6月の雌牛と畜頭数は前年同月比大幅減、5カ月連続で前年同月を下回る
豪州統計局(ABS)によると、2020年6月の成牛と畜頭数は、61万1900頭(前年同月比13.7%減)と前年同月をかなり大きく下回り、2カ月連続で前年同月を下回った(図9)。内訳を見ると、雄牛は27万2000頭(同8.1%減)と前年同月をかなり下回り、2カ月連続で前年同月を下回った。また、雌牛は34万300頭(同17.6%減)と前年同月を大幅に下回り、2020年2月以降5カ月連続で前年同月を下回った。と畜頭数全体に占める雌牛の割合は、55.6%と低い水準ではないものの、厳しい干ばつで雌牛を中心にと畜が多かった前年同月と比べ2.6ポイント下回り、こちらも5カ月連続で前年同月を下回った。
豪州では、2年にわたり厳しい干ばつが続いたが、2020年2月以降、降雨に恵まれ、牧草の生育状況などの飼養環境が大幅に改善した。このため、牧草肥育牛生産者が牛群再構築に向け牛を保留する動きに転換した結果、と畜頭数は減少傾向となっている。
また、2020年6月の牛肉生産量(枝肉ベース)は、と畜動向などを反映し、17万6712トン(同10.7%減)と前年同月をかなりの程度下回った。1頭当たり枝肉重量は、雌牛と畜割合の低下や飼養環境の改善などにより、288.8キログラム(同3.4%増)と6カ月連続で前年同月を上回った。
肉用牛価格は高値を維持し、8月には最高値を更新
牛群再構築に向けた動きを背景として肉牛取引頭数が減少し、牧草肥育生産者と穀物肥育業者との競合が高まった結果、2020年1月後半から3月にかけて肉用牛価格は急上昇した(図10)。価格は、その後も高値を維持しており、肉牛取引の指標となる東部地区若齢牛指標(EYCI)価格は、8月26日に1キログラム当たり788.25豪セント(607円、1豪ドル=77円)とこれまでの最高額を更新する結果となった。
7月の牛肉輸出量、米国を除く主要輸出先は前年同月を大きく下回る
豪州農業・水・環境省(DAWE)によると、2020年7月の牛肉輸出量は、と畜頭数の減少を背景として8万8786トン(前年同月比22.8%減)と前年同月を大幅に下回り、6カ月連続で前年同月を下回った(表2)。1〜7月累計では、64万2465トン(前年同期比6.1%減)と前年同期をかなり下回った。
主要輸出先別に見ると、米国向けは、2万3788トン(前年同月比0.4%増)と主要輸出先で唯一前年同月並みを維持し、2カ月連続で最大の輸出先となった。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の影響で外食産業の再開状況が州により差が見られる状況の中、小売業が依然好調なためである。1〜7月累計では、COVID‐19により外食産業向けを中心に需要が大きく落ち込んだため、前年同期を5.6%下回った。
一方、日本向けは、2万936トン(前年同月比24.0%減)と前年同月を大幅に下回り、3カ月連続で前年同月を下回った。これは、COVID‐19の影響により、外食産業からの需要が落ち込んでいるためとみられるが、1〜7月累計では、15万8772トン(前年同期比6.0%減)と依然、最大の輸出相手先である。
韓国向けは、1万2790トン(前年同月比13.6%減)と前年同月をかなり大きく下回った。1〜7月累計では、前年同期比5.6%減と前年同期をやや下回った。
また、中国向けは、1万2554トン(前年同月比55.5%減)と2カ月連続で前年同月を大幅に下回った。これは、豪州から中国向け牛肉輸出に係るセーフガードが発動されたこと、中国市場において南米など他の輸出国との競合が強まったこと、また中国が2020年5月に豪州の4つの牛肉処理場からの牛肉輸入停止措置を講じたことなどが要因とされている
(注)。なお同国向けについては、2020年1月以降、月別輸出量の変動が大きく、1〜7月累計では前年同期比8.6%減と前年同期を下回った。
(注) 詳細は、海外情報「中国が豪州の4つの牛肉処理場からの牛肉輸入停止を通告」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002706.html)を参照されたい。
4〜6月期のフィードロット飼養頭数、2期連続で減少
豪州フィードロット協会(ALFA)と豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は8月5日、共同で四半期ごとに実施している全国フィードロット飼養頭数調査の結果(2020年4〜6月期)をそれぞれ公表した。これによると、2020年6月末のフィードロット飼養頭数は、前期比7.1%減の101万192頭(前年同期比12.0%減)とかなり減少した(図11)。飼養頭数は、2018年1〜3月期から10期連続で100万頭を上回ったものの、2018年1〜3月期以降で最低となった。2019年10〜12月期には、過去最高となる123万9563頭を記録したが、その後2期連続で減少し、減少率は18.5%となった。これは、前述の通り2020年2月以降、降雨に恵まれ飼養環境が改善し、牧草肥育生産者において牛群再構築に向けた動きへの転換が進んだ結果、フィードロット飼養頭数の減少につながったためである。
フィードロット収容可能頭数は、143万2989頭(前期比2.5%増)と3期連続で増加した。このため、フィードロットの稼働率は、前期を7.3ポイント下回り70.5%と2016年7〜9月期以来の低水準となった。
ALFAによると、今回の調査結果は、南部州を中心に引き続き降雨に恵まれたこと、今後収穫を迎える冬作物の生産が気候の好転を受け大幅に回復
(注)すると見込まれるものの、飼料穀物価格が依然高水準であること、また肥育もと牛価格が高止まりしていることも影響したとしている。
(注) 詳細は、海外情報「穀物の生産見通しを発表(豪州)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002737.html)を参照されたい。
また、2020年4〜6月期の穀物肥育牛と畜頭数は、2020年1〜3月期から連続してフィードロット飼養頭数が減少したことを受け69万6953頭(前期比19.4%減、前年同期比12.0%減)と、過去最高となった1〜3月期より大幅に減少した(図12)。また、全体のと畜頭数が188万5800頭(前期比2.6%減)とわずかに1〜3月期を下回る一方、牧草肥育牛と畜頭数が118万9547頭(前期比11.0%増)とかなりの程度増加したことから、穀物肥育牛がと畜頭数に占める割合は36.9%となり、高水準であった1〜3月期を7.7ポイント下回った。
牛飼養頭数の増加は2020年末にずれ込む見通し
MLAは7月、「Industry projections 2020 July update」において、四半期に一度の牛肉生産量などの見通しに関する情報を公表した(表3)。このうち2020年の見通しは次の通り。
牛飼養頭数(2020年6月末時点)は、干ばつにより牛のと畜が進んだ結果、2460万頭(前年比6.1%減)と低水準になると見込んでいる。2020年2月以降、飼養環境の改善に伴い生産者において牛を保留する動きがあるものの、雌牛と畜比率が高いことから牛群再構築による飼養頭数の増加は2020年末にずれ込む見通しとしている。
と畜頭数は、2020年1〜6月のと畜状況を勘案し前回(2020年4月)より10万頭上方修正したものの、700万頭(同17.5%減)と大幅に減少すると見込んでいる。
牛肉生産量は、前回より3万3000トン上方修正されたものの、206万1000トン(同14.3%減)とかなり大きく減少すると見込んでいる。なお、1頭当たり枝肉重量は、飼養環境の改善や高水準の肉牛価格を反映し、雄牛の比率を高め肥育期間を延長する動きから前年より10.8キログラム増の294.4キログラム(同3.8%増)とやや増加するとしている。
また、牛肉輸出量は、2020年1〜6月の実績が前年同期と比べて3.0%程度の落ち込みにとどまっていることなどを勘案し、前回より3万3000トン上方修正したものの102万3000トン(同16.8%減)と大幅な減少を見込んでいる。
(調査情報部 井田 俊二)