4月の雌牛と畜頭数は前年同月比4.1%減
豪州統計局(ABS)によると、2020年4月の成牛と畜頭数は、63万600頭(前年同月比1.7%増)と3カ月ぶりに前年同月をわずかに上回った(図4)。内訳を見ると、雄牛は28万5000頭(同9.5%増)と前年同月をかなりの程度上回る一方、雌牛は34万5200頭(同4.1%減)と2020年2月以降3カ月連続で前年同月を下回った。と畜頭数全体に占める雌牛の割合は、前年同月と比べて3.3ポイント減の54.7%となった。
豪州では、肉用牛生産地域である東部を中心に厳しい干ばつが続いたが、2020年2月以降、肉用牛生産地域で広範かつ持続的な降雨に恵まれており、牧草の生育状況などの飼養環境が改善した。このため、牧草肥育牛生産者は牛群再構築に向け牛を保留する動きが見られた一方、生体牛価格が高水準であることを背景に、資金繰りに苦慮する生産者には、牛を販売する動きも見られた。
2020年4月の牛肉生産量(枝肉ベース)は、と畜動向などを反映して、18万626トン(同4.0%増)と前年同月をやや上回った。一方、1頭当たり枝肉重量は、雌牛と畜割合の低下や飼料供給状況の改善などにより、286.4キログラム(同2.3%増)と4カ月連続で前年同月を上回った。
東部地区若齢牛指標(EYCI)価格、需給ひっ迫により最高値を再度更新
豪州では、2020年2月以降、降雨による飼養環境の改善に伴い肉牛需給がひっ迫し、取引価格が大幅に上昇した。肉牛取引の指標となる東部地区若齢牛指標(EYCI)価格は、出荷頭数の減少に伴う牧草肥育生産者と穀物肥育業者との競合が高まり、3月11日には1キログラム当たり766セント(582円、1豪ドル=76円)と、2016年8月に記録した同725セント(551円)を上回る最高値となり、その後いったん下げに転じたものの、6月17日には、同772セント(587円)と再度、最高値を更新した(図5)。EYCI以外のカテゴリーの肉牛においても同様の価格上昇が見られる。
5月の牛肉輸出量、中国向けは4月に続き前年同月を上回る
豪州農業・水・環境省(DAWE)によると、2020年5月の牛肉輸出量は、9万8565トン(前年同月比6.6%減)と、前年同月をかなりの程度下回り、4カ月連続で前年同月を下回った(表2)。また、2020年1〜5月では、45万7184トン(前年同期比2.5%減)とわずかに前年同期を下回り、前月より減少率が1.1ポイント拡大した。
5月の輸出は、2020年2月以降、豪州国内のと畜頭数が減少に転じたことなどにより全体の輸出量が減少する中、輸出先ごとの状況に差が見られる。
主要輸出先別に見ると、中国向けは2万4344トン(前年同月比6.0%増)と前年同月を上回り、日本を抜いて最大の輸出先となった。2〜3月は、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の影響により前年同月を下回っていたが、外食産業や経済活動の再開に伴い、4月に続き前年同月を上回った。1〜5月累計では前年同期を9.2%上回った。
日本向けは、2万3495トン(同12.5%減)とかなり大きく前年同月を下回った。しかしながら2〜4月はそれぞれ前年同月を上回っており、1〜5月累計ではわずかに前年同期を上回っている。
また米国向けは、2万517トン(同12.0%減)とかなり大きく前年同月を下回った。3〜4月の輸出量は、COVID‐19により外食産業向けを中心に需要が大きく落ち込み低水準となったが、5月は3月および4月より回復した。1〜5月の累計ではCOVID‐19の影響により、前年同期を14.1%下回っている。
2020/21年度牛と畜頭数、前年度比18.8%減の大幅な減少を予測
豪州農業資源経済科学局(ABARES)は2020年6月15日、「Agricultural Commodities」の中で、2020/21年度(7月〜翌6月)の牛肉需給見通しを公表した(表3)。
これによると、牛総飼養頭数は、飼養環境の改善を背景として、2380万頭(前年度比1.7%増)とわずかに前年度を上回り、増加に転じると見込んでいる。
牛と畜頭数は、2020年初頭から降雨に恵まれ南部および東部を中心に急速に飼養環境が改善した結果、多くの生産者が牛を保留し牛群再構築に向けた動きが広まったため、2020年2月以降減少傾向となった。このため、2020/21年度のと畜頭数は、695万3000頭(前年度比18.8%減)と大幅に減少し、記録的な頭数になると見込んでいる。
牛肉生産量は、と畜頭数の減少を反映して、194万5000トン(同17.0%減)と大幅に減少すると見込んでいる。ただし、牛群再構築の進展に伴いと畜頭数に占める雌牛の比率が低下することから、牛肉生産量の減少率はと畜頭数の減少率に比べわずかに圧縮される。
牛肉輸出量は、牛肉生産量の減少に伴い、99万5000トン(同21.7%減)と大幅な減少を見込んでいる。主要輸出先別では、中国向けと米国向けが前年度比でそれぞれ3割程度の減少を見込むとともに日本向けは2割弱、韓国向けは1割程度下回るものと予測している。
(調査情報部 井田 俊二)