(1)輸出概況
ブラジルの大豆・トウモロコシの輸出量は、年によって増減はあるものの、長期的には生産拡大を背景に増加傾向にある。
大豆は中国向けが太宗を占めており、中国で搾油された後に残る大豆かすは飼料として中国国内での消費や日本などへの輸出に向けられている(図1)。2019年は、中国で発生したASF(アフリカ豚熱)に伴う飼養頭数の減少により、飼料の需要が減退したことから、ブラジルからの輸出量は減少したものとみられる。2020年は、ブラジルでのCOVID-19の拡大が3月ごろから本格化し、大豆の収穫・輸送時期と重なった。しかしCOVID-19による影響はほとんど見られず、むしろ急速に進行した米ドル高レアル安が価格競争力を高めたことから、4月に単月輸出量の過去最高記録を更新
(注1)するなど堅調に推移している。
また、トウモロコシはこれまでイラン向けが最も多かったが、2019年は日本が最大の輸出先となった(図2)。これは、多雨の影響により米国産の品質が低下したことから、ブラジル産にシフトしたためとみられる。2020年については、現在、主に輸出向けの第2作トウモロコシの収穫が行われているところであり、その動向が注目されている。
今後の大豆・トウモロコシの輸出量に影響を与える要素としては、2020/21年度(9月〜翌8月)の米国の大豆・トウモロコシの作付面積や単収が前年を上回る見込みとなっていることや、米中貿易協議で第一段階の合意に至ったことから、米国から中国向けの大豆輸出が増加し、ブラジルからの輸出が減少することが挙げられる。また、世界中でまん延しているCOVID-19により、各国の畜産物生産に影響が及び、輸出が減少する可能性もある。
一方、COVID-19の拡大に伴う経済の悪化などにより歴史的な水準で推移している米ドル高レアル安は、ブラジル産大豆・トウモロコシの価格競争力を高めている。また、アルゼンチンにおいて、2019年の政権交代以降、国内保護色の強いアルベルト・フェルナンデス大統領が農畜産物の輸出税の引き上げ(2020年8月現在、大豆は33%、トウモロコシは12%)を行ったことも、ブラジルにとって追い風になるとみられる
(注2)。
このように、短期的な輸出量の変動要素はあるものの、2020年7月にブラジル農牧食糧供給省(MAPA)が公表した最新レポートにおいて、長期的には、生産拡大に伴い輸出量も増加していくと予測されている(図3)。
(注1) 前編の執筆時点で公表されていた統計値では5月の輸出量が過去最高だったが、その後、公表値が修正され、4月の輸出量が過去最高となった。
(注2) 詳細は、海外情報「アルベルト・フェルナンデス新政権、輸出税を引き上げ(アルゼンチン)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002589.html)を参照されたい。なお、大豆については、2020年3月に30%から33%に引き上げられた。
(2)マットグロッソ州からの主要輸送ルート
ブラジルでは、今後も輸出拡大が見込まれている大豆・トウモロコシをいかに低コストで輸送するかが喫緊の課題である。ブラジルは物流インフラが十分発達しておらず、さらに国土が広いため輸送コストが高いことが大きな課題となっている。これは、米国やアルゼンチンでは生産地から輸出港まで主に水路や鉄道で輸送されているのに対し、ブラジルでは依然として陸送の割合が最も高いためである。
輸出港は生産地域によって異なり、南部の主要生産州であるパラナ州やリオグランデドスル州で生産された大豆・トウモロコシはパラナグア港やリオグランデ港などに運ばれることが多い。
一方、同国最大の生産地であり、今後も生産拡大が見込まれているマットグロッソ州は南米大陸のほぼ中央に位置しており、地理的に不利な条件にある。いずれの港からも遠い同州で生産された大豆・トウモロコシは、生産地域によって、主に以下の三つのルートに分かれて輸出港まで運ばれる(図4)。
(1)マットグロッソ州の南に位置するロンドノポリスまでトラックで運び、そこから鉄道でサントス港に輸送するルート
このルートは、主に同州南部で生産された大豆・トウモロコシの輸送に利用される。
(2)国道163号線をトラックで北上し、ミリチトゥバ港やサンタレン港に輸送するルート(コラム1で詳述)
ミリチトゥバ港は大型船舶が入港できないため、バージ(はしけ)に積み替えて、アマゾン川水系を使ってヴィラドコンデ港やサンタナ港などまで運び、そこから各国へ輸出される。一方、サンタレン港は大型船舶も入港できることから、直接輸出される。このルートは、主にマットグロッソ州のシノップ以北やパラー州西部で生産された大豆・トウモロコシの輸送に利用される。
(3)国道364号線をトラックで北西に向かい、ポルトヴェーリョ港まで輸送するルート
ポルトヴェーリョ港も大型船舶が入港できないことから、バージに積み替えてマナウス港やイタコアチアラ港などまで運び、輸出される。このルートは、主にマットグロッソ州西部で生産された大豆・トウモロコシの輸送に利用される。
例えば、ヒドロヴィアス・ドゥ・ブラジル社(HBSA)はミリチトゥバ港とヴィラドコンデ港にターミナルを持っていることから、マットグロッソ州からミリチトゥバ港までトラックで約2日間かけて輸送された大豆・トウモロコシをバージに積み替えて、アマゾン川を下り、約3日間かけてヴィラドコンデ港まで運んでいる。そして、ヴィラドコンデ港でバルク船に再度積み替えて輸出している。
ちなみに、HBSA社では帰りのバージに肥料を積んでアマゾン川を
遡上 している。ただし、肥料を積むとバージの金属部分が腐食しやすくなるため、巨大な掃除機のような機械で清掃したり、定期的にペンキを塗り直したりするなどの手間が必要となる。肥料はシノップの肥料工場に搬入し、そこから農家に輸送されるとのことである。
なお、上述の3ルートは大まかな区分であり、各企業はそれぞれ各地に個別のターミナルを建設もしくは出資しているため、実際の輸送ルートは異なる場合もある。