2020年の生乳生産量はわずかに増加と予測
2020年上半期は、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の影響により物流が停滞したことで飼料の搬入や生乳の出荷が滞り、泌乳量の減少や生乳廃棄が発生したため生乳生産量が減少したが、その影響は一時的かつ限定的であると言われている
(注1)。このため、中国農業農村部は、2020年の反すう家畜による生乳生産量を前年比2.6%増の3390万トンと予測
(注2)しており、牛による生乳生産量も同程度増加すると予想される(図19)。
(注1) COVID−19の生乳生産量への影響についての詳細は、海外情報「新型コロナウイルスの酪農業に対する影響に関する調査について(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002665.html)を参照されたい。
(注2) 中国農業農村部の予測についての詳細は、海外情報「中国農業展望報告(2020−2029)を発表(乳製品編)(中国)」
(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002714.html)を参照されたい。
生乳価格は前年水準まで下降
2019年の生乳価格(牛)は供給不足により高値で推移していたが、2020年に入ると下降傾向が続き、同年6月は1キログラム当たり3.6元(56円:1元=15.5円)と、前年と同水準の価格となった(図20)。COVID‐19により流通や外出が制限されていた期間(以下「制限期間」という)中、販路を失ったことや、保存が利くものの買取価格が低い粉乳類の製造が増加したことから、値崩れが起こっていたが、その影響から回復できていないことが原因と考えられる。
乳製品の消費動向は変化
中国の東北農業大学が20省・自治区・直轄市で消費者を対象に実施した調査
(注3)によると、制限期間中は、53%で乳製品購入頻度が減少し、40%で購入総額が減少した(図21、22)。外出頻度が減少したことや、スーパーマーケットなどに乳製品が入荷されない地域があったことによる。一方、30%は購入頻度が増加したが、この回答層の購入総額に大きな変化はなく、購入製品は牛乳が多かったとしている。例年、春節時期(1月下旬〜2月上旬)に親族や友人への贈答品としてLL牛乳を中心とした乳製品を購入する傾向があるが、COVID‐19の発生により帰省が制限されたことなどから在庫が積み上がっていた。このため、一部で贈答用製品や消費期限が短い冷蔵販売用牛乳などが安価で販売されていたこともあって、購入頻度が増加したものの購入総額は抑えられたと考えられる。
また、同調査によると、制限期間後は約2割の消費者において、牛乳やヨーグルトの消費が増加し、粉乳やチーズの消費が減少した。牛乳については在庫の増加による価格低下の影響が大きいが、健康や栄養面を考慮し、乳製品を積極的に摂取した消費者も増加していることが分かった。中国国家衛生健康委員会が2020年2月8日に公表した「新型コロナウイルス肺炎予防のための栄養食事指導」では、乳製品に含まれる良質なタンパク質は、国民の栄養状態を改善し疾病への抵抗力を高めることができるとし、特にヨーグルトは免疫力増強に良いと考えられていること、また、運動不足によって体重が増加した消費者の多くが乳製品はダイエットに効果があると考えていることから、北京市などの都市部を中心に消費量が増加した。
(注3) 中国東北農業大学経済管理学院が2020年3月1日〜15日、COVID‐19による消費行動の影響を把握するため、以下の地域の消費者1834人に対して実施したアンケート調査。
(調査地域) 北京市、天津市、河北省、山西省、内モンゴル自治区、黒竜江省、吉林省、遼寧省、上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、福建省、江西省、山東省、河南省、湖北省、湖南省、広東省、広西省、海南省、重慶市、四川省、雲南省、陝西省、甘粛省、寧夏回族自治区
乳製品の輸入は好調だが、一部の製品は大幅に減少
2020年1〜4月の輸入量を前年同期と比較すると、全粉乳は同程度であったが、脱脂粉乳、飲用乳、ヨーグルトは減少し、チーズ、バター、育児用調製粉乳(以下「育粉」という)およびホエイは増加した(表12)。中国政府は、制限期間中の物流停滞による国内供給の不足分を確保するため、輸入に必要な冷蔵コンテナの利用を乳製品などに優先的に割り振るなど輸入品流通の円滑化を図った。これにより、生産量が増えた脱脂粉乳や在庫が積み上がっていた飲用乳、国内でも生産可能なヨーグルトの輸入量が減少した一方、国内生産が難しいチーズやバターの輸入が増加したと考えられる。
(調査情報部 寺西 梨衣)