中国農業農村部は2020年4月20日、中国農業展望大会を開催し、今後10年間の農業を展望する「中国農業展望報告(2020〜2029)」を発表した。同大会は2014年から毎年開催されており、今回は2019年の総括と2029年までの農畜水産物の生産量や消費量の見通しが報告された。
ここでは、豚肉、牛肉、家きん肉、乳製品および飼料について紹介する。なお、本報告では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、生産、価格、輸出入および消費に長期的に与える影響は、それぞれ不確実であるとしている。
(1)豚肉
ア.2019年の動向
繁殖雌豚頭数は、ASF(アフリカ豚熱)の影響で2019年に入り大幅に減少していたが、同年10月以降は増加に転じた。出荷頭数も、第3四半期は前年同期比40.4%減の9632万頭となったが、第4四半期は1億3441万頭と増加に転じた(同32.1%減)。この結果、同年の生産量は前年比21.3%減の4255万トンであった(表7)。
豚肉(くず肉を含まない)輸入量は前年比67.2%増の199万4000トンで、主要輸入先国(輸入量順)はスペイン、ドイツ、米国、デンマーク、オランダである。輸出量は同36.4%減の3万トンであった。
1人当たりの消費量は、2014年をピークに減少傾向にあり、2018年は39.6キログラムであった。
イ.2020年の動向予測
2020年の生産量は前年比7.5%減の3934万トンと予測している。COVID-19の発生により年始の生産能力が低下し、その影響が続くため年間生産量では減少する見込みであるが、2020年末には、通常の水準近くまで回復するとしている。
また、国内需給のひっ迫を受け、豚肉価格は高水準で推移し、輸入量は同32.7%増の280万トンと予測している。
供給量の減少により、1人当たりの消費量は減少し、同5.9%減の29.9キログラムとなる。
ウ.2029年までの動向予測
2020年末の生産能力の回復以降、緩やかに増加を続け、2029年の生産量は5972万トンと現状の1.4倍程度までの拡大を予測している。
一方、国内供給が回復し、自給率が徐々に上昇するため、輸入量は緩やかな減少基調をたどり、2029年の輸入量は123万トンと予測する。また、輸出量は徐々に回復し、同年には18万トンと見込んでいる。
消費量については、短期的には、生産能力が回復し価格が合理的な水準にまで低下することにより、豚肉消費は回復すると見込み、長期的にみると、人口の増加などにより緩やかに増加するとしている。このため、2029年の1人当たりの消費量は42.3キログラムと予測している。
(2)牛肉
ア.2019年の動向
2019年の生産量は、前年比3.6%増の667万トンであった(表8)。河北省、山西省など17省・自治区の貧困地域629カ所で、貧困緩和のために食用穀物生産から飼料生産に切り替える政策が実施されており、肉用牛産業が発展している。
同年の輸入量は、同59.6%増の165万9700トンで、主要輸入先国(輸入量順)はブラジル、アルゼンチン、豪州、ウルグアイ、ニュージーランド(以下「NZ」という)であった。
また、国産牛肉の年間平均価格は、同12.4%高と大幅に上昇した一方、近年の牛肉
嗜好の向上と普及・浸透を背景に、同年の消費量も同11.4%増の833万トン、1人当たりにすると6キログラムであった。
イ.2020年の動向予測
2020年の生産量は、前年比1.6%増の678万トンと予測している。COVID-19により、2月中旬までに約6割の食肉処理場が操業を停止(一部を含む)していたが、3月末以降業務再開が進んでいる。
また、国内供給が依然不足していること、国産品より輸入品価格が安価であること、一帯一路政策により貿易の拡大が期待されることから、輸入量は同0.6%増の167万トンとなる見込みである。
消費量は、COVID-19などの影響による一時的な外食の減少から回復し、人口増加や豚肉および家きん肉からの代替消費により消費量が増加するため、同1.4%増の845万トンとなる。
ウ.2029年までの動向予測
2029年の生産量は、品種改良や生産技術の向上などにより789万トンと現状の1.2倍程度まで増加すると予測している。
輸入量は増加し、2029年は205万トンとなる見込みである。一方、輸出量は減少が見込まれており、これらを踏まえ、2029年の牛肉消費量は、994万トンと予測されている。
また、生産が消費に追い付かない状況になることに加え、環境規制や繁殖雌牛生産の発展の減速等の状況を受け、価格は高水準で推移すると見込んでいる。
(3)家きん肉
ア.2019年の動向
2019年の生産量は、前年比12.3%増の2239万トンであった(表9)。また、輸入量は、同58%増の79万7000トンで、ほぼ全量が鶏肉であった。このうちブラジル(67.6%)とタイ(8.9%)で8割弱を占めるが、ロシア、ポーランド、ベラルーシ、フランスからの輸入が増加し、輸入先国の多様化が拡大している。一方、輸出量は同1.1%減の51万2400トンであった。
豚肉価格の上昇、鶏肉消費量の増加、生産コストの上昇を受け、上半期の鶏肉価格は上昇した。
また、1人当たり消費量は豚肉の代替として消費される流れを受け、都市部、農村部ともに消費が増加し同13.5%増の16.2キログラムであった。
イ.2020年の動向予測
2020年の生産量は前年比7.2%増の2401万トンと予測している。上半期は緩やかに、その後下半期は急速に増加すると見込んでいる。
輸入先の拡大も追い風となり、輸入量は同7.5%増の86万トンと引き続き増加する見込みである。一方、国内需給がひっ迫しているため輸出は抑制され、同2%増の52万トンとなる見込みである。
鶏肉価格は豚肉の代替消費の拡大が見込まれることから、高値で推移する見込みである。
消費量も同7.4%増の2435万トンと予測している。年始はCOVID-19により生鳥市場が閉鎖され、外食産業が停止したため消費量は大幅に減少したが、下半期は回復する見込みである。
ウ.2029年までの動向予測
2029年の生産量は、2585万トンと現状の1.2倍程度まで増加すると予測している。2021年までは急速に増加し、その後増加は年1%程度と緩やかになる。
輸入量は、生産量の増加を背景に2029年の約60万トン強まで減少傾向で推移するとともに、輸出量は約60万トン弱まで増加傾向で推移する見込みである。
生鳥での取引は減少するものの、冷凍や加工品での消費が増加するため、2029年の消費量は2589万トン、1人当たり18キログラムとなる見込みである。
(4)乳製品
ア.2019年の動向
生乳生産量は2017年以降、継続して増産となっており、2019年は3305万トンであった。このうち牛による生産量は3201万トンである(表10)。
従来より国内供給不足分を輸入に頼っており、同年の輸入量は前年比12.8%増の297万3400トン(製品ベース)であり、生乳換算すると1660万トンであった。
また、同年の消費量は同4.9%増の4949万トン(生乳ベース、以下同じ)、1人当たりにすると35.4キログラムであった。中国では生乳は主に常温牛乳やヨーグルトで消費されているが、近年、コールドチェーンの普及により冷蔵商品も拡大している。粉乳類の消費は引き続き堅調で、チーズは子供向けを中心に定着した。
イ.2020年の動向予測
2020年の生乳生産量は、前年比2.6%増の3390万トンと予測している。COVID-19により、飼料の搬入や生乳出荷の制限、搾乳牛の早期乾乳や淘汰、これらを背景とした運転資金などの回収や負債の増加など短期的な影響はあったものの、年間生産量は引き続き増加すると見込んでいる。
輸入量は、同3.3%増の1715万トンと予測している。COVID-19により国際的な物流が制限されたことや、国内の乳製品流通が一時的に制限されて消費が落ち込んだことから、国内の粉乳類の在庫が増加しており、一部の乳製品輸入は一時的に減少した。しかしながら、米中経済貿易協定の第一弾の合意や、各経済連携協定により、NZや豪州からの輸入関税が引き下げられること、国産品より輸入品価格が安価であることから、年間輸入量は増加すると見込んでいる。
乳製品の流通も一時的に影響を受けたものの、依然として健康志向は高まっているため、消費量は5090万トンまで拡大すると分析している。
ウ.2029年までの動向予測
生乳生産量は緩やかに増加し、2029年は4300万トンと現状の1.3倍程度まで増加すると予測している。
輸入量も緩やかに増加し、2029年は2305万トンとしている。前述の各経済連携協定による輸入関税の引き下げに加え、EUとの地理的表示(GI)の保護を相互に認める二国間協定の妥結
(注1)、一帯一路政策により輸入先国は多様化し、全ての製品で輸入量は増加するが、ペースは減速すると見込んでいる。
消費量は、今後、農村部を中心に消費の増加が見込まれるため、6596万トンと予測している。これは、中国の乳業関係団体が、1日300グラムの乳製品を摂取するよう指導しており
(注2)、この政策により消費量の増加は加速すると見込んでいる。
(注1) EUとの地理的表示(GI)の保護を相互に認める二国間協定については、海外情報「EUと中国、100品目ずつ地理的表示(GI)を相互保護することで妥協」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002539.html)を参照されたい。
(注2) 中国乳業協会、中国乳製品工業協会、全国衛生産業企業管理協会、中国栄養学会が合同で、2020年2月26日に「中国国民の乳・乳製品消費指導」」を発表した。これによると、1人当たり毎日300グラムの飲用乳又はヨーグルトや、これらに相当する乳製品を摂取するよう指導している。なお、2019年の中国国民の1日当たり乳・乳製品摂取量は97グラムである。
(5)飼料
ア.2019年の動向
総生産量は前年比0.4%増の2憶2885億トン、総消費量は2憶2636憶トンであった(図6)。2018年まで最大のシェアを占めていた豚用飼料の生産量はASF(アフリカ豚熱)の影響により前年比21.2%減の7663万トンとなった一方、豚肉の代替として増産された肉用家きん飼料の生産量は同30%増の8465万トンとなり、逆転した。
なお、飼料原料輸入量については、トウモロコシ、大豆、菜種かすは増加し、大麦、こうりゃん、菜種などは減少した(表11)。
イ.2020年の動向予測
2020年の総消費量は、前年比0.4%増の2憶2722憶トンと予測している。全体量はわずかな増加だが、畜種間の差は大きく、豚用は同7.5%減の7074万トン、肉用家きんは同7.2%増の9070万トンと見込んでいる。また、採卵用家きん、反すう家畜はわずかに増加するが、水産用はわずかに減少する見込みである。
なお、配合飼料生産量は同0.3%増の2憶2086万トン、濃縮飼料は同0.3%減の1238万トン、プレミックスおよび飼料添加物は同2.8%増の558万トンと予測している
(注3)。
ウ.2029年までの動向予測
飼料消費量は緩やかに増加し、2029年は2憶8053万トンと現状の1.2倍程度まで増加すると予測している。このうち、豚用は約1.4倍の1憶738万トン、肉用家きんは約1.2倍の9765万トン、反すう家畜は約1.2倍の1272万トンまで増加する見込みである。
また、配合飼料やプレミックス、飼料添加物の生産量がわずかに増加し、濃縮飼料が減少する傾向が続くと見込んでいる。
(注3) 「中国の飼料工場で生産されているものには、主に三つの形態がある。一つ目は最終製品の「配合飼料」である。二つ目はタンパク質、ミネラルなどで構成されている「濃縮飼料」であり、「濃縮飼料」1に対してトウモロコシ3の割合で配合することにより「配合飼料」として家畜に給与することができる。三つ目は2種以上の飼料添加剤を混合した「プレミックス」であり、「濃縮飼料」と同様に「配合飼料」の原料として使用する。こうした飼料の形態の詳細と生産量の推移については、畜産の情報2019年12月号「中国の飼料需給をめぐる内外の情勢と今後の見通し」
P.100(https://www.alic.go.jp/content/001171538.pdf)を参照されたい。
(調査情報部 寺西 梨衣)