(1)生産拡大が進むスペイン
EUの豚肉生産量は、世界最大の中国に次ぐ世界で2番目の規模であり、全世界の20%を占めている(図1)。欧州委員会によれば、EUの2020年の生産量は、ASFが域内でこれ以上拡大しないという前提ではあるものの、堅調な豚価、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響からの外食需要の回復、中国向けを中心とした堅調な輸出、各加盟国の投資の進展などにより、前年比0.5%の微増と予測されている
(注5)。
2019年のEUの豚肉生産量に占める加盟国別の内訳を見ると、23%を占めるドイツが最大で、次いで20%のスペインとなり、この2カ国で4割を超える。歴史的に西欧諸国で盛んであった養豚産業は、近年では東欧諸国にも拡大しており、その筆頭がEUで4番目の生産量を誇るポーランドである。労働費をはじめコストが比較的低いことから、収益性の向上のために本社機能の一部を東欧地域へ移そうとする西欧養豚企業の動きもある。
そのような中にあって欧州の養豚産業の最大の注目は、ここ数年のスペインの生産拡大である
(注6)(図2)。同国の豚飼養頭数はすでにEUで最多となっており、生産量についてはEU最大のドイツに今にも追いつこうという勢いである。その主な要因としては、ターゲットを絞ったマーケティング(日本でも多くのプロモーションを実施)、大規模農場の統合や養豚部門の垂直統合(インテグレーション)の進展による生産性と品質の向上と、同部門に対する盛んな投資などが挙げられる。さらに、生産拡大の前提として、年々厳しくなる環境規制に対応できる広大かつ利用可能な国土を有すること、東欧を中心としたASF発生地域から距離があることなど、生産の抑制要因となり得るものを回避できている点が大きい。業界関係者らによれば、2019年にはすでにEU最大となる新たな食肉処理場がスペイン国内で稼働しているが、2020年中には同工場のフル稼働(1日当たり3万頭)が見込まれており、同国の生産量がドイツを上回る日は近いといわれている。
(注5) 詳細は、海外情報「欧州委員会、コロナ禍の食肉の短期的需給見通しを公表(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002750.html)を参照されたい。
(注6) 詳細は、『畜産の情報』2018年12月号「EUの豚肉輸出見通し〜デンマークとスペインの動向など〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000395.html)を参照されたい。
(2)堅調な輸出需要
全世界の豚肉貿易量の約40%を占め、世界最大の輸出地域であるEUは、最大の輸出先である中国からの強い需要に支えられている。
2019年の輸出量は、前年比13.7%増の558万トン(枝肉ベース。以下同じ)で、41%を占める中国向けは、中国国内でのASF発生による供給不足によって同79.9%増の230万トンとなった(図3)。なお、日本向けは中国、英国に次ぐ3番目であり、スペイン、デンマークからの輸出を中心に同0.3%増の45万トンとなった。なお、COVID-19の発生が続いている2020年に入っても堅調な中国需要にけん引され、1月から6月の間の輸出量は前年同期比10.8%増の294万トンとなっている。
なお、2019年の輸入量は、前年比4.0%減の22万トンであり、そのうち英国からの輸入が18万トンであった。
(3)輸出需要に支えられる豚価
直近の週(2020年8月3日の週)の平均豚肉卸売価格は、前年同期比15.6%安の枝肉100キログラム当たり153.79ユーロ(1万9531円)となった(図4)。
これまでの同価格の推移を見ると、2018年は低い飼料価格などが後押しして増産が進む中、中国からの需要がやや低調であったことから安値で推移したものの、2019年に入ってからは輸出需要の高まりとともに上昇に転じた。しかしながら、2020年3月ごろからはCOVID-19による外食需要の低下があり下落した。直近では、外食産業の再開に伴う需要回復で下げ止まっている。
(4)主要国の養豚産業の概要
AHDBは、本報告書の中で、調査対象である17カ国(+ポーランド)の2018年の養豚産業の概要についてまとめている(表1)。
これを見ると、EU域内の豚肉生産量はドイツが最大だが、繁殖雌豚頭数はスペインがドイツを3割強上回っている。これは、ドイツが子豚をデンマークやオランダから輸入しているためで、ポーランドも同じ傾向の国である。デンマークやオランダの子豚輸出が進展する要因は、環境規制による飼養可能頭数の制限や人件費をはじめとしたコストの抑制がある。国土の狭い両国は、産官学の連携などにより育種改良技術などを発展させ、子豚供給や繁殖母豚の輸出など自国の事情と強みに合致した養豚産業を構築している。
また、豚肉の輸入量を見ると、一大消費地であるドイツ、イタリア、英国は100万トン(枝肉ベース)を超える規模となっている。EUが、圏内(英国も2018年はEU加盟国)で各国の強みを生かしながら、養豚産業を形成していることが分かる。
なお、冒頭で述べた制約(詳細は
(注4)を参照のこと)に加えて統計上の定義や枝肉−部分肉換算係数などが必ずしも同じとは限らないことから、厳密な比較は困難であるものの、参考までに日本の数値と比較してみると、2019年度の日本のと畜頭数は約1645万頭、生産量(枝肉ベース、概算値)は129万トン、輸入量(同、同)は140万トン、輸出量(同、同)は2000トン、1人当たり豚肉消費量(同、同)は20.3キログラムとなっている(農林水産省「食肉流通統計」、「食料需給表」)。