75万米ドル(8100万円)まで受給できる可能性がある。申請者は2016〜2018年の課税年度の平均調整総所得(AGI)が90万米ドル(9720万円)未満であることが必要である。ただし、AGIのうち75%以上が農業、牧場または林業関連の活動からの収入であれば、AGIに関する制限は除外される。また、「著しく侵食を受けやすい土地および湿地の保全」に係る規則を順守していることなどのいくつかの条件が設定されている。

申請と支払い

 5月26日から、USDAは農場サービス局(FSA)を通じて、損失を被った農業生産者からの申請受付を開始する。申請期間中に資金を確保できるように、生産者は申請が承認された時点で、最大支給額の80%を受け取ることができる。残りの支給額は、後日支払われる。
 また、USDAは対象となる農作物の追加を検討するとして、特に種苗・苗木、水産物、切り花について生産者が価格の低下とコスト増に関する情報を求めている。
 今回の発表に合わせてパーデュー長官は、「米国が新型コロナウイルス対策に取り組む中で、米国の農業界はこれまで経験したことのない状況に直面している。トランプ大統領は、米国の国を愛する農家、牧場主、生産者に支援が行き届くことを確保するためにUSDAに権限を委譲しており、USDAは農家などへの支払金が確実に届くよう迅速に取り組んでいる。これらの支払金は、米国の経済活動が再開して回復し、市場の需要が戻るまでの間、農家などが経営を維持するための一助となる。米国の農家などは立ち直る力があり、いつものように自信と勤勉さと決意をもって、この難局を乗り切ることができるだろう」と述べている。

【参考:新型コロナウイルス感染症関連の情報(米国)】
・米農務省は新型コロナウイルス感染症に対する農業支援策を発表(6月号 米国3番の情報)」
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002685.html
・食肉団体は新型コロナウイルス感染症の影響を受ける業界の窮状を訴える(6月号 米国2番の情報)」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002679.html
 (国際調査グループ)

3 (令和2年5月21日付)新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う農業・畜産業界の動向(カナダ)   

カナダ政府が約192億円の食料・農業支援策を発表

 カナダのトルドー首相は5月5日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が同国でも拡大する中、農家、食品事業者、食品加工業者向けの支援に少なくとも2億5200万カナダドル(約192億円:1カナダドル=76.1円)を拠出すると発表した。また、カナダ酪農委員会(CDC)が利用できる借入限度額を2億カナダドル(約152億円)増額する意向があることも発表した。
 畜産に関連する主な支援策の一部を紹介する。

最大95億円の農業復興事業の実施

 COVID-19の影響によって発生した生産者の追加コストの負担を軽減する支援策であり、政府は最大1億2500万カナダドル(約95億円)の資金を拠出する。追加コストには、食肉処理施設の一時的な閉鎖により農場で行き場を失っている牛や豚の飼養コストなどが該当する。

経済的弱者支援のための食品買い上げプログラムの実施

 ばれいしょや家きん肉のような行き場を失った食品を政府が買い上げ、地元団体を含むフードバンクなどへ提供する。政府は5000万カナダドル(約38億円)の資金を拠出し、カナダで初めてとなる余剰食品買い上げプログラムを開始する。

食品製造業者等への支援

 食品製造事業者などが、COVID-19に対応するため、個人防護具や安全手順の向上、設備の自動化や近代化を行うために利用可能な最大7750万カナダドル(約59億円)の基金を創設する。

チーズやバターの一時保管のための支援

 食品廃棄の回避を目的とした支援策であり、政府はカナダ酪農委員会(CDC)の借入限度額を2億カナダドル(約152億円)増額し、5億カナダドル(約381億円)とする意向を発表した。政府からの借入限度額の増額で、CDCはより多くの直接買い入れ、保管が可能となる。
 今回の連邦政府の発表を受けた、農業関係団体のコメントを紹介する。

カナダ農業連盟(CFA)(5月5日)

 連盟は、政府による今回の発表を歓迎するものの、2億5200万カナダドル(約192億円)の規模は、CFAが要求していた26億カナダドル(約1979億円)と比較して、大きく不足している。同連盟のメアリー・ロビンソン会長は、「これほどの不確実性があり、財政的な裏付けが不足している状況下では、現状の通り食品生産を継続することは危険であり、生産者は生産計画を見直さざるを得ないだろう」と言及している。

カナダ酪農生産者協会(DFC)(5月5日)

 私たちは、政府により発表された支援策について、カナダ酪農委員会(CDC)の借入限度額の増額といった主要内容について歓迎するが、提供される資金の規模は、CFAが要求していた額と比較して不足しており、幅広い農業セクターを支援するため、政府によるさらなる支援が必要である。

カナダ鶏肉協会(CFC)(5月8日)

 私たちは、連邦政府がCOVID-19による具体的な影響を緩和するために何が必要かを十分に理解していないと考えている。生産者は、COVID-19の影響で殺処分が必要となった場合に生じる費用や損失に対する補償を求めている。今回の支援策は、これらを補償するものではない。私たちは、今後の政府による追加支援策を待ち望んでいる。

2020年4月の農業就業人口、前月から1万人減少

 カナダ統計局は5月8日、4月の労働力調査結果を公表した。これによると、カナダの4月の総就業人口は、1618万人(前月比11.0%減)となり、1カ月で約200万人が減少する結果となった。このうち、農業就業人口(林業、漁業除く)をみると、28万人(同3.9%減)と前月から1万人以上減少した(図2)。カナダの農業就業人口は1月まで、国内の好景気や人口増加などを背景に、他産業と同様、増加傾向で推移してきた。しかし、2月以降、営業停止となった他産業ほど影響は甚大ではなかったものの、COVID-19の拡大防止を目的とした全国的な経済活動の縮小により、農業就業人口は減少に転じている。

 
 また、4月の失業率をみると、全体では、調査開始以降、過去2番目に高い13.0%(前月比5.2ポイント高)となり、リーマン・ショック(2008年9月に起きた米国大手投資銀行の経営破綻)時と比べても非常に高い水準となっている(図3)。このうち、農業では、4.8%(同2.0ポイント高)と他産業と同様に上昇した。農業の失業率は長年、全体を下回って推移している。これは、農業がその他の産業と比べて特別に低いわけではなく、長年失業率が比較的高めに推移していた「林業、漁業、鉱業、採石業、石油・ガス産業」、「建設業」、「金融・保険・不動産業」などが全体の失業率を引き上げていたことが主な要因である。また、4月は、全体の失業率が急上昇し、農業と大きく乖離かいりしているが、要因としては、外出自粛の影響が甚大であった「宿泊・外食産業」の失業率が33%(同16.7ポイント高)と跳ね上がったことにより、全体を大きく引き上げたことが挙げられる。

 
(調査情報部 河村 侑紀)

【オセアニア】

1 (令和2年5月28日付)乳用牛の生体輸出課徴金の法制化に向け、議案を議会に提出(豪州)

 デビッド・リトルプラウド豪州農業・干ばつ・緊急事態管理担当相(以下「農業相」という)は2020年5月、乳用牛輸出者に対する輸出課徴金を現行の任意徴収から強制徴収とする法案を議会へ提出した(注1)
 家畜輸出業者は現在、肉用牛、羊、山羊の輸出に法定の輸出課徴金を支払っているが、乳用牛は任意の輸出課徴金となっており(2006年から1頭当たり3豪ドル(216円:1豪ドル=72円)、2014年に同6豪ドル(432円)に値上げ)、法定徴収となっていない(注2)。2017年12月には、豪州家畜輸出業者協会(ALEC:Australian Livestock Exporter’s Council)が、乳用牛輸出課徴金の法制化に対し、課徴金対象者となる家畜輸出業者の8割の賛同を得たと発表している(注3)
 ALECのサイモン・ウェスタウェイ最高経営責任者(CEO)は、任意の乳用牛輸出課徴金は著しく不足しており、乳用牛においても法的に輸出料を徴収することで、豪州の乳牛輸出産業の生産性、持続可能性、競争力を高めるプログラムを管理するための十分な資金を確保することができるとしている。具体的には、家畜輸出業界のサービス提供機関であるライブコープを通じ、乳用牛に関する研究開発やマーケティングのほか、輸出業者への技術支援などを行うとしている。
 報道によると、リトルプラウド農業相は、干ばつの影響や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による世界的な大流行の影響を受けた酪農家にとって、乳用牛輸出による収入は、ますます重要となっていると述べた。
 昨年は中国における同国産未経産牛に対する高い評価を背景に、10万頭以上の乳用牛が中国を中心としたさまざまな国に輸出されており、2億豪ドル(144億円)を超える産業となっている(図4、5)。同国政府は2017年に全国農業者連盟(NFF:National Farmer’s Federation)が発表した、2030年までに農業を1000億豪ドル産業にするという目標を支持しており、課徴金法案が可決されれば、さらに家畜輸出産業を後押しすることとなり、豪州全体の雇用にもつながるとした。

(注1) Parliament of Australia-House Bills List「Primary Industries(Customs) Charges Amendment (Dairy Cattle Export Charge) 2020」(令和2年5月27日閲覧)
    
https://www.aph.gov.au/Parliamentary_Business/Bills_Legislation/Bills_Search_Results/Result?bId=r6545
(注2) 課徴金は、生産者などから販売数量などに応じて徴収される資金で、マーケティングや研究開発などに用いられる。豪州の幅広い農業分野で導入されており、法制化するためには、連邦政府の法令に基づき、課徴金徴収対象者の大多数の合意を得る必要がある。
(注3) 海外情報「乳牛の生体輸出、課徴金を法制化へ(豪州)」 
  (
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002086.html)(2017年12月22日発)参照

 




 
(調査情報部 廣田 李花子)

【南 米】

1 (令和2年5月14日付)新型コロナウイルス感染症の拡大による食肉検査への影響(第2回報告)(ブラジル)

 ブラジル農牧食糧供給省の農牧防疫局 動物製品検査部(DIPOA/SDA/MAPA)は5月8日、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の拡大による連邦検査サービス(SIF)の検査への影響について2回目の報告書を公表した。この中で2020年1〜4月の食肉処理場での検査状況および食肉処理場の停止状況について報告している。なお、動物由来の製品検査と衛生認証は、2020年3月20日政令10282号によって国民の生存、健康、安全のために不可欠なものと定義されている。

2020年1〜4月における食肉処理場での検査状況

 ブラジルでは、州を超えた取引や輸出される動物製品の場合には、SIFを行うことができる職員がと畜前後で衛生検査を行うことが義務付けされている。2020年1〜3月に獣医による衛生検査を受けてと畜された牛の頭数は、COVID-19がブラジルで本格的に拡大する前である1、2月においても前年を下回っているものの、月を追うごとに減少幅は縮小しており、3月では前年同月比7.6%減となった(表5)。一方、豚と家きんについては、1、2月はともに前年とほとんど変わらない検査数となっているものの、3月については、COVID-19の拡大にもかかわらず前年をかなり上回る検査数となった。
 
 
 4月は集計中であるが、一部の食肉処理場で稼働が停止した一方で(詳細は後述)、SIFに登録されている牛のと畜場のうち、11%に当たる24カ所で通常の勤務に加え、シフト時間の延長やと畜日の増加により追加の検査が行われた。また、豚および家きんについても、それぞれ28%に当たる25カ所、35%に当たる46カ所で追加の処理にかかる検査要請があり、そのうち94%で追加の検査が行われた。

COVID-19による食肉処理場の停止状況

 DIPOAは、COVID-19が拡大している中、食肉処理場でのCOVID-19関連状況などの最新情報を得るために、関連企業や生産部門の責任者と連絡を取り合い、監視の役割を果たしている。今回の報告書によれば、COVID-19の拡大を最小限に抑えるため、4月には39カ所の食肉処理場が活動を停止した(表6)。
 

 
【参考(リンク先)】
・第1回目レポート(2020年3月30日公表)
https://www.gov.br/agricultura/pt-br/assuntos/noticias/servico-de-inspecao-federal-garante-a-manutencao-do-abastecimento-de-produtos-de-origem-animal/relatoriofinalatividadessifcovid30-03-2020.pdf/@@download/file/RelatoriofinalatividadesSIFCOVID30.03.2020.pdf
(令和2年5月11日閲覧)

・第2回目レポート(2020年5月8日公表) (令和2年5月11日閲覧)

(調査情報部 山口 真功)

【アジア】

1 (令和2年5月28日付)中国農業展望報告(2020〜2029年)を発表(中国)

 中国農業農村部は2020年4月20日、中国農業展望大会を開催し、今後10年間の農業を展望する「中国農業展望報告(2020〜2029)」を発表した。同大会は2014年から毎年開催されており、今回は2019年の総括と2029年までの農畜水産物の生産量や消費量の見通しが報告された。
 ここでは、豚肉、牛肉、家きん肉、乳製品および飼料について紹介する。なお、本報告では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、生産、価格、輸出入および消費に長期的に与える影響は、それぞれ不確実であるとしている。
 

(1)豚肉

ア.2019年の動向
 繁殖雌豚頭数は、ASF(アフリカ豚熱)の影響で2019年に入り大幅に減少していたが、同年10月以降は増加に転じた。出荷頭数も、第3四半期は前年同期比40.4%減の9632万頭となったが、第4四半期は1億3441万頭と増加に転じた(同32.1%減)。この結果、同年の生産量は前年比21.3%減の4255万トンであった(表7)。
 

 
 豚肉(くず肉を含まない)輸入量は前年比67.2%増の199万4000トンで、主要輸入先国(輸入量順)はスペイン、ドイツ、米国、デンマーク、オランダである。輸出量は同36.4%減の3万トンであった。
 1人当たりの消費量は、2014年をピークに減少傾向にあり、2018年は39.6キログラムであった。

イ.2020年の動向予測
 2020年の生産量は前年比7.5%減の3934万トンと予測している。COVID-19の発生により年始の生産能力が低下し、その影響が続くため年間生産量では減少する見込みであるが、2020年末には、通常の水準近くまで回復するとしている。
 また、国内需給のひっ迫を受け、豚肉価格は高水準で推移し、輸入量は同32.7%増の280万トンと予測している。
 供給量の減少により、1人当たりの消費量は減少し、同5.9%減の29.9キログラムとなる。

ウ.2029年までの動向予測
 2020年末の生産能力の回復以降、緩やかに増加を続け、2029年の生産量は5972万トンと現状の1.4倍程度までの拡大を予測している。
 一方、国内供給が回復し、自給率が徐々に上昇するため、輸入量は緩やかな減少基調をたどり、2029年の輸入量は123万トンと予測する。また、輸出量は徐々に回復し、同年には18万トンと見込んでいる。
 消費量については、短期的には、生産能力が回復し価格が合理的な水準にまで低下することにより、豚肉消費は回復すると見込み、長期的にみると、人口の増加などにより緩やかに増加するとしている。このため、2029年の1人当たりの消費量は42.3キログラムと予測している。
 

(2)牛肉

ア.2019年の動向
 2019年の生産量は、前年比3.6%増の667万トンであった(表8)。河北省、山西省など17省・自治区の貧困地域629カ所で、貧困緩和のために食用穀物生産から飼料生産に切り替える政策が実施されており、肉用牛産業が発展している。
同年の輸入量は、同59.6%増の165万9700トンで、主要輸入先国(輸入量順)はブラジル、アルゼンチン、豪州、ウルグアイ、ニュージーランド(以下「NZ」という)であった。
 
 
  また、国産牛肉の年間平均価格は、同12.4%高と大幅に上昇した一方、近年の牛肉嗜好しこうの向上と普及・浸透を背景に、同年の消費量も同11.4%増の833万トン、1人当たりにすると6キログラムであった。

イ.2020年の動向予測
 2020年の生産量は、前年比1.6%増の678万トンと予測している。COVID-19により、2月中旬までに約6割の食肉処理場が操業を停止(一部を含む)していたが、3月末以降業務再開が進んでいる。
 また、国内供給が依然不足していること、国産品より輸入品価格が安価であること、一帯一路政策により貿易の拡大が期待されることから、輸入量は同0.6%増の167万トンとなる見込みである。
 消費量は、COVID-19などの影響による一時的な外食の減少から回復し、人口増加や豚肉および家きん肉からの代替消費により消費量が増加するため、同1.4%増の845万トンとなる。

ウ.2029年までの動向予測
 2029年の生産量は、品種改良や生産技術の向上などにより789万トンと現状の1.2倍程度まで増加すると予測している。
 輸入量は増加し、2029年は205万トンとなる見込みである。一方、輸出量は減少が見込まれており、これらを踏まえ、2029年の牛肉消費量は、994万トンと予測されている。
 また、生産が消費に追い付かない状況になることに加え、環境規制や繁殖雌牛生産の発展の減速等の状況を受け、価格は高水準で推移すると見込んでいる。
 

(3)家きん肉

ア.2019年の動向
 2019年の生産量は、前年比12.3%増の2239万トンであった(表9)。また、輸入量は、同58%増の79万7000トンで、ほぼ全量が鶏肉であった。このうちブラジル(67.6%)とタイ(8.9%)で8割弱を占めるが、ロシア、ポーランド、ベラルーシ、フランスからの輸入が増加し、輸入先国の多様化が拡大している。一方、輸出量は同1.1%減の51万2400トンであった。

 
 豚肉価格の上昇、鶏肉消費量の増加、生産コストの上昇を受け、上半期の鶏肉価格は上昇した。
 また、1人当たり消費量は豚肉の代替として消費される流れを受け、都市部、農村部ともに消費が増加し同13.5%増の16.2キログラムであった。

イ.2020年の動向予測
 2020年の生産量は前年比7.2%増の2401万トンと予測している。上半期は緩やかに、その後下半期は急速に増加すると見込んでいる。
 輸入先の拡大も追い風となり、輸入量は同7.5%増の86万トンと引き続き増加する見込みである。一方、国内需給がひっ迫しているため輸出は抑制され、同2%増の52万トンとなる見込みである。
 鶏肉価格は豚肉の代替消費の拡大が見込まれることから、高値で推移する見込みである。
 消費量も同7.4%増の2435万トンと予測している。年始はCOVID-19により生鳥市場が閉鎖され、外食産業が停止したため消費量は大幅に減少したが、下半期は回復する見込みである。

ウ.2029年までの動向予測
 2029年の生産量は、2585万トンと現状の1.2倍程度まで増加すると予測している。2021年までは急速に増加し、その後増加は年1%程度と緩やかになる。
 輸入量は、生産量の増加を背景に2029年の約60万トン強まで減少傾向で推移するとともに、輸出量は約60万トン弱まで増加傾向で推移する見込みである。
 生鳥での取引は減少するものの、冷凍や加工品での消費が増加するため、2029年の消費量は2589万トン、1人当たり18キログラムとなる見込みである。
 

(4)乳製品

ア.2019年の動向
生乳生産量は2017年以降、継続して増産となっており、2019年は3305万トンであった。このうち牛による生産量は3201万トンである(表10)。
 
 
 
 従来より国内供給不足分を輸入に頼っており、同年の輸入量は前年比12.8%増の297万3400トン(製品ベース)であり、生乳換算すると1660万トンであった。
 また、同年の消費量は同4.9%増の4949万トン(生乳ベース、以下同じ)、1人当たりにすると35.4キログラムであった。中国では生乳は主に常温牛乳やヨーグルトで消費されているが、近年、コールドチェーンの普及により冷蔵商品も拡大している。粉乳類の消費は引き続き堅調で、チーズは子供向けを中心に定着した。

イ.2020年の動向予測
 2020年の生乳生産量は、前年比2.6%増の3390万トンと予測している。COVID-19により、飼料の搬入や生乳出荷の制限、搾乳牛の早期乾乳や淘汰、これらを背景とした運転資金などの回収や負債の増加など短期的な影響はあったものの、年間生産量は引き続き増加すると見込んでいる。
 輸入量は、同3.3%増の1715万トンと予測している。COVID-19により国際的な物流が制限されたことや、国内の乳製品流通が一時的に制限されて消費が落ち込んだことから、国内の粉乳類の在庫が増加しており、一部の乳製品輸入は一時的に減少した。しかしながら、米中経済貿易協定の第一弾の合意や、各経済連携協定により、NZや豪州からの輸入関税が引き下げられること、国産品より輸入品価格が安価であることから、年間輸入量は増加すると見込んでいる。
 乳製品の流通も一時的に影響を受けたものの、依然として健康志向は高まっているため、消費量は5090万トンまで拡大すると分析している。

ウ.2029年までの動向予測
 生乳生産量は緩やかに増加し、2029年は4300万トンと現状の1.3倍程度まで増加すると予測している。
 輸入量も緩やかに増加し、2029年は2305万トンとしている。前述の各経済連携協定による輸入関税の引き下げに加え、EUとの地理的表示(GI)の保護を相互に認める二国間協定の妥結(注1)、一帯一路政策により輸入先国は多様化し、全ての製品で輸入量は増加するが、ペースは減速すると見込んでいる。
 消費量は、今後、農村部を中心に消費の増加が見込まれるため、6596万トンと予測している。これは、中国の乳業関係団体が、1日300グラムの乳製品を摂取するよう指導しており(注2)、この政策により消費量の増加は加速すると見込んでいる。

(注1) EUとの地理的表示(GI)の保護を相互に認める二国間協定については、海外情報「EUと中国、100品目ずつ地理的表示(GI)を相互保護することで妥協」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002539.html)を参照されたい。
(注2) 中国乳業協会、中国乳製品工業協会、全国衛生産業企業管理協会、中国栄養学会が合同で、2020年2月26日に「中国国民の乳・乳製品消費指導」」を発表した。これによると、1人当たり毎日300グラムの飲用乳又はヨーグルトや、これらに相当する乳製品を摂取するよう指導している。なお、2019年の中国国民の1日当たり乳・乳製品摂取量は97グラムである。

(5)飼料

ア.2019年の動向
 総生産量は前年比0.4%増の2憶2885億トン、総消費量は2憶2636憶トンであった(図6)。2018年まで最大のシェアを占めていた豚用飼料の生産量はASF(アフリカ豚熱)の影響により前年比21.2%減の7663万トンとなった一方、豚肉の代替として増産された肉用家きん飼料の生産量は同30%増の8465万トンとなり、逆転した。

 
 なお、飼料原料輸入量については、トウモロコシ、大豆、菜種かすは増加し、大麦、こうりゃん、菜種などは減少した(表11)。


 
 
イ.2020年の動向予測
 2020年の総消費量は、前年比0.4%増の2憶2722憶トンと予測している。全体量はわずかな増加だが、畜種間の差は大きく、豚用は同7.5%減の7074万トン、肉用家きんは同7.2%増の9070万トンと見込んでいる。また、採卵用家きん、反すう家畜はわずかに増加するが、水産用はわずかに減少する見込みである。
 なお、配合飼料生産量は同0.3%増の2憶2086万トン、濃縮飼料は同0.3%減の1238万トン、プレミックスおよび飼料添加物は同2.8%増の558万トンと予測している(注3)

ウ.2029年までの動向予測
 飼料消費量は緩やかに増加し、2029年は2憶8053万トンと現状の1.2倍程度まで増加すると予測している。このうち、豚用は約1.4倍の1憶738万トン、肉用家きんは約1.2倍の9765万トン、反すう家畜は約1.2倍の1272万トンまで増加する見込みである。
 また、配合飼料やプレミックス、飼料添加物の生産量がわずかに増加し、濃縮飼料が減少する傾向が続くと見込んでいる。

(注3) 「中国の飼料工場で生産されているものには、主に三つの形態がある。一つ目は最終製品の「配合飼料」である。二つ目はタンパク質、ミネラルなどで構成されている「濃縮飼料」であり、「濃縮飼料」1に対してトウモロコシ3の割合で配合することにより「配合飼料」として家畜に給与することができる。三つ目は2種以上の飼料添加剤を混合した「プレミックス」であり、「濃縮飼料」と同様に「配合飼料」の原料として使用する。こうした飼料の形態の詳細と生産量の推移については、畜産の情報2019年12月号「中国の飼料需給をめぐる内外の情勢と今後の見通し」
P.100(https://www.alic.go.jp/content/001171538.pdf)を参照されたい。

 
(調査情報部 寺西 梨衣)