ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 2020年の生乳出荷量は前年比増の見込み
5月の生乳出荷量は前年同月比0.3%減
欧州委員会によると、2020年5月の生乳出荷量(EU27カ国)は、前年同月をわずかに下回る1310万3110トン(前年同月比0.3%減)となった(図22)。2020年1〜4月にかけては、飼料価格が安く、配合飼料を多く給与できたことなどから、生乳出荷量は前年同月を上回って推移していたものの、10カ月ぶりに前年同月を下回った。
また、欧州委員会は7月に公表した農畜産物の短期的需給見通し(注1)の中で、再開した外食産業からの需要増加による牛肉価格の回復を受け、乳牛のと畜が数カ月以内に加速する可能性があるとして、経産牛飼養頭数の減少を見込んでいる。一方で、1頭当たり乳量が増加することから、2020年の生乳出荷量は前年比0.7%増と見込んでいる(図23)。
(注1) 海外情報「欧州委員会、コロナ禍の生乳・乳製品の短期的需給見通しを公表(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002751.html、本誌90ページ)を参照されたい。
5月の出荷量を加盟国別に見ると、オランダ(前年同月比0.6%増)、アイルランド(同3.5%増)、ポーランド(同1.8%増)、ベルギー(同2.4%増)などが前年同月を上回った一方で、イタリア(同7.5%減)などは前年同月を下回った(表7)。
バターの価格は上昇傾向で推移
乳製品価格は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、脱脂粉乳、全粉乳、バターで2020年3月以降、急激な下落となった(図24)。こうした中、欧州委員会が行っていたCOVID-19の支援策である乳製品(脱脂粉乳、バター、チーズ)に対する民間在庫補助(PSA)の申請(注2)が6月30日に締め切られた。各品目のPSAの最終的な申請状況は、表8の通りである。このうちチーズについては、申請の上限数量がEU27カ国および英国(注3)で10万トンと決められているとともに、国ごとの上限も定められていたが、アイルランド、イタリア、英国、スウェーデン、スペイン、ベルギー、リトアニアの7カ国で申請枠の消化率が100%となった。
欧州委員会によると、直近の7月19日の週平均の価格は、脱脂粉乳で前週比0.7%高の100キログラム当たり211ユーロ(2万6586円、1ユーロ=126円)となった。また、全粉乳は同0.8%高の同277ユーロ(3万4902円)、バターは同2.0%高の同336ユーロ(4万2336円)となった。
PSAの対象品目であるバターおよび脱脂粉乳の価格を、申請が開始された週(5月3日〜)の週平均の価格と比較すると、バターで15.7%高、脱脂粉乳で9.1%高となっていることから、乳製品価格の上昇にPSAの影響があったものと考えられる。
(注2) 海外情報「欧州委員会、新型コロナウイルスの追加対策を採択。乳製品、牛肉などの民間在庫補助(PSA)を5月7日から。チーズは最大10万トン市場隔離へ」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002692.html)を参照されたい。
(注3) 英国は2020年1月にEUから離脱したが、英国・EU間の離脱協定に基づき、移行期間(2020年12月31日まで)が設けられ、同期間中は英国にもEU法が適用されている。
1〜5月のチーズの輸出量は前年同期比減
欧州委員会によると、2020年1〜5月(英国のみ1〜4月)のEUの乳製品輸出量は、全粉乳およびバターがそれぞれ前年同期比8.3%増の13万6154トン、同36.9%増の11万8010トンとなった一方で、脱脂粉乳およびチーズは、同16.5%減の35万7802トン、同3.7%減の52万6063トンとなった(表9)。
欧州委員会は、7月に公表した1〜4月の農産物貿易調査の中で、英国のEU離脱後の移行期間中は、まだEUの単一市場の条件下での貿易ではあるものの、多くの農産物貿易に影響が及び、EUから英国への輸出額が減少したとしている。そうした中、英国が主な輸出先となっているチーズ、全粉乳、バターの輸出量も前年同期比で減少した。
EUから英国向けの乳製品輸出額は年間35億ユーロ(4410億円)を超え、最大の仕向け先となっている(注4)ことから、単一市場と関税同盟からの同国の離脱が年末に迫る中、EUと英国との貿易交渉の行方が注目される。
(注4) 海外情報「EU乳業団体、進展の見られない英国との交渉に懸念を表明し、英・EU間のサプライチェーンが維持されるよう要請」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002739.html)を参照されたい。
(調査情報部 小林 智也)